神田雑学大学
第182回 平成15年 9月19日講義録


蝶の世界に魅せられて


講師 : 柳本 茂




はじめに

みなさんの少年時代は自然が豊だった、ということもあって小学校の夏休みの宿題で、昆虫採集された記憶があると思います。私の蝶の採集もそこからスターしたのが実態です。小学校の時は夏休みといえば、蝶の標本を集めて宿題の足しにしていました。

中学校は東京・港区白金でした。その当時も港区は拓けていましたが、付近はまだ自然が豊に残っていました。中学校では「生物部」に入っていました。同好の仲間と一緒に蝶を追っかけたり、蝶の幼虫を捕ったりして楽しんでいました。

高校時代になり、私の兄も蝶が好きでしたので、一緒に高尾山や東京近郊の雑木林のある場所に出かけて、本格的に標本を作るようになりました。東京の自然の豊かな時代に存分蝶を追っかけることが出来たことは幸せでした。

大学に入ってから蝶の蒐集という形で本格的に始めました。春から夏にかけて暇さえあれば信州や東京近郊、北海道まで毎年のように出かけていました。かなりの蝶の蒐集が出来ました。この時期に友だちから紹介されて、「国立科学博物館」の昆虫部に行きました。見たこともない珍しい蝶の収蔵品の標本を数多く見せて戴き、ビックリしました。さらにビックリしたのは、ドイツのライツが書かれた「世界の蝶蛾の大図鑑」で―その当時日本には数少なく、我々大学生の時は見ることも出来なかったもの―それが国立科学博物館にあり見せて戴きました。



それを見て、「こんなキレイな蝶がたくさん世界にいるのか!」。自分でも集めてみたくなりました。それが大きなきっかけとなりました。その当時は蝶のコレクションも戦災などで焼けて、海外の蝶も数少なくしか見ることが出来なかったです。一念発起して集めよう!ということで考えました。「ハテどうしたら良いだろう?」。いろいろご指導戴いた黒澤良彦先生にお聞きしましたら、こういう世界の蝶の研究者のリストがある、と教えて戴きました。それを見て海外の主要な国の蝶の研究者に構わす手紙を書いて「日本の蝶と交換して欲しい」と各国に送りました。

当時は戦後間もないこともあり、日本の蝶が海外に出ていることも少なかったです。戦前標本業者がたくさんいました。特にドイツでは、たくさんいました。各地に「捕り子」というのがいて採集し、同好者に売って生業(なりわい)にしていました。いまでも日本にもいます。世界の各地のものを手に入れて標本商という形で―クワガタやカブトムシの類を販売している業者はみな標本商と言われている―大きな組織が戦前のドイツにありました。日本でもそれらから買っている人が多くいました。



交換の手紙を出した結果、かなり反応は良かったです。先ほど申しましたように、日本の蝶があまり世界のコレクターの間に無かったことも幸いしました。未だ学生の身分でしたが、アフリカのガーナ、フランス、アメリカ、チェコスロバキア、ブラジル、オーストラリアそれにソ連(現在のロシア)等々からも交換しよう、という反応がありました。その当時、資金も無いのに四苦八苦して郵便で蝶を送って、海外からも送って戴き、かなり良い標本が集まってきました。大学の四年間楽しんで夢中でやりました。

ところが大学を卒業して社会に出てみますと、世界の蝶を集めようという甘い夢は全く無理だ、ということが分かりました。結局その間に無理しながら蒐集しても出来ないので一旦中止しようと決心しました。そして長い時期に亘っていつか復活しよう、いつか復活しようと思いながら、結局復活できないまま長い間そのままになってしまいました。その間も私も根から蝶が好きなものですから、旅行や出張でも小さなネット(網)をカバンに忍ばせて、行った先で蝶を見ますと捕ったりはしていました。

蝶に対する愛着はズ〜と持ち合わせていました。貴重な標本もたくさん持っていましたからちゃんと保管しなければ、ということで自分が採集した標本、世界の各地から集まってきた標本、これらをほぼ40年間大事にしてきました。蝶は少し油断をするとカビが生えたり、虫に食われたりします。

