神田雑学大学
2000年4月28日


百名山から三百名山へ
講師  上村 守美子氏



目次
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1.講師紹介
2.私の登山歴
3.テント争奪事件
4.私の山行
5.質問コーナー
6.ぞっとした話


1. 講師紹介

上村 守美子 (喫茶店「こもれび」経営)

「こもれび」は千代田区神田錦町3−20、博報堂(株)前。
百名山踏破の収穫、押花入り障子と、各地の郷土菓子が日本茶 で味わえる。ビルのオーナーでもあり、現在40坪のフロアス ペース入居者を募集中。
客はサラリーマン、OL、学生等若い層が多く、山の話 題や、各地の名産菓子や漬物でくつろいでもらっている。

2. 私の登山歴

何年登っているかはナイショです。元々歩きが大好きで、高校時代は東海道 五十三次を目指し、大学ではワンゲルに所属して居りました。右膝の骨腫瘍に 罹り腰骨を移植したため、山岳会への加入を断念して、5、6の薮山を除いて 単独行です。日本の百名山は全て単独行です。
百名山踏破の切っ掛けはバブルの崩壊です。親から引き継いだ小さなビルで一 生安泰な生活だと思っていたら、テナントがいっぺんに引き払って、眠れない 日々が続きました。出入りの証券会社の営業マンから北海道の山を薦められて、 いっそ当てのないテナント待ちより、好きだった登山に徹して、百名山単独行 を完登させようと決意しました。

3. テント争奪事件

旅費を節約するため、1旅で3山を目指しています。女性の独り旅でもあり、 鰯の雑魚寝の山小屋でなく、テント持参に致しました。最初のテント持参は、 北海道の大雪山。ここで思わぬ事件に遭遇しました。
テント村のはずれ、ハイマツの薮の傍にテントを張って寝に就きました。 何やら、菓子袋をガサガサさせる音がしていたと思ったら、テントが揺れだし、 隅のナッツを入れた袋が動き出しました。 途端に「北海道−−−熊!!」とパニックになり、大きな叫び声を挙げまし た。 その声に遠くのテントの人が「キツネがいるゾ!」というので、キタキツネと 判りました。
寝付いて30分後、またテントが揺れだし、テント越しに大きなキツネと肩と 肩での押しくらマンジュウ!これじゃ眠れないと雨中を山小屋の混雑へ移動し ました。翌朝調べるとテントは20cm以上キツネに切り裂かれていました。 次に登ったトムラウシのテント場では恐いので、周囲に石垣を築いて周囲から 笑われました。

4. 私の山行

(スライドを上映) 現在まで581山を踏破しました。私の山行の条件は、徒歩での出発地と山頂の標高差が500M以上あること。
山と山との間隔で、徒歩1時間以上の山を必ず入れること。
途中小屋、テントに泊まっても、出発地との標高差で記録すること。 だから、500Mを稼ぐため、更に低い標高の地点まで降りることがあります。
スライドは約70枚。


露に濡れたミヤマアズマギク、コイワカガミ、モルゲン ロートに染まったヨツバシオガマ、ラショウモンカズラ、羊蹄山のシラネアオ イ等の高山植物、雪山の牡鹿等の動物、屋久島の縄文杉、そして、厳冬期の 千丈岳山頂からの甲斐駒ヶ岳、トムラウシのチングルマ、ウメバチソウ等の咲 き乱れる「日本庭園」、北海道最高峰の旭岳、腰まで浸かる難路の幌尻岳。
そして、百番目の利尻岳。
百名山満願の山行は、流石の私もこれ一つに絞って計画しました。 (山行のお話はまだ続きますが、最後の質問コーナーに移ります。)

5. 質問コーナー

1)荷物の重さは?

22〜23kg。脚を保護するためにストックを携帯します。

2)荷物の中身は?

食用の野菜、アルファ米、餅、着替え用衣類その他。 冬山にはすき焼きの材料。醤油、味噌に漬けた肉、野菜、そしてウイスキ ー。周りの山男たちが羨ましがって、御一緒しませんかと言われますが、 意地悪に一人占めを極めこみます。

3)ご使用のカメラは?

オリンパスOM1(一眼レフ、マニュアル、500分の1秒)を愛用して います。理由は、軽くてフラッシュ無しでもよく光を拾うから。 他に、ペンタックスも併用します。

4)山行の準備は?

まず山と渓谷社のガイドブックと国土地理院の5万分の1地図と時刻表。 通勤時間を活用してスケジュールを建て、地元に問い合わせます。 北海道なら営林署、他の地域は役所の観光課で最新情報を得ます。 飛行機利用は半月前、早朝割引を利用します。

5)今後いくつの山を踏破する御計画ですか?

今西錦司さんが千個の山を踏破されたという記事を見て、私も千山を目標 に山歩きをすることにしました。それも私の選ぶ条件、標高差500M以 上等(私の山行を参照)を満たしている山です。

6)単独行の辛い点は?

テントや避難小屋泊まりが多いので、一人で荷物を持たなくてはいけない 点です。 山によっては不安の大きな時もあって、仲間欲しさに山開きを狙ったり します。山道で人に行き合うと情報交換等の会話を楽しみます。

6. ここから、もう一つのぞっとした話。

 昨年10月11日の東北の山でのことです。
林道の終点から歩き出し、帰途ダケカンバ林の綴れ折の道に差し掛かると、 往きになかった筈の黒い岩があるんです。へんだな?と思いながら近づき、 目を凝らしてみると、それは子連れの月の輪熊でした。 背筋をピンと立て、こちらをじっと睨み付けています。
顔の真ん中の鼻が大きかったこと!早く遠ざからなければと、ストックに 付けた鈴を鳴らしながら、焦らないようにゆっくりと山頂に向かって引き 返しました。後ろは振り返れません。暫くやり過ごしてから、 恐る恐る下山し始めました。黒い岩のあったところを通るときは心臓が どきどきしました。熊の親子は引き上げた後でした。
 一目散に山を下りました。
下り着いて気が付くと、じっとりと脂汗が滲んでいました。 タクシーに乗ると、運転手が「顔色が悪いですね」と言われました。 でも、親子熊が撃たれないように黙っていました。 この辺りには猟師は居ないと聞いてから、初めて熊と出会った事を 降りるときに話しました。

今回程、質問が活発だった講座はありません。
こんな静かな風情の女性が600近い山を、それも単独で踏破するのが不思議な 感じで、参加者一同、自然の息吹きを追体験した緊張と興奮の2時間でした。
是非、今後とも、これ以降のお話とお元気な姿をお迎えしたいと思います。
以上。

− 完 −
(文責 鈴木 一郎)

会場写真撮影:橋本 曜 講師提供写真のスキャナ入力:石川美雅
HTML制作:石川美雅 HTML編集、画像データ挿入:田口和男