神田雑学大学 9月28日 講義


講師:森谷 幸男、廣川 文子、鈴木 一郎



目次

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講師紹介
(1)日本妖怪史
(2)画中の別天地
(3)生霊(いきりょう)
(4)百物語のはなし
(5)異説 田中河内介
(6)村上家の幻術士
(7)枕の怪
(8)山の家で或る朝
(9)人魂
(10)夢の家
(11)何でも入る瓶
(12)猫の泉
(13)うつろ舟
(14)猿の手



講師紹介

森谷幸男氏は、知る人ぞ知るネットワークの物知り博士。 今回はその江戸文学の広範な知恵袋から妖怪、怪談の部分をご披露戴きます。 廣川文子さんは、極々普通の主婦ですが、その朗読の技は玄人はだし。雑学大 学では、既に何度かお願いして、好評でした。

深みのある語り口で古今の物語 がどう蘇るか楽しみです。鈴木一郎氏は、神田雑学大学副理事長、総合プロ デューサー、いつも総合司会の立場ですが、今回は特別に演技者となります。

・準備:まず、「結界」を張りました。其の背景としては、 百物語には本来死者を呼び出す儀式の側面があり、通夜、盆、彼岸等に故人の 想い出を語り合いその霊を慰めました。昨今の百物語では召喚される霊魂が限 定されないので邪悪な「気」をもたらす可能性もあるた

め、霊と参加者を隔て るバリアとして「結界」を張ります。しかし会の性格上、ある程度の「来訪 者」を覚悟せねばならない。「結界」は、四隅や出入り口に正方形の半紙に 粗塩を盛り、香を絶やさず燻らせます。 そして、開会に当り、最近のN.Y.同時多発テロ犠牲者の霊に黙祷致しまし た。

・口上:九月晦日にも拘らず、賑々しくお運び戴きありがとうございます。 さて、江戸の頃の貸し本、寄席や、遠くはヴィクトリア朝エゲレスのイエロー ブック、辻講釈、はたまたヨーロッパ貴族、商家の文芸サロンでの朗読、談話 は、その後多方面に展開致しました娯楽の

起源であります。 霊魂不滅を信ずる国々には霊との交渉の話が多々御座います。今晩は 古式に則り、「当世百物語」と題し、東西古今のそんな物語を皆様のお耳に 供する次第で有ります。最後までごゆるりとお楽しみ願います。

・はじめに
1)日本妖怪史

草も木も物言う遠い昔にはあやしい神々も多く、記紀には多くの不思議な物語 が伝えられます。出雲風土記には、田で作業中の男が一つ目の鬼に襲われ、あ よ。あよといいながら、食われてゆくのを両親が目撃した記事があります。 これが出雲の阿用郡の語源にもなっています。 この鬼は山中で製鉄していた

山の民ではないでしょうか?炉内の火を見つめた ために眼が潰れ、蹈鞴を踏み続けたために一本脚になって「一本だたらの一つ 目妖怪」となりました。奈良朝、平安朝には、天竺からの説話や宗教がらみの 説話が登場、宮中にも死霊生き霊が暗躍しました。 室町時代、中国明代白話小説の「剪燈新話」が渡り、大きな影響を齎しまし た。江戸時代、浅井了意は「伽婢子(とぎぼうこ)」にその18編を翻案し、

怪談文学隆盛のきっかけとなりました。その次第に洗練され、文学から芝居、 講談、人情話から、現代の文学、映画をはじめ多くの娯楽作品に発展しまし た。 読み見聞きした晩から一人歩きも出来ない位の脅えようを享受するため、人々 は新しいタイプの妖しい物語をむさぼっったのです。 この種物語の最高峰は上田秋成「雨月物語」でありましょう。いずれ我々はこ の傑出した作品に触れることになるでしょう。朗読を聴く
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2)画中の別天地

お岩さん 中国の富豪「徐群夫」の食客に変わった画家がいました。人々の要望に応え、 不思 議な画の世界に読むものを引き込みます。(大内白月 訳著「魚目集」より)

3)生霊(いきりょう)

古今の文学に現われた幽体離脱の現象から、生霊の多くが自分が生霊であるこ とを自覚しているという実例を「今昔物語」から、語りだします。(高橋克彦作)