今日お持ちした標本のなかで50年前の当時のソ連の標本もあります。これはたまたま私が昆虫学会、日本鱗翅(りんし)学会などの研究団体に所属していました時、日本昆虫学会40周年記念に当時の日本橋「白木屋」(後の東急百貨店日本橋店)で世界の昆虫展が開かれました。そのとき昭和天皇がご来臨され、展示された標本をご覧になりました。その当時出品した標本の一つをここにお持ちしています。



その様な訳で学術的なものを含めて貴重な標本は保存して現在に至っています。それから蒐集を再開したのは60歳を過ぎてからです。日本国内で採集するようになりましたが、自然破壊が激しく、昔の採集地はいまでは道路があったり施設が出来たりして、良い採集地は無くなってしまいました。

また始められると喜んでフィールドへ出たのですが幻滅がいっぱいでした。私も世界の蝶を集めようと志を持っていましたから、中国、ロシア、モンゴルなどの地域へ実際に自分の手で採集しようと出かけました。毎年のように必ず行っています。これらの国々は寒冷地ですから短い期間しか捕れません。6月から7月の極めて短い間です。ですから1年に1ヶ所くらいしか出かけられません。あとは近所で見られる蝶を調べながら、集められるものは集めていこう、という段階です。

世界の蝶を集めようと思っても恐らく生涯出来ないと思いますが、モンゴルの蝶については出来るだけ集中的に調べて、集めて、何らかの形のものにしていきたいと思っています。「世界」が「モンゴル」と「日本」になってしまいましたけれど、それは止むを得ないと自分に言い聞かせています。

蝶の生態
これから美しい蝶に魅せられて世界の各地から集めた蝶と身近な日本の蝶、辺境の地モンゴルの自然と蝶をご紹介したいと思います。 美しい蝶は強靭な生命力で南極を除く世界の大陸と島嶼に約2万種の種類が分布しています。北極圏のツンドラ地帯

―1年のうちほんの1〜2ヶ月しか花が咲かず、植物が育たない厳しい環境でも生育して、卵から幼虫まで2年がかりで育つ環境―から熱帯雨林―植物が豊で蝶にとっては非常に良い環境―、そして標高5,000メートル近くの雪線にいたるまで広い地域に棲息しています。
 
 蝶のほとんどの種類は幼生期には植物の葉や花、実、コケ類を食べています。わずかな種類ですがアブラムシやカイガラムシの出すワックスを食べている珍しいものもいることが知られています。寒冷地は植物が少ないですから比較的蝶の種類も少ないですが、植物の多い亜熱帯、熱帯地域には多くの種類が棲息しています。

極圏から熱帯雨林まで住む世界の蝶
動物地理学によれば地球上の蝶の分布を次の5つの区分に分けます。

(1) 旧北区 ヨーロッパ、アフリカ北部から中国、日本、シベリヤ全域と南はインド北部。大部分が温帯ですが、極圏や亜熱帯を含んでいます。
(2) 新北区 メキシコ以北の北アメリカ
旧北区と良く似た気候と動物相で共通の種類も多いです。
(3) 新熱帯区 メキシコから南アメリカ全体
さまざまな棲息環境の気候が含まれ、熱帯雨林に多くの種類が棲息しています。
(4) インド・オーストラリア区 パキスタンからインドを経てインドネシア、オーストラリア、ニュージランドに広がります。動物相では大きく異なりますが、多くの蝶はこの地域に広く分布しているので同じ分布区分として扱っています。世界で最も蝶の多い地区です。
(5) 熱帯アフリカ区 サハラ砂漠より南のアフリカ大陸とマダガスカル島を含む中央アフリカの熱帯雨林を中心に2,500種類以上が棲息しています。

多様な住み分けをする日本の蝶と自然環境
日本の蝶の住んでいる環境がどんなところかを分けてみました。動物地理学の上では旧北区に含まれていますが、氷河期に大陸と陸続きになった時にかなりの種類がユーラシア大陸から渡ってきました。ですから日本とヨーロッパの蝶はかなり似かよったものが多いです。日本は南北に長い地形で温帯から亜熱帯にわたり、しかも2,000メートを超す高山が多く豊かな植生に恵まれて約240種の蝶が棲息しています。

