神田雑学大学
2000年2月4日

      

「頭に英語の木を植えた」 


講師 若宮正子

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目次

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講師紹介

アイルランド.スライゴー

テームズ川一番上流

ニュージーランドファン

アイルランド アラン島

川旅のゆったりした時間話

スエーデン ヨータ運河

テームズ川クルーズ

困るのは言葉の問題

「英語の木を植える」

附録:外国語に弱い人のための一人旅術


講師紹介

若宮正子1954年都市銀行入社。関係会社を経て、1997年退職。
日本ニュージーランド・フレンド・シップ協会理事。
パソコン通信アット・ニフティの高齢者向けフォーラム「メロウフォーラム」 および「メロウ倶楽部」(パソコンを通して高齢者の活性化を図ることを目的とした ボランティア団体)会員。
著書「マーチャンが行く」、「熟年さんのパソコン物語」(ともに蒲「文出版発行)。 

若宮正子さんのホームページhttp://member.nifty.ne.jp/Marchan/index.htm


私は旅行が大好き

私は旅行が大好きである。
しかし95歳になるおばあちゃんを介護しているので、 自分の都合のいい体制が整ったときでなければ出かけられない。
したがってどう しても一人旅になるのだが、私は一人旅が好きである。

一人旅には、土地の人と交流する楽しみがある。
そんなことから民宿やファーム ステイ、それから船旅、といっても、
クイーンエリザベスに乗るほどお金もない ので、川船の旅の話をしてみたい。

個人の家に泊まるというのもいくつかの種類があって、
主なものは、プライベートホーム、B$B(Bed And Breakfast)、
ファームステイの3つである。

プライベートホームというのは、夏の観光シーズンが短い北欧などでは、 ホテルの収容人員が限られているので、 あふれた人は一般の市民が好意的に泊めてくれ るのである。
1500円くらいの手間賃で、 個人の家に泊めてもらえる。

B&Bはおもに英語圏だが、 朝食付きの宿泊。
プライベートホームのほうは営業 目的はまったくないのだが、 B$Bは奥さんやおばあちゃんの小遣い稼ぎみたい な感じのところもある。

ファームステイは、最近イタリアなどでもアグリツーリズモなどといっているが、 いわゆる農家民宿である。

なぜこういうのがいいかというと、私自身たいへんおしゃべりのせいもあるが、 こういうところに泊まって、一般の市民の方とおしゃべりできるのが楽しい。
そ れに、人々の暮らし振りなどもよくわかるので、私はこれらをよく利用する。

アイルランドのスライゴー

アイルランドのスライゴー。
民宿をする家の玄関にはB$Bの看板がかかっている。
一人か二人しか泊まれな いのだが、こういう看板を見てベルを押すと、おじいちゃんとかおばあちゃんと かが出てきてくる。一泊2000円くらい。

ベッドルームはもちろん専用にくれるのだが、「居間にきてお茶でも飲みなさい よ」といって誘ってくれたり「どおお、、テレビ見る?」など、とても家庭的な のである。
いっしょにお茶を飲んだりおしゃべりをしたりして、こういうところの老夫婦と いうのは、どんな家でどんな生活をしているのか、その暮らし振りもわかり、ホ テルとはまったく違う旅が楽しめる。

このときは私ともう一人泊まり客がいたのだが、朝食のときのジュースのコップ がそれぞれ違ったりする。
この家では来客用のコップがないので、日本でいうと、 酒屋さんのお中元のコップのようなものを使っているんだな、というのがわかっ たり、ナイフやフォークなども、ずいぶん古いものをそのまま使っている、 ということもわかる。

かと思うと、料理の量がすごい。
パンなどはたくさん焼いて持ってきてくれるの だが、私が二枚でいい、というと「どこか具合が悪いのか」などと心配してくれ たりする。
私もかなり胃袋の大きいほうだが、あれを全部食べることはできない。

テームズ川の一番上流

次はテームズ川の一番上流にあるレチェレイドのプライベイトホームである。
別 の小さなホテルを予約していたのだが、何かの事情でそのホテルが急に泊まれな くなり、困っていたら、ホテルの支配人が友達の家を紹介してくれた。

保育園みたいな家で、ぞろぞろと次から次に子どもが出てくる。
どの子がこの家 の子かわからない。
母親はたいへんな教育ママで、就学前のこどもに勉強させて いるのだが、終わらないとおやつがもらえない。
子どもには勉強させて、もうち ょっといい暮らしをさせたいと親は思っているらしい。

