神田雑学大学2003年10月17日講義録



コックピットの世界

講師 道畑 剛作 


目 次

(クリックすれば該当の項へ進みます。
ブラウザの「戻る」ボタンで目次に戻ります。)

1.パイロットとしての経歴の自己紹介

2.離陸までの諸準備

3.単位の確認

4.離陸

5.訓練科目

6.飛行試験

7.帰投

8.着陸

9.特徴的な事項

後段の部/質問






講 師


道畑 剛作 氏


1 パイロットとしての経歴の自己紹介

皆さん今晩は。今日は神田雑学大学のこのような場で話をする機会を与えて頂きまして有難うございました。

お配りしているレジメに従い、ジェット戦闘機が離陸してから着陸するまでの状況を、与えられた時間の範囲でお話したいと思います。
では、先ず、私の自衛官としてではなく、パイロットとしての経歴に関して、自己紹介をさせて頂きます。

1939年、昭和14年に満州で生まれ、昭和21年夏に父の実家のある奈良県大和郡山市に帰って来ました。
中学までは田舎で過ごし、中学の後半と高校時代は、大阪の町の真ん中で過ごしました。

私の親父は、長男である私に非常に厳しかったのですが、或る時、2回ほど映画に連れてくれました。マリリン・モンロー主演の「ナイアガラ」と朝鮮戦争が舞台であった「ハンター」という映画でした。何故連れて行かれたのか、その当時は分りませんでしたが、プロペラのない飛行機=ジェット戦闘機と有名なナイアガラの滝を私に見せたかったということが親父の本心であったことが後に分かりました。

親父は明治44年生まれで、今月の30日に満92歳になりますが、武道館で毎年開かれる全国高齢者武道大会に毎年奈良から出てきております。そういう親父ですので、防衛大学校に入学後、剣道部に入らないと休みに帰ってきても家に入れないと言われましが、当時、トランペットのハリー・ジェイムスとルイ・アームストロングが有名だったのですが、ハリー・ジェイムスのサウンドに憧れて、入学したら直ぐブラスバンド部に入って、剣道部も入らないと親父に怒られると思って剣道部にも入りました。

剣道に関して親父が私にいつもいっておりました「虚心坦懐、止水明月」とは、先生の教えを正しく受けるためには、自分の心が謙虚な態度でないと先生の教えを身につけることが出来ないという意味で、このことはパイロットの学生として操縦経験の無い新しい機種の飛行機を乗り継いで行く時にも自分なりに役に立ったという風に考えております。

さて、防衛大学校は1学年約500人で、2年生以降に陸海空に分かれますが、陸海空の割合は、航空と海上は約100名プラスα、残り約300名が陸上という形に分かれます。私のクラスは航空要員が120名おりました。先ず、航空身体検査を受け、視力、血圧とか鼻の曲がり具合、耳と鼻と口の空気の通り具合だとか色々なことを検査されます。結果,75人が合格し、自動車でいう実地試験に相当する航空操縦適正検査に合格した者は40人となりました。更に、約10人位のクラスに分かれ、約2年間の操縦教育を受けて、17名が首になり、23名が合格。23名の内訳は、戦闘機19人、輸送機3人、ヘリ1人という結果でした。

500⇒120⇒75⇒40⇒23⇒19人が、ジェット戦闘機パイロットであったというのが、その結果でしたが、身体的条件は親が作ったのだから、威張るなよと親父に云われました。

飛行の経歴は、昭和37年に防衛大学校を卒業してから、陸海空自衛隊ごと別々の場所にある幹部候補生学校、航空は奈良にあり、半年の一般教育と飛行に必要な航空管制英語等の教育を受けた後、飛行訓練を始めたのは昭和38年1月からです。それから、平成6年8月まで約32年間、定年の直前まで飛んでおりました。若い頃は,何処かの飛行隊に属し、毎日飛ぶことが、仕事でありました。

ところが、司令部勤務や当時は六本木にあった防衛庁に勤務している時でも、年間の最低飛行時間、着陸回数、計器飛行の時間だとかが決められておりまして、その基準の厳守は、特に航空自衛隊のパイロットの場合は厳しく管理されておりましたので、自分で時間を作って土日も含めて年間の必要な飛行時間を飛んで、技量を維持していたという状況です。

操縦した機種は、合計16〜17機種です。飛行機の呼び方は、米空軍の呼び方を踏襲しており、練習機はトレーナーのT、戦闘機はファイターのF,輸送機はカーゴーのCが頭に付いて呼称されます。32年間でトータル約3,850時間飛びました。

戦闘飛行隊には、通常、戦闘機が1機種、単座機型を25機から30機程度置いてあり、それと同型の前後席でほとんど同じ事ができるいわゆる複座型を数機置いてあります。それ以外に、指揮連絡用などに使う練習機も数機置いてあります。自動車でも、車種が違うとスイッチやギヤーの位置とか混乱することがありますが、飛行機の場合、2機種ぐらいは乗り分け可能と一般的に言われていましたが、5機種を同時にとなるとやっかいです。機種毎に色々な違いがあります。エンジンを始動するまでの要領、始動の仕方、エンジンの止め方、全部違います。そう言う意味で基本的には2機種ぐらいという常識が、当時、航空自衛隊にあったわけであります。

私が岐阜基地でテスト・パイロットの教官の頃は、自分で間違いなく出来ると判断をして同時に5機種、即ち、セスナ程度のプロペラの飛行機から音速の2倍ぐらい速度が出る飛行機まで同時に5機種を、ある意味で面白がって乗っておりました。
以上が、私のパイロットとしての経歴に関する自己紹介でございます。

2 離陸までの諸準備

では、今からどの様にして離陸から着陸までを実施するのか、順番にお話します。

まず、航空自衛隊では戦闘機パイロットが、いざという時に正面に出て行くわけですが、戦闘機というのは基本的には単機で飛ぶということはありません。

飛行機が飛び始めて、世界各国が戦闘機として使い始めた頃は、3機編隊だったそうですが、3機よりも2機の方が良いということで、2機編隊を基本にして2機編隊の二つで4機編隊という形が現在では世界の常識というか、それが効率的、効果的であると言われております。