(1) 高山の蝶 1,500メートルを超す森林限界付近以上の高山帯に住む蝶で本州では8種、北海道(大雪山)で4種が棲息しています。氷河期に大陸と陸続きになった時にユーラシア大陸から侵入して、温暖化で高山に取り残されたと考えられます。
(2) 森林の蝶 照葉樹林、落葉樹林に棲息し、一番多くの蝶が見られます。開発などによる森林伐採の環境変化の影響を受け易い蝶です。約118種
(3) 草原の蝶 高原性の草原、高層湿原、崖地、草地、河川敷、等。小型の蝶が多く農地、牧草地、ゴルフ場などに開拓されたために絶滅危惧種が多いです。約75種
(4) 里山の蝶 生物の多様性がいわれる地域で、人里に接した森林のある環境には平地、山地を問わず人の手で手入れされた林や草地に多くの蝶が棲息しています。約31種


分布を広げたり、侵入している蝶
 いま新聞紙上などで話題になっている地球温暖化で、蝶はこの10年くらいの間にかなりの分布を広げています。西日本から関東へ、台湾から沖縄地方へ、シベリヤから北海道へと数は少ないのですが日本中に多く広がってきています。

困ったことに同好者が人為的に放蝶することです。中国の蝶であったり、韓国の蝶であったり、他の地域の蝶であったりしますと、それらが住みついて日本の生態系を乱すことになります。カブトムシなどが新聞の話題になっていますが、蝶にも同じことが言えます。心無い同好者の放蝶が環境、生態系を崩すことになります。絶対に止めて欲しいです。

西日本から関東へ 4〜5年前からクロコノマチョウ、ナガサキアゲハ、ムラサキツバメ、ツマグロヒョウモンの4種が南部を中心に見られます。
台湾から沖縄、南西諸島へ 5〜6年前からツマムラサキマダラが急速に広がっています。
シベリヤから北海道へ ユーラシア大陸に広く分布するオオモンシロチョウがシベリヤ経由で6年前頃に飛来土着しています。
北アメリカから北海道へ 3年前頃に東部で見つかりましたが、アメリカから来た家畜の飼料について侵入したと考えられています。
人為的?に広がった ホソオチョウは10年前頃から東京周辺と京都周辺で見られるようになりましたが、現在も甲府市付近と京都市付近の河川敷でも棲息しています。日本には分布せず韓国の個体がなんびとかによって放蝶されたものと考えられます。

アカボシゴマダラは昨年藤沢市、鎌倉市で見つかりましたが、今年になってさらに横浜市、逗子市でも見つかっています。日本では奄美大島のみに分布していますが、見つかった蝶は中国亜種でやはり放蝶と考えられます。



モンゴルの自然と蝶
 モンゴルは私がいま一番力を入れて蝶の採取・調査をしています。モンゴルは中国とロシアと国境を接し、北緯42〜52度まで南北1,260キロ、東西2,400キロで156万6千平方キロの面積で、日本の4倍の広さです。北緯42度は日本では函館、52度はサハリンの北部に相当します。ヨーロッパは海流の関係で温暖ですがロンドン、ベルリンなどが52度近辺です。人口は230万で少なく、首都ウランバートルは標高1,350メートルにあり、国全体が高原と山地となっています。

 北部はカラマツ類を主体としたタイガと高山で、シベリヤと同じ樹層です。中部は森林ステップとなっていて森林と草原が交互にある地域で起伏はゆるやかです。北面はシベリヤからの風で雪が吹きつけて森林が育っています。逆に南面はゴビ砂漠があるので乾いているため草原となっています。南部は砂漠ステップと乾燥した砂漠が続いています。

 動物地理区では旧北区で日本と共通種や近似種も多く知られていますが、あまり蝶の調査がされておらず、ヨーロッパと日本の中間に位置して類似性を調べることに興味を持ちました。キャンプで奥地まで入って、6月に大雪に見舞われたこともありました。

