6月21日(金)神田雑学大学講義録

幸せの青い鳥はにわとりだった
(日本たまご事情)

講師 斎藤富士雄氏(愛鶏園会長)



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目  次

講 師 紹 介

私が養鶏にたずさわった
40年前と今の状況

最近の養鶏事情

Q & A




(1) 自己紹介

私の父親、斎藤虎松は明治33年(1900年)横浜の在の農家の生まれですが、神田のある金物屋に丁稚奉公にでまして10年ぐらいで番頭になりやがて独立するまでになっていましたから順調にいけば私も金物屋の跡を継ぐ運命にありました。 ところが関東大震災でお店も被災し父はその復興に飛び回って無理をしたのがたたってか結核になりまして田舎に帰って治療せざるを得なくなりました。

当時結核の治療というのは栄養をつけて寝ているしかなかったわけで、父はその治療用の 卵を手に入れるために2〜3羽の鶏を飼い始めました。
これが私どもが養鶏にたずさわる ようになったきっかけですが日本の養鶏家に同じような動機から鶏を飼い出した人が結構おられます。 こんなわけで私も有無をいわさず鶏屋を継がされ父とは40年ほど一緒に仕事をしました。 この40年間のことを今日お話したいと思います。

(2) 私が養鶏にたずさわった40年前と今の状況

40年前〈1960年〉私が大学の生協におりましたときに卵はたしか一個10円で牛乳の一合瓶がやはり10円でした。ちなみに当時の大学卒のサラリーマンの初任給は1万円ぐらいだったと思います。現在、駅の売店で牛乳を飲みますと110円です。学卒の初任給は20万円ですからこの40年間に11〜20倍になっています。 それに比べて卵の値段は15円程度で特売用の目玉商品では10円またはそれ以下という 恐ろしい値段が現れて40年で殆ど値上がりしておりません。卵が物価の優等生と言われる所以です。

なぜこんなことになっているのかは後でご説明しますが政府の援助も得られず日本の養鶏家が必死になって合理化に取り組んできた結果なのです。 いまお店に行きますといろんな卵を売っています。殆どは標準品の一個15円ぐらいのものですが、ほかにいろんなわけあり卵があって20円のもの、30円のもの、なかには ヨード卵のように50円もするものがあります。

これは養鶏家が少しでも付加価値をあげようとして餌に特殊な工夫をしたり飼い方を変えて工夫した結果ですが、本当にそれだけの値打ちがあるかどうかは消費者の主観の問題でなんとも申し上げれません。 たとえば赤い卵はなんとなく栄養価が高いように思われていて値段も高いのですがこれは お店と養鶏家が仕組んだ結果で赤いからといって栄養価が高いわけではないのです。 特売日の安い卵でも有精卵であれば21日間暖めれば立派なひよこになるだけの栄養は入っているのです。

私どもにとって有難いことに日本人は世界でもっとも卵の好きな国民です。赤ちゃんからお年よりまで含めて一年間に336個食べている計算になります。それと生卵を食べる習慣があるのは日本人だけです。アメリカは235個しか食べていません。ヨーロッパは200個ちょっとといった具合です。 40年前、卵はまだ貴重品でしたから日本では年間100個も食べられませんでした。これが高度成長の波に乗ってどんどん消費が増え平均寿命も伸びてきました。卵を食べると長生きするとは断言できませんが卵の消費の伸びと平均寿命の伸びはグラフにしてみますと完全な相関関係があります。

卵をたべるとコレステロールがあがるという話があります。一時これが誤って理解されまして学者、料理研究家のなかにも卵の食べ過ぎは良くないという人がいてそれを信じている人もあります。
しかしこれは誤りで最近の研究ではコレステロールはあっても良性のもので卵をたくさんたべてもなんら害がないということが分かってきました。

この背景にはアメリカのコーンフレークメーカの陰謀が見え隠れします。アメリカンドリームの1960年代、アメリカ人の標準的な朝食はトーストと卵2個のハムエッグスでした。もともとアメリカ人は心臓病に極端に恐れています。当時アメリカ人は日本人よりたくさん卵を食べていました。卵を食べ過ぎるとコレステロールがあがって心臓によくないということをコーンフレークのメーカー巧妙に宣伝したのです。

世界一卵を食べている日本人が世界一長生きなのはおかしいと思われませんか? 最近になってようやくアメリカの医学会も卵とコレステロールは関係なく心臓病の原因 にもならないことを認めるようになりました。しかし今ごろこんなことをいわれても時 すでに遅しです。

1970年ごろに日本でへ所得倍増計画の時代で生活水準もあがり年間200個の卵がたべれるようになりましたが中国の沿岸部がいま、その水準にあります。今後内陸部も含めて更に消費が増えてきますと鶏に食べさす飼料が不足して大量の穀物を輸入しなければならなくなることは目に見えています。現在、穀物で輸出余力があるのはアメリカ、ブラジル、アルゼンチン、オーストラリヤぐらいですが今後穀物市場は急激に変化するでしょう。

