第184回神田雑学大学平成15年10月3日講演 生活の中の化学

「生活の中の化学」

講師  安倍弘昭
生活の中の化学
今、お話されたことについてですが私は大学の専攻も仕事も化学でしてかれこれ30年も化学の仕事を続けてきています。
現在テレビ、新聞、雑誌などでさかんに化学の話題が飛び交っていますが、十分理解されておられないような気がして私が噛み砕いてお話しようと思います。まず手始めに身近なプラスチックであるペットボトルのPETはなんの略語でしょうか。

これはポリエチレンテレフタレートの略です(Poly-ethylene-terephthalate)。
このPETは従来のプラスチックと違ってリサイクルが容易で全国的に回収運動が盛んになっています。繊維の世界で最初に絹の代替として開発されたのがナイロンです。羊毛の代替として開発されたのがアクリル、綿の代替として開発されたのがポリエステル、すなわちこのPETです。したがってPETを回収することによって繊維に再生することができます。高級なものは出来ませんが工場の作業着などはこれで十分です。これらは熱可塑性がありますので繊維にもできますしフイルム、容器にも加工できます。

スーパーの袋はビニールだと思って使っておられる方が多いのですが、実際はポリエチレンです。これは戦後一番最初に袋として商品化されたプラスチックが塩化ビニールだったために、その後でてきたプラスチックをビニールと呼ぶようになったことに原因があります。

今、塩ビが悪くいわれるのは燃やすと塩素ガスが発生することです。スーパーの袋に使われているポリエチレンを代表とするプラスチックは先日北海道の精油所の火災で燃えたナフサが原料になっています。ナフサとは沸点の低いガソリン分を抜いて沸点の高い(約200度)重油分をぬいた中間部分のことで、これが石油化学の原点になっています。

PET一番多いのは繊維ですが他にフイルム、オーデォ、テープなど多くの分野でボトルに使われ始めたのはPETの用途では最近の事です。
それと身近で使われているものでガムの素材は殆ど酢酸ビニールです。口にはいるものですのですごくスペック厳しいです。酢酸ビニールの分子量を増やしていって
丁度体温でやわらかくなって噛み応えのあるベースを作っているわけです。

塩ビは今でも多岐に使われていて建材では壁、床、水道のパイプ類(硬質、軟質)などに使用されていますが一番おおきな理由は加工性がよく、コストが安いことです。欠点は燃やすと塩素がでることでよくビル火災で死亡の原因となっていますクレラップ、サランラップなども塩化ビニリデンといって塩ビの仲間です。

次にポリウレタンですが、これはマットレスで皆さんおなじみだと思います。昔ソファにはスプリングが入っていましたが、いまはウレタンの発泡技術が進んでソファや車の座席などに丁度いい弾力のあるものが開発されています。

ポリスチレンは魚箱などに使われる発泡ポリスチレンと弁当箱などに使われる一般のポリスチレンがあります。アクリル(MMA)は透明性に優れていてレンズに使われます、また水族館でも何千トンにも耐えられる厚いアクリルが使われています。
次にポリカーボネート樹脂ですがこれも非常に透明性がよく強度も高いので最近では自動車のヘッドライトの部品に広く使われています。もう一つ重要な用途はCDで殆ど全部のCDはポリカーボネート樹脂を使っています。ここ10―20年ほどでもっとも用途が開発され使用量も飛躍的に伸びた樹脂です。
少し系統が違いますが高級水性ポリマーというのがあります。これはアクリル酸という樹脂から作るのですが、コップ一杯の水に耳掻き3杯ぐらいで瞬間的に水がゲル状になります。これがおむつ用ほかに需要が飛躍的に伸びました。

これらのプラスチックの原料は殆どナフサに依存しています。いまは味の素も石油を原料にしてつくることができます。もちろん味の素をいもの澱粉から作ることもできますがコストがあいません。グルタミン酸ソーダという化学構造がいっしょであれば原料はなんでもいいわけです。
熱可塑性プラスチックの成型は、例えばバケツのようなものは金型をつくって射出成型法でつくりますがパイプ、ホースのようなものは押し出し成型法によっています。ボトルのようなものは空気を吹き込むブロー成型を利用しています。袋はインフレーション成形法で作ります。考え方は空気を吹き込むブロー成形と同じです。

