地震!地震に強い建築

講師 山本富士雄




目次

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はじめに・講師紹介

1.なぜ地震は起きるのか

2.日本は活断層の巣だ

3.首都圏地震はいつ起きるのか

4.東京では少なくとも1万人は死ぬ

5.地震は予知できるか

6.木造住宅の基礎はしっかり造ろう

7.地震に強い木造住宅とは、マンションとは

8.地震に強い街造り

9.免震構造とは




はじめに・講師紹介

本日の講義は、山本富士雄さんの「地震!地震に強い建築」だった。
山本さんは一級建築士で、昭和47年吉祥寺に(株)山本富士雄設計事務所を設立、同社代表取締役をお勤めの他に、(社)日本建築家協会西東京会長・武蔵野ロータリークラブ現会長・早稲田大学商議員・混声合唱団四季の会副会長など多くの団体に関係されている。

建築のお仕事は、公共建築、民間の事務所建築、商店、共同住宅、個人住宅まで、作品は全国にわたっている。
その上ご趣味も広く、家相・風水の研究から四柱椎命、クラシック音楽(オペラ・合唱、歌手)、三級気功師、読書、スポーツなどなど、まことに活力に溢れた方である。

特には地震の専門家ではない山本さんが、地震に強い関心を持つようになったのは、那須東大教授(昭和30年代の東大地震研究所長)が遠い親戚でそのご子息と成蹊中学・高校の同級生であった影響という。
本日は、われわれ大都市圏に住む者が重大な関心を抱く大地震と地震に強い建築について、詳しく、分かり易くお話を頂いた。


1.なぜ地震は起きるのか

(1)地震発生のメカニズム
昔から地震は大地の神の怒りだとか、戦争や凶作の前兆だと信じられ、ひたすら祈ったり改元したりして災いを逃れようとした。
江戸時代には、地震は地下の大なまずが暴れるからだと言われた。現在でも地震の正体は多くの謎の部分を残しているため、おかしな予言者が現れたり、デマが飛んだりするのであろう。

地球(半径:6400km)を卵に例えると、黄身が内核と核、白身がマントル、殻は地殻に当たる。高温・高圧のマントルは、海底の山脈、海嶺の裂け目から湧き出して、冷えて固まり、岩石(プレート)となる。
このプレートは、熱対流を生じているマントルに乗って、休みなく上下左右に動いているが、大洋を渡り反対側の大陸プレートと衝突して潜り込み、再びマントルの中で溶けて消失する。
大洋のプレートが大陸のプレートの下に潜り込む時、大陸のプレートを一緒に引きずり込むので、大陸のプレートには反発しようとする歪みのエネルギーが蓄えられる。
この歪みが限界に達したとき、大陸のプレートが跳ね返り、プレートが破壊し、地震が起きるのである。

(2)4つのプレート
日本には、太平洋プレート、フィリピン海プレート、北米プレート、そしてユーラシアプレートという四つのプレートがせめぎ合っている。これが日本が地震国である所以である。

(3)マグニチュードと震度
マグニチュードは地震そのものの規模・大きさを表す。これまで最高のマグニチュードを記録したのは、1960年のチリ沖地震でM8.5である。相模トラフで起きる関東大震災タイプの巨大地震はM8クラス、首都圏直下で起きるとされるプレート内部での地震はM7クラスである。マグニチュードは、1増えるとエネルギーは約32倍になる。
震度は結果としての地震の強さを表し、0から7まである。7は阪神大震災の時できたものである。一般に震源地が遠い(例えば深い)ほど弱くなる。

(4)地震の多発地帯
@プレートの沈み込み地帯(日本列島、千島列島、中南米、東南アジア、イタリア、ギリシャ)
Aプレート同士がすれ違うトランスフォーム断層(北米西部、トルコなど)
Bプレートの衝突境界(インド、イランなど)
Cプレートが生まれる海嶺(大西洋中央海嶺、東太平洋海嶺など)

