神田雑学大学 4月21日 講義録

視覚障害者と情報

                      講師 田中徹二


目次

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講師紹介
情報障害と点字図書館
蔵書
貸し出し
選書委員会
日本点字図書館の設立
録音図書
その他の視覚障害者の情報サービス
点字出版
東京都障害者会館
結い(ユイ)の会
ラジオ放送紹介
パソコン通信による情報
質問コーナー
お願い


講師紹介

田中 徹二氏
日本点字図書館館長
早稲田大学三年の時病気で失明、点字を勉強して卒論は点字で提出
卒業後東京都庁に勤務福祉関係の仕事に従事
五十八歳の時日本点字図書館館長に就任
日本の視覚障害者の精神的支柱的存在である。

最初に自己紹介
私は、失明して40年過ぎて、全く見えないが、それでも毎日電車で一人で通勤している。視覚障害者になって一番困るのが二大不全といって、単独歩きと文字の読み書きである。私は失明後、人並みに社会生活したい。それも独りでしたいと、強引に歩き出したりして、物にぶつかったり、怪我をしたりとかしたが、努力の甲斐あって、杖をもって独りで歩けるようになった。

滅多に来ない場所へ行くには、付き添いがいるが、普段の通勤は全く問題ない。ただ点字図書館に来てからは、役所とか公的な場所に行くことが多いので、その時は職員と一緒ということもある。プライベートで遊びに行く時は、出来るだけ独りで出かける。大阪で開かれる全国点字図書館の役員会なども、東京駅から新幹線で一人で出かけるのである。



「情報障害」と点字図書館

視覚障害者はどのようにして情報を得ているかを、最初にお話したい。
視覚障害者にとって、一番大変なのは文字の読み書きである。聴覚障害者も耳からの情報を入手することが出来ない。又、視覚障害者は発信することが出来ない。

これらを放置すると、視覚障害者や聴覚障害者は情報障害者となってしまう恐れがある。だが、幸い最近はコンピューターもどんどん進歩してきて、かなり状況は変わってきている。
視覚障害者にとって情報の入手先は、何といっても点字図書館である。そこで、日本点字図書館と一般の文京区立図書館とを比較して、情報入手の概要をお話したい。



蔵書

点字図書館の規模は、普通の図書館と比べると比較にならないほど小さい規模である。大きな違いは三つある。

1、点字図書館の蔵書は、録音図書と点字図書が中心である。
点字の本もカセットに録音してある本も両方とも本屋さんで買うことが出来る。一般の公共図書館の場合には、書店或いは出版社が出した物を買って来て書函に並べる形になっている。ところが点字図書館の場合は書庫に置く本自体がない、買って来ることが出来ないので、自分で作らなければならないという大きな違いがある。


点字図書館の場合、点字の本の録音を作るセクションがかなり大きな部分を占める。
実際点訳の本とか録音の本を、直接作ってくれるのはボランティアの方達である。ボランティア活動で出来た点字の本、録音の本を貸す体制に持っていって、全国の登録している読者に貸すのが点字図書館の仕事だが、基本的に点字本を作っているのはボランティアの人達である。

2、一般の私立図書館、区立図書館は出かけて行って自分で書函をみて本を探して借りるのが一般的な形である。
点字図書館の場合は、視覚障害者が単独行動をしにくい、また外出し難いという事がある。点字の本やカセットの本はかなりの量になる。さほど厚くない文庫本でも、点字の本にすると4冊から5冊くらいの量になる。従って点字図書館まで盲人の人がみえても、借りる本を全部持って帰るのは無理なので、点字図書館では本を郵送するのが99%である。

3、一般の図書館と点字図書館では蔵書の内容、質の内容、貸し出す本、希望者の多い本の内容が違う。
文京区立図書館は分館が9館あり、その蔵書と日本点字図書館の蔵書との違いを調査したことがある。
図書館が持ってる本の中で、大きな違いがあったのが三つあった。

