神田雑学大学 2001.1.19


コケコッ考

 
目次

クリックすれば該当の項へ進みます。
ブラウザの「戻る」ボタンで目次に戻ります。
 
講師紹介 
 
外国のにわとり
 
アフリカでのフイールドワーク
日本のにわとり
長鳴き三鶏
おわりに


講師紹介得猪外明と申します。
鉄鋼メーカーに約四十年つとめて昨年退職しましたが、中学生のときから各地の鶏の鳴き方に興味を持っておりました。日本では何処にいってもコケコッコーで統一されて いますが、これはいつ誰が決めたのかわかっていません。また方言の鶏の鳴き声がないのも不思議です。日本では長い鳴き声を競う鶏が飼われていますが決してコケコッコーとは鳴いていません。
鶏は世界各地で飼われていますが、その鳴き声は、これが鶏の鳴き声かと疑われる表現の仕方があります。

たまたま仕事の関係で海外に行ったり、外国人と付き合う機会があったので変人扱いをされながら出来るだけ多くの鶏の鳴き声を集めてみました。

外国のにわとり古今東西、鶏はコケコッコーと鳴くものだと思い込んでいました。これが覆されたのは中学校で アメリカの鶏がcock a doodle doo と鳴くと教えられて仰天してからです。最初は鶏の種類が違うのかと思いました。
そこで他の国の鶏はなんと鳴くのか調べようと思いましたが当時は外国人もおらず 辞書にも書いてないので殆どお手上げの状態でした。
そのうちグリム童話集にドイツの鶏はkikkireki(キッキリキー)と鳴くことを発見して少し勇気ずけられました。
調子に乗ってフランスの鶏は coquerico (コクリコー)でイタリヤの鶏は cocorico(コッコリコ)と鳴きますがこれと同じ名前のレストランが渋谷の道玄坂にあります。
ちなみにスペイン語では quiquiriki(キキリキー)でお隣のポルトガルでは quiquirequiで殆ど 同じです。
ロシヤは非常に広大な国ですからいくつかの鳴き声があるのかもしれませんが標準的なロシヤ語の辞書ではキリル語で kykapeky(クカレキー)と書いてあります。
日本に近い韓国では おなじみのハングル文字が使われていますが、これをアルファベットで表現すると kockyo kuukuu kookoo となるそうです。不思議なのは中国で鳴き声に関する表現が無いのだそうですが中国人に聞いたら不思議そうな顔をして ko-ko-ke- と言いました。誰か詳しい人がいたら教えてください。
きりがありませんので他にいくつか紹介しますと。
  インド(ヒンドスターニ語) cock-ro-roo
アラビア語         cock-e-cocho-co
レバノン語         kikki kiiki
スリラン(シンハニース語) cock-a-coke-coke
アルメニア語        tsoogh ruooghoo
ダホメー(フォン語)    kokolo kassi
ニュージランド(マオリ族) kokekko
 
アフリカでのフイールドワークアフリカには無数の言語が存在します。たまたま30才代の時にアフリカのアイジェリアに滞在する機会がありました。ここの鶏は外観は日本の鶏と似ていますがかなり高いところまで飛びます。 また卵は産みっぱなしでも気温が高いのでひとりでに孵化します。
ここで調べた代表的な部族の鶏の鳴き声は次のようなものです。
ヨルバ族  a koukou (ア コーコー)<BR>   ハウザ族  zakara yai kuuka (ザカラ ヤーイ クウカー
フラニ族  n:ko(ン コー
いずれも現地に赴いて土地のひとから手まね、口真似で苦労して聞き出してきたものです。
日本のにわとり日本人と鶏の付き合いは縄文時代に遡ります。新潟県の千石原遺跡に鶏頭冠取手という火炎土器 がありますが、この時代の鶏の鳴き声は分かっていません。鶏が鳴いていた証拠は天照大神が天の岩戸にお隠れになったとき長鳴鳥を集めて鳴かせたとあります。
万葉集には約4,500首の歌が収められていますが,そのうち鳥が主役になるのが約500首ありそのなかで鶏の鳴き声をうたったものが9 首あります。 代表的な柿本人麻呂の歌を紹介しますと
遠妻と手枕交えてさ寝る夜は鶏が音な鳴き明けぬとも(大意 遠い妻と手枕を交わして寝た夜は、鶏よ鳴かないでおくれ、夜が明けたら明けたでかまうものか。
不思議なことに昔から鶏は鳴いていた形跡がありますが食べられたいたという話は聞きません。多分鶏は神のお使いだということで食べることが禁止されていたのでしょう。
昭和になって歌謡曲のなかに鶏の鳴き声を歌ったものがあります。暁テル子が唄った「ミネソタの卵売り」という曲ですが、これはコッコッコッコッ コケッコーと少しどもりの鶏です。 ところでコケコッコーの語源ですがどうも明治になってからのようです。教育勅語がだされて尋常小学校でカタカナを教えだした頃に誰かが言い出して、これはいいということになったのでないでしょうか。長鳴き三鶏世の中にには卵をろくに産まない鶏を大切に育てている人たちがいます。沖縄の「ウタイチャン」やインドネシヤの「ブキサール」のように、声の長さが短く歯切れの良さを楽しむもの、またインドネシヤの「ココバレンゲ」のように独特な鳴き方を楽しむものがあります。
声の長さを楽しむものは、日本、トルコ、ドイツ、ロシヤ、ブラジル、インドネシヤで飼われています。
日本で有名なのは次の三種です。
声良鶏(こえよしどり)天然記念物 産地 秋田県 最も大型鶏 重低音で唄い見かけは怖そうだがおとなしい性質。 波長は「中音」の部分で 0.4KHz
蜀丸(とうまる) 天然記念物 産地 新潟県 中型鶏 鳴き声も中音域で澄んだ声で鳴く.比較的神経質。 波長は「中音」の部分で1.1KHz
東天紅鶏(とうてんこう)天然記念物 産地 高知県 やや小型鶏 鳴き声は高く、鶏らしい?鳴き声 波長は 1.3KHz
いずれも20秒鳴けば良しとされます。 どの品種も濁りがなく澄んだ声が良いとされます。音節は 「出し」「付け」「中音(なかね)」「おとし」「引き」の節が必要です。
「だし」はゆっくりスタートします。「付け」では一旦声量を抑えて「中音」への準備をします。 「中音」は謡いのメインの部分です。東天紅鶏、蜀鶏では力を入れて張り上げ、声良鶏ではむらなく低音を響かせるのが良いとされます。どの新種でもこの部分は声が澄んでいることが大切です。 「落とし」は中音から「引き」に移るとき一気に音色を変化させトーンを落とす部分です。「引き」は音が聞こえなくなるまで息を出し切るのがよく途中でプツンと切れるのはよくありません。
おわりに我ながらくだらないものを調べたものだと思います。むかし先生に「疑問を持て! 疑問を持つことから人類の進歩がはじまる」といわれたことが脳裏にあったからです。 最近コンピュータの進歩は著しく音声の認識・翻訳がかなり正確に出来るようになってきました。いまやってみたいことはコンピューターにコケコッコーを認識させてどのような翻訳ができるかやらせてみることです。そして世界の鶏学者が一堂に会して世界コケコッコー会議を開催することです。
−おわり−

(文責 得猪 外明) 

会場写真撮影:橋本 曜
HTML制作:得猪 外明