神田雑学大学 2002年9月13日 講演と出版記念パーティ


備えあれば・・・の老犬生活
講師 吉田 悦子

目            次
1 はじめに
2 高齢犬のお世話がわかる実例集
3 元気な15歳 それは特別なことではありません
4 日常生活で気づく老化現象
5 散歩の足どりがぎこちなくなる
6 ある日、寝返りが打てなくなったら
7 寒さ暑さに弱くなります
8 ストレスにも弱くなります
9 老犬には老犬の快適な生活「老犬生活」があります
10 パーティ会場


講演「備えあれば…の老犬生活」   ノンフィクション・ライター 吉田悦子

 はじめに
神田雑学大学の三上卓治理事長からご紹介いただいた会員の和田節子さん(ハンドルネーム・さといもさん)のご尽力を得て、2002年8月、ついにホームページ「e‐ファクトリー」http://homepage3.nifty.com/e-factory/ 開設に漕ぎ着けました。さっそく、そのホームページをご覧いただきながらお話を進めていきたいと思います。

「e‐ファクトリー」は、インフォメーション、ドッグ・マイ・ラブ、俳句、エッセイ、コラム、ウイズ・ドッグ、ブック、プロフィール、メッセージ、リンク、BBS(掲示板)という、大きく11のコンテンツに分かれています。各コンテンツをひと通りご覧いただいたら、もう1度「ウイズ・ドッグ」を開いてみましょう。

「ウイズ・ドッグ」をクリックすると、愛犬写真館になっています。こちらがわたくしの愛犬ジョニーです。やんちゃ盛りのジョニー若犬時代、性格的におっとりしてきた中年期、そして穏やかな老年期過ごす現在のジョニーの姿がご覧いただけます。ジョニーの3枚の写真を見て、「犬も人間と同じように、歳を重ねるごとに円熟味というか、顔立ちや立ち居振る舞いに風格が出てくるのですね」とおっしゃってくださった方もおります。

2 高齢犬のお世話がわかる実例集
わたくしは、このほど、『備えあれば…の老犬生活』(ネコ・パブリッシング)という「老犬」についての本を出しました。人間と同じように、犬が歳を重ねて高齢になっても、生活の質(クオリティ・オブ・ライフ)を保って、愉しく快適に暮らすためのケーススタディをまとめました。

わたくしは、これまで、人と犬との関係性に根ざした取材レポートを月刊「愛犬チャンプ」をはじめとするさまざまな雑誌・新聞に発表してきましたが、今回、7歳からの高齢犬の「衣・食・住のお世話がわかる実例集」の執筆に当たって、犬の「老い」とその先にある「死」ということに向き合うことになりました。

それはある意味、愛犬の命を預かる自分自身の生と死について考えることでもあって……というと、大げさと思われるかもしれませんが、本書は、ある意味で、これまでの取材の集大成といえるかもしれない! と思っています。それだけに、今、老犬と暮らしている方だけではなく、まだ若い犬の飼い主さん、これから犬と暮らそうとしている飼い主さんにもぜひ参考にしていただきたい、と思っています。

3 元気な15歳 それは特別なことではありません

私が犬の老いということを考えるようになったのは、やはり身近にジョニーという犬がいたからにほかなりません。ジョニーは15歳になる、いわゆるミックス犬です。毛の色調からするとビーグルの血が入っているようですが、胸がせり出し、腰が引き締まったスリムなからだつき、脚が長いところは、ポインターも感じさせます。若い頃は、筋骨たくましく、胴や太腿の筋肉がパンパンに張っていました。少々のことではびくともしない、健康でたくましいからだに恵まれていました。

15歳は、犬と人間の年齢換算表によると、76歳になりますから、立派なシニアということになるでしょう。現在、ニッポンで飼育されている犬の総数は、約1000万頭、このうち7歳を超える(人間でいう40代半ば過ぎ)犬は42パーセントにも上ります。つまり、3年後には、ほぼ半数の犬が、10歳を超えて人間でいう「初老」に当たることになります。

人間と同じように犬も寿命が延びて「超高齢化社会」を迎えた現在、高齢の犬に対する介護の必要性など、社会的認識は深まりつつあります。7歳で老年期に入る犬の寿命を14歳とすると、ナント「犬生」の半分はシニアの時代ということになります。

15歳を超えても、ジョニーのように健康に問題のない、元気な老犬は珍しくありません。しかし、家族同様の愛犬の老化に無関心で、何の知識もないままでいると、いざという時に大きな不安を持つことになります。早い段階で「老犬生活」のための準備をすることが必要になっているのです。