次に卵の値段についてですが一般に日本の消費者物価は世界でも高いといわれています。 牛肉、牛乳などはアメリカは日本の半分の水準です。日本の価格がそう高くないといわれているのに鶏肉、鶏卵があります。ロンドン,パリなどの主要都市で日本より高いのです。 日本の卵はお値打ちだから賢明な日本の主婦は安心して卵を買っているのです。 日本は競争が激しくスーパーなどの利幅は薄いので生産者と結託して特殊卵を高く売るという傾向がみられます。
最近の食料品は輸入品の割合が増加して牛肉では3割以上、豚肉で5割、野菜でもどんどん輸入品の比率が増加していますが卵は95%が国産で頑張っています。

(3) 最近の養鶏事情

それでは国産の卵がなぜこんなに頑張っているかというと日本人が新鮮な卵にこだわるということもありますが生産者が懸命な合理化努力を続けてきたということにつきると思います。養鶏業は農林行政のなかでも忘れられた存在で、そのぶん養鶏家は必死に新しい技術の導入に努めてきました。

最近の鶏舎は窓のない大きなビルのようなもので完全空調、照明管理がなされておりオールイン・オールアウトといって一度の六万羽の雛をいれ705日目(農場によって若干違いますが)にまだ卵が生める鶏でも一度にだして処理します。鶏舎のなかは6階建てのマンションのようになっていて給餌、給水、採卵、鶏糞処理も完全にオートメーション化されています。

愛鶏園では飼料も独自に設計したものを業者に作らせており大半は輸入の穀物、魚粉などで国産で間に合うのは石灰石の粉ぐらいです。 養鶏は今お話したように立体的に僅かな面積でたくさんの鶏が飼えることも日本の卵が頑張っている理由の一つだろうと思います。しかし飼料の面からみますと大部分は輸入に頼らざるを得ない状況です。 鶏のほかに牛、豚も殆ど輸入飼料でまかなわれていますが現在日本で消費されている肉に使われる飼料を自給しようとすると日本の2.5倍の面積の畑がいるそうで愕然とする思いです。

(4) Q & A

Q:赤い卵は栄養がありそうに見えますがほんとでしょうか
> A: そのように信じておられる方もいますが栄養的に差はありません。日本人とドイツ人は非常に合理的な物の買い方をしますが栄養がありそうだから買うというのは一部の人だと思います。地鶏の生んだ有精卵は栄養があるともいわれますがこれは一種の信仰   のようなものだと思います。
Q:ちゃぼの卵はなんで市場にないのでしょうか

A:趣味で飼っているちゃぼの好きなひとはおられますが飼育の効率と市場の一般性という点から普及していないようです。烏骨鶏の卵は一個500円でも市場性があります。むしろうずらの卵のほうが市場性があります。
Q:卵の賞味期間はどう考えればいいですか
A:本来卵は38度で21日温めてひよこになるまで腐らない仕組みにはなっています。   夏と冬では勿論異なりますが普通2週間を賞味期限と考えてください。



Q:卵を産まなくなった鶏の処理は毎日やるんですか? またその行方は?

A:養鶏場によって異なりますが私どもの場合は705日で設定しています。年に10回ほど一回に6万羽の雛をいれ、途中で10%ほど死にますがまだ卵を産める鶏でも効率の面から705日目に一度に鶏舎からだして処理します。

親鳥はむかしは有難く食べたものですがブロイラーが普及して硬いとか臭いといわれて家庭では食べなくなりました。 いまでは業務用のチキンハンバーグなどに加工されていますが親鳥の値段はタダ同然です。  余談ですが鶏糞も昔はお金になりましたが今は乾燥させて農家にタダ同然でさしあげているのが現状です。

Q:生まれてくるひよこは雄、雌半々でしょうか
A:雄のほうが僅かですが多く生まれます。これは雄が弱いからで自然の摂理だと思います。
Q:雄雌の鑑別はどうなっていますか
A:昔は日本人が開発した肛門識別法が世界をせっけんして鑑別士はひっぱりだこでしたがその後、羽の形で識別する方法が開発され、これは素人でもできるのでこの方法に代わりつつあります。
Q:昭和の初め頃、南京卵というのを聞いたことがあるのですが本当に南京から来ていたのですか
A:本当です。当時東京、大阪などの大都市では市場の半分以上が中国卵で席捲されていました。当時の輸送期間を考えると当然鮮度に問題があり卵問屋はその選別に大変でしたが、それでも大儲けしたのです。日本の農林省も畜産振興の立場から国産を奨励し やがて輸入卵も駆逐されたのです。

★愛鶏園のHP http://www.ikn.co.jp/

 
(完)
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  文 責   得猪 外明
写真撮影 橋本 曜 
 HTML制作 上野 治子