飛行前の準備ですが、一人乗りの飛行機で単機で飛ぶ場合は、自分で準備をして上がるわけですけれども、1機の飛行機でも二人乗りの飛行機の場合や編隊で飛ぶ場合には、どういう形でどのように飛ぶか、何か非常事態があった場合にはどうするかというようなことを、飛行前に打ち合わせします。これを飛行前ブリーフィングと言っております。それから個人装具と言っておりますが、ヘルメットとか落下傘とかパイロット各自が体に付けるものが色々あります。

ヘルメットは、基本的に各個人の専用です。ヘルメットの外の大きさもサイズがありますが、内側のサイズも、頭が直接ヘルメットの内側に接しないようにしている物のサイズを変えることによって、自分にピッタシのものを使っています。

落下傘については、各自が専用で使っている場合と、岐阜基地のようにあらゆる機種を飛ばせている所では、落下傘のタイプも全部違いますので、それぞれの機種に合った共用の落下傘を使います。個人装具が準備されている所に行って落下傘等を手に入れ、自分が指定をされた飛行機のところへ行きます。

そして車の場合も一緒ですが、タイヤがパンクしていないかなどを含めて飛行機の外側を点検します。これを外部点検といいますが、映画などで民間機のパイロットが翼を下から見上げていますが、あのような形で点検をします。
次に操縦席の中に入って内部点検というのをやります。この場合も、大型機の場合には民間機などでもそのような場面がTVなどに出てきますが、コーパイロットの方がチェック・リストを、このスイッチはどの位置、このレバーはどの位置、このライトはどういう状態などと読み上げて、機長のほうがその状態を確認するというやり方をします。

この要領は自衛隊でも基本的には一緒ですが、その機種に慣れてきますと、ほかのスイッチ等がどのようになっていても、エンジンを回すために必要な部分だけパッと見てエンジン始動をする、その内に無線交信が必要になり無線機の発信ボタンを押しても発信できなければ、無線機のスイッチが入ってないことが分かり、無線機のスイッチを入れるというような応用動作もなれてくると、幾らかは出来るようになります。まあ、そのようにしてエンジンを回すための状況が相整う。

そこでエンジンを回すわけですが、ジェット・エンジンの場合は、よく一般家庭でのガス爆発がありますが、ガスを先に出しておいてマッチを付けるとドカンといきますが、これはジェット・エンジンの場合も基本的に一緒で、先にイグニッションというか火を出しておいて、機種ごとに異なる、レバーを操作するなりボタンを押すなりの方法で燃料を送り込む。火がついている所に燃料を出してやるという原則を守らないと爆発します。

それで、5機種ぐらいに同時に乗っていますと、特定の機種にしばらくの間乗らないという状況がおこり、操作手順に関して少し混乱をする場合があります。そういう場合には、チェック・リストで事前に手順を確認し、それでも自信が無かったら操縦席の中に座って前にチェック・リストを広げて間違いがないことを確認してから、操作をします。この場合、手順をゆっくり実施しても間に合う場合には、チェック・リストを見ながら実施しますが、ある操作をして、ある状態になったら、直ちに次の操作をすかさず実施しなければならないような場合には、チェック・リストを見ながらでは間に合いませんので、このような操作については覚えるようにしています。

そしてエンジンを回してから、動き出す前に必要な色々な点検をやって滑走路まで進んでいきます。滑走路まで進んで行く道路のことをタクシー・ウエイと言います。したがって離陸のために滑走路まで移動すること及び着陸後に駐機場まで移動することをタクシーと言います。

3 単位の確認

黒板に一寸書きましたけども、飛行機の速度とか高度とか長さ、重さ、量などについての単位は、自衛隊の飛行機は基本的にアメリカの影響を受けています。欧米ではノット、フィート、ポンド、インチが使われています。

MIG-25という飛行機が日本に亡命してきましたけれども、あの時のソ連も、現在のロシアも、キログラム、メートルという単位を使用しています。
現在のロシアの飛行機の速度計の単位は、日本の自動車と一緒で時速何キロ・メートルになっています。

黒板に書きましたのは、日本語のカタカナで通常マイルと言っておりますが、厳密にいいますとノーテイカル・マイル、海のマイルとスタチュード・マイル、陸のマイルと、理由は分かりませんがアメリカでは二種類の単位を使っています。アメリカの道路標識で何マイルと書いてあるのは陸マイルのことで、1スタチュード・マイルは、約1,6キロメートルであり、1ノーテイカル・マイルは、約1.85キロメートルです。

以前、私の友人が横須賀の米軍基地の中で、道路標識に示されている速度制限は、陸マイルであると勝手に解釈し、制限速度内で走っていて米軍の警察に捕まり、絞られたということがありました。日本を含めた西欧系の飛行機の速度計の単位は、ノットであり、1ノットとは1時間に1海マイル、即ち約1.85キロメートル進む速さです。
秒単位でいうと、1ノットは、1秒間で約50センチメートル進む速さです。

距離、長さの単位についてもメートルではなくフィートであり、飛行機同士の異常接近があった場合などに新聞報道で、変な端数の入った数値の高度が記載されておりますが、例えば何万何千フィートという高度で飛んでいて、それを日本人の読者が分かり易いように換算をした数値が、この端数の入ったものとなるわけです。

今、単位の話をしましたが、駐機場からタクシーをして滑走路に入り、これから離陸の話を致します。

4 離陸

離陸の速度というのは、機種によって当然違いますし、同じ機種でも旅客機の場合は、旅客人数や荷物の量によって重さが違いますので、離陸速度もそれに応じて違ってきます。

ちなみにT―34というプロペラの練習機の離陸速度は、約65ノットです。F−104というロッキードというメーカーが作った戦闘機は、当時、人間が乗る最後の有人機で、これ以上の飛行機は世に出てこないであろうと言われたもので、鉛筆のような形をしたこの飛行機は、200ノットまで加速しないと離陸できないものであり、プロペラ機・T―34と比べると離陸速度は、約3倍です。今後も離陸速度が200ノットを越えるような飛行機は世に出てこないと思います。

ジェット戦闘機のエンジンには、アフター・バーナーという装置が通常装備されています。アフター・バーナーというのは、アフター、即ちエンジンの後部の火がついているところに別の燃料系統により燃料を流し込み燃焼させるもので、このような状態にすると大雑把にいって最大推力が一瞬にして1.5倍まで増えます。