・百物語とは
4)百物語のはなし

まず、月の暗い夜、行灯をともし、それに青い紙を貼る。灯芯は百本。物語が 終わるごとに灯芯を一つずつ消してゆく。その話百編に及ぶと必ず怪異が示現 すると言われます。「白日に人を談ずる事なかれ、人を談ずれば害を生ず。 昏夜に鬼を語ることなかれ、鬼を語れば怪いたる。」(浅井了意) (註)浅井の著「伽婢子(とぎぼうこ)」は六十八話で終わっています。

5)異説 田中河内介

幕末の志士、田中河内介の最期を遂に語りきれなかった男の話。 その場に居合わせた池田彌三郎氏の父はその一部始終を聞かせた後、こういっ た怪談の会は素人の家でなどするものでないという教訓とその後日談を聞かせ ました。朗読を聴く

・映画

いろいろ恐い出し物を検討した結果、古今の名作、黒沢明「生きる」の クライマックス・シーン。通夜の席にある警察官が故人の帽子を届け、促され て公園でブランコに揺れつつ、心にしみいるような「ゴンドラの唄」を歌う 最期を語り出します。故人の人間像を通夜の人々の語りから浮き彫りにしたそ の語り口は、そのまま「百物語」に通じます。

ー休憩(10分)ー
・百物語<本編>

6)村上家の幻術士

講師の廣川文子さん 幻術は目くらましともいい、妖術、忍術、魔法、下法などともいいます。 ペルシャあたりが起源と考えられ、シルクロードを伝わり、天平時代に盛んと なりました。大道でクグツやら放下僧などに

演じられ、自己の肉体をバラバラ にして、再生したり、植物が見る間に成長して実を結んだり、人馬の首を挿げ 替えたりする技を見せます。次もその幻術の話です。朗読を聴く

村上周防守の家士が天の川の鮎を寒い冬に取り出し同輩を接待しました。 それを聞いた周防守が城中でその技を献じたが、あまりの不思議さに逆に キリシタンの嫌疑を受け、菩提寺で切腹を命じられ、葬られました。 現場に立ち会った面々が其の子細を報告している場に、書状が届けられます。 それは、当の切腹した本人からの文で今何処そこに退いたという挨拶。 棺を改めると狸が腸を出して死んでいました。朗読を聴く

7)枕の怪

器物の歳経て邪気を持ったのを「つくもがみ」と呼びます。 深川の空き家を借りた医師が不信な病にかかり、その症状と風向きが連動して いるのに気づきます。その方向を調べると雑具部屋に当り、古い木枕を見つけ ました。医師は即座にそれが妖しの正体と見抜き、直ちに打ち割って火中に 投じたところ、死体を焼くのと同じ匂いを揚げながら、ちょうど人一人焼くの と同じ時間で燃え尽きたという話。医師はその後すっかり回復したそうです。

8)山の家で或る朝

人っ子一人居ない冬の山の家で、はっきりと聞こえる安らかな寝息。 小さな動物でもなく、自分の息遣いでもない。外は新雪が燦燦と舞っている。 カラマツの裸枝をリスが渡り遊んでいた。彼は、不思議な静寂の中で、大きな 自然の息吹を聞いたような気持ちで「生きる素晴らしさ」を感じた。

9)人魂

夜釣りの最中に、半里ばかり離れた絶壁の清水が呑みたくなった下男が、艪か ら手を放すなと厳命され、居眠りしつつ、魂が離脱して水を呑んでくる話。

10)夢の家

大病していたフランスの女性が毎晩同じ情景に立つ白い家の夢を見ます。 そこの玄関まで行き、呼び鈴を押して大声で呼ぶうちに目が覚めてしまうので す。とうとう其の家を見たいと言う気持にとりつかれ探し回ります。

そして、とうとうそっくりの家を発見します。案内を請うと憂うつな顔の男が 顔をだし、貸家だといいます。「この持主が幽霊にとりつかれてしまいまし た。」「幽霊に?まだそんなものを信じるなんて、、、」「私だってその当の 幽霊に逢うまでは信じませんでした。」「ばかばかしい!」

「少なくともあなたは、ばかばかしいと笑う訳にはいきますまい。その幽霊は あなただったんですから、」(アンドレ・モロア)