テレビで見ていたら、日本では就学前の子どもを一生懸命教育しているようだ、 イギリスでも見習わなければいけないなどという。
ちょっと返答に困った。

ニュージーランド

私は熱烈なニュージーランドファンで、日本ニュージーランド・フレンドシップ 協会の理事をしている。
ニュージーランドのネルソンという町から80マイル離 れた不便なところで、ファームステイをしたことがある。
こういうところでは、 牧場農家の暮らし振りが見られる。

ここでは食肉用の鹿を飼っていた。
今、鹿の肉のほうが現金収入になるらしい。
ここの青年が、夕飯のあとで、「ちょっと出かけてくる」というので、「こんな 時間にどこ行くの?」ときいたら、ハンティングだという。
「ちょっとそこまで。夜のお茶の時間までには帰ってくるから」
といって出かけ、しばらくしたら、イ ノシシらしきものをぶら下げて帰ってきた。
夕飯を食べてから、ちょっとハンティングに行く、というような私たちの生活と はかけ離れた暮らしをしている人もいるのである。

私の母はスーパーおばあちゃんだが、もうすぐ90歳になるというときに、一緒 に旅行をした。
泊まった家にも同じ年頃のおばあちゃんがいて、お互いに全然言 は通じないのだが、とても仲良くやっていた。

朝食のとき、母が「まあ、おいしいジャムでございますこと。
どうやってお作り になるんでしょうか」などと日本語でいうと、そのおばあちゃんは、母の袖をひ いて台所に連れていき「このホーローの鍋にすぐりを入れて、砂糖を入れて、こ うやってかき混ぜて・・・」と英語と手振りで説明している。
「まあ、左様でご ざいますか」などといって、二人の会話は通じているのである。

夕飯の前、花壇の花を摘んで母の胸に飾ってくれたりして、二人は意気投合した らしい。

アイルランド アラン島

アラン島。
アイルランドの人は、とにかくしゃべることが大好きである。
庭の芝 生が広いのは、ここに車座になっておしゃべりをするため、居間の暖炉の側に椅 子がいっぱいあるのも、ここに集まっておしゃべりするためである。

話の内容も、女ひととおりの話題・・・「どうやってここまで来たの?」のたぐ いから、もっと高度な、たとえば、突如「ねえねえ、ジェームズ・ジョイスのユ リシーズはポルノグラフィックだと言う人がいるけど、あなた、どう思う?」 などと言われて、目を白黒させてしまったりすることもあった。
とにかくおしゃ べりで気さくな人が多い。

もう一つ嬉しかったことがある。
この家のドアに貼りつけてあるプレートには、 アイルランドの詩人イエーツの詩 
There are no stragers here. 
Only friends that I have not yet  met.
知らない人なんかいないんだ、ただ、まだ友達になっていないだけなんだ、とい うのが、玄関に貼ってあった。
これをみて、じーんときてしまい、あ、そうか、 知らない人じゃないんだ、まだ友達になってないだけなんだ、だから、誰とでも 楽しくしゃべるんだな、と思ったりした。

川旅の話

次は川旅の話。
川旅ではゆったりした時間が流れる。
川船は人間の走る速さくら い、せいぜい自転車の速さくらいで走る。
スピードを出すと川岸がくずれて、環 境保全上問題があるらしい。
川の流域には静かな村や町があり、そこを散歩する ことができる。

川船は夜は停泊していることが多いので、朝ご飯の前に、連れ立って付近の村に 散歩に出かけたりする。
朝ご飯が終わると、船長の奥さんが村のティールームに お茶を飲みに連れて行ってくれたり、夜は、船長やみんなとパブへ出かけたりす る。

旅が楽しめるし、肩と肩がふれあうような生活を何日も一緒に過ごすと、船客同 士も親しい友達になれる。そういう点でもすばらしい。

それに川旅は、そんなにお金がかからない。
私が今までに乗ったものでは4日か ら1週間くらいで10万円くらい。
安いとはいわないが、これは、朝、昼、晩の 食事におやつも付いて、泊まるところがあって、ビールを飲みに行ったり、お茶 を飲みに行ったりするのも全部向こう持ちなので、船に乗っている間は財布を開 けなくても済む。
高くはないと思う。



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スエーデン ヨータ運河クルーズ

川旅としては老舗のヨータ運河クルーズ。
1世紀くらい続いていると思う。
スエーデンの第二の都会エーテボリから首都のストックホルムまで、東西に横切って 旅をするというものである。

船客はグループをつくり、同じテーブルで食事をする。
私のグループはスエーデ ン人の学生、アメリカ人のおばさん、デンマーク国籍のおばあさんなど適当にみ つくろって、残ってる人をエイッとまとめたようなグループだったが、とてもす ばらしい仲間だった。今でもメールの交換などをしている。
特にスエーデン人の 学生が、新聞やテレビではわからない、福祉先進国の庶民の本根などをきかせて くれた。