離陸直前にエンジン点検をいろいろ実施しますが、アフター・バーナーの作動点検は飛行機が停止した状態では出来ません。ブレーキの制動力は強いのですが、アフター・バーナーを入れますとタイヤが止まったまま飛行機が動き出して、瞬時にしてタイヤがパンクしてしまう。ズズズッと動いてパンクしてしまう。従ってブレーキを離してからスロットル・レバー(推力制御レバー)をアフター・バーナーの最大推力位置まで進めて関連の計器指示を瞬時に点検する。

編隊離陸の場合のブレーキを離す編隊長の合図は、手で行う方法と、頭を少し後ろに倒してから前に出す方法とがあります。僚機(2番着)は、その合図を見て操作を合わせる。

離陸中の緊急手順、すなわち離陸中に故障が発生した場合に離陸を中止する手順ですが、原則がありまして、@スロットル・レバーをアイドルまで引く、Aアレステイング・フックを降ろす、このアレステイング・フック(航空機拘束用の引っかかりツメ付き金属棒)は、飛行機の胴体後部の下部に付いていて、通常時は胴体下部に収納され、または、平行な状態になっているが、操縦席での操作によりフック(棒状のもので、先端が滑走路上に展張されているワイヤーを引っ掛けることが出来るように曲がっている)を降ろす/下げる。B制動傘を開く。

このような手順を実施します。この手順を実施するためのレバーやボタンの設置位置が機種によって異なりますので、間違えば自分の命に関わりますので、滑走路に入ってから、その手順を関連のスイッチやレバーの位置を目で追いながらイメージ・トレイニングした後、ブレーキを離します。

編隊の場合には、編隊長が推力を仮にパーセントで言いますと100%にしてしまうと、これに追随している2番機が一寸でも遅れると永遠に追いつきません。従って編隊長は、100%に対して概ね98%に絞ったところに推力をセットする。2番機は、この約2%の余剰分で遅れた場合には追いついて行く。

離陸滑走は、機首を上げる速度に加速するまでは、横風にあおられないように翼を水平に保持しながら方向を保持し、機種上げ速度になったら操縦桿を少し引き離陸姿勢を保持していると、離陸速度になったら、飛行機が自然に浮揚する。操縦桿をグッと引いて、飛行機を引き上げるのではない。

離陸をしたら車輪を収納します。加速の遅い飛行機は、車輪を収納するときに空気力学的に形状が変わりますので、不安定になります。従って、ある程度加速をして安全な速度になってから車輪を収納する飛行機と、今時の戦闘機は加速が速いから浮いたら直ぐに車輪を上げないと、どんどん加速して油圧で車輪を上げようとしても速度による風圧の方が強くて上げられなくなる。そのような失敗をしますと、安全な高度まで上昇をしてから速度を落として車輪を収納する。そのようにして車輪を収納して、所望の高度への上昇に移ります。

上昇率を示す昇降計は、1分間に何フィート上昇(降下)するかを示しますが、千フィート単位の目盛りであります。先ほど述べたプロペラの飛行機は、1分間1,500フィートから2,000フィートくらいで上昇する、これを3で割ると1分間に約400メートルから600メートルくらいで上昇する。ところが今時の戦闘機は、今から約三十数年前の先ほどのロッキード社製F−104ぐらいからは、1分間に30,000フィート上がります。これは約1万メートルですが、富士山の高さの約3倍の高さまで時計の秒針一回り、1分=60秒で上昇するということです。

三島由紀夫さんがF−104で体験搭乗をした時に、"これは20世紀最大の射精である"とかいう所感を述べたそうです。そのように上昇をしながら真後ろを振り返ると、自分が離陸した滑走路がほとんど真下に見えます。このような上昇性能を持っているのが、戦闘機です。

上昇のあとは、水平飛行に移るわけですが、性能の低いプロペラ機の場合は、スロットルを少し絞ると自然に機首が下がってきて自分の予定している概ねの高度で水平飛行に移行します。しかし、戦闘機が1分間に30,000フィートぐらいで上昇していますと、例えば30,000フィートで水平飛行に移ろうとしますと、25,00フィートか、もっと早めに背面飛行の状態にして機首が水平になるように操縦桿を引かないと、自分が予定をした高度を突き抜けてしまい、さらに高い高度まで行ってしまうというような性能です。

そして、主水平飛行に移り、訓練をする場所まで移動します。

5 訓練科目

訓練科目にはどのようなものがあるかということを、簡単に申し上げます。

空中操作=飛行機を所定の姿勢や速度になるよう動かす訓練、曲技飛行=アクロバット、編隊飛行、計器飛行、戦闘機同士が攻撃位置に占位することを競い合う空中戦闘、空中にある標的に対して射撃をする空対空射撃、地上の標的に対して射撃をする空対地射撃という訓練の種類があります。

空中操作というのは、大きな機動の練習であり、翼の傾きが約90度以内、機首の上下の傾きが約60〜70度以内の動きです。

アクロバットになりますと、空中操作のように飛行機の姿勢に関する制限が無く、垂直の上昇・降下から背面まで何でもありです。例えば宙返りの場合、地上の真直ぐな道路を目標に取り機首を上げていき、90度(垂直上昇)で正面は空だけになり、180度で反対側の水平線が上下逆(背面)になり、240度(垂直降下)で正面は地面だけになり、360度で元の状態に戻る。この時、目標に取った道路に対して横にずれないで戻ることが、求められます。どのような状況であっても自分の考えた通りに飛行機を自由自在に動かせるようになるための訓練であり、それは空中戦闘につながっていくわけです。

次に編隊飛行ですが、その隊形は、目的に応じて色々あります。例えば、ノーマル・フォーメーション(通常隊形または密集隊形とも言う)の場合、平面図的に見て翼と翼の横間隔はどれくらいだと皆さん思われますか? 約1メートルから1.5メートルぐらいです。

ブルー・インパルスというアクロバット・チームがありますが、この場合は翼と翼とが入り込んだ状態で飛んでいます。何故そのような形をとるかと言うと、見栄えが良いからです。また、近付けば近付くほど危険度は増すわけですが、より近い位置に付くことにより編隊長機と自機との相対的な動き、自分が遅れた、前に出た、離れた、近づいたという動きの初動が感知し易いわけです。

このような理由の外、編隊で離陸し、雨や雪の雲中を飛行し、雲上で訓練をし、また、雲中を飛行して飛行場に戻ってくるという通常の状況において、天候が悪い方に急変し、時間が経てば着陸が不可能になるような場合、飛行中の多数の飛行機が1機ごとに単機でレーダー誘導により着陸進入すると、順番が後のほうの飛行機は燃料が無くなってしまう。このような最悪の状態を局限するために、2機の編隊にすれば着陸進入に要する全体の時間が半分になる。

