神田雑学大学2000年11月10日 講義録

暮らしのなかのニセモノ考


講師:佐々木 明


                                          

目次

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 ★講師紹介

 ☆ブランド商売のうらおもて

 ☆暮らしのなかのニセモノ

 ☆スーパーブランドとスーパーコピー

 ☆ブランド鑑定の実際

 ★質疑応答




★講師紹介佐々木 明さん(ジャーナリスト、多摩美術大学客員教授、元朝日新聞社記者)

社会部記者時代に取材した三越の偽エルメス事件以来、日本人が如何にブランド品に騙され易いかを認識、20年以上にわたって暮らしのなかのあらゆるニセモノを追ってきた。

現在、多摩美術大学デザイン科で偽ブランドを中心とする知的所有権問題を講じている。

☆ブランド商売のうらおもて

不正製品関係の警察の摘発状況をみると、昭和56年、平成元年、平成6年のあたりがブランド・ブームになっている。警察が何故偽ブランド品の摘発に躍起となるかというと、暴力団が売り捌き、その資金源としている率が高いからだ。

最近では並行輸入と称してブランド品を売っているが、これは大方が偽物である。
その理由は、ブランド商品に関しては一ブランド一総代理店が限られた商品を輸入していて並行輸入の数が少ないからだ。とりわけ時計のような小物は鞄に詰め込んで密輸入できるのでこの種の犯罪はなくならない。

ブランドはそもそも焼き鏝で牛に牧場主の印をつけたことに由来する「商標」のことである。世界最古のブランドはフランスの探検家クストーが深海から発見した2300年前のワインの壷に打ち込まれたブランドであった。

最近偽ブランド販売の舞台はインターネットと通信販売で、税関も摘発しきれない程巧妙に行われている。
カタログに巧妙にブランドを隠したニセモノの写真と囮としてエルメス等の本物を載せるが、購入依頼があると「もう売り切れました」と断られることになる。

☆暮らしのなかのニセモノニセモノは上のような理由だけではなく、他人の商標を偽ることで著作権を侵害するだけでなく、結果的に本物の労働者の仕事を奪い、かつ利益まで吸い上げる犯罪を構成する。また、材質が粗悪なことから自動車部品などの場合、最後に人命損傷にまで繋がっている。

その実例をアトランダムに挙げてみるとーーー
避妊用ピル。ヘリコプター部品(規格違反の東南アジア製部品を使い、人身事故を引き起こした)。自動車部品で多様な機種に摘要できるというデザイン盗用が行われた。例えば、トヨタMR2とBMW M1、ダイハツミラとルノー5ターボ、マツダサバンナとポルシェ935が相互に変換できる強化プラスティック部品を売っていた業者まであった。

日本の正露丸や江戸根付の偽物が香港で数多く出回っている。
洋酒の場合、ラベルは全く本物であるが、瓶の底からメチルアルコール等を注入して売られる例が多い。時計は全ブランドでニセモノが出回っており、中にはまだ本物が作らないうちに先行してニセモノが出回ることもある。近い例では、ルイ・ヴィトンが出していない携帯電話ストラップが出まわった。

バンコクでは、マフィアが組立工程を聾唖者に計画的にやらせて摘発出来にくい状況を作ってしまうという悪辣な手口を行っている。香港、韓国、北朝鮮でも日本人が提案して作らせている。最近は中国が国営工場で偽物を作っている例まである。

また、変わったニセモノとしては霜降り牛の精液まである。清酒、米、みかん等食物にもある。
人間にもニセモノが有り、虚無僧、傷痍軍人は現在でも繁華街や有名神社の境内などに出没しているが、殆どニセモノである。
先日、警官が平塚駅頭で虚無僧を見かけ、職務質問したところ、日本語も話せない中国人だった。軍人の服装は現在コスプレ専門店等で容易に入手出来る。

☆スーパーブランドとスーパーコピースーパーブランドと雑誌が持て囃しているものにルイ・ヴィトン、エルメス、グッチ、フェラガモ、プラダ等がある。歴史があり、商品の開発に大金を投じてきた。信用があり、王候貴族の御用達品となっている。
エルメスやグッチは元々は馬具の鞣職人であったが、現在は化粧品、鞄、衣料など多様なファッション商品に手を伸ばしている。

