神田雑学大学平成15年12月13日講義録

「パンの話」食生活の変化とともに!

講師  玉 木 康 雄




目  次


(クリックをすれば該当の項へ進みます。
ブラザの「戻る」ボタンで目次に戻ります。)

食生活はどう変わったか

パンの種類

配合による分類としては

焼き方による分類としては

焼き型による分類としては

販売拠点と扱い商品




1.食生活はどう変わったか<

> ご飯を炊く時には水加減と火加減が重要だが、パンを焼く時にはもう一つ発酵ということが重要になってくる。この発酵が上手くいかないとパンは美味しくない。パンの歴史は有史以前からあるが、ここでは歴史の話はしない。

今年秋10月頃より新聞にハンバーガーの記事が出るようになった。アメリカでハンバーガーが売れなくなった、という記事が断片的に出るようになった。さすがのマクドナルド王国も業績が下がりだした、と書かれていた。 思い出すと、日本では1971年に銀座三越の一角にマクドナルド1号店がオープンした。今から30年も前のことである。この時に藤田社長は景気の良い話をされた。パンとハンバーガーはある意味で競争相手であり、どのように動いていくのか重大なる関心事であった。

ある商品にとっては、完全なる対抗すべき立場にあった。非常に心配もし、関心もあったが、あるとき藤田社長はこう言われた。「日本の若い人たちの髪の毛を黒色から褐色にしてみせる」と。髪の毛を黒色から褐色にするということは、油をよく摂ると体質的にそうなるそうだ。

そういう話をされ、これは大変なことになるとみていたら、かなりの勢いで店も増やされ、売上高も3000億円を超えた。あのハンバーガー類単品で3000億円の売上げというのは、とても大変なことである。パンもいろいろとお世話になっているが、ハンバーカーやホットドッグ類で3000億円とは想像もつかなかった。

それだけの業績を挙げたので、それなりに既存のパンメーカーやパン屋の商売は相当の影響を受けた。どの程度の影響を受けたかは計り難いが、人間の胃は一つである。その胃の中に入る食べ物の量は決まっているので、ハンバーガー類が入ればパンは入らなくなってしまう。パンが頑張ってしっかりやればハンバーガーが減る、と完全に対抗関係にある。といいながら、負けながら今日まで30年商売をしてきた。

ところが最近ちょっと変調を来たしている感じがする。仕事柄どうしても新聞記事を注目しているが、アメリカ人の成人の61%は肥満である。特に最近は、アメリカ人は太っている、と時代とともに感じるが、日本人の体格もそれに近くなってきている。最近ニューヨークに住んでいる十代の若者8人が連名で、ファストフードの会社に集団訴訟を起こした。

「われわれが肥満体になったのは、ハンバーガーやフライドポテトを食べ過ぎたせい」というのが訴訟の原因である。これをどう考えるかは人によって違うが、これをみてビックリするやら、いろいろな訴え方があるものだと感心もするが、要するに「私たちが太り過ぎたのはハンバーガーショップでこういうものを売っているから、ウッカリ沢山食べてしまったのが原因」という事で訴訟を起こした、という記事を見てビックリした。

そうしたら、今月7日に日経新聞に発表があり、この12月期のマクドナルドのことで象徴的な記事が出た。さっき述べた3000億円の売上げが大幅に減った、利益は昨年の10分の1になった、という予測記事であった。今年2月ごろ、今までの値下げ攻勢を一旦値上げした。65円のハンバーガーを80円に値上げした。

このとき藤田社長は「今までは、デフレ志向で値下げでどんどんやってきたが、どうも時代はそういう形でいくべき時ではない」と言わばデフレ終結宣言をアナウンスされた。これで良かった。今まではあの値下げでどれ程か、いろいろな形で苦しみもあった。それなりに開発もあったが、いずれにしても値下げ、値下げでこられると、これは大変なことであった。それが一転値上げに切り替えられた。ということは素材の価格のこともあるし、為替の変動もあるし、合わせて必要経費の趨勢ともあったと思う。

値上げをしたが、この値上げはお客には通用しなかった。完全にソッポを向かれた。それで再度、8月に59円に値下げした。値下げされた結果、その後の情勢を聞いていると、8月の一ヶ月間はお客が増え、金額はいくらか前年を上回った。しかし2ヵ月後からは完全に売上げは落ちた。これは完全に失敗であると思う。どうもマクドナルド離れが止まらない、という風な動きになっている。

