1 17 日(金)
第150回神田雑学大学講演

東京湾に生きる

講師  大野一敏

 私の家は代々東京湾で漁師をやっています。お手元にあります「三番瀬ガイドブック」

は船橋市が作ったものですがたいへんよく出来ていますので皆さんにご紹介しました。

三番瀬は浦安市、市川市、船橋市に面した東京湾の最奥部の干潟・浅海部(水深5m未満)約1,600ヘクタールのことをいいます。(ちなみに幕張の副都心は480ヘクタールです)

 江戸時代の古文書には「二番瀬」「三番瀬」の文字がありますが「二番瀬」の位置や「一番瀬」があったかどうかは不明です。昭和20年代から埋め立てが始まり、干潟がなくなってきました。昔の三番瀬は干潟が多くを占めていましたが、昭和30年代からの地盤沈下により、約1m沈下し、干潮時でも海の中の部分(浅海部)が多くなりました。

なお、船橋海浜公園干狩り場、は船橋分岐航路を埋め戻した人口干潟です。

 船橋は以前船橋村といわれた漁業の盛んな場所でしたが歴史的にみると数百年前から漁業が行われてきました。大田道灌の後に家康が江戸を作り100万都市を作ったわけですが市民の魚介類の供給基地として栄えてきました。

この三番瀬は東京湾の生態系を守るという重要な働きをしています。

  1. 多くの生き物がたくさん生活している。

貝、カ二、エビ、ゴカイ、魚類などたくさんの生物が住んでいる。

イ)古くから漁業や潮干狩りなど人により利用されている。

 貝や魚を捕ったり、海苔を養殖したり、古くから人は食料を得ています。

  • 渡り鳥の休息、越冬、繁殖の場として利用されている。
  • 水をきれいにする。
  • 三番瀬は13万人分の下水処理場と同じ働きをしています。


    生き物と生態系

    @三番瀬の生き物

    三番瀬ではたくさんの生き物を見ることができます。確認された主な生き物を系統別に分類すると次のとうりです。このほかにプランクトンがいます。

    (動物)刺胞(しほう)動物  クラゲ、イソギンチャク

        環形(かんけい)動物 ゴカイ、イソミミズ

        軟体(なんたい)動物 アサリ、バカガイ、マテガイ、アカニシ

        節足(せっそく)動物 カ二、ヤドカリ、エビ

        棘皮(きょくひ)動物 ヒトデ、ナマコ、ウニ

        脊椎(せきつい)動物 魚類(ハゼ、スズキ、カレイ)鳥類(カモメ)

     (植物)褐藻(かっそう)     ワカメ

         緑藻(りょくそう)    アナアオサ

         紅藻(こうそう)     オゴノリ

         単子葉植物        コアマモ、アマモ

    A砂や泥の中の生き物(底生生物)

     三番瀬の生き物の多数を占めるのがアサリやゴカイなどの底生生物です。

  • 砂や泥に隠れて敵から身を守ることができる。
  • 温度の変化や水温の上昇に伴う酸素不足から身を守ることができる。
  • 上層の水より、砂や泥の中の方が塩分濃度が安定している。
  • などの理由から、砂や泥の中で生活しています。

    B鳥類

     三番瀬はえさが豊富なため、たくさんの渡り鳥がやってきます。鳥は潮の干満に応じて移動し、えさを取ったり、休息したりしています。

     季節ごとの特徴は、次のとおりです。

     春・・シギ、チドリ類が南から北への渡りの途中に三番瀬で休憩します。

     夏・・コアジサシが繁殖(卵を産む)し、アジサシもやってきます。

     秋・・春に北に渡った鳥が南へ渡る途中に立ち寄ります。

     冬・・ガン・カモ類が越冬するためにやってきます。特にスズガモが多く、その数は 十万羽近くになることがあります。

     また、カワウやカモメ類はほぼ一年中見ることができます。

    生態系と植物連鎖

     「生態系」とは、ある地域における食物連鎖の相互の関係を総合的にとらえた生物社会のまとまりをいいます。

     三番瀬の生態系は、植物プランクトン・海藻などの生産者、生産者を食べる動物プランクトンなどを一次消費者、さらに一次消費者を食べる魚や鳥などの二次(高次)消費者とのつながり、また、これらの老廃物(デトリタス)を分解する分解者(バクテリアやゴカイ)で構成されています。

    水質と富栄養価

    @水質

     三番瀬は陸から大きな影響を受けています。その一つが、川などを通じてもたらされる汚れ(有機物やチッソやリンなどの栄養塩)です。

     船橋市では毎月海域の水質調査を実施しています。平成13年度における海の水の汚れ具合を示すCOD(化学的酸素要求量)は3.6〜5.4PPMで陸に近い地点ほど汚れています。   