そのためには、雲中で確実に編隊飛行が出来なければならない。雲の中を編隊で飛行する場合、私も何回か経験がありますが、牛乳という液体の中にアメリカの女優ではないので浸かった事はないのですが、牛乳のような雲(白くて、透明度の低い)ってあるんですね、密集隊形で2番機(僚機)として雲の中を飛んでいて、編隊長機の翼端に付いている赤か青のライトが雲のために次第に見えにくくなるので、見える状態を保つために更に近付いて行く。

そして、編隊長機の翼端灯がすぐ目の前にあるという状態で飛行し、編隊隊形を保っているという状態ですね。このような形というのは、翼と翼とが平面図でいうとお互いに入り込んで重なっている状態です。このような状況に確実に対応するために、このような近い間隔での編隊飛行の訓練を日常から行っているわけです。このような編隊飛行は、戦闘機パイロットになるための教育課程で首にならなかった者は、自転車に乗るか、下駄を履くように誰でも出来るわけです。

このような横間隔が1.5から2.0メートルというのは、飛行中に物指で計測しているわけではありませんが、誰が編隊を組んでも同じ位置に付けるようにするため、編隊長機の特徴のある点(日の丸の真中・右端、左端とか、翼端の機外灯とか、パネルとか)の二つを結んで仮想の線を作る。この様な仮想線を2本取り、その交点に自分が位置をすれば、自ずから2番機は編隊長機に対して一定位置に占位することが出来る。以上が水平面での間隔で、垂直面の間隔は、2番機がそのまま横に動いていくと、お互いの何処かが接触するか、しないかのギリギリという間隔です。

次に計器飛行に移ります。お祭りなんかの出店で、張った糸の上をコマが落ちずに回っていますが、あのようなコマを三つの独立した軸で支えて、電気的に回転させることにより、最初に自立させた状態、地球に対してコマの軸が垂直の状態を、飛行機の姿勢がどのように変化しようとも、保持する装置が計器飛行をするための姿勢指示器の基になります。

このコマ/ジャイロの姿勢の基準となる信号を取り出し、操縦席の計器上に表示してあるのが、姿勢指示器です。パイロットは、この計器を見て機首が上がっているのか、下がっているのか、また、傾いているかどうかを判別します。姿勢指示器の表示は、仮想の水平線を示す棒状のものと仮想の飛行機を示す形状のものとがありますが、これらのバー(棒状の物)の幅は、大体マッチの軸ぐらいで、この幅を三分の一から四分の一位まで分割するような精度で飛行機を動かしています。

次に、空中戦闘、時間がないのでどんどん急いで進めます。空中戦闘では、通常1機対1機、2機対2機、4機対4機で訓練を行いますが、いずれにしても自分以外の一緒に飛んでいる飛行機がみんな何処に居るかを、自分がどんな格好になっても確実に見ていないと、ぶつかります。ぶつかったら必ず死ぬということは、みんな判っているわけです。

何故、空中戦闘をするかというと、犬の喧嘩じゃありませんが、現在ぐらい技術が発達しても、横方向に向いて射撃できる機関銃は未だありません。昔の爆撃機のように専門に担当する射手がいれば、横方向への射撃も可能でしょうが、戦闘機のように基本的に一人乗りか、二人乗りの場合は、不可能です。従って機関銃は前方にしか撃てないわけです。このためには、相手の後ろ側に回りこまなければ、有効な射撃が出来ないので、お互いに相手の後ろに入ろうと競い合うのが空中戦闘の基本です。

今頃のミサイルは、真正面・前方からでも射撃が可能であり、何キロも離れたところで撃つので、それこそ昔の戦国時代のようにヤアヤア我こそはというように名乗りあってというようなことではなく、やられる場合は、多分、気が付かないうちにドンとやられて一瞬の内に死んでいると言う風になっています。

それから、空中戦闘をする場合に、先程アフターバーナーについて申し上げましたけれども、この燃料消費量についてですが、より大きな推力を使用して、より急激な旋回をして、相手の後ろに回り込まないと負けてしまいますので、燃料は見る間になくなります。残燃料計の針は、アフターバーナーを使ってますと、砂時計じゃありませんが、ジワジワと目で見ていて減っていくのがわかります。このような状況なので、例えば100キロ先、200キロ先まで出かけて行く、ここで空中戦闘をする。この場合に、どれくらい空中戦闘をする時間があるかというと、状況にもよりますが、例えば7〜8分とか12〜3分という程度の時間です。それ以上粘っていますと、自分の燃料が無くなって帰れなくなります。このように空中戦闘で最大推力・アフターバーナーを使うと、このような短い時間の間で戦闘をするということになります。

空対空射撃というのは、機関銃やロケット、ミサイルによる射撃がありますが、機関銃射撃の場合、滑走路上に持ち込まれた約500メートル位のワイヤー付の標的を標的曳航機となった飛行機が引っ張って離陸します。ビニールで出来ていて、レーダー反射板が付いて真中に黒丸の書かれた縦2メートル、横12?メートル位の標的は、離陸と同時に片側のみに装着された錘により垂直に立ちヒラヒラと空中を曳航されます。

防衛庁の射撃訓練空域として告示されている海上の空域に到着後、標的曳航機のやや斜め後方の上方5,000〜8,000フィートに位置した射撃訓練機4機が、射撃のため最適位置である標的の斜め後方のほぼ同高度の位置に向かって急降下旋回で、順番に入って行きます。順番に交替で射撃をしている状態のある一瞬を、ストップ・モーションで見てみますと、例えば、1番着、射撃を終了し高度を取って元に位置に戻ってきた、2番機、射撃終了直後に標的を回避し元の高度へ上昇しつつある、3番機、射撃中、4番機、射撃位置に向かいつつ降下進入中、という状況です。

この状態は、低速度の標的曳航機の周りを高速の戦闘機が横に移動しながらグルグル回ることにより、それぞれの戦闘機が前に出ることなく標的曳航機と一団となって進みながら順番に射撃を行っていくという状況です。射撃の際の標的との距離の判定は、目で見るだけです。標的との衝突防止のために設定されている最短距離は、800フィート、約200メートルです。また、標的との最低の角度(真後ろの位置をゼロ度)は、15度であり、無理して粘っていると真後ろに来てしまう。後ろから撃つと、どうなるかというと、標的を曳航している飛行機を撃ってしまう。