表面的にはそうと思うが、動きを伺っていると、日本人もいよいよ今までのように洋風化した生活、食生活であったのが、転換されつつあるのではないか。こうなると食品を提供する会社は大変と思う。世の中少し動きが変わってきた。

何故かといえば、1950(昭和25)年から1998(平成10)年(約2000年と考えて下さい)まで、10年区切りのグラフを見てもらえば分かることだが、この間、食品を国民がどのような食べ方をしたのか、の実績の傾向、推移を示いている。穀類・いも類・澱粉などの炭水化物(50年86.3%、00年46.1%)。豆類・野菜・果実(50年6.3%、00年11.3%)。端的に動いたのが動物性食品で、ものすごい勢いで増えている(50年4.7%、00年20.0%)。



砂糖類は一旦は増えたが、その後は横バイである(50年1.7%、00年8.2%)。油脂類は相当増えた(50年1.0%、00年14.4%)。10年区切りで端的に変化しているものは、1960(昭和35)年と1970(昭和45)年。この10年の間にものすごい変化をしている。

1960年は食生活ばかりか、日本の社会現象も変化があった。食べ物も大きな変化があった。パンも1960年から一気に消費が増えた。パンの増え方と動物性食品と油脂類の動きが端的に比例している。澱粉類は相対的に減ってきてはいる(69.0%⇒54.4%)が、その中でパン、麺類の小麦粉は増えている。米の消費は減っている。

1960年という年は安保闘争があり、経済の面では池田首相が所得倍増計画をし、その後、実行されていった。また社会党の浅沼委員長が刺殺され、大洋ホエールズが三原監督指揮のもと日本一になり、また野球で早慶戦が6回行われた。そういう年であった。それから4年後、昭和39年に東京オリンピックが開かれた。この東京オリンピックで世の中が随分と変わった。

食べ物の商売をしていると、本当にこんなに売れるか、というほど出荷がどんどん増えていった。その代わり米の関係者はきつかったと思う。オリンピック前後、昭和40年は不景気であったが、昭和41年ごろから大変な動きになってきた。例の昭和48年のオイルショックにぶつかっていくのだが、その間、商売は順調に伸ばした。

豆類・野菜・果実はあまり変わっていない(11.8%⇒12.4%)。動物性食品はこの10年間でほぼ倍増(7.7%⇒13.0%)している。この動物性食品とは何かといえば、おおざっぱに言って肉、牛乳、卵の3つである。

牛乳はすごい勢いで伸びた。この3つがその後じりじり増え、2000年には20.0%まで延びた。先ほどのハンバーガーのことでも分かるように、将来的には減ってくるのではないかと思われる。あまりにも摂りすぎの感がある。 サラリーマンとか労働者の仕事も、機械化により殆ど身体を使わないような仕事振りに変わっているので、これだけ栄養あるものを食べると太る。それでは困る。太れば糖尿病になってしまう。

エアロビックスなどをするなら、少し食べない方が良い。これから食生活も変わるかも知れない。油脂類はバターとかチーズ、そのほか植物性の大豆油、綿実油などで、4.6%から9.0%へと一気に倍増し、その後ジリジリと増えている。このような傾向であるから、パンと牛乳、パンと卵、もちろんハム・ソーセージ、バターなどパンと一緒に食べるようになり、一気に量的に増えていった。

この間、澱粉類は69.0%から54.4%に、20%強減っているが、これは全体を100とした構成比であるから、こちらが増えればあちらが減るのは当然である。カロリーも1960年の2291kcalから1970年の2529kcalへと、その後2500kcal代を推移している。その後増えて殆ど変っていない。

米は随分と減ってきている。端的に1960年の総量100とすると、現在は60%と40%も激減している。逆にパンと麺は2倍になっている。思っていた以上に激しい変化があった。その修正が21世紀に入ってから、どうもこれではいけない、と無意識のうちに修復、修正運動がこれからされるのではないか、という思いがする。これはこちらの勝手な思いかもしれないが……。

2.パンの種類

パンの種類は沢山あるので、何通りかに整理して説明したい。日本の消費者は世界一美味しいパンを食べている。これは原料の面からも言える。パンメーカーやその関係者が努力精進して、如何に良い鮮度のある商品を消費者に届けるか、日夜努力している。それがまた競争力をつけ、相手に打ち勝つことにもなる。