FRPはファイバーレインフォースドプラスチック(繊維強化プラスチック)の略ですがガラス繊維に液状状態の樹脂を含浸させてプレスした比較的大きな部品に使われます。家庭ではバスタブや浄化槽、レジャーボート、小型漁船などに盛んに使われています。これは熱硬化性があってあとには戻ることができません。ゴルフクラブや釣竿には炭素繊維を含浸させたものが盛んに使われています。ほかにエポキシ樹脂よいうのもありますて金属やセラミックスの接着剤に使われています。これらは熱硬化性プラスチックに属します。シリコンゴムはコンピューターのマザーボードに使われています。

以上がだいたいプラスチックの話ですが界面活性剤の話をします。これは二つのものが混ざらないときになんとか混ぜようという場合に使われるものです。例えば水と油は混ざりませんが石鹸(界面活性剤)を使うとある程度混ざります。化学の世界にはこのようにいくつかを混合するもの(塗料、インキ、化粧品、)がたくさんあります。

塗料の世界には水溶性、油性(溶剤型)、粉体とありますが一般家庭用は環境に優しいということで水溶性塗料が多く使われていますが、耐久性の面で難点があります。
つぎに染料、顔料ですが服の色は染料で染めます。塗料に使われる色は原則として顔料です。染料は溶剤に溶けますが顔料は溶けることがなくて分散しているだけです。耐候性の点では顔料の方が優れています。

環境問題
化学製品が急速に日常生活のなかに普及してきたことで環境問題に悪影響をもたらしたことは事実です
そこでまずリサイクルの問題がでてきます。弁当のトレイなどはシート状ポリスチレンから作りますが他のプラスチックと混ざると再生がききません。そういう意味でPETは上手く使えばリサイクルが可能です。
紙の世界でもダンボール関係はかなりリサイクルが進んでいますがコピー用紙など普通の紙ではコストの点でまだまだです。製紙会社からみると古紙から再生するよりもバージンパルプから作った方が安くできるという現実があるわけです。
スーパーの袋などでは既にヨーロッパや日本の一部でも始まっていますが客が容器や袋を持って買い物にいくという動きが始まっています。こうでもしないと処理の費用がだんだんかさんできて環境にも悪影響を及ぼしていくことになります。



公害では塩ビの問題があります。塩ビはコストの点から建材類に多く使用され燃えれば塩素ガスを発生します。塩素は有毒ですし周囲の金属や植物に悪影響を及ぼします。かってかねみ油症のPCB公害事件というのがありました。この物質は科学的に非常に安定していて体内に入っても分解されずにそのまま残ってしまう性質があります。

たまたま米油を抽出するときに熱媒体として使ったのが配管に穴があって製品に混じってしまった。その油を食用に使ったひとが悲惨な中毒症状を起こしたわけです。トランスの絶縁体として広く普及したのですが、これを安く処理する方法がなくていまだに未処理のPCBがたくさん保管されたままになっています。化学物質は燃えたとき強い毒性をだすものがあってポリウレタンも燃やすと猛毒のシアンガス発生します。一般に化学品は適切な方法で使用し、処理しなければ、何時の時代でも化学品を使用している限り、いろいろな問題を発生します。

生分解性プラスチック
殆どのプラスチックでは土中に埋めても変化しないでそのまま残ります。そこで最近はコーンスターチを原料とした土に還元される(土中のバクテリアによって分解される)プラスチックというのが開発され市場にではじめています。

一部パソコンメーカーや車のメーカーでは既に使いはじめ新工場も計画していますが、これは大量生産によってまずコストを下げて使用用途を拡大していくのがこれからの問題だと思います。袋、フィルム関係でも各メーカーは競って採用しはじめており宣伝臭さもあるのですが近い将来10パーセントぐらいはこの分解性ポリマーに変わっていくと予想されます。ただ日本のコ−ンスターチは高いので将来の生産国はアメリカか中国が主力になると思います。

最近の化学会社は公害設備に多額の投資をしなければなりません、一つの例として白色塗料に使われる酸化チタンはオーストラリヤ、マレーシア等のイルミナイトを原料としています。工場の6割が生産設備、4割が公害設備です。副産物として硫酸処理した鉱石からでる硫酸鉄はオーデオ、ビデオテープの記憶媒体、磁性酸化鉄の原料としてもてはやされましたが今はCDの時代になって産業廃棄物になりつつあるのが実情です。