1122日神田雑学大学講座

「不登校のカウンセリング」

講師  坂田雅彦

坂田雅彦さんの講座は、なぜわが国に「不登校」が多いのかを分析し、その対策を提案します。「不登校」は日本特有の現象なのか。子どもがそうなった時の親は、どう対処すれば良いか。親と子どもへの適切なアドバスで、「不登校」が人生を深く考えるチャンスに好転していきます。

目次

講師プロフィル
プロローグ
日本の不登校・引きこもりの現況
グラッサー博士の5つの欲求
時代の変化・価値観の変化
日本の家庭内の変化
「人間関係」・「人生の選択」
言葉の力
親が変われば子供が変わる
才能の方程式
なってよかった不登校



★講師プロフィール

立川駅南口に今年ルームを開設。主に不登校・家庭問題・健康問題・多重債務者の支援活動中。

出身:早稲田大学教育学部:理学科生物学科:遺伝学講座(サルモネラ菌の行動遺伝学)

医薬品業界に20年以上勤務の後、カウンセラーとして独立。

プロローグ(今日の講演のテーマとヒント)

文部科学省発表の数字では年間に30日以上学校を欠席したいわゆる不登校の生徒数は13万4000人(公立小中学校)平成13年度でいるそうです。これに、私立、高校、大学などを加えると全体では100万人を超えていると想像できます。不登校・引きこもりという言葉は日本だけの用語で諸外国にはこれに相当する語彙はありません。 また、今日の日本の社会現象として失業率5.4%の内の約半分が34歳までの若い世代といわれ、フリーターの増加も問題視されています。多くの若者が今、何をして良いかわからない、働く気がない、就職後に辞めている、と言った現実を見ると何か日本特有の大きな問題が横たわっている気がします。 本日は寒い中をお集まりいただき有難うございます。
次週は父が映画に関する講演の予定で、2週に渡り親子でずうずうしく、講演させていただきます。
どの時代にも、親子にはそれぞれの価値観があって、お互いが認めあえれば問題は起きないのですが、これが理解しあえなくなると問題が起こります。

ヒント1;親子の価値観の違い(価値観の変化)

私が大学で研究をしていた1970年代後半から2000年迄の20年あまりの間に科学はいまだかつて人類が経験しなかった速度で急速に進歩しました。

ヒント2;1980年からたった20年の間に科学が驚くべきスピードで進歩している。

大学時代の研究テーマにしたサルモネラ菌。遺伝学的にも、形態学的にも微小でシンプルな構造ですがちゃんと遺伝子の中に問題解決能力を備えています。そこから数億年かけて進化した人間には生まれながらにしてものすごい能力が備わっているといえます。

ヒント3;生物はすべて、すばらしい能力を生まれながらにして持っている。"Being"

そして、人間は生まれながらに、あらゆる問題を解決する能力を備えている。

以上の切り口から不登校について考えてみたいと思います。

1、日本の不登校・引きこもりの現況

文部科学省発表の数字では年間に30日以上学校を欠席したいわゆる不登校の生徒数は13万4000人(公立小中学校)平成13年度でいるそうです。これに、私立、高校、大学などを加えると全体では100万人を超えていると想像できます。不登校・引きこもりという言葉は日本だけの用語で諸外国にはこれに相当する語彙はありません。 また、今日の日本の社会現象として失業率5.4%の内の約半分が34歳までの若い世代といわれ、フリーターの増加も問題視されています。多くの若者が今、何をして良いかわからない、働く気がない、就職後に辞めている、と言った現実を見ると何か日本特有の大きな問題が横たわっている気がします。

2、グラッサー博士の5つの欲求

アメリカの精神医学者で現実療法などで有名なW.グラッサー博士は人間の根本的な欲求を以下の5つに分類されています。

    1、 生存       (生理的欲求)
    2、 愛・所属     (心理的欲求)
    3、 力、能力        ↓
    4、 自由
    5、 楽しみ
これらのそれぞれの強さは遺伝に組み込まれた個人の個性であり、特に「生存の欲求」は生きていくためには必須の欲求で、食欲や性欲など、人間の根本的な生理的欲求として存在しています。生理的欲求が満たされないと身体が反応します。これまでの人類の築いてきた文明発展の歴史はまさにこの「生存の欲求」を如何にして満たすかの歴史であったといえます。それ以外の4つの欲求は心理的欲求として分類されます。同じように心理的欲求が満たされないとき人は問題行動を起こしてしまうと言われています。 先進国では、今や飢えを感じる事はほとんどなく、豊かさの頂点に達したといえます。言わば、「生存」の欲求はほぼ満足された時代になり、頭をもたげてきたのが心理的欲求です。特に,自分の能力を発揮したいと感じる「力の欲求」、束縛されたくないと感じる「自由の欲求」が人々の価値観の中に大きく入り込んできました。そして、コントロールされることが辛いことであり、特に理不尽なコントロールが人間関係を根底から悪くしてしまうことが社会の中で表面化してきました。 この、時代の価値観の大きな変化が、親子の間でお互いの価値観を理解し難くさせる要因になってきています。それが具体化してしまうと、親子の人間関係が壊れはじめ、いろいろな形で子どもが問題行動を起こす原因に繋がっていくものと考えられます。