テームズ川クルーズ

次も是非お薦めのテームズ川クルーズ。オックスフォードからウインザーまでの 100キロを7日間かけてのんびり行く。
これもすばらしい旅だった。
イギリス 人の熟年さんが多かったが、ここでもいい友だちができた。

私は食べ物に好き嫌いがないし、人間にもあまり好き嫌いがないのでいいが、食 べ物に難しい注文のある人には、川旅は向かないかもしれない。
セットメニュー なので、チョイスができない。あらかじめ言っておけば変えてくれるらしいが、 大体は決められたものを食べなければならない。

狭い場所で肩と肩が触れ合うような生活なので、うまく皆と解けこめなかったり すると、問題があるかもしれない。

困るのは言葉の問題

また、船の中で困るのは言葉の問題である。

誤解があると困るが、ただ旅をするだけなら言葉はいらない。
私は鎌倉に住んで いるが、ここには世界中からたくさんの観光客がくる。
警察署長が何かに書いて いたが、日本語がわからないというだけのことで、迷子になって警察のお世話に なった人は、ただの一人もいないという。
言葉なんてわからなくても旅行はでき るのである。

ただ、親しくなって、お互いに思ってることを打ち明けたりするのは、言葉が必 要。
そこで、英語の勉強をしてみようという決心をした。

そのときはもう旅行を始めていたし、勤めていたので、英語の学校に通うなどと いう優雅なことはできない。
家には年寄りもいて時間もない。
そういう人はどう やったらいいか、と考えた。

市販のテープやCDも買ってはみた。
電車の中でテープを聞く、家でCDを見て 勉強するなど、やることは一応やってみた。
が、なかなかうまくいかない。

「闘 う英会話」などというCDもあるが、全戦全敗して勝ち目がない、ということが わかった。
特に記憶力が年々減退して、こちらから入ったものがあちらから出て行く。
そう いう減退した頭でもいい勉強法がないだろうか、といろいろ考えた。
そんなとき、 日本語はまったく知らないのに、日本に赴任することになったアメリカ人の宣教 師の話を読んだ。

宣教師というのは、ただ黙って座っていればいいというものではない。
話をしな ければならない。
悩んだ彼は前任の宣教師に相談した。
先輩曰く。大丈夫。
あなたはもう800語の日本語を知っているはず。
たとえば、 アイスクリーム、レモン、バナナ、ラジオ、トースター、ピアノ、バス、これは 全部日本語です。

それを聞いて、非常に心強く思ったというのだが、ここが日本人と違うところか もしれない。
ポジティブシンキングというか、なんでも前向きにプラスに考える という発想が面白い。

それともうひとつ。
私はおばあちゃんと暮らしているので、だんだん年をとって 記憶力が減退していく過程を、つぶさに観察する機会に恵まれているわけである。

見ていると、昔のことはよく覚えている。
それと、毎日使う言葉は比較的よく覚 えている。
さらに歌とかリズムのあるものはよく覚えている。

「英語の木を植える」

宣教師さんの話から「外来語」、おばあちゃんの例から「小さいときから毎日繰 り返し使っている言葉」、この二つを、外国語を覚えるときのキーワードとして、 「英語の木を植える」ということを思いついた。

まずサンプルとして、母がよく使う言葉に「デパート」と「アパート」がある。
「アパート」は部屋がいくつかに分かれていて、何号室とか番号がついている、 「デパート」もフロアが分かれていて、さらにそれぞれ、売る物によって分かれ ている、というようなことを考える。

二つの言葉の共通の要素として「パート」がある。
この「パート」という言葉を 根にした木を植えてみよう。

右側の枝には「デパート」、左側の枝には「アパート」という言葉をぶら下げる。
幹のほうの「パート」にも、知っている言葉、たとえば「パートタイム」part- time job とか party、それから partner など、よく知っている言葉をぶら 下げる。

次に part のついた語で既に学習したことのある particular, particularly, particle, participate・・ などの言葉をぶら下げる。

この根になる言葉は、何を持ってきてもいいのだが、自分がよくなじんでいる言 葉でなければならない。
たとえば「マニキュア」というのは、女性にはなじみが あるが、男性にはピンとこないだろう。

「マニ」は手、「キュア」は病気の治療、この場合は手入れ。
「マニュ」という 場合もあるようだが、パソコンをやっている人には恨みの深い「マニアル」も出 てくる。

さらに外国語として覚えている言葉で manufacture, manuscript,  manipulate とか、みんな手に関係ある言葉を、ここにいれていく。

私の家は湘南モノレールの沿線なので、モノレールという言葉は我が家のおばあ ちゃんでも知っている。
我が家のおばあちゃんなら「モノレール」という木が植 えられる。
「1本」の「レール」である。