外国に行って、外国のパンを食べた方も沢山いると思うが、意外と美味しくない、といっては弊害があるが、それぞれの特色あるパンがある。日本は物が無いから一番いいものを他所から買ってくる。ヨーロッパの国々は、全部自分の国で生産された小麦粉以外は使わない。ハッキリとそういう政策を採っている。

イギリスにしてもフランスにしてもイタリア、ドイツみなそれぞれ自分のところで作った小麦、自分のところで作った穀物をベースにしたパンで生活している。

端的に言うと、フランスは大きな国で、北は北海、大西洋、南は地中海、アルプスにも接しているし、スペインにも接している。フランスをみていると、いろいろな所でいろいろな小麦を作るが、小麦の品質といえば、その時の雨の状況、気温の状況、土地の具合などにより小麦のグレイン、つまり粒の出来方が全く違ってくる。それは何故かというと、小麦の胚芽の中に含まれている蛋白質の組成が、みなそれぞれ違ったものに出来上がっているからである。

フランスの製粉会社に行ったことがあるが、そこには大きな研究室があり、フランスのあらゆるところの小麦を取り寄せている、との説明であった。ブルターニューの北のものもあれば南のニースのものもある。みな小麦のグレインの出来方が違う。これを分析して、都市によっては蛋白質の組成が悪い時は粘りが無い、グルテンの内容がよくない時は分析をして、全国の小麦をどうブレンドしたら均一にしたものに出来るか、に力を入れて研究している。

国家の管理のもとに、製粉会社から出て行く粉の品質は統一、または同じレベルであるようにして出荷している。 フランスはフランスパンの中心であるからあまりグルテン、蛋白質の強いものでフランスパンを焼くと美味くない。適当なグルテンでなくてはダメである。それえを国家が管理している。

イタリアは日本と似ているところがあり、小麦は作ってはいるがグルテンは弱い。日本の小麦もグルテンが弱い。だからパンにはあまり向かない。麺には非常に向く。従って日本の小麦は殆ど麺用に使われている。 イタリアもややもすれば、そういった小麦の生産になっている。それではいいパン作りにならないと思うけれども、イタリアの人は自国で生産した原麦(げんばく)しか使わない。他所から輸入するようなことはしない。従ってあまり腰のしっかりした良いパンではない。そのようなことで、いろいろその国の特性や、その地で穫れる小麦の特性を上手く生かしながら、自分のところで作った小麦でパンを作っている。

アメリカは広い国で、小麦の穫れるところはカナダとの国境近く、ミシガン湖周辺のマニトバ地方というところが一番良い小麦が世界的に良く穫れる。日本にきている小麦はそのマニトバ地方で穫れる一番良いものを買っている。アメリカではあまり良いもの、良いものとは言わないので、アメリカの人は平準的なものを使っている。

日本はそれの一番良いところをふるいわけたような形で使っている。それを厳選して作っている日本のパンは、世界一美味しいパンではないかと自負している。パンを一番美味しく食べる、というと語弊が生ずるが、パンを最も身体に最も良い状態で食べるには、全粒粉で作った、所謂フスマを外さないで、米も玄米食が身体に良いと言われるが、小麦も全くそれと同じである。

原麦を粉に挽くと、8割は小麦粉で、2割はフスマである。フスマは動物の餌になっている。このフスマを外さないで全部挽いて全粒粉のパン、これを何処で売っているかと聞かれると困るが、商品として提供しているメーカーもあるが、これはなかなか上手く売れないから、その辺では買えない。しかし身体に良い食べ方としては、この全粒粉のパンが良い。フスマの中に大変なミネラルが含まれており、身体に非常に良いが、 ノド越しが悪いとか、口の中でモソモソする、とかがあってお客には受け入れてもらえない。

ドイツやポーランド、ロシアに行くと、小麦粉にその他の穀物を混ぜてパンを焼く。黒パンとか。これはあまり美味しくないが、その人たちは当然のものとして食している。いろいろ麦の種類もあるが、例えばカラスムギなども使われるが、それらを上手にパンにしているのには感心する。 このように世界各国にはいろいろなパンがあるが、日本には殆ど入ってきている。殆ど生産してお客に提供している。日本の消費者は幸せであると思う。パンの分け方としては、いろいろあるが、一応3種類に分けてみる。