1992年にソ連の支配から独立して親日的で治安も良かったこと、何よりも蝶の数が多く採集・調査に現地の人が協力的であったことです。1995年から2002年まで計7回 夏の季節に行って採集・調査をしました。調査地域はウランバートル周辺からハンガイ山脈、北西部のフブスグル湖周辺まで行きました。フブスグル湖付近は豊かな森林や草原が広がっていて日本の高山に行かなければ見られない高山植物に覆われていました。モンゴルの蝶は120種が知られていますが、75種を採集・調査しています。

――――― スライドを使って紹介と説明 ―――――

アフリカ中部 森林の蝶 フタオチョウ(台湾、沖縄にもいる)類が特徴的 マダガスカルのみ生息の蝶、ヨーロッパの蝶 アポロチョウに代表される草原の蝶 イランアゲハ トルコアゲハ モンキチョウ、モンシロチョウ類、

クレオパトラという学名の蝶(ギリシャ)、中国・韓国・ロシアの蝶、アメリカの代表的な蝶 キアゲハに似た蝶、オオカバマダラ(渡りをするので有名、カナダからアメリカを縦断しメキシコで集団越冬する)ヒマラヤ高地の蝶(4000メートル附近に棲息)インド北部・中国奥地に棲息、台湾の蝶(フトオアゲハ、世界で台湾しか棲息していない)インドネシア・マレーシアの蝶 インド・タイ・ベトナムの蝶 インドネシア西イリアンの蝶、

トリバネチョウ(鉄砲で打ち落とした逸話がある蝶) オーストラリア南部の蝶、ヒスイシジミ(ワックスを食べる蝶)ウスバジャコウ、南米の代表的な蝶 モルホチョウ(中米からブラジル、アルゼンインに棲息)、アグリアス(ミイロタテハ)アゲハ(日本とはかなり違う)日本の高山蝶、

本州(上高地など、オオイチモンジ・コヒオドシ・クモマツマキ・クモマペニ他)北海道(大雪山、ウスバキチョウ・アサヒヒョウモン・ダイセッタカネ・カラフトルリシジミ)侵入蝶(シベリア・アメリカ・台湾から)温暖化による分布拡大(ナガサキアゲハ、ムラサキツバメなど)

放蝶(韓国 中国の蝶)モンゴルの風景(草原 カウボーイ 馬乳酒
ゲル<モンゴルのハウス>山林河原 森林の山火事の跡 フブスグル湖(琵琶湖の4倍)キャンプ地(雪景色)蝶の交尾 高原の蝶 草原の蝶 シヤクナゲ エゾムラサキツツジ サクラソウ キャメルテール ワスレナグサ カワラナデシコ リンドウ シオガマの仲間等など

質問 1.蝶と蛾の違いは?分類学上は如何ですか?
‥‥‥‥分類学上は蝶と蛾は大きな科目では同じです。一つの鱗翅目が二つに分かれていています。蝶亜目、蛾亜目で違いと言えば、似たようなもので区切りがつき難いです。

ハッキリしていることは触覚(ヒゲ)が棍棒状(バトンのような形)になっているのが「蝶」で、ヒゲが扇状とかウチワの形をしたものは「蛾」と見て良いでしょう。その他に蝶は羽根を閉じて止まるとかありますが、必ずしも蝶で羽根を閉じて止まらない種類もあります。それは僅かですが‥‥。そういう区分けを大まかに覚えていて戴ければ良いかと思います。

質問 2.蝶は青と黄しか色が分からないと言われますがどうでしょうか?また、平家の家紋に蝶が使われていますが、何故なのでしょうか?
‥‥‥‥蝶は色を感じることは事実です。黄と赤でなく青を感じます。野外の経験とか情報によりますと、赤いネットに寄って来るとか、青いネットに寄って来るとか、緑のネットに寄って来るとか、白いネットにも寄って来ます。白いネットに寄って来るのは、旧北区の代表的な蝶である赤い星の付いた白い蝶が寄って来ます。

事実モンゴルで捕った時も白いネットに寄って来ました。私の経験ではグリーンのネットにアゲハチョウが寄って来ました。春の女神と言われるギフチョウがブルーのネットに寄って来ます。理由は分かりません。だけれど色を感じていることは事実です、と昆虫生理学の専門家は言っています。また、平家の家紋に蝶が使われていた経緯は分かりません。