標的曳航機と射撃をする戦闘機との速度差は、大体180ノットとか200ノットぐらいですので、射撃が許されている最短距離から標的にぶつかる迄の時間は約2.5秒ぐらいです。このような状況で、4機が標的曳航機の周りをグルグルと回りながら順番に射撃をしているわけですが、ある飛行機が標的に対して遅れ気味に後ろの方から進入している場合に、次に順番の飛行機が前方機の遅れていることに気付かずに通常の位置から進入をしたとすると、前方機は標的に向かって自分の射撃に神経を集中しているので、自分の次の飛行機が自分より斜め後上方から同じ標的に向かって進入しつつあることに気付かず、また、次の飛行機は自分の腹(胴体)の下にいる前方機が見えないため、2機が同じ目標に対して同時突進という状況になり、空中衝突し木っ端微塵という事故が、航空自衛隊の創設初期のころにありました。

このように機関銃で空中射撃をする場合に、絶対にやってはいけない事として常に強調されることは、規定の最小距離よりも標的に近付いて射撃をすること、ショート・レンジ、この場合、射撃が終わってから標的を避け切れずにぶつかってしまう。次に、遅れてしまって標的の真後ろに近い、標的に対して薄い角度になり、規定の最小角度である15度を切ってしまうというロー・アングル、このような位置から射撃をすると、先ほどの説明のように標的を曳航している飛行機を撃ってしまう。

もうひとつは、標的の高度よりも低い高度から上に向かって撃つことで、アップ・ファイヤーといいますが、もし、弾が標的よりも前方の標的曳航ワイヤーに当たった場合、標的の前方への進行が止まり、かつ、重力で下方に落ちてくる。自分は射撃が終わったら、上方へ回避運動をするので、標的にぶつかってしまうという事故例もありました。このようにショート・レンジ、ロー・アングル、アップ・ファイヤーという三つの禁止事項を厳守することが、事故防止のために極めた大事なことです。

地面に対しての射撃ですが、ナパーム弾という言葉をお聞きになったことがおありになるかどうか?中には油が一杯入っている爆弾で、地面すれすれに高速で飛んで行って落とす。
落下した爆弾は、ばらばらになり中の油が広い範囲に飛び散って火がつき燃えるというものです。この訓練の飛行高度は、当時、35フィートと規定されておりました。約10メートルで、戦闘機を90度傾けた時の翼幅くらいの高度です。この高度で約400ノット、時速約720キロメートルで飛ぶことは、面白いというかスリルが有ると言うか、私の同期のパイロットで、海上から砂浜にある標的に進入中に、少しモヤがかかっていたため、砂浜に機体を擦って生還した男がいます。

地面に対してほとんどまっ逆さまで進入してきて、最終的に降下角約60度で爆弾を投下する訓練ですが、投下ボタンを押したら爆弾の行方を絶対に目で追わずに直ちに引き上げ操作を開始するように厳しく指導されておりました。私も経験の浅かった頃、ロケット射撃において、この降下角度は約30度ですが、一度だけ投下ボタンを押してからロケットが飛んで行くのをほんの一瞬見た事がありました。次の瞬間、地面や周辺の木々が今までになくグウッと迫ってきたので恐怖を感じながら飛行機の荷重制限を超えないように注意しつつ引き上げたことがありました。この貴重な経験を得て、諸先輩からの常々の指導の意味が身にしみてわかりました。このような対地射撃訓練中に、引き起こしの時期を何らかの理由で失した事が原因と推定される事故事例もありました。



6 飛行試験



(時間不足のため、講演では割愛した部分)
飛行試験は、新製機の開発などに際して、設計性能・機能を確認し、取扱書の作成のために実施する。
1	試験の内容(全ての形状、形態での状況を確認)
・ 操縦装置の機能、応答性及び機体本来の性質=安定性・操縦性
・ 最低速度=失速速度、最高速度
・ 離陸・着陸性能(通常、失速速度の1.05〜1.2倍の速度)
・ 最大荷重(プラス側、マイナス側)
・ 性能全般(上昇・降下、航続距離、燃料消費率その他)
・ 搭載火器(機関銃、ロケット、爆弾)の発射、投下及び、投棄
・ 燃料タンクなどの外装品の投棄
・ レーダーなど搭載機器の性能・機能
2	試験の範囲
フライト・エンベロープ(飛行可能な速度、高度の範囲)=設計上の飛行可能範囲を確認。
速度及び高度を、それぞれ最小、中間、最大と分けて、確認。
3	危険度の大きい試験
・ 失速後の運動(スピン=きりもみ状態で落下など)と回復操作
・ 最大速度の確認
・ 火器類の発射試験、爆弾など外装品の投棄試験
4	新製機の試験に要する期間
・ ジェット練習機=1.5〜2年、戦闘機=2〜3年(戦闘機としてのレーダーや火器
の試験も含むので、期間が長い)
・ 新しい航空機やミサイルなどの開発から量産まで、約10年
・ 飛行試験に投入する試験用航空機の機数  米国=10機程度、日本=4〜5機(予
算上の制約)。機数が多いほど、金がかかるが、試験期間が短い。


7 帰投

訓練が終わり、自分の飛行場へ帰ってくる時のことですが、大型の旅客機であれば、もし、大阪の天気が悪ければ、東京まで行こうというように、燃料的にかなりの余裕があるわけですが、戦闘機の場合は、5分、10分の勝負ですので、飛行時間が一番短い時は、上がって射撃をやって45分から50分ぐらいで下りるという状況であり、そのような場合は1時間10分程度飛べる燃料しか積んでおりません。

このように戦闘機を含む小型ジェット機の場合は、訓練が終了する頃の残燃料と帰投予定の飛行場の天候とが、重要なファクターとなってきます。

8 着陸

(時間不足のため、講演では割愛した部分)
・ 進入速度
   プロペラ機=約70〜80ノット
 ジェット機=110〜200ノット
(F−104の場合:最低燃料量で、170ノット、残燃料量が1,000ポンド=約450キログラム=約120ガロン=ドラム缶2.4本分、増す毎に5ノット速度を増加)
(F−104の場合:フラップ(揚力の増加のために主翼の後縁を下げる装置)が故障の場合、230ノット+燃料分となる。タイヤ強度の制限速度は、公称240ノット。なお、約240ノット(約430KM/時)での滑走路への接近は、慣れないと少々、または、かなり怖く、慣れてくるとスリルがあって面白いが、高速のため所望の接地点に接地させるのが難しく、ちょっと失敗すると、アッという間に3,000メートルの滑走路の真ん中位まで来てしまい、もう一回アット思うと滑走路の反対の端まで来てしまう。)