2.日本は活断層の巣だ

(1)2000本以上の活断層
本来は専門用語である活断層は、阪神大震災を機に、広く知られるようになった。
日本全国に約2000本以上あるといわれる。
阪神大震災を引き起こした活断層は、「六甲断層系」と呼ばれ、淡路島から神戸市、芦屋市、六甲山麓にかけて、南西から北東に延びる一群の活断層である。
今回の阪神大震災は、淡路島北端の地下の断層が右横ずれを起こし、これが島の中央部と、神戸市、芦屋市方面に拡大して大地震となった。ずれた断層の延長は約50kmと推定されている。またずれの大きさは淡路島北部で最大1.7m、地下では2,3mずれた可能性がある。

関西には地震がないと信じられていたが、それは誤りである。
むしろ近畿は活断層の密集地帯である。熊本大学の松田時彦教授は1981年に、大地震を引き起こす可能性のある活断層として「六甲断層系」や「有馬−高槻構造線」などをあげていた。

さらに松田教授は阪神大震災の直後に、五つの要注意活断層として
@伊那谷断層帯(長野県)
A国府津・松田断層(神奈川県)
B富士川断層帯(静岡県)
  C糸魚川−静岡構造線」(静岡県)
D有馬−高槻構造線(兵庫、大阪)
を発表した。こうして首都圏では神奈川県の「国府津・松田断層」が一躍クローズアップされたのである。

(2)活断層の定義
では活断層はどのくらいの速度でずれているのか。有名な山崎断層(兵庫県−岡山県にかけて総延長80kmの断層)を例にとれば、数十万年前から年に1mm程度ずつ動き、今までにずれの大きさが最大100mにも達している。
200万年前に動いたことが証明されれば、その断層は活断層と定義されるという、日常生活とはかけ離れた、地球規模のスケールで動いているわけである。

例外的には「クリープ性活断層」といって、日常的に少しずつ動くものがある。
アメリカのカリフォルニア州では、ワインの蔵や、牧場のフェンス、道路などが次第に食い違ってしまう現象が起きているが、日本ではまだ見られない。

(3)活断層との住み分け
活断層の調査は、高度1,000−3000m付近から撮影した航空写真を判読することで行われる。
最近ではGPS(Global Positioning System)と呼ばれる、人工衛星を使った計測システムがある。さらに宇宙電波で調べる方法もある。
土地の変化を精密に測定するために、地下にトンネルを掘り、精密機械を設置して測定することもある。
日本の内陸の主要な活断層の分布や活動度については、おおよそのことが分かってきたが、個々の動き方や危険度については、十分な調査が行き届いているとはいえない。
そのため、活断層の研究に専念できるような研究体制を整備することが必要である。
一方、一般の人々も活断層の性質を理解し、活動度の高い活断層の真上には公共建築物を造らないなど、「活断層との住み分け」の知恵が必要だと思う。

3.首都圏地震はいつ起きるのか

(1) 首都圏地震は4種類
阪神大震災を引き起こした地震のマグニチュードは7.2で、決して大きいとはいえないが、過密な近代都市直下の浅い(0−20km)場所で発生したため、大きな惨事となった。 関東の場合は、深度が深い(7、80km−100km以上)縦ずれの内陸型活断層が多く、阪神の教訓がそのままでは当てはまらない。

首都圏に大きな災害をもたらすと考えられる地震は、その発生場所によって次の4種類に分けられる。
@相模トラフ(海溝)を震源とする、関東大震災型のM8クラスの巨大地震。
A房総半島沖の三つのプレートが会合する付近で起こる大地震。
B伊豆半島の西側から延び、南海トラフにつながる駿河トラフで起きるM8クラスの巨大地震(これが東海地震と呼ばれるもの)。
C首都圏(南関東)直下型M7クラスの中規模地震。

(2)いつ起きるかわからない大地震
このうち、最も近い将来起こり、首都圏に激甚な被害をもたらすだろうと言われているのが、首都圏直下型の地震である。震源の深さは100km程度と考えられるので、被害の及ぶ範囲は半径20−30kmと比較的狭い。

関東大震災の再来と言われているのは相模トラフ沿いの海溝型巨大地震のことである。このタイプの地震は、エネルギーが大きいため、広域にわたって被害を及ぼす。この周期は大体200−240年と推定される。
したがって、あと100年くらいは無いと、私は考えている。
河角博士の69年±13年説は、博士が新潟地震の惨状を憂えて、政府の無策に対する警告として発表したもののようである。