4 日常生活で気づく老化現象
特に病気になることもなく、元気いっぱいに育ったジョニーでも、ある程度の年齢になると、さまざまな老化現象や体力の衰えが目に付くようになりました。若い頃は、自信たっぷりで精悍な顔つきでしたが、いつの間にか顔が白くなって、なんとなくおっとりとやさしい顔立ちになりました。

ジョニーのように、なんとなく「おじいちゃんになってきたなぁ〜」ということがわかればよいのですが、小型犬の場合、見た目からして、いつまでも愛くるしい「童顔」で、性格も無邪気なままなので、老犬になったという現実をなかなか認識できない飼い主さんが多いようです。

ジョニーの目や耳が悪くなってきたと気づいたのは、ここ1、2年のことです。それまでは、「ジョニー!」と呼ぶと喜んですぐ駆け寄ってきたのに、声を掛けても反応がありません。玄関に人が来たのを誰よりも先に察知して飛んで行ったものなのに、人に促されないと気づかないようになりました。昔は、雷や花火の音が大嫌いで、怖くてヒーヒー鳴いていましたが、今は耳が聞こえないため、全く動じません。寝ているそばでガーガー掃除機を掛けてもスヤスヤ寝入っています

5 散歩の足どりがぎこちなくなる
ジョニーの老化を思い知らされたのは、お散歩の時です。お散歩が大好きなジョニーは、お散歩に行くことを察知すると「うれしいよぉ〜!」と雄叫びのような声を張り上げます。お散歩に行く直前には、喜びのあまり、私の目の高さまで2度も3度も垂直ジャンプをしていました。しかし、ここ数年は、1度くらいしか跳ばないというか、ジャンプできなくなりました。

以前は、1時間歩いてもへっちゃらで、いつもタッタッタッとリズミカルな速足でした。いつの頃からか、歩き方が妙にぎこちなく、足どりが重くなりました。ジョニーが大好きなお散歩だからと、できるだけ長い時間歩こうと意気込んでいたところ、気が付くとジョニーがわたくしの背後をヨタヨタ歩いていることがありました。何か気乗りがしないのかなと思っていましたが、どうやら足が弱って、疲れやすくなっているようなのです。ジョニーも足腰が弱くなってもおかしくない歳になったのだなぁ、と実感しました。

ジョニーの場合、足腰が多少弱ってきたといってもお散歩自体が嫌いになったわけではありません。適度なお散歩は、気持ちをリフレッシュさせ、ストレスを発散させ、肥満防止などの健康維持にも役立ちます。ジョニーにとってお散歩は、外界のさまざまな情報を収集する貴重な時間です。長時間行う必要はありませんが、体調を見ながら毎日、お散歩は続けています。

もともとジョニーは、マメなタイプで、いつもチョコチョコ家の中を歩き回っていましたが、今は「動」というよりは「静」で、日中も横になって眠っていることが多くなりました。いつも「遊ぼう、遊ぼう」と私の周りにうるさいくらいまとわりついていたのが、今では懐かしくもあります。

6 ある日、寝返りが打てなくなったら
ジョニーは、疲れて横になろうとするとき、足腰の筋力が弱ってきているためか、ゆっくりからだを倒すことができずに、時々「バタン!」と大きな音を立てて横になることがあります。

寝ていても、ジョニーは同じ体勢で寝ていることはなく、30分に1度の割合で、自分でからだの向きを入れ換えています。しかし、老化が進んでからだが不自由になり、寝返りが打てなくなった犬は、1度寝入ると何時間も同じ姿勢で眠ることになってしまいます。そのままにしていると、皮膚や骨の突き出た部分が圧迫され、ひどい場合は壊死を起こすこともあります。

長いことからだの一部分が、自分の体重で圧迫され続けると、皮膚が赤くただれてしまいます。これは床ずれといわれるものです。1度できるとなかなか治りませんから、予防を心がけ、できてしまった場合は、すみやかに獣医師に相談しましょう。

ジョニーのように寝ていることが多くなった老犬にとって、快適に眠ることができる専用のベッドは大切です。ベッドが堅いと、関節に負担をかけるので、ふかふかして柔らかいクッションなど、弾力のあるものの上で寝かせるようにしました。

最近、わたくしは、スキンシップを兼ねて、時間が許す限りジョニーのマッサージをしています。犬も人間と同じように、肩が凝ったり、腰が痛くなったり、脚がだるくなったりします。首、背中、胸、脚、大腿部など全身を丹念にもみほぐします。足裏もやさしくもみます。ジョニーもキモチがいいのか、横になってじっとしています。時々、軽く耳や頭や尻尾を引っ張って刺激を与えます。

こうして、皮膚に適度な刺激を与えることは血行を良くするばかりか、精神の安定、脳神経にも良い効果があるような気がします。心身を活性化させて、犬にもある痴呆症の予防にもつながるのではないかと思います