・ 接地操作は、ショックがないのが良い場合とファントム機のように滑走路面に近づいても返し操作を何もしないでドカンと接地させて速度エネルギーを吸収させるのが良い場合とがある。

・ 接地後の制動
 アンチ・スッキド・ブレーキは、踏みっぱなしにしてもタイヤの回転が停止しないので、パンクすることなく最短距離で停止する。
   制動傘(ドラッグ・シュート)は、接地後の減速に効果があるが、その効果は機種によって異なり、開傘のショックも機種によって異なる。また、開傘時の速度が過剰であると、傘の布地が破れてしまうこともある。
F−104型機の導入初期には、タイヤの品質が良くなかったため、新品のタイヤを5〜7回の着陸で交換をしていた。

9 特徴的な事項

空中戦

超音速というのはどんな感じかと言いますと、どんな感じでもありません。自動車に乗っているのと同じです。
超音速飛行をするのは、通常雲の無い高高度ですので、速度感があるわけでもありませんし、計器を見て音速を超えているなという感じのです。遊園地のジェット・コースターなど色々とありますが、G(ジー)というか荷重というものがあります。

普通の旅客機というのは、大体2.5Gから3Gぐらいまで運用できるようになっております。実際には、1.2〜1.3G位で旋回しています。戦闘機の場合、大体8Gから9Gぐらいまで運用できるようになっております。このGというのは、どういうことかと申しますと、例えば体重が50キロの人が5Gかかると、その人の体重が250キロになるということです。戦闘機パイロットは大体7〜8Gぐらいまではみんな耐えることが出来ます。

ところがGをかけ過ぎると、意識は失っていないのだけれども、血液が目の方に行かなくなって回りが真っ暗になるとか、逆にマイナスGをかけますと血が上がり過ぎて回りの視界がなんとなく赤っぽくなるとか、いずれにしても、その時の体調などを含む限度を超えて長時間持続すると、本当に気絶をして、そのまま原因不明の事故になる。

それから昔、ソ連があった頃、対領空侵犯措置を行うための緊急要撃待機についている戦闘機が、スクランブル発進することが頻繁にありましたけれども、スクランブルで上がって行くことを、我々は"男の花道"と呼んでおりました。

それから最後に死生観ということで一つ申しますと、鈴木先生、藤沢先生がここに居られますけれども、旧軍時代の方は、特に特攻で出撃された方というのは、私には想像のしようもないような厳しい状況だったと思うのですが、逃げ場が無いという意味で。私は、航空自衛隊で32年間勤務しましたが、その間に自分が喧嘩をしたり、一緒に酒飲んだりとか、そういう仲間だったりした人達が、33人亡くなっておられます。

この32年間に、私に特にご縁のあった33人という数字の5〜6倍位の方が殉職されているのではないかと思います。そのような事故が発生した場合に何を思っているかと言うと、間違って失敗をする、失敗をしたら事故が起きる、事故が起きたら死ぬ、ということはF−1レーサーもそうでしょうけども、当然のこととして、一寸格好つけて申しますと、冷徹に認識しております。

それでも何故続けるのかというと、俺はそうならないというふうに自分で皆が思っているわけです。そうならないためには、事故事例だとか教訓を研究する、先輩の教えを謙虚に聞く、それから自分の技量とか判断を信じる、それから運とツキを信じる。それに加えて、また最後、私の親父の話になりますけれども、私の退官記念の会において述べたお礼の言葉について、"お蔭様で"という言葉以外に考えつかなかったと退職後に親父に話しましたら、天が恵みを与える、天が赦しを与えるという意味の、「天恵とか天赦という言葉があるだろ」と言われまして、自分なりに納得をしました。

一寸駆け足で話を進めたにもかかわらず、自分の話したいことの四分の一か五分の一位しか話せませんでしたが、時間がきましたので、これで終わらせて頂きます。

後段の部/質問

では、引き続き始めます。
吉川さんから私のピアノのご紹介がありましたけど、私のジャズ・ピアノの先生であり、人生の師である鈴木正(まさし)先生が、あそこに来て頂いておりますが、レイモンド・コンデさんのバンドで長らくピアノを弾いておられました。また、お友達のジャズ・ギターの藤沢先生もいらしておられます。

「質問」:最初の質問ですが、燃料消費量はどれぐらいですか?
「回答」:1海里(1ノウテイカル・マイル)でどれぐらいか?ということですが、一寸適当な写真がありませんが、この胴体の下に付けているタンクが600ガロン・タンク(外装タンクとしては、最大容量で、F−4型機、F−15型機などに搭載)です。ドラム缶と言ったら分かりますかね?若い方!容量は、50ガロンです。従って600ガロン・タンクは、ドラム缶12本分です。エンジン単発のジェット練習機や朝鮮戦争、東京オリンピックで五輪の輪を書いたF−86Fなどで、外装タンクを含めた全搭載燃料量は、約800ガロンです。大体ドラム缶16本位です。これで、長くただ浮いているだけという飛び方をすると、2時間半から3時間ぐらい飛べますけど、通常の飛び方をしておりますと、1時間20分から30分位で、あとは自分の飛行場に帰ってきて、誰かが滑走路上でパンクをしたとか、天候が急変したとかで、最寄りの他の飛行場へ向かうためのギリギリの予備燃料です。

「質問」:エンジンの推力が何ポンドか?
「回答」:最近の戦闘機の性能は、推力と機体重量との比率、推力重量比が、1.0を超えております。単発の小型ジェット機で5〜8トン、大型の戦闘機で25トン位です。例えば最大の燃料搭載で、総重量が54,000ポンド(24.5トン)として、双発エンジンの合計最大推力が36,000ポンド(約16トン)とすると、残燃料量が少なくなり機体の総重量が、36,000ポンドよりも軽くなると、推力重量比は1.0より大きくなります。この場合、エンジン1個の推力は、約18,000ポンド(約8トン)です。、飛行機が止まっていると、操縦桿を動かしても機体は動きませんが、操縦桿が効いてくる最小速度以上で飛行していて、機首を真上に向けると、機体の重量よりも推力の方が大きいので、飛行機は真上にどんどん上昇していく訳です。 「質問」:使用単位?
  「回答」:欧州、カナダでの単位ですか?アメリカ、ヨーロッパや日本では、フィート、ポンド、ノットの世界です。現在のロシアなど旧東欧圏では、メートル、キログラム、時速何キロメートルという単位を使用していると思います。