配合による分類としては、

リーンなパンとリッチなパン、リーンは日本語に訳すと何というか、プアー(poor)、リッチ(rich)の反対、配合からすると、殆ど小麦粉だけという状態。この代表的な製品がイギリスパンとかフランスのバゲット(長いフランスパン)で、小麦粉と塩しか使っていない、と言って良い。これがリーンな配合である。

イギリスで生れたからイギリスパン、フランスで生れたからバゲットと呼ばれている、この配合はリーンな小麦粉そのものを食べるという製品である。 その反対にリッチなパンとは、小麦粉に糖とか油脂を加える。糖をあまり加えるとお菓子になるのでほどほどにするが、油脂はかなり加える。これがリッチな製品だが、これはアメリカのバターロールとか、ウイーン周辺から始まったクロワッサン。

―――ここで講師の玉木先生が持参したクロワッサンを出席者全員が試食する―――

クロワッサンが一番リッチなパンと思う。これはパイとほぼ同じ配合である。小麦粉とバターを完全に練るとあのような生地になる。あまり膨らまない。クロワッサンの断層をみると気砲がいっぱいである。何でこんなになるのかというと、小麦粉の生地とバターを混ぜないで層にする。層にしたものをローラーで伸ばし、3つに畳んでまた伸ばす。それを3回位すると27層位になる。バターの層が出来る。

小麦粉のグルテンの間にバターが上手く存在しているから食感が良い。 クロワッサンといえば、トルコの国旗は三日月である。というより三日月形に近い。その昔トルコ軍がオーストリーに攻め込んだ時、ウイーンの城壁がなかなか落ちなかったのでトンネルを掘って攻めようとしたが、パン屋は早起きであったため、それを見つけてご注進してそれを防いだ、というパン屋の活躍の逸話がある。

その時にパンの形を三日月にして、それをトルコに見立てて、トルコを食ってしまえ、ということでこの形が考えられた、と伝えられている。 クロワッサンを握ってみると、手が油で光ってくる。それだけ油が沢山使用されている。その油を出来るだけ美味しく食べよう、ということでこういう製品が開発された。

北欧に行くと、寒いところで生活されている人たちは、食べ物に随分と気をつけている。バターを出来るだけ多く食べないと、生活が上手く、身体が上手く機能しない。如何に多く油を摂らなければいけないか、ということでいろいろな食べ物の開発をしている。あと一つペーストリーというのがあるが、これはクロワッサンのたぐいの生地の組成である。この生地をベースに、フルーツのトッピングをして焼いたり、いろいろなものがあるが、おおもとはこれである。

焼き方による分類としては、

小麦粉の食べ方として、ハードに焼くのとソフトに焼くのがある。ハードに焼くのは堅焼きパンで、代表的なものはフランスパンである。フランスパンは中身のソフトなところよりも、外側の焼けた硬いところを食べるのが本当の味である。中身のソフトのところも美味しいが、本当のフランスパンは外側が良い。

空気中に晒しておくと湿気を吸い、周りがフカフカに柔らかくなってくる。こうなるとフランスパンとしては良くない。そうなった場合は、オーブンなどに入れて、湿度を飛ばし硬くしてから食べると良い。皮を柔らかい状態で食べるソフトな焼き方はバターロールである。バターロールはアメリカで開発された。これは皮は非常に薄い。厚くなったらバターロールではない。焼き方は難しい。柔らかく食べる、これがバターロールの特徴である。

焼き型による分類としては、

イギリスパン(オープントップ)は四角い型に生地を入れて焼くが、上が開いているので生地が膨れる。パン屋の白い帽子のように上が丸くなっている。これが本来のパンであるが、これがアメリカに渡って変形してしまった。これは合理化のためで仕方が無かった。それはパンの型に蓋をしてしまった(包角)。蓋をかけて上へ膨らまないようにしてしまった。これは生産性に重点を置いたからである。

