神田雑学大学 2000.9.22 

さびの話(IT革命を支える錆)



           
目次

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講師紹介 
 
さびはどこからくるか
 
顔料用の酸化鉄
フェライト用の酸化鉄
フェライトはどうしてつくられるか
おわりに


講師紹介 

得猪外明と申します。
この6月に退職するまで40年ほど鉄鋼メーカーに 勤めましたが最後の10年間は製鉄所から発生する錆(酸化鉄)の仕事をしておりました。
いうなれば鉄の会社に入ってさびの会社でサラリーマン生活が終ったわけです。

一般的にみて錆とは 汚いもの、廃棄物といったイメージがありますが意外な用途がありましてかたちを変えてパソコン,テレビ、OA機器,通信機器などの重要な部品に組み込まれていることを知っている人は少ないと思います。
また顔料として身の周りの意外なところに姿を現しています。
今日は鉄として役目を終えた錆が第二の人生で大活躍しているというお話です。

さびはどこからくるか

鉄が燃えるというと意外に思われるかもしれませんが鉄は酸素と結びつく性質があります。
ここに使い捨ての懐炉がありますが中身の大部分は粉末の鉄です。
これを揉むと空気中の 酸素と結びついて酸化鉄すなわち錆になります。
いうなれば非常にゆっくりとした燃焼と もいえるわけでこの化学反応の途中でおこる発熱現象を利用しているわけです。
酸素と結びついてしまった鉄は酸化鉄(すなわち錆)として非常に安定したものになります。
私たちが日常目にしているコーヒー,ジュースなどの飲料缶や自動車の外板など表面が非常にきれいな鉄の薄板を作っている工場では毎日大量の酸化鉄が発生しています。
この薄板を圧延するには前の工程から送られてきた原板の表面にこびりついたスケールというかさぶたのようなものを取り除いてやる必要がありますが大きな塩酸のタンクの中に塩酸を流して原板を洗うと塩化鉄となって溶け出します。
この塩化鉄を含んだ廃酸を高温で再び塩酸として回収すると真っ赤な粉末の酸化鉄がでてきます。
製鉄所で大量に発生する酸化鉄はそのままでは始末におえない産業廃棄物で捨てることもできませんので高いコストをかけて固めて溶鉱炉に入れるぐらいしか方法がないのですが幸せなことに顔料の他にフェライト(磁石)としての用途があったのです。

顔料用の酸化鉄

酸化鉄は鮮やかな赤色をしていますので昔から天然の酸化鉄は顔料として珍重されてきました。
古くは敦煌や高松塚の壁画に描かれている絵の赤は分析するとまさしく酸化鉄だそうです。
日本でも奈良・平安時代から神殿などの装飾に使われていたようですが江戸時代には中国山地で硫化鉄鉱を加熱した滓から人工的にべんがらを作っていました。
京都,金沢などにはいまでもべんがら格子の町並みが残っています。
最近赤い舗装道路が目につくようになってきましたがこれはアスファルトに酸化鉄を混ぜて舗装したものです。

フェライト用の酸化鉄

フェライトとは適当な日本語訳がありませんが鉄の酸化物を焼き固めた陶器のようなもので磁石の働きをします。
フェライトは昭和の始め日本人によって実用化されましたが本格的に使われるようになったのは戦後ラジオ,テレビが家庭に普及しはじめたころからです。
フェライトは大きく分けてハードフェライト(永久磁石)とソフトフェライト(電磁石)に分けられます。

ハードフェライトの用途でよく目につくものはホワイトボードに紙をとめる磁石ですが自動車にたくさん使われるマイクロモーターやスピーカーなどに大量に酸化鉄が使われています。
フェライトは焼き物だと申しましたが砕いて粉末状にしてゴムやプラスチックに混ぜた磁石は冷蔵庫の扉や車の若葉マークなどに使われています。
私たちが日常何気なく使っているコピー機にはゴム磁石で作ったゴムロールの間にやはり磁力の力で運ばれてきたトナーが作用して複写ができているわけです。
医療用のピップエレキバンや磁気ネックレス、ブレスレットなどはみなこのハードフェライトの磁気を利用した製品です。

ソフトフェライトにはいろんな種類がありますがテレビ、パソコン、ビデオ,オーデオ機器、自動販売機などの非常に重要な部品に使われています。
代表的なものにテレビやパソコンのブラウン管の根元に偏向ヨークという朝顔形の磁石がついていますがこれがないと画像が映りません。
またブラウン管に供給する高電圧を発生させるフライバックトランスもフェライトで出来ていますし100ボルト交流の家庭用電源をパソコンを動かす5ボルト直流に変えるスイッチング電源もフェライトの役目です。
またパソコンについているノイズフイルターはフェライトが電波を吸収する性質を利用したものです。
最近IT革命という言葉が流行していますが、その中心になるパソコン、通信機器の非常に重要な部分にフェライトがたくさん使われていて価格の低下に役立っています。
IT革命を支えている部品がもとをたどれば汚らしいイメージの錆(酸化鉄)にいきつくということは意外に知られていないようです。

フェライトはどうしてつくられるか

代表的なソフトフェライトの例でいいますと鉄鋼メーカーで発生して精製された酸化鉄に他の元素(亜鉛、マンガン,ニッケルなど用途に応じて無数の組み合わせがあります)を加えてプレス成形して炉で焼くというのが基本ですが前にもお話したように焼き物ですから非常に多くのノウハウがありその作り方は各メーカーが秘中の秘にしています。
一方原料の酸化鉄も発生源となった鉄板の成分,塩酸を回収した際の操業条件、設備の特徴によっていろんな酸化鉄が出てきます。
ちょうど日本酒にも何千種類もの銘柄があるように酸化鉄にも無数の銘柄があって値段もまちまちです。

おわりに

今日はさびという無機物の堅い話になったかもしれませんが鉄はさびになって寿命が終わったのでなく顔料、フェライトという第二の人生で大活躍していることをご紹介しました。

私たちの人生も定年退職して終わりになるのでなく第二の人生に思いがけない活躍の場が あるということを信じて生きていきたいものです。

−おわり−

               (文責 得猪 外明) 


会場写真撮影:橋本 曜
HTML制作:鍜治 正啓