「質問」:これは、大庫さんから頂いたご質問ですが、女性は戦闘機乗りには適さないか?適さない場合は、その理由を教えて下さい。
「回答」:私は女になったことがないのでよく分かりませんが、車の運転に関して女性ドライバーで安心して乗れるのが、仮に10人に2人位だとすると、男の場合は10人に5人位だというのが妥当だとすれば、パイロットに適する女性の割合は、男性に比べてやはりそんなものだと思います。これも、精神力の話と、注意配分能力の話と両方合わさって、パイロットとして、特に戦闘機パイロットとして資質があるかどうかと言えると思うんですが、例えば車を運転していて突然子供が前に飛び出した場合に、最初にキャという声が出て手を上げてしまうような人は、駄目でしょうね。それと、もうひとつは、一点集中はいけませんという事が言われます。例えば高度を保たなければならない時に、高度計だけに注意を集中して見ていると、速度が増える、減る,機体が傾くということでは駄目で、全般をバランス良く見ながら自分の考えるように飛行機の状態を整えていくことが求められます。別の言い方をすると、運動神経とは全く関係の無い世界だと私は思っております。注意配分能力、これは車の運転の場合も同じだと思いますが、注意配分を必要に応じて行い、必要な情報、すなわち高度、速度、方位、残燃料なり、目的飛行場の天候なりを計器などから収集して、自分が考える望ましい状況、状態からのズレを確認し、所要の修正を行う。このような判断と操作を連続して適正に出来る人と出来ない人と違いであり、このようなことについての男女の特徴的なことについては、私は分かりません。

「質問」:背面飛行をしている時、操縦士はどのような気持ち(感覚)になるのですか?地球に落ちるという感覚でしょうか?
「回答」:ここに飛行機の床か座席があるとします。この床がストンと外れた場合、その上の人間は、地球の重力に基づき自由落下します。重力は、飛行機がどんな速度で進んでいようが、ヘリコプターがホバリング(空中停止)していようが、常時継続的に同じ力で働いているわけです。従って、人間が自由落下する速度と同じ速度でこの床・座席、すなわち飛行機を降下させると、その人は自分の体重がゼロになり、フワッと浮いた見かけ上の無重力状態となります。アメリカで実施されていた宇宙飛行士の訓練では、大型機の機首を高く上げてからこの要領で機首を下げることにより、無重力状態を作り出していました。機首が水平線よりも下がった状態を長く続けるとどんどん速度が増加しますので、制限速度を超えないように水平飛行に戻さなければなりません。

背面で水平飛行をしているということは、パイロットを座席に縛着するベルトが無ければ地球に向かって落ちて行きますので、この状態は、マイナス 1Gです。鉄棒に逆さまに足でぶら下がっているのと同じ状態です。また、宙返りをする場合に機首を引き上げていって機首が垂直に上を向いた状態でも、さらに宙返りを続けて背面になった状態でも、連続的に操縦桿を引き続けてGがかかっていると、パイロットの体にはプラスG、すなわち体が座席に押し付けられる力・荷重がかかっている状態になります。背面状態でパイロットの体が地球に向かって自由落下する速さよりも速い速度で座席、すなわち飛行機が下方に向かって動いているということです。旋回をする場合は、通常、旋回する側に飛行機を傾けますが、背面で旋回をする場合は、例えば右に旋回をする場合に、左に90度以上、180度以内に傾けた背面姿勢をとり、操縦桿を押すと背面で右旋回をすることになります。

この場合、マイナス1G以上のマイナスGがかかっている状態であり、バンドをしっかり絞めて、かつ空いた左手で体が座席から浮かないようにしなければなりません。

「質問」:音速に入る瞬間は何か変化を感じますか?
「回答」:速度の増加と共に機体の周りの空気が次第に圧縮され衝撃波というものが発生します。そして機種によっても、また、そのときの状況によっても異なりますが、機体の回りを流れる空気の音がだんだん騒がしく聞こえたりすることもあります。外気圧と機体の前進による空気圧とを感知・測定する鉛筆のような棒状のものが機体外部に取り付けられておりますが、これをピトー管と言います。この側面に外気圧を測定するための小さな穴が数個ありますが、速度が増加して衝撃波がこの穴のあるところを前方から後方へ通過する直前に、高度計の指示が実際よりも次第に低い高度を示すようになり、その通過の瞬間、高度計の針がクルッと約1,000フィート近く高い側に動き正常な高度を指示するようになります。

「質問」:冷戦が去った現在もスクランブル発進事態は多く発生しているのでしょうか?
「回答」:防衛白書などに説明されていると思いますが、例えば冷戦時代に年間300件位あったとすると、冷戦終了後は約半分から三分の一位に減っていると思いますが、色々な理由によるスクランブル発信は依然としてあると思います。

「質問」:非常時の場合、荒天でも飛ぶことになりますが、どのような訓練をなさっているのでしょうか?
「回答」:一般的に離陸よりも着陸の方が難しいわけですが、離陸する場合、滑走路の端に離陸目標灯という灯火があり、それが見えている限りそれを目標に方向保持をしながら加速し、燃料及びその他の搭載物の重量に応じた規定の速度まで加速したら飛行機を浮揚させて、雲の中に入ったら計器飛行に移ります。ところが、着陸の場合は、長さと幅が限定された滑走路に進入・接地するわけですので、滑走路の幅の延長線上に飛行機の位置を保ち、かつ、望ましい接地位置(進入滑走路の手前側の端より少し中に入った所。もし、行過ぎて真ん中位に設置すると、残りの滑走路の長さで停止できずオーバーラン)しなければなりません。このためには、雨、雪、もや、霧などがあっても、ある距離まで前方が見え、かつ、雲の塊の最下層部と地面(滑走路)との間にある高さの空間がないと実行不可能です。離陸及び着陸のための最低気象条件は、飛行場ごとに周りの地形などの状況を勘案して定められています。この最低気象条件のもとででも編隊を確実に組んで離着陸できるように、日常、訓練を行っています。