型の無いパンを焼く時は大変手間がかかる。美味しいパンは出来るけれども。この蓋を機械に自動的にかけて、自動的にはずして、ひっくり返すのも機械で自動的に、全て機械で出来る。生産性によってこのような焼き方になった。日本のパンメーカーの考え方は、アメリカの考え方と全く同じであるから、殆どこの形のものになっている。 イギリス式に比べアメリカ式の方がコストは安い。例えばアメリカ式が150円ならイギリス式は180円位。本当にパンの好きな人はイギリス式で、こちらの方が美味しい。

商品名

配合による分類

リーン

イギリスパン

バゲット

イギリス

フランス

リッチ

バターロール

クロワッサン

アメリカ

デンマーク

焼き方による分類

ハード

バゲット

フランス

ソフト

バターロール

アメリカ

焼き型による分類

オープントップ

イギリスパン

イギリス

包 角

3斤食パン

アメリカ


3.販売拠点と扱い商品

パンつくり、パンの仕事には二通りある。
一つはその場で作って、その場ですぐ売ってしまうパン屋をスクラッチベーカリーと言う。また、作ることに集中して、作るところと売る場所が違うところ、販売拠点まで運んで行って売る、つまり作るところと販売するところが離れているパン屋、と二通りの分別方法しかないと思う。

片方は全部自分の力で作ってそこで売ってしまう。ホームベーカリーがそうである。片やホールセラーベーカリーつまり卸ベーカリーは集中生産して大量に作るというだけで、販売拠点に持っていって販売はお任せする、というタイプの二種類であると思う。

  ホームベーカリーとホールセラーベーカリーの相克は戦後いろいろあったが、米が無い、食べ物が無い、飢え死に寸前の時、昭和22年アメリカからララ物資で小麦粉が入り、東京都民の8割が餓死するところを助けてもらった。あの時からパンの仕事はいっぺんに増えた。要するに小麦粉だけではなかなか美味しく食べられない。ダンゴにしてスイトンで食べたが、これには限度があった。

だからそれを膨らませてサッカリン、ズルチンで甘みをつけて焼いたのがコッペパンである。このコッペパン作りがパン屋の仕事であった。その当時3000軒位のホームベーカリーがあった。アメリカから来た小麦粉を、そういう形で加工して飢えをしのぐ働きをした。これがホームベーカリーの仕事であった。

ところが昭和35年に所得倍増論が出てから、一般労働者の賃金が異常に高騰していった。そうすると、よほど生産集中合理化出来るところでないと、零細な生産業者はとてもついていけない。僅かな生産量では労務コストが上がって、それを製品価格に転嫁出来ない、商売にならない。そういうところは作るのを止めて、売る専門になった。今度はその生産を分担、引き受ける製パンメーカーは大きな仕事をするようになった。その間、そのような変化がみられた。

最近は技術革新が進んだ。その一つ目は、常温、適温でなければイーストの働きは無いと言われていたが、非常に温度が下がっても活躍するイーストが開発された。冷温でもイーストの働きが充分できるようになった。これはパン作りにとって革命的なことであった。

二つ目は保冷の技術が進んだこと。冷蔵庫屋を中心として冷温保存が随分進んだ。その技術が開発される前に、よくフルーツとか肉などを冷蔵庫に入れておくと、マイナス10℃から15℃まで下がると、カチカチになるが、これを常温に戻した瞬間に、水分が全部分離してしまう。このことはご存知のことと思います。要するに、フルーツにしても肉にしてもその中に水分が相当ある。その水分が凍ってしまう。凍った瞬間に細胞を壊してしまう。

壊れた状態でこれが常温で固まった氷が水になった瞬間に破れた細胞から全部流れてしまう。だから冷蔵などは出来なかった。その時のテーマは、如何に上手く戻すか、を研究したが、その戻すということよりも、凍るというによって細胞が壊されてしまっている、このことが問題であった。

従って、冷蔵というよりも冷温という考え方が出てきた。これの一番良い条件は3℃である。その3℃でコンディションを作り出せるか、これは非常に難しいと言われていた。例えば冷蔵庫屋がこの仕事をするのだが、こちらの隅の温度とあちらの隅の温度が違うとか、地面と天井の間では温度が違う、というような問題があって、冷温保存で上手くいくと分かっても、実際に具現化することとはまた別問題であった。現在は3℃で保持するならそのように受けてもらえる。そういう技術が出来た。