  この「モノ」のところに monologue, monotone, monotonous, monopoly な どを、どんどんぶら下げていくことができる、 モノレールになじみのない人にとっては、この木はすぐ風に飛ばされ、大雨が降 れば流されてしまうだろう。
大雨が降っても流されない木を植えることが大事。

要は、根になる単語は自分で見つけなければならないということである。この考 え方は英語だけでなく、他の外国語でも使える。
これが、「頭に英語の木を植える」という私の勉強法である。



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附録:外国語に弱い人のための一人旅術

大事なことは紙に書いてもらう。
そのために、ボールペンとメモ用紙はすぐ出る ようにして持ち歩く。
できれば「ここに書いてください」ということだけは、現 地語で言えたほうがいいが、紙と鉛筆を出せば、書いてほしいということはわか る。
特に、宿賃は書いてもらったほうがいい。
13と思っていたら30だったという ようなことあるし、翌日になって担当のオジサンが替わったりしても、書いても らっておけば、昨日聞いたのと違うということにもならない。
市内観光などで、バスの停車時間や何時に出発するかということなども、書いて もらっておけば間違いがない。

話すとき、大事な言葉は表現を変えて念を押す。
電話で予約するときなど、13 日というのを3回くりかえすのではなく、たとえば 13;Sunday;the day  after tomorrow というふうに言い換えてみる。
そこに矛盾があれば相手も気 がつくであろう。

道を聞くときは相手を選ぶ。
一番いいのは観光案内所とホテルの人。
いろんな国 の外国人の言葉に慣れているし、教え方もうまい。
おまけに地図やパンフレット も用意してあるので便利。
年寄りと子どもに道を聞くのは避けたほうがいい。

発音はうまくできなくてもいいが、アクセントは大事。
単語ひとつひとつのアク セントを覚えなくても、hotel(oにアクセント)と言って通じなかったらhotel (eにアクセント)と言ってみる。
アクセントを変えて言ってみればいいのである。
これはフランス語でも同じ。

しかし、言葉などわからなくても、いざとなればどうにでもなるのである。
シチリアのパレルモで事故にあい入院したが、お医者さんとは辞書のやりとりで、 看護婦さんとは身振り手振りで話をした。
患者をベッドにすわらせて、ナイフと フォークを持たせれば、食べろ、ということだ。

イタリアに行った人からは、スリや引ったくりにあったという悪い話を聞かされ ることが多いが、私はこの事故で感動したことがある。

ホテルに荷物を置いてあるので、着の身着のままで入院した。
タオルもハンカチ も余分なものは何もないし、血のついた洋服で、もちろんパジャマなどない。
す ると看護婦さんは、他の人の荷物を勝手に開けて、小柄な日本人に合うサイズの 服を探し出し、私に着せた。
見ている他の人たちも、誰も文句などいわない。
さらに翌朝、目がさめてみると、枕元にいっぱい荷物が積んである。
タオル、石 けん、水、ビスケット、ティッシュペーパーなどの日用品だった。
旅先で一人で 入院などしてしまって、どんなにか心細いだろう、かわいそうにと思った他の患 者さんと看護婦さんからの差し入れだったのである。

日本人なら、看護婦さんが勝手に人の荷物を開けたりしたら、文句を言うだろう が、誰も何も言わないのである。
ようするに、自分のものと他人のものとのしき りが低いだけなのかもしれない。
ない人にはくれる、ある人からはとる、という ことなのか。(笑)

この事故で、予定していた見学はできなくて残念だったが、イタリア人の心情に 触れ、得ることが多かった。

いろいろあったが、外国に出かけるときには、現地の言葉ができたほうがいいに 決まっている。
挨拶の言葉ひとつだけでも、知っていたほうがいいには違いない のだが、いざというときの保険の意味で、ある程度英語が使えることは、心強い。

最後に、成田で団体旅行の添乗員が言っていた「海外旅行3つの誓い」というの を紹介しよう。

1つ 何がなくてもパスポート

   品物は買えるし、お金は借りられる。パスポートだけは買ったり借りたりできない。

2つ 行きたいときより行けるとき

   高速道路で走行中に、トイレに行きたいなどということがないように、行けるときに行っておく。

3つ 必ずつけよう、プリーズ、サンキュウ

   何か頼むときは「プリーズ」してもらったら「サンキュウ」を忘れないように。

外国のお店で「ハウ マネー?」「もっと チープ!」と言って、目的の品物を、 それもまけてもらって買う人もいるのだから、あまり難しく考えずに、どうぞみ なさん、よいご旅行を。
 

−終わり−

(文責 大井直子)
写真撮影:杉本正HTML制作:鍜治 正啓
HTML編集、画像編集:田口和男