     また、東京湾に流入する海老名川や真間川の流れは下水道の整備により除々にきれいになっていますが、十分ではありません。

    A富栄養価と赤潮

     東京湾の水には、植物お栄養となるチッソやリンがたくさん溶け込んでいます。

     富栄養状態では、春から夏にかけて、気温が上り、日照時間が長くなると、海水中の植物プランクトンが大増殖します。このとき、海の色が赤や茶色に濁ることから「赤潮」と呼んでいます。

     大量発生したプランクトンは干潟のろ渦食生物(二枚貝など)に取り込まれますが、多くは死んで浚渫跡地などの深みに沈み、バクテリアにより分解されます。

     この時、酸素が消費され、深みでは水の交換が行われ難いため、海底では酸素が ない状態(貧酸素水塊)を形成します。

    B青潮

     夏から秋にかけて北風が連続して吹くと表層の水が沖に流され、代わりに低層の貧酸素水塊が湧き上がります。表層に出た貧酸素水塊中の硫化水素が表層水や空気中の酸素を取り入れ硫黄となって析出し、海水が乳青色となります。これが「青潮」です。

     貧酸素水塊がくると低生生物は逃げることができないので死んでしまいます。

    人間とのかかわり

    @漁業

     三番瀬は古くから私たちの生活と深く関わってきました。特に、漁業は江戸時代から栄えてきました。アサリ、バカガイなど「採貝漁」、冬場の「海苔養殖漁業」、カレイなどの「底引き網漁業」「刺網漁業」スズキなどの「小型まき網漁業」により、三番瀬の恵み を私たちは享受してきました。

     また三番瀬はカレイやスズキなどの稚魚を育む魚類のゆりかごでもあります。しかしながら、埋め立てによる潮流の変化や藻場の喪失、干潟の減少などにより漁獲高は減少傾向にあります。

    A賢明な利用(ワイズユース)とラムサール条約

     今、三番瀬に代表される干潟の持つはたらきが見直され、大切に守っていこうという動きが高まっています。 そのキーワードが「ワイズユース」です。ワイズユースとは、生物多様性を確保しながら、私たちが湿地を持続的に利用することであり、また、持続的な利用とは、将来の世代も私たちと同じように湿地の恵みを享受できるように、現在 を生きる私たちが湿地を大切にしながら利用し、未来に引き継ぐことです。

     このような湿地を国際的に保全するのが「ラムサール条約」です。日本は昭和55年に締約国となり、次のようなことが求められています。

    1. 国際的に重要な湿地をラムサール条約リストに登録指定すること。
    2. 住民参加の下に管理計画を策定・実施すること
    3. 過剰利用とならないよう規制すること。
    4. 機能と価値を失ってきている湿地につきその復元を図ること

    また、千葉県は平成14年1月に三番瀬再生計画検討会議(通称三番瀬円卓会議)を発足し、県民、行政、専門家が力を合わせて、三番瀬の保全について検討をはじめました。

    B保全に向けて

     三番瀬の保全を考える上で重要なことは何でしょうか?

     三番瀬と古くから関わってきた私たちにできることは何でしょうか?

     それは、三番瀬を正しく理解し、保全のために私たちに何ができるか考えることから始まると思います。

      東京湾に残された豊な自然――「三番瀬」を次世代に引き継いでいくため、私たちは「クリーンアップ三番瀬」をはじめました。

    生物の多様性を掲げて堂本知事が誕生しました。開口一番、三番瀬の「埋め立て計画の白紙撤回」が宣言されました。

    今、三番瀬の保全と回復計画が知事方針で県民による円卓会議で練られています。時代を映す画期的な出来事です。ただ残念なのは三番瀬海域はあくまで東京湾の一部であっ抜本 的な対策は、米国東海岸に位置するチェサピーク湾のように国家的なプロジェクトによって湾の総合管理が実現しなければおぼつかないのです。

    また、円卓会議で実現可能な策が提案されても、県議会を通過しなければ名案も水泡と化します。もっと恐れるのは知事の交代で、再び埋め立て計画が浮上しかねません。

    先進工業国の中で湾の総合管理が出来ていないのは日本だけだと自覚すべきです。仮に今、日本の首都東京で「世界環境サミット」が開催されたら、目の前に広がる「東京湾」ひとつ管理できない国の発言は虚しいものになるでしょう。(終わり)


    テキスト制作:得猪外朗  写真撮影:橋本 曜  HTML制作:田口和男