○ 4類(図書の分類の方法で自然科学)これは点字図書館が多い
理由は視覚障害者の職業は、これまでマッサージ、針、灸、といった仕事に従事していた人が多かったから。現在でも視覚障害者で就労している中で、約30%の人はマッサージ、針で開業している。その人達が、医学書を読んで勉強するから4類の自然科学系が多い。

○ 9類、(文学書の分類で日本文学、西洋文学翻訳もの)これも点字図書館が多い。
たとえば9類では、文京区立の図書館全蔵書の30%が9類の文学、それに対して日本点字図書館では44%。すなわち1.5倍である。

○ 児童小説。文京区立図書館では30%。それに対して日本点字図書館では10%しかなかった。

原因は何処にあるかということはハッキリは言えないが、医学が進歩して、伝染病とか、その他の病気で目が見えなくなる人が非常に少なくなってきた。視覚障害者の原因の中で、先天的な素因で見えないと言う人の比率が上がってきている。
例えていうと、糖尿病で目が見えなくなった人も増えている。先天的な子供の視覚障害者の数が減っている。

現在、全国で視覚障害者は厚生省の調べでは、18才以上の在宅視覚障害者は305、000人、約30万人である。それに対して18才以下の視覚障害者は5、600人。30万人の内の60才以上が三分の二である。



貸し出し

「日本点字図書館と文京区立図書館3つの違い」

○蔵書と同じで4類、9類が多く児童小説が少ない。
4類自然科学、医学書などが入っている分類では文京区立図書館の2倍の貸し出し、9類文学の本では日本点字図書館は70%の貸し出し、文京区立図書館では30%で半分以下である。
児童小説の場合、日本点字図書館では全貸し出しは1%内である。

日本点字図書館の場合は、利用者登録で郵送。現在11、600人の登録者があり10才以下は全登録者の0.3%、20才以下は2%である。



選書委員会

日本点字図書館で作る点字の本を選ぶ、録音の本を選ぶ会議である。
読者からの希望、寄贈された本とか、各課で作りたいと持ち寄ってきた本などを選ぶ。点訳とか録音をしてくださるボランティアは子育ての終わった主婦で50代、60代、70代が中心である。選書委員会で選んでも、やってくれるボランティアはいるだろうか?と理想通りには本を作ってはいけないのも現状である。



日本点字図書館の設立

昭和15年創立(1940年)11月10日で創立60周年。

創立者:日本点字図書館理事長 本間かずお氏(1915年生れ)満85才。
本年11月1日新霞ヶ関ビル 全社協灘尾ホールにて記念式典が行われる。
講演は井上ひさし氏。

本間和夫氏は7才の時失明、函館の盲学校を卒業後「関西学院大学」で英文学を勉強した。学生の時ロンドンに大きな点字図書館があり、全国の盲人に書籍を貸し出していると言う話しを聞いて、自分も卒業したらライフワークで点字図書館をやりたいと思った。

卒業後、東京に出てきて点字図書館を作る準備をし、昭和15年に文京区雑司ヶ谷の借家に700冊の点字の本を揃え、日本盲人図書館と言う名前でスタートした。本間氏は弱冠25才であった。日本点字図書館が発展した基礎になったのは、その頃社会運動家の後藤静香氏が全国に点訳運動を提唱したことにある。自らも点訳をし、点訳をする者を育てた。

雑司ヶ谷の貸家から、現在の高田の馬場に点字図書館を建ててもらって仕事を始めたがそれも空襲で焼けた。沢山の本をかかえて、あちこち疎開もし、戦争中は大変な苦労をした。戦後は、高田の馬場に再び家を建て、点字図書館を再開した。
厚生省が、日本点字図書館を応援しようと公的資金を出してくれたのは、昭和29年のことである。

日本点字図書館の特色

盲人が使ういろいろな品物を販売をしているセクションがある。白い杖、カセットレコーダー、点字の器具、点字タイプライター、盲人用時計など、特殊なものを扱う。それ以外にも、一般の品物の中で盲人の人が使いやすい物も扱ってる。これは昭和42年にスタートした。