11)何でも入る瓶

唐の楊州に不思議な術を使う少女が現われました。 透き通ったガラス瓶いっぱいの喜捨を乞います。其の瓶はみるみるその銭を飲 み込んでしまいました。通りかかった数十輌の穀物馬車を宰領した役人が、少 女に「この馬車も入れてみろ」と命じました。

するとあっと言う間に人馬もろ とも中に吸い込まれてしまいました。続いて、少女も瓶の中に身を躍らせまし た。慌てた役人が指揮杖で瓶を叩くと、瓶は粉々に砕け何もありません。白日 夢のようです。 一ヶ月あまり後、北の方で少女を見かけた者がいました。少女は、馬車を指揮 して東に向かっていたということです。

12)猫の泉 猫の泉

ある人間嫌いな写真家が、南仏アルルでモール人らしい浅黒い男から、ローマ 人の墓地のあるヨンという町にチベット種の猫が群生している話を聞き出し、興味 を持った。そこに出かけた旅人は何故か失踪してしまい、三年前に出かけた行商 人も帰ってこなかった。

写真家は多くの人々に聞き出すが、埒があかず、最期に郵便局に出かけあや ふやな方向だけを聞き出す。古い馬車で旅だってやっとその町に辿り着いた。 そこには、40人程の住人と大時計台、乾いた泉、荒れた教会があり、大時計 の鐘が其の町の未来を予言するということであった。

猫の泉 そして、そこに辿り着いた300年間で30番目の旅人である写真家にその予 言が伝わると言うのである。その予言らしきものは、「若者よ去れ。洪水。大時計。」という言葉であった が、意味不明なので写真家は誰にも話さなかった。

広場にある泉にはあのチベット種の猫が屯していたが、真夜中に隊列を組ん で、時計台の頂上の時計裏の廊下に座り込んだ。彼も猫たちとそこで眠り込ん だ。 朝になってみると、町中は水浸

しで住民は一人残らず原因不明の山津波に飲み 込まれてしまったらしい。写真家は旅館から泥水で膨らんだ鞄を拾い上げて、 かんらんの並木に眠るローマ人の墓に一礼すると誰も居なくなったヨンの町を 去った。

13)うつろ舟

猫の泉 「兎園小説」は、滝沢馬琴、山崎美成等江戸時代の文化人十数人で構成する兎 園会なる組織が、会員のために珍談奇談を持ち寄り、書き記したもので、全20巻 からなります。この

話もあその第11集にあります。享和三年夏常陸の国はらどまりの 浜に不思議な舟が流れついた。円形の平べったい直径三間あまりの、上部はガラス 障子、下部は南蛮鉄で覆わ

れた、まさしく空飛ぶ円盤状の舟で、中には白人碧眼の美女 が居た。厚い絨毯、血のような酒、菓子、薫製肉、食器類等が備わっていた。 住民は結局お上に届けるといろいろと詮議やら出費が煩いので、元のように沖 に押し出した。これが女の運命だったというべきであろう。

14)猿の手

朗読を聴く
猿の手 テームズ河の河仲士、W.W.ジェイコブスの怪談集の常連の作品。 郊外に住む老夫婦と一人息子にあるインド除隊の軍曹が「猿の手」なるものを 齎す。それは、ある行者が三人の持ち主毎に三つの願いが叶う呪いが掛けられてい た。最期の持ち主になった老夫婦は、200ポンドを授かるように祈り、」その干 からびた手は蛇のようによじれたようであった。

翌日昼過ぎに息子の会社からの使いが現われ、息子のハーバートが機械に挟ま れ惨死したという知らせであった。使いは言った。「会社と致しましては、ご子息のご 精励振りを考慮致しまして、特別に金一封を差し上げます。」「で、幾らなんです?」 「200ポンドでございます。」是を聞いた老人は卒倒した。

自宅から200マイル離れた墓地に埋葬した夫婦は、淋しい日々を過ごすう ち、猿の手の願いがまだふたつ残っている事に気づく。老人は、息子が機械にズタズタに 引き千切られた姿で戻ることを予想し、恐惶して反対するが、遂に息子が蘇るように 祈った。その夜遅く、夫婦の家の戸を叩くものがあった、、、、、、、。 以上で、当世百物語の第1夜、全巻の終わりであります。 以上



文責:鈴木 一郎
会場写真撮影:橋本 曜
HTML製作:和田 節子