7 寒さ暑さに弱くなります
犬は、一般に寒さに強いといわれますが、老犬になると、抵抗力や生理機能が低下してくるので、環境や気温の変化などの影響を受けやすくなります。当然、寒さにも弱くなります。特に冬場は、冷たい外気の影響を受けて体温が低くなりやすいため、注意が必要です。冬期のジョニーの散歩は、日中、日の差した暖かい日を選んで行くようにしています。

眠るときは、深夜になって体温が下がらないようにベッドに毛布を敷きました。老犬になると、年ごとの気温の変化に敏感になり、1年前なら平気だった冬の寒さが、今年はひどくからだにこたえて眠れないということもあります。ジョニーが寒がって眠れないようなことはないか、室温やベッドの布団の状態に十分配慮をするようにしました。

ジョニーは、14歳の冬に初めて、お手製の服を着て散歩に出ました。短毛のため、歳とともに寒さが身にしみる様子なので、おしゃれというより体温調節や防寒のためです。老犬といっても胸がせり出した筋肉質の体形なので、市販のウェアは肩がきつくて入りませんでした。ジョニーは動きが割と活発なので、動きやすいようにデザインを工夫し、毎日、洗濯ができるよう、素材や色を変えたものを何種類か用意しました。ジョニーもは洋服を気に入ってくれたようで、散歩のときばかりでなく、冷えるときは、部屋着としても着ています。老犬に冷えは禁物、とにかくからだを冷やさないようにすることが大切です。

また、暑さ対策も重要です。特に梅雨時から夏にかけての暑さと湿気には要注意。真夏の炎天下、愛犬を屋外に連れ出すことは控えましょう。熱したアスファルトを歩かせることは、地熱を直接感じる犬にとっては大きな負担となります。とくに、都市部の猛暑は老犬にこたえます。冷房も必要になるでしょう。昔は、「犬に冷房なんて」といわれたことが、今では老犬にとって、当たりまえのケアとなり、決して過保護ではないのです

8  ストレスにも弱くなります
老犬になるとストレスにも弱くなり、今まで普通にできていたことが難しくなります。例えば、独りでのお留守番、動物病院やドッグホテルなどに預けられるなど、環境の変化に耐えられなくなります。治療のための入院や、飼い主さんの旅行のために一時的に預けられたとしても、「迎えに来てくれるのかな?!」と強い不安を抱いたり、ショックを受けることが少なくありません。
 
ジョニーは、もともと割と独立心が旺盛なマイペース派でしたが、歳をとるににつれて、気も弱くなって、漠然とした不安を感じるのでしょうか? ここ数年、独りになりたくない、飼い主に守られたいという気持ちが強くなった気がします。いつも意識のどこかで家人の動向を気にして、甘える傾向が強くなりました。

わたくしの姿がちょっと見えなくなっただけで、あわててキッチンや洗面所やトイレの中まで探し回ります。わたくしが2階の部屋から戻ると「な〜んだ、ここにいたの!」と目をクリクリさせます。ジョニーが寝付いたスキに、静かに移動しようとすると、しっかり気付かれて後を付いてきたりします。

家人が外出すると、恋しがるようにヒ〜ヒ〜鳴くこともありました。これまで、鳴くようなことはなかったのに…。お留守番には慣れていると思っていましたが、置いてかれてしまうと思うのか、長時間のお留守番は心身ともに苦痛になっているのかもしれないと思いました。このように、老犬の健康面だけではなく、メンタル面にも配慮することが大切です

9 老犬には老犬の快適な生活「老犬生活」があります
元気だったジョニーも、人間の4倍といわれる猛スピードで確実に老いているのです。人間と同様に、犬も歳を重ねて体力が衰えることは自然のことです。老化は病気ではありません。高齢になり、からだが不自由になることは、悪いことでも、ミジメなことでもありません。もちろん、「うちのコだけ」の特別なことでもありません。

これまで、ジョニーを通して、日常の中でのさまざまな老化のサインをご紹介しました。食欲、おしっこやうんちの回数とその状態、歩き方、鳴き方、皮膚の状態など、さまざまな変化に気づくことができるのは飼い主さんしかいません。「歳だからしようがない」と放っておくのではなく、老化のサインに早めに気づいて、適切な対応をすることで改善されることはたくさんあります。それは、愛犬の病気を予防し、健康で長生きさせることにもつながります。