3、時代の変化・価値観の変化

1985年からの5〜10年時代の変化とともに世界的に大きな価値観の変化があったといわれています。単純に言えば、1985年までの人類の長い歴史は「豊かになるため」の価値観で支えられていました。しかし、1985年に特に先進国においては、豊かさは頂点に達し、それ以降は「豊かになった後」の価値観が生まれてきました。 実際にこの年代の世界の歴史的な変化を見ると、その根底に大きな価値観の変化があったことが考察されます。 象徴的な事件は、1989年に起きたベルリンの壁の崩壊であり、翌年のドイツの統一に見ることができます。様々な要因があったことも事実ですが、壁を壊した民衆の心理は、自由を求めるとともに、自分の能力を最大限に発揮したいと願う欲求によるものと考えられます。 以前の、民衆の蜂起の多くが圧政による貧困からの脱出が原因であったのに比べて、大きく異なるのは、権力側にもそれを阻止する理由が見つけ難かったことがあげられます。 まさしく、「生存の欲求」主体の革命から、「力の欲求」と「自由の欲求」と「楽しみの欲求」主体の改革への変化です。 その頃、各国で起きた自由化、解放、独立も根底に同様な価値観の変化があったものと考察されます。同じ頃、アメリカでも教育改革が行なわれ、青少年がボランティア等を通して社会参加する機会を多く得ることができるようになりました。 その時、変われなかった国が日本です。ちょうどバブル景気に国民が酔いしれていて、改革の必要を感じることなく過ごしていました。しかしバブルがはじけた時、日本の家庭の中は以前とは大きく変わってしまっていました。

4、日本の家庭内の変化

1978年に週休2日の定着と自動振込みの開始で父親の権威が急落してしまい,同時に女性(母)がパワーアップしました。そして何を話せば良いかが判らない父親が増えて、家庭内での存在感が希薄になってしまいました。 一方、テレビゲーム、パソコン、ビデオのもたらした最大の問題は 家庭の中から会話を奪ってしまったことです。 そして、パソコンの普及はいろいろな情報を瞬時に得ることができる便利さをもたらしましたが、いわゆる詰め込み型の学校教育の必要性を否定することにもつながりました。かつては、暗記を必要としていた学問は、今、パソコンを操れば即座に回答を引き出すことができます。 この先、学校に、そして教育に何を求めるべきかを真剣に考えるべき時代が訪れたことを感じざるを得ません。 こういう、環境の中で子どもたちは、学校に行く意義を考え始めています。特に、感性の優れた子どもたちが新しい価値観に気付き出しています。そして、人生そのものの目的についても考え、迷い始めています。迷いに対する答えが見つからないと、自信を失い、立ち止まってしまうこともあります。これは子供たちだけではなく、親の世代にも見受けられるようになりました。 日本は、無宗教の国です。仏教などの宗教はほとんど儀式として存在しているに過ぎません。ただ、過去からの価値観の中に儒教的な精神が存在しています。儒教の精神は、生まれた時は能力がなく成長の課程で躾られ、教育を受け、自己を切磋琢磨することで人間として形成されると教えています。この考え方は「豊かになるため」には非常に都合の良い考え方で、学問を奨励し、限りなき成長を促すためには不可欠のものです。 しかし「豊かになったあと」の価値観においては儒教の考え方はむしろ邪魔な存在になってしまいます。特に、将来の選択に迷い、学校に価値を見出せなくなってしまった子どもたちにとっては、この価値観を押し付けられることはかえって自信を失わせてしまうことになります。 今,求められる価値観は、Being、すなわち人間は生まれながらに素晴らしいと言う価値観ではないでしょうか。この考え方はキリスト教的な感覚を持った国では、比較的スムーズに受け入れられます。しかし、日本ではなかなかこの考え方は受け入れ難い感覚です。 

5、「人間関係」・「人生の選択」

今の子供たち、そして親も含めての悩みはすべてここから生じています。人生の目的がはっきりと定まり、人間関係が円滑である時、人は幸福を感じることができます。 しかし、そのいずれか、もしくは両方ともに問題が起きると、人は悩み、自信を無くし、場合によっては立ち止まってしまいます。 日本の子供ほど物質的に恵まれた子供は世界にはいません。でも今、日本の子供ほど夢のない子供も世界にはいません。不登校に陥ったの子供たちは今、何かを求めています。 これだけ多くの不登校の子供、そして目的を持てない若者を生み出してしまった日本。今、何か変わらなければならない時代を迎えているのかもしれません。 しかし、現実に不登校になってしまった子供さんをどうやって、学校,社会に戻すか。まずそれが先決です。(後半では、その方法について考えてみたいと思います。)