三つ目はパンメーカーが頑張った。いろいろ開発もした。冷温処理に対してイーストも開発されたし、冷蔵庫屋とか保冷の技術も開発されたし、またベーカリーもそれなりの対応をした。 この三つが相乗して生地冷凍というものが出来るようになった。先ほど試食したクロワッサンは生地冷凍のものである。

パンは発酵があるから難しい。例えば、あるパン屋の主人が立派な技術を持っていて、その主人か作っているパンは立派で良い品質で、お客が行列する。ここで売れるなら隣町でも商売にはなるだろうが、それと同じ品質のパンが作れるだろうか。ここの店は主人が頑張っているからちゃんと作っているが、主人の技術を上手く伝承して、引き受けていけば分店も出店出来るが、これはとても難しい。

その難しい仕事を冷凍生地(冷生地)で出来るようになった。前半の発酵を、勿論普通の状態で発酵させて、形を作って一気に急速冷凍をかける。それをいろいろなテクニックで戻し、本当にそのパンが売られる直前に焼き上がる方法が開発出来た。それでパンの売り方、チャネルが随分と変わった。

スーパーマーケットのパンは、昔は全部卸パン屋から仕入れて売っていたが、最近は生地冷凍を使って自分のところで戻し、今すぐに焼けたという形でお客に提供出来るスタイルが出来た。冷生地はパンの工程の途中までやったものを急速冷凍かけて、そのままの状態でそれぞれの売る場所に配送する。その場で焼いて遜色のない製品を作り上げる。

これは技術のレベルについては、ほんのごく一部だけで良いからレベルは合わせ易い。だから多くの拠点で仕事が出来る。大きなスーパーではコーナーを作ってよく焼いているが、殆どこのスタイルである。 スクラッチは小麦粉から最後までパンにしてしまう。フランスパンなどはこの手が多い。これはなかなか技術が難しいので、そうそう何処でも出来るものではない。スーパーでも一部は仕入、一部は冷凍生地で、スクラッチと3通りある。

コンビにでは、商品本部が自分のところで冷生地を仕入して、集中して焼いて、配送している。コンビニの配送の仕組みは非常によく出来ており、弁当の配送と同じく、焼きたてのパンをそれぞれの店に届ける。その代わり売れなくて時間の経ったものは、すべて廃棄する。あれはもったいないと思う。

それをやらないと、あそこのパンは新鮮で売られている、とはならない。あれはもったいない。時間中に売れれば一番良いが、なかなかそうはいかない。雨が降ったり、気温が下がったり、それを上手くキャッチ、予測出来たら、商品は残らない。また売れ筋の商品を山ほど仕入れてある。そうすれば相当成績も上げられる。それがなかなか上手くいかないので困っている。だから時間の経ったものは廃棄する。もったいないことだ。

さすが最近は残ったものは肥料にするとか、いろんな形でいくらかでもリカバーリーしようとしているが、そういうイメージでコンビには、さも今出来たばかりというイメージで売っている。

リティルベーカリーというのは、自分のところで作って、自分のところでその場で売る、という本来のパン屋である。昔は全部自分のところで作ったが、いまは冷凍生地によって相当部分をやっている。これは作る手間が非常に省ける。釜から出た状態でお客に提供するから、全部自分のところでやっているイメージである。ウラ話をすれば、そういった冷生地を作っているメーカーから仕入をして、最後の工程、ベーキングの工程を自前でやって出来たてを売る。

これはセールスポイントになる。だだ、冷生地でその場で焼いて売るという製品は、商品の足が速い。劣化するのが速い。冷凍生地を焼いて売るのは、焼きたては非常に良い。スククラッチのパンと遜色ない。だからすぐに食べること。これを一晩おくと、食べ口が悪くなる。

デパ地下に行くと、必ずベーカリーがある。これはリティルベーカリーで、スクラッチで作っているパンと小物は意外と冷凍生地で作っている。フランスパンとかイギリスパンとか生地を食べるパンは、スクラッチで行っている。 本来の仕入れて売る、昔ながらのパン菓子店は減少し、今は殆どなくなった。 戦後どういう風に変わってきたか、パンの変遷史の話はこれで終ります。

スーパーマーケット

コンビニ

リテイルB

パン菓子店

仕 入

冷生地

スクラッチ

仕 入

冷生地

冷生地

スクラッチ

仕入





    文 責 桑垣俊宏
  写真撮影 橋本 曜
 HTML制作 上野治子