日本図書館の業務

図書政策業務:点字の図書を製作
       点字の本の出版
       録音図書(雑誌も出している)
点訳者は現在220名、殆どの人が自宅でパソコンの点訳ソフトを使って点訳している。一年間に3千冊の本が出来る。

点字本の作り方の一つに、ボランティアの人が点字を点訳してくれる以外に、出版という形もある。これはいっぺんに百冊とか、二百冊とか出来る出版のやり方の本の製作もある。日本点字図書館で作っている。

天皇陛下皇后陛下のお言葉集「道」を、宮内庁が昨年の秋に出した。これを厚生省委託で出そうと、日本点字図書館で点字の本にした。

録音図書

世の中にテープレコーダーが出てきて、それが大衆のものになって行った訳だがその頃の、オープンテープの頃からテープライブラリーと言うのを昭和33年に始めた。10年後にはカセットに変わり、現在もカセットで録音図書を提供している。
録音雑誌は7誌だしている。これはセミプロの方に安い謝礼を支払って、読んで貰って録音し、職員が編集して一本の雑誌にする。

これまで、ボランティアを中心として作られた点字の本が16万冊、録音のカセットは43万本。貸し出しは一年間に点字の本が55,000冊、録音カセット図書は540,000、雑誌は7誌全部合わせて約180,000本のカセットである。

対面朗読サービス

盲人の人が読んで欲しい本を持ってきたら、その場でボランティアの人が読むというサービス。区立図書館、私立図書館でも、対面朗読サービスをやっている所は多い。ただ、一般の図書館だと、新聞でも雑誌でもなんでも読む。日本点字図書館では、専門書に限って行っている。

学校に行って勉強している人のための本、職業を持っていて仕事で使う本、法律の本、コンピューター関係の本、理数、医学書、語学などの本などを対象にしている。日本点字図書館の対面朗読ボランティアの人の中には、優秀な方がいて、語学は英語だけでなく、他の語学でも対応出来る。



その他の視覚障害者の情報サービス

現在、視覚障害者の情報を提供することでは、点字図書館のほかにさまざまな試みが行われている。

・点字による情報の提供
・録音による情報の提供

点字による情報の提供は、パソコンで点訳するのが殆どで、点訳された点字データができる、それをコンピューターに溜めておき、電話回線を通して全国からアクセスすれば、点字データを盲人が自分で引き出すことが出来る。

これを最初に手がけたのが日本IBMで、1988年に点訳広場というネットワークを作って、全国の盲人及び点字図書館に対してサービスを行った。

現在は、点字図書館の協会にネットワークを移行して、ナイーブネットという名前で全国の盲人に点訳データを提供している。問題はコンピューターを操作して通信できる盲人の人は全国で600人ぐらいしかいない。但し盲人用ワープロが出来る人は2000人くらいと、言われている。

現在、通信できる600人のうち、ウインドウズが出来るのは200人はいないと言う。ヴィジュアルにどんどん変わる パソコンの画面読みが難しい。


点字出版

点字情報提供の試みとして、点字の本を沢山作って配る、一般の新聞を点字にしているのもある。
月曜日から金曜日までの日経新聞の中から、毎日四千字くらいの記事を点訳して全国の中継店に伝送して、中継店では伝送されてきたものを点字にして、盲人に渡すサービスを行っている。
また、地方の拠点に電話をすると記事の内容を電話で合成音声が伝えてくれる。

点字毎日

歴史は古く、毎日新聞の大阪本社が週刊紙としてだしている。大正12年の創刊である。毎日新聞が、百周年記念事業としてサンデー毎日、英文毎日と一緒に取り上げられたのが点字毎日である。それから毎週一回発行されつづけている。

録音雑誌

ボランティアグループが作っている録音雑誌が非常に多くなっていて、全国で三百数十種類の雑誌がカセットで作られている。ただ、カセットの制限時間が90分とか、60分とかあり、それを何本にも出来ないので雑誌の中身を抜粋している。