質問 3.蝶の種類は2万種ということですが、何故そんなに多種類になったのでしょうか?また、世界で一番高価な蝶は?
‥‥‥‥蝶の種類の2万種というのは、ほぼ全大陸に亘っての数量です。蝶の種類でもアゲハチョウは比較的少ないです。タテハとかシジミとかセセリとかマタラチョウは種類が非常に多いです。アゲハチョウは僅か世界で540種しかいません。分布が多いということは、種類が分化していく要素をたくさん持っていることです。

世界で一番高価な蝶は時期とかいろいろな条件が重なって、これは評価の問題なのです。欲しい人はいくらでもお金を積んで、例えば200万円とか300万円とか言われています。世界で1匹とか2匹しか捕れていない、しかもその標本が命名する時に使った標本―これを「タイプ標本」と言っています―はほとんどイギリスの「自然史博物館」に収められています。

そういうのをたまたま個人が所有している場合―この蝶のタイプ標本になると、その種を決定した要素が全てそこに全て含まれています―評価する人が高い評価をつけます。そう意味で値段は付けようがありませんが、トリバネチョウなどは100万円くらいが限度ではないでしょうか?ヨーロッパではオークションも行われています。日本でもオークションという手もありますが、いろいろな関係で未だ実際には行われていませんが、インセクトフェアーという形で年に2〜3回各地で開かれています。金額的には10万円とか20万円の値が付くのもあります。

質問 4.蝶はハチのように人体に害を及ぼす種類はあるのでしょうか?
‥‥‥‥今知られている範囲では無いと思います。ただ、毒蝶と呼ばれている蝶で、粘液にカユミが出る成分を持った蝶がいます。これは南アメリカ、中央アメリカに棲息しているヘリコニアという種類の蝶で、そういう懸念があります。鱗粉(りんぷん)による害はありません。

蛾についてはイラガ、チャドクガは鱗粉に刺すような粉が付いており、カユミが出たり湿疹が出たりします。幼虫が要注意です。チャドクガの幼虫は幼虫自体毒性の毛を持っており、幼虫は脱皮して大きくなりますが、脱皮した脱け殻にも毒性があります。チャドクガはツバキ、サザンカ、チャなどの植物に付き身近にいます。刺されたらと思ったら手などで擦らないで水で洗い流して下さい。

質問 5.どんな極寒の地でも植物が生えていれば、蝶は生きられるものですか?
‥‥‥‥これは先ほどもご説明いたしましたが、極北の地でも植物さえ生え、場合によっては地衣類しか生えていない場所でも種類によって棲息可能です。その代わり成長が遅くなり、1年で成長しないで2年がかりで成長します。日本の高山蝶にもあります。北海道・大雪山のウスバキチョウなどがその例です。植物の生育によって左右されるのが蝶の大きな要素です。

質問 6.蝶の繁殖と羽根の模様の結びつきは?関係は?キレイな種類が残っていくのでしょうか
‥‥‥‥蝶の羽根については、トリバネチョウはメスとオスは全く違いますが、日本にもたくさんいます。羽根の模様はメスを引きつけるためにあるのではないか、昆虫の行動学の分野で言われていることです。光ったりする場合が多いです。もう一つ、羽根の中に模様ではないのですが、発香鱗(はっこうりん)というのがあります。オスにだけある匂いを出す鱗粉があります。それがメスを引きつけると言われています。繁殖と羽根の模様は大いに関係があります。

質問 7.鳥などはメス、オスの差は歴然で、当然オスが美しいですが蝶も同じですか?
‥‥‥‥蝶はいろいろです。メスとオスが全然変らないのもいます。どうしてオスとメスを見分けているかは謎です。ただ、いま申し上げましたようにキレイな羽根の模様がオスというケースもあり、発香燐を持ったのもあります。メスとオスの模様がほとんど変らないのもあります。モンシロチョウは変りがあります。特に言えることは、紫外線によりオス、メスが見分けられます。メスが紫外線に対して黒く(灰色)写りますが、オスには反応ありません。蝶のうち80%はメス、オスの微妙な色の違い、斑紋の違いがあります。

質問 8.成虫になった蝶は花の蜜だけで生きているのでしょうか?
また、繭を作るような蝶はいますか?蝶の天敵はいますか?