「質問」:空中戦闘訓練において、シミュレーターによる訓練と標的を用い実弾で行う訓練とはどのような差異がありますか? 
「回答:シミュレーターでの訓練は、基本的な手順などの練習には効果的ですが、失敗しても落ちない、空中衝突しても死なない、Gがかからない、残燃料についての心配が不要など、実機による訓練とは色々と状況が違います。ミサイルを発射する場合の衝撃は、例えば2~3センチ以上の厚さの鉄板の上に自分が座っていて、その鉄板を大きな鉄のハンマーで叩かれたような衝撃です。また、機関銃の射撃は、1分間に約4,000発の弾が出ますが、牛がモーと鳴いた時のような音と共に機体に振動があります。爆弾投下の場合は、振動はありませんが、投下の瞬間に機体が一瞬軽くなったような感じがあります。このような事が、実機訓練との違いです。

「質問」:ミサイルによる空中戦闘訓練で、実弾を撃たないACMIによる訓練と標的に実弾を撃つ訓練とでは、どのような差異がありますか?
  「回答」:ACMIとは、ある立体的な空間を設定して、その空間に所在する全ての航空機を補足出来るレーダーを、地上または海面上に複数設置します。このことにより、その空間に所在する航空機同士の3次元空間における刻刻の相対的な位置関係が地上で把握でき、かつ、それをデータとして記録・保存・再現できます。従って、より正確、詳細なデータを根拠とした効果的な教育・訓練の実施が可能となります。実弾訓練との差異は、前のご質問のとおりです。

「質問」:飛行中は、外で一服というわけにはいかず、かなりの精神力が必要と思いますが、平常心を保つためにどのような方法を取っておられますか?
「回答」:酸素マスクを装着しているので、吸いたくても吸えません。マスクは、通常、エンジン始動の前に装着しますが、マスクに通話用のマイクロ・ホーンが内蔵されています。私は今まで何回も禁煙をしましたが、ある時、数ヶ月間の教育課程に入校し、その間は禁煙が守れたのですが、教育終了後、また、飛行の現場に戻り、最初の飛行での着陸後、つい手が出て禁煙が破れました。緊張する飛行の後の一服や一杯のコーヒーは、美味いですね。

「質問」:ジェット戦闘機が垂直に上昇して上昇を止め、後ずさりするように落下し始めて、落下中に飛行機を立て直すことが出来るのでしょうか?
「回答」:世界中で設計される全ての飛行機は、その様な状態になったとしても回復できるように作ろうとされています。これは、飛行機の動きは全てその飛行機の重心を中心にして前後、左右に回転しますので、飛行機の尾部の方から落下しても、落下によって発生する空気流の力により尾部の水平尾翼や垂直尾翼に空気流が当たり、機首が下方に向くようになり、落下と共に加速してし、舵が効くようになり回復します。しかし、戦闘機の場合は、設計目的・任務目的が重視されますので、戦闘機としてある能力や性能が優れていれば、その様な状態になれば安全に回復できない飛行機でも、性能を安全性とトレイド・オフすることなく、運用される例も時にはあります。

「質問」:着陸時に制動版とパラシュート以外に、例えば逆噴射のような機能はないのですか?
「回答」:戦闘機に逆噴射装置を装備している例は、世界でもほとんどありません。技術的には当然可能なのですが、その様な装置を装備する事は、それなりの重量と機体内のスペースが必要となります。戦闘機の場合は、少しでも燃料を多く搭載して戦闘時間や航続距離を長くしたり、弾を一発でも多く搭載したいのです。限られた条件の中で、戦闘機としての性能を少しでも高めるためには、逆噴射装置の必要性の度合いが低いのです。

「質問」:1分間に30,000フィートも上昇をすると、鼓膜への影響は無いのでしょうか?
「回答」:基本的には影響の無いような本来の身体的条件(身体検査)のもとで飛行しておりますので、問題ありません。人間の耳の鼓膜の内側にある空間は、オー氏管という狭い通路で鼻と喉と口に通じています。地上で1気圧であるこの空間は、上昇と共に中の空気がオー氏管から咽の方へ抜けます。このようにして、口の中と鼓膜内側の空間との圧力が等圧となり、鼓膜が外側に押される事はありません。高空で等圧になっているこの空間が、飛行機の降下に伴い低圧のままで残ると、鼓膜は外側からの高い空気圧で内側に押されます。この耳が詰まった状態のまま降下を続けると、その圧力差が増大し、最後には辛抱できないくらい耳が痛くなります。このオー氏管は、鼓膜内側の空間から喉の方への空気は通しやすいが、喉側から鼓膜内の空間への空気は通しにくいという性質を持っています。従って、上昇時よりも降下時の方が、耳が詰まりやすいわけです。風邪気味、二日酔い?気味のような時は、オー氏管の空気の通りが悪くなるので、注意を要します。耳が詰まりやすい人や風邪を引いている人が、もし旅客機に乗り、目的地に近づき高高度から降下をする場合には、ガムを噛むとか、口を大きく開けるとかして、あごの骨の付け根を動かすことにより、オー氏管に刺激を与え、空気の通じのきっかけを作れば、問題が解消する可能性があります。

「質問」:戦闘機パイロットが使用する面白い用語?
「回答」:例@ 了解=ラジャー(ROGER),警察などの地上無線での交信の場合=テン・フォウアー(TEN−FOUR)。聞き間違いをさけるため。例A 残燃料量が少なくなり、予め打ち合わせた量まで減った時に編隊内の他の者に知らせる場合=ビンゴー(BINGO)と無線送信。「上がりー?」。例B 飛行場へ帰るために必要なギリギリの燃料量になった場合=ジョーカー(JOKER)と無線送信.例C ダイヤモンド隊形を組んだ時の真後ろの4番機=スロット(SLOT)。スロット・マシンのコイン差し入れ口=狭い溝で身動きが出来ない状態に置かれること。例D 弾切れ=ウインチェスター(WINCHESTER)と無線送信。機関銃射撃で、弾を撃ちつくした場合。飲みに行って、金が無くなった場合にも、パイロット同志では通じた。

*** 「以上」 ***



会場写真撮影:橋本 燿
HTML制作:大野令治

談話室 HOME