東海地震は大体100年おきくらいに起こっており、最後に起きたのが1944年である。このとき動かなかった駿河湾の部分が、近いうちに動いて大地震が起きるのではないかと心配されているのである。

4.東京では少なくとも1万人は死ぬ

過密都市東京は、巨大地震で大きな被害を受ける。
もし地震が発生すれば、最初の衝撃で膨大な数の人々が被害に遭うのはもちろんのこと、建物の倒壊・出火、そして道路をふさぐ車によって避難や消火・救護が妨げられ、重大な二次災害が引き起こされる。ことに大火災の発生は免れない。
関東大震災の即死者は2000人(阪神は4000人)で、10万人の死者の殆どは火災によるものである。

阪神大震災前のシミュレーションは甘かった。
日本の建築物は、耐震的に非常に強い構造を有していると言われてきたが、この70年間大きな地震を経験してこなかったため、実際にどれだけの強度を持っているか実証されていなかった。
阪神大震災では幾つかの欠陥をさらけ出し、本当に想像を絶する欠陥も露呈され、学者に衝撃を与えた。

大地震は起きた場所・深度・マグニチュード・震度・時刻・天候・風雨等、様々な条件によって被害の大きさは異なる。
関東大震災の発生は11時58分の炊事時で、当時の東京は古い木造が密集していた。
神戸の不幸は震源が浅かった(平均3km)ことである。

東京区部の街の半分は、6000年前にできた軟弱な沖積地の上に建っている。
さらに大規模な埋め立てが進み、高速道路を地盤の弱い河の上に造った。
特に東部の下町地域は軟弱地盤が集中し、荒川放水路や江戸川放水路には幾重にも悪条件がかさなっている。そこに震度2でも壊れる古い木造住宅が、もたれあって建っている。

西部の山の手や多摩はローム大地で、比較的良い地盤といわれている。
しかし、山の手は決して安全ではない。山の手にも中小の河川が台地を刻んでつくった軟弱な低地、谷田(やちだ)があり、それが山の手の約20%の面積を占めているからだ。

立川活断層については、都立大学の山崎晴雄助教授が、「立川断層の活動の周期は5000年に一回で、最も新しい活動が1800年前と推測され、従って次の活動は2000−3000年後であろう。それほど要注意の活断層とは考えられない」と明言している。
しかし、国内の活断層の調査結果をあたってみると、繰り返し期間がはっきり分かっているのは極めて少ない。

5.地震は予知できるか

結論的に言えば、地震の予知はできない。
東海地震に関しては、世界一の観測網がしかれている。24年前、ある学者の説をマスコミがとりあげて有名になったのが契機で出来た。
それでも、数ヶ月あるいは半年の範囲でしか予報できない。

ところが、人間にできないことを動植物ができる。
阪神大震災のときも、「地震の直前にカラスが大群で飛び去った」「ミミズが地中から一斉に這い出して死んだ」「大阪湾で見たこともない魚が網にかかった」といった証言がある。これらの宏観現象(宏観前兆)は、地震により発生する電気などの物理的変化に、動物固有の感覚器官が反応して、動物などが異常行動をとる現象である。
35%くらい的中すると言われている。

1975年2月、中国北部の遼寧省で起きた「海城地震」は、世界で初めて予知に成功した大地震である。これはヘビ、ガチョウ、犬、鳥、金魚などによって引き起こされた宏観現象によるものであった。
ヘビやナマズは敏感で、確かに地震予知能力を持っているようだ。人間、特に男性は本能が衰えていて役に立たない。

1978年1月に起きた伊豆近海地震(M7.0)では、地震の一週間前から、温泉にも含まれる放射性物質ラドンの濃度が急増して注目された。
また、地電流の変化を地震の直前にキャッチして予知に役立てる研究も注目され、ギリシャでは成功している。バロツォス教授など提唱者三人の頭文字をとって「VAN」と呼ばれている。
そのほか、天体観測による地震予知の研究をしている学者もいる。

大地震の度に悲惨な被害を被ってきたわが国では、この被害をできるだけ低減するために、新しいコンセプトへの挑戦が行われている。
遠い所に起きた地震をいち早くキャッチして、地震の揺れが大都市に到達する前に、被害を最小限に食い止めるための「地震情報の直前検知・伝達システム」の開発が行われている。
例えば、東海地方の海底60kmの深度で地震が発生した場合、約40秒で大きな揺れが東京に到達する。
その間に検知と判定に約10秒かかるとしても、残りの30秒前に警報を発して、様々の対策を立てて、地震の被害を少しでも減らそうという研究である。