東京都障害者会館

日常生活の中で、一人で住んでいる盲人、夫婦とも盲人の場合、困ることは読み書きで、たとえば、郵便受けに毎日入る郵便物が何であるか分からない。
また、プライバシーに関する物もあるかも知れないから、うっかり誰にでも読んで貰うわけにはいかない。

東京の場合は、東京都障害者会館に行けば、責任のある人が読んでくれるが、なかなか出かけて行くのも大変である。もう一つの方法は、障害者会館にファックスで送ると、電話で内容を読んでくれる。これは全国的に利用されている。

結(ユイ)の会

新聞を電話で毎日読んでくれるサービス。これもボランティア活動でやっている所がある。
NTT(昔、電電公社)で昔オペレーターをやっていた女性の人達が卒業した後、ボランティアグループを作ってサービスを行っている。
その番号に電話をかけると、長くなるような内容だと、逆に結の会から電話をかけてくれて新聞の五大紙の何処でも好きな内容を読んでくれる。特にコラムの希望が多い。


ラジオ放送紹介

NHKラジオの第二放送で「視覚障害の皆さんへ」と、いう盲人を対象にした番組がのある。
毎週日曜日夜7:30から8:00まで。再放送は次の週の朝の7:30から8:00まで。視覚障害者を理解する意味で非常にインパクトのある番組である。
その他、民放、短波放送でも視覚障害者向けの放送を流している。


パソコン通信による情報

パソコン操作が出来るという限られた視覚障害者であるが、パソコン通信で読み書き情報の接収など一人で出来る。
ワープロも合成音声のソフトを使って音声を聞きながら、普通の文字などもどんどん打って行くことが出来る。
盲人にとっては、情報障害を克服する上で大事なツールになる。

視覚障害者メーリングリスト

東京女子大学視覚障害専門の先生が中心になって、東京女子大の中に視覚障害者のメーリングリストを開設。全国の千人くらいの人達がいる。
視覚障害に関するいろいろなニュース、視覚障害に関対する考え方、これは一般の見える人も入っているので、こう言う問題をどう考えるかと、言う議論もある。

今、話題になっているのは、電子投票を導入しようとする動きがあり、選挙の時の投票をコンピューターを使って投票する方法を取り入れようと言うことである。


○質問コーナー

「初めて点字が出来た国は?」

フランスです。パリの盲学校の生徒でルイ・ブライユという少年がいた。
彼が在学中に、フランスの軍隊で真っ暗闇の中でも暗号を伝える方法はないものかと指で点字みたいなものを触って伝達することを考えた士官がいた。

しかし、それは採用されなかったが、目の見えない人に字として使えるのではと、盲学校に持ちこまれた。それをルイ・ブライユが面白いと、言って研究を始めた。
フランスの士官が持ってきた点字は12点だったが、それを6点にして点字というものを作った。公式に、点字としてフランスで認められたのはルイ・ブライユが没した後である。制定記念日は1824年ということになる。

日本では「官立東京盲学校」の石川先生が、フランスとかイギリスで使われたものを、日本語に方案したものが日本語の点字として採用された。明治23年である。



○お願い

日本点字図書館は、厚生省が建設した立派なビルに入居している。外観は堂々たる建築物であるが、運営費は国、都からの補助金または企業・団体・個人からの寄付で賄われている。長引く不況のため補助金は減額され、頼みの寄付金は激減しているので、大変苦しい運営を余儀なくされている。各方面にご寄付をお願いしているが、ぜひご協力をお願いしたい。
ご寄付はお金でなくとも、たとえばテレホンカード使用済みのもの、ハガキの書き損じなどありましたら、郵送頂けると有り難い。

書き損じハガキの送り先      169-8586   東京都新宿区高田馬場1-23-4  
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-おわり-(文責 )

会場写真撮影:橋本 曜
HTML制作:大野令治
画像選定、編集、HTML編集:田口和男