(休憩) 

6、言葉の力

不登校に子供がなってしまった時。「そっとしておく方が良い。」とよく言われます。確かに不必要なコントロールを避ける意味では正しいことかもしれません。でも、そっとしておくだけでは根本的な解決にならないケースが多いことも事実です。 では、どうしたら良いか。 まず大切なことは、「聴くこと」だと思います。聴くことは、そっとしておくこととは違います。 核家族化、家庭内での会話の喪失、その他いろいろの原因で今聴いてくれる人がいなくなってしまっています。人は誰でも自分の気持ちを聴いてくれる人を求めています。だから、どんなに会話が少なくても、じっと話を聴いてあげることが必要なのです。 しかし、一旦人間関係が崩れてしまうとなかなか会話のチャンスがありません。でも、その少ないチャンスにきちんと話を聴く技術。これは、カウンセリングの技術です。カウンセリングには傾聴受容という技術があり、これがカウンセリングの基本でもあります。できれば、親が子供の話に口を挟まずじっくりと聴いて、子供の気持ちを理解する姿勢を持つことが大切だと思います。そのために、私たちのカウンセリングではまず親に傾聴受容の技術を理解していただいています。

7,親が変われば子供が変わる

これだけでは、まだ子供はなかなか親に話しかけてはくれません。そこで、次に必要になるのは親が子供に対する見方を変えることです。人間関係が壊れると人はどうしても相手の悪い面ばかりを見てしまいます。良い関係の時は、良い点として捉えらえていたことも、そうなると悪い点に見えてきてしまいます。そしてそのことがさらに関係を悪化させてしまいます。 そこで、私たちは子供の良い点を親に探してもらいそれを毎日書き続けることをお願いします。そして、さらに子供の好きなことも見つけてもらいます。それを続けることで、子供が生まれながらに持っている素晴らしいものを再発見していただきます。実は、関係の良い時はそれが見えていたはずのものです。どんなに問題があっても、子供の素質そのものは変わることがありません。 さらに、その良い点と好きなものの中から子供が本当に望むものを発見してもらいます。 親がそれを認識できるようになると、子供に対する接し方が少しずつ変わって行きます。親も自分自身の本音の部分が見えてくると元気を取り戻します。特に、お父さんが元気を取り戻せるようなプランを提供することもあります。 そうなると子供は親の変化を敏感に察し、考え始めます。親はそれまで子供に対し「腫れ物に触るような態度」をとってきたことを改め、自然体で接することができるようになります。そして、親が子供の琴線に触れることができると、自然と子供がパワーを感じ始め、やがて親子の会話が復活します。 時間がかかる場合もありますが、親が真剣であればあるほど、短期間に実現することが多いように思えます。かなりこじれたケースでも、親が子供の思いやりを感じ、見方を変えていくことで子供にもそれが伝わっていきます。そしてそうなるようにカウンセラーが支援していきます。

8,才能の方程式

少しでも、子供がパワーを回復してきたら今度は子供に対して同じやり方でカウンセリングを開始します。子供の、本当に良いところ、本当に好きなこと、そしてその中から見つけたやりたいこと。

        長所(良い所)×好きなこと×願望(やりたいこと)=才能
ここから、願望を中心にしたその子独自の素晴らしい才能が見えてきます。そして、親子が協力して小さな願望から、大きな願望を探すことを始めていきます。 さらに、願望を具体化していくといろいろな前向きの考え方が生まれてきます。過去にとらわれた "Why"→未来を作り出す"How"へと転換していきます。 子供が自分自身で見つけた才能は子供に自信を取り戻させます。義務感や嫌々ながらやっている勉強や仕事は能率も悪く、能力も発揮できません。しかし、自分の本当にやりたいことを見つけた時、その子の才能が開花してものすごい勢いで前進していきます。すぐに遅れを取り戻すばかりか追い抜いていくことも可能となります。 (事例を紹介しましたが、ここでは省略させていただきます)

9,なってよかった不登校

カウンセリングを通して、不登校から復帰した結果、次のような良い結果も生まれてきます。

     ・不登校になったことで人生を見つめなおすチャンスを得た
     ・家族お互いが相手を思いやる気持ちを取り戻す
     ・家族それぞれが人生の目的を考え具体化していく
     ・家族が仲良くなる
不登校のほとんどは病気ではありません。また、誰のせいでもありません。むしろ、今の時代、ごく健全で感性の優れた子供に起きやすいとも言えます。 私たちの本当の願いは、不登校が無くなることです。でも今、不登校であるならば「なって良かった不登校」と必ず後で笑えるように、問題に真正面から取り組むことをお勧めしたいと思います。解決した多くの例が、そのことのを実証しています。 不登校は、決して不幸なことではありません。


カウンセリングルーム立川  坂田雅彦

文責:三上卓治、HTML制作:田口和男