‥‥‥‥ほとんど花の蜜を吸っていると美しく見ていられますが、実際にはいろいろです。牛糞、人糞、動物の死骸などから吸収しているものが多いです。カブトムシのように樹液を吸っているのもいます。花の蜜だけとなりますとかなり種類が少なくなります。水を吸うのもいます。種類によっては成虫になってほとんど摂食しないのもいます。蛾には多いです。口が退化してしまったものです。蝶は花の蜜ばかりではない、とお考え戴きたいです。

なかには蚕のように繭を作って破って出てくる蝶もいます。ウスバシロチョウといって旧北区の特徴的な蝶がそれです。寒冷地の蝶は繭を作りますが、蚕のような厚い繭ではなく簡単なものです。ほとんどの蝶はぶら下がったり、帯で留ったりのサナギの作り方が一般的で、繭は例外的です。
 
蝶の天敵は幼虫の頃は鳥や蜂(アオムシを肉団子にして運ぶ)が外敵です。あと蝿や蜂が幼虫の身体に産卵して喰い入ってしまい、蛹化(ヨウカ)―幼虫が脱皮してサナギになること―してから喰い千切って出てきます。飼育していてもウッカリするとこういう現象になることがあります。

質問 9.花や食料がありながら蝶がいない地域はありますが?
‥‥‥‥あります。環境の問題と思います。植物も環境によって生育しますが、植物の生育環境ばかりでなく、蝶の生育環境もあります。ただ単に植物が生育する、非常に関係はあるのですが、例えば里山のことですが、木の手入れをしていますと下草の植草が生えてきます。良く繁茂します。ところが木が茂ってきますと、日照不足になってだんだん少なくなってきます。そういう場所には蝶はいなくなってしまいます。植物はあっても蝶がいない、生育環境があって、しかも植物があって、ということになります。

質問 10.趣味にはいろいろな種類があって熱中度もそれぞれ違うと思います。お見掛けしたところ蝶に熱中する人は異常に深い、というかのめり込んだ動機は何なのでしょうか?
‥‥‥‥小さい時の環境もありました。植物にしても何にしても自然が非常に好きです。どんなことでも関心を持ちます。そのなかで美しい―美しいのが一番の要因です―蝶に魅せられました。「何故蝶を集めるのか?蛾を集めないのか?」という人もいますが、蝶の方が蛾よりもキレイなものが多いです。世界的に見てもそうです。蛾の種類のなかでもキレイなものもあります。世界で約17万種くらいがレオドプテラ(鱗翅類)という蛾とか蝶をくくった種類です。蝶は約2万種、蛾の1/10しかいません。

質問 11.先ほど天敵の話が出ましたが、蝶の紋で目玉が睨んでいるような紋や人間の顔に似ているものもありますが、これは外敵との関係で模様が決まるのでしょうか?
・・・・・これは推測の範囲ですが、南米にフクロチョウというのがいます。羽根の裏に眼状紋(がんじょうもん)、フクロウの顔をしたような形です。それが留まるとフクロウの紋に似ています。それとジャノメチョウの類というのがあります。蛇の目に似ています。天敵から身を守る一つの要素ではないかと、これは人間の推測です。

質問 12.本日の講義はスライドでキレイな蝶が観られるので女性に声をかけましたところ、渋りながら「そんなキレイな蝶を観せられたら私が惨めになる。今日は女性の人が少ないですよ」と言われました。私は蝶の話ですから女性は多いと思いました。知人の予想が当たりました。蝶の蒐集家や講演会にしても圧倒的に男性が多いのですか?
・・・・・女性は蝶を好きな人は仲間でも少ないです。これは男性が圧倒的に多いです。女性はあまり蝶が好きでないと解釈しています。何故か?と女性に聞きましたところ鱗粉が怖い、粉が毒々しいという印象を持っています。先入観を持っています。昆虫の学会でも蝶の好きな女性は少ないです。

本日は有難うございました。



講座企画・運営:吉田源司
文責 桑垣 俊宏
写真撮影 橋本 曜
HTML制作 和田 節子