異常ともいえるブランド志向から、日本は世界ブランドホルダーの財布になり下がっている。

偽物のなかでも厄介なスーパーコピーはどう見ても本物に見えるほど良く出来たコピーで、並べてみるとそこはかとない風格でしか見分けが付かない程技術が進んでいる。

その代表例はルイ・ヴィトンである。1993年売り上げ863億円で世界の半分を日本人が買っている。2002年に赤坂に世界一の売り場をオープンする予定である。しかし日本人の持つルイ・ヴィトンの4割はニセモノと思われる。
日本人の消費の仕方は本物とニセモノの両方を持っていて、TPOで使い分けるというヘンな利口さがある。

日本の階層は皇族を除き、9割が中流階級だから、お金があり、皆が更に富裕な生活に憧れる。
購入の動機としては、有名人がなになにを身につけていたという情報があると買いたい人が殺到する。皇室や有名芸能人は「広告塔」となっている。
業者はそんな記事が載ると直ちに韓国に出かけ偽物メーカーにコピーを作らせる。

西ドイツの「世界ニセモノ防止協会」のデータによると、12個に1個の割合でニセモノが出回っているといわれる。極端な例は、ニセモノがなければ、ルイ・ヴィトンの売り上げは2、3倍に達する計算になる。

絵画の場合、有名画家の作品600点の4割はニセモノというデータもある。
洋画では藤田嗣治、安井曾太郎、黒田清輝、熊谷守一、佐伯祐三が多く、日本画では小林古径、橋本明治、奥村土牛、竹久夢二に偽物が目立つ。
アンティークも油断できない。江戸古看板にも多くのニセモノが出回っている。

☆ブランド鑑定の実際

では話はこれくらいにして、皆さんに実物を鑑定して貰いましょうか?

・ヤオハン倒産処分品と称したダンヒルのYシャツ(デザイン、パッケージは本物そっくりだが材質や加工技術は真っ赤な偽物。)

・ブランドが付け直せるプラダのバッグ。

・有名質屋が騙された偽シャネル時計。

・本物と寸分違わないルイ・ヴィトンの財布のスーパーコピー(韓国ではルイ・ヴィトンの元職人を雇って作らせているといわれる。)

・プラダのバッグ(ポリシーのないブランドの悪例。本社の役員がニセモノに 正式な証明書を流して逮捕された。)
反対にポリシーのしっかりしているブランドは、エルメス。ニセモノがいくら金を掛けても本物には多くの場合負けてしまう。

・アウトレット店では現在まではニセモノは扱っていない。でも法外な量のブランド品が集まり、今後悪徳な店が扱うようになれば危なくなる。

・では、騙されないで本物を手に入れる方法は?
関税の掛からないフリーポートのシンガポール、香港に廉いツアーで行き、本物を免税店で購入するのがお薦め。(免税店は信用を落とせないので本物を置いている。)

・日本人に問いたいのは、「あなたは何故このブランド品を買うのか?」である。
ブランドを買うのか?自己の求める商品を買うのか?泉ピン子みたいに全部同じブランドで揃えるのはどんな理由なのか?
長い鎖国からきた西洋文明への劣等感、憧れからであろうか?
これを突き詰めると一つの日本人論が出来るだろう。


★質疑応答

・ヤフーのショッピングモールは安全でしょうか?
いや、既にニセモノが出ている。ネットで本物通りの写真がでても本物が買えるという保証はない。通販、ネットは要注意。日頃から本物を見ておき、商品知識を養うこと。

・ネットは何故危ないのか?
売り手が見えない。フランスではその昔偽物つくりは、両手切断など極刑に処せられたが、日本は50万円程度と罰金が低いので、何度でも繰り返す。

・バレンチノというブランドがあちこちで使われるのは何故ですか?
商標を守ろうとする強い意欲がないためでしょう。ブランドの実力を守るポリシーと実力がないと、いろんな業者に使われ、イメージが薄まってしまう。

本日の結論

物を買う際、「初めにブランドありき」の日本人があまりにも多すぎる。
そろそろブランド狂いから脱却し、冷静に「商品を見極める眼」を養う必要が あろう。そうでなければ、日本人は世界の物笑いにされてしまう。
いや、もはや物笑いになっているのである。
 

文責:鈴木一郎
会場写真撮影:橋本 曜
HTML制作・編集:大野令治