6.木造住宅の基礎はしっかり造ろう

まず地盤に注意しよう。狭い土地でも何箇所かポーリングして、少なくとも1箇所は3−4m掘って地質を調べ、安全なを打つこと。現在の杭は大丈夫である。
木造住宅の基礎には必ず鉄筋を入れる。在来工法は地震にも弱くない。

7.地震に強い木造住宅とは、マンションとは

建築を計画する場合、その土地が昔どういう状態だったのか、環境考古学的考察が大事である。
地盤の次のポイントとして壁量がある。バランス良く平面配置された壁が、地震に強い抵抗力を持つ。四角い建物なら四隅と縦・横方向、例えば東西南北の内外壁面に1/5以上の壁量が存在すると大変強くなる。
外壁の下地は合板(コンパネといわれる12ミリ厚以上のもの)を、土台から外周壁の全面に、覆うようにして周囲を釘止めする。外壁はモルタルより軽量で乾式のボードや、サイディング仕上げの方が望ましい。
筋違(すじかい)はバランス良く配置し、筋違プレートというZマーク金物で止めると耐震性を増す。

屋根は彩色石綿板や金属板など、軽いものの方が頭が軽くなって地震に強い。
2階にはピアノや本棚をなるべく置かず、もし置く場合は耐震金物等で補強する。
土台柱脚部には耐朽性のあるヒノキ・ヒバ、あるいは防腐防虫処理をした木材を用いる。

マンションに関しても基礎地業が一番大事である。特に杭には注意が必要で、ヒビが入っても調査や修理が難しい。
どのような種類の、どのような長さの杭が、どのように打ってあるかが重要である。軟弱な地盤でも、十分固い地層まで杭をしっかり打っているマンションは安全である。

複雑な形のマンションは、耐震壁を効果的に配置することが難しいので、一般的に地震に弱い。
ピロティ形式・1階に広い空間を持った下駄履きマンションは特に危ない。
新耐震(昭和46年)以前に建てられたマンションも要注意である。
地下室は地震と同じ揺れ方をするので、共震することがなく安全である。浮力が働き建物全体の重量を軽くし、構造を安定にするのでお勧めする。

シャブコンといわれる水っぽいコンクリートを流し込んで作った壁は、凝固するとき収縮量が大きくひび割れを生じる。今はないが、過去に作られたものは危険である。
また、阪神大震災では数多くの鉄骨の欠陥溶接が、被害を大きくした例が見られた。

8.地震に強い街造り

街造りに経済・効率優先が許された時代は終わった。
過密都市の地震災害は、現代文明と自然の摂理との衝突である。自然を壊しながら近代都市を造ってきたことを反省し、自然を畏れる心を持って21世紀の都市のあり方を提案していかねばならないと思っている。
武蔵野市に運河と森のある街造りを提言したが、実現は難しい。しかし江戸の昔はそうだったのである。人間の徹底的な意識改革が必要だと思う。

9.免震構造とは

免震構造とは、「制震構造」の一ジャンルで、地震や風などの外乱によって建物が共震を起こさないような装置を取り付けた、パッシブ(受動的)な震動制御構造である。
現在では水平方向の震動を主体に考えているので、地震の上下動の成分が大きい場合、効果は未知数である。軟弱地盤での効果も比較的少ないと考えられる。

最後に「アクセプタブル・ダメージ」という言葉がある。
これは専門家がある震度の地震に対しては、ある程度建物が壊れることを許容していることである。つまり全体的に、より経済的な建物を造るためには、1000年に1度程度しか起きない震度7の大地震では、ある程度壊れる(降伏する)のもやむを得ないという考え方である。
一般の方々には、なかなかそのところを理解してもらえない。

しかし、どの程度の地震まで人命を守れるかというような、建築の性能保証は現実的には、極めて難しい問題である。
信用のある設計事務所に依頼し、ある程度余裕をみて設計をする以外に道はないであろう。             



文責:大野 令治

会場写真撮影:橋本 曜
掲載写真選定、画像データの編集、HTML編集:大野令治