自分のことを常に気に掛けてくれる人がいる、飼い主さんに守られているという安心感が、愛犬のストレスをなくすとともに心身を安定した状態に保ち、健やかな「老犬生活」を過ごすことになります。飼い主さんも、愛犬の老化の現実をしっかり受け止めることができれば、愛犬の老化を前にして、「どうしたらいいのかわからない!」と悲観的になったり、悩んだりすることはなくなることでしょう。人間が、高齢になった愛犬のペースに合わせることが必要なのです。

人間より寿命の短い犬の一生は、まさに人間の縮図です。わたくしは、ジョニーに教えられることがたくさんあります。犬が犬らしく最期まで、その生をまっとうすることを考えること、それは、わたくしたち人間の福祉を考えることにもつながります。動物にやさしい社会は、弱いものにやさしい社会、高齢者を大切にする社会、いたわりとやさしさのある、あたたかい社会です。

老犬になったら、老犬なりの楽しく快適な生活「老犬生活」があるということ。そのことをぜひ頭に入れておいてください!
                講演 終わり

10  出版記念パーティ会場
9月13日(金)19:00過ぎから、ノンフィクション・ライター吉田悦子さんの『備えあれば・・・の老犬生活』の出版記念パーティが催されました。同タイトルの吉田悦子さんの講座終了後、 「祝 吉田悦子さんの出版記念会」と記された特製大看板(手塚印刷樺供)の前で、一同の記念撮影が行われました。


 続いて、藤田三保子さん(俳優・画家)の音頭でみなさんが祝杯をあげ、刊行をお祝い
しました。 参加者56名、ちよだボタンティアセンター3階のA、B、C会議室をぶち抜きに使っての大盛況でした。

 ご祝辞は、俳句「炎環」主宰の石寒太さんから、俳句作家・吉田悦花さん(吉田悦子さんの俳号)のすぐれた活躍が披露されたあと、「炎環」創立15周年を記念して行われた石寒太さんと杉本苑子先生(作家)の対談に、「炎環」15周年記念号編集長として同席した悦花さんのエピソードが紹介されました。犬好きの杉本苑子先生は、悦花さんがたまたま持っていた『備えあれば・・・の老犬生活』を譲り受けると一 気に読んだそうです。石寒太さんあてのFAXで、「吉田さんに紹介してもらって、私も死ぬまでに1度、ぜひ甲斐犬を飼ってみたい」とあったそうです。さらに、愛恵福祉支援財団理事長で、今年86歳になられる三吉保さんから、いたってお元気なご挨拶をいただきました。

 パーティは華やかに進行しました。お酒、ウイスキー、ビールとワインは飲み放題。テーブルのご馳走は、マダム石島鰍フケータリングサービスでしつらえましたが、この会社は、従業員は全員女性で、定年90歳。お料理は当然、旬の素材を活かした「おばあちゃんの味」が主流ですから、参加者全員に好評でした。なかでも出色は「桶入り手作り豆腐」で、豆腐はこんなに美味しい食べも のだったのかというみなさんの感想でした。

宴たけなわのころ、さといもさんこと和田節子さんから吉田悦子さんにお祝いの花束が贈呈されました。「備えあれば・・・の老犬生活」の講座は、パソコンプロジェクターで投影した拡大画面で、吉田悦子さんのホームページ「eファクトリー」の中の「Dog My Love」や「with Dog」を紹介する形で行われましたが、この制作に全面的に協力されたのが、和田節子さんでした。

自分の娘のように思っている吉田悦子さんに花束を贈った和田節子さんは「吉田さん、おめでとうございます」といったあと、感極まって「・・・・・」絶句したのでした。
つづく吉田悦子さんのお礼の言葉は「みなさまの温かいまなざしに支えられ、 これまでに4冊の著書を上梓することができました。今後ますます研鑚を積んで、新たなる前進を続けてまいります。末永いご支援をお願いいたします」という力強いものでした。

中締めでは、神田雑学大学三上卓治理事長が自宅三鷹市井の頭の近くに住む吉村昭先生(作家)の吉田悦子評を交えながらスピーチしました。デビュー作『日本犬・血統を守るたたかい』の刊行のあと、吉田悦子さんを吉村さんに紹介して1週間後、同じ寿司屋での会話。

「吉田さんって、なかなかいいですね」と吉村さん。これに対して三上理事長が、 「ちょっといい女ですね」と答えると、吉村さんは「三上さん。ちょっとといってはいけません。吉田さんは、うんといい女です!」と、血相を変えてたしなめられたとか。

と、まあこんな風にパーティはなごやかに終わり、あとは有志で2次会会場の居酒屋へと雪崩れ込んだのでした。小雨が降ってきましたが、爽やかな秋の、実にいい夜でした。
                     終わり


本文文責 吉田悦子
会場文責 三上 卓治
写真    橋本  曜
HTML編集 山本 啓一