神田雑学大学平成16年5月28日講義録

第216回神田雑学大学抄録

テーマ『ちんちんかもかもの秘密』

講師 得猪 外明

日 時

 平成16年5月28日(金) 18時〜20時

場  所

 千代田ボランテアセンター


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・講 師 紹 介

・オノマトペ

・オノマトペの法則

・ちんちんかもかもの話

・日本語の特徴

・日本語はどうしてできたか

・オノマトペの発達

・小説とオノマトペ

・音楽とオノマトペ

講 師 紹 介

神田雑学大学理事 得猪 外明さん
しゃぶしゃぶとかチンドン屋という言葉は感性に訴えるその民族独得の言葉です。 日本語はその特徴から世界一擬態語の豊富な言語といわれています。 鶏の鳴き声が国によって聞こえ方が違うことから擬態語 の面白さにはまった話しです。

オノマトペ

オノマトペとは、擬音語(含擬声語)と擬態語の総称であります。 フランス語のonomatopeeが語源で「音の模倣によって物事や動作を命名したり、それによってことばを作ったりすること」と定義されます。 ここに「トン考」を出版され、神田雑学大学でも講演された津田謙二氏が、実地に調べられた世界の豚の鳴き声の羅列があります。

  これによると、アメリカのオインクオインクを筆頭に各国で鳴き声が違い、ブーブーと鳴いているのは、世界で日本だけであることがわかります。 日本人からみれば「もっと真面目に鳴け」といいたいところですが、豚にいわせると「もっと真面目に聞け」で、 これは豚の言い分のほうが正しいのです。

擬声語とは、ことほどさように出鱈目なもので、郭公の鳴き声も、英語はクックー(cuckoo)フランス語はクク(coucou)、ドイツ語はクックック(kuckkuck)、ロシヤ語はククシュカ(kulushuka )と、同じ鳴き声でも民族の錯覚と先入感でみな違います。 ウグイスのホーホケキョや、蝉のツクつくツクホーシも、日本人だけが思い込んでいる鳴き声です。

日本語は、世界一擬態語が発達している言語といわれ、独得の簡単な表現で日本人同士はわかる言葉を使っています。例えば、オモチャのガラガラや、チンドン屋は擬音語がそのまま名詞になった例です。擬態語は音はしなくても状況を表す表現で、たとえば料理のシャブシャブなどは、難しい説明をしなくても日本人ならすぐわかります。 英語に堪能な人を「あの人は英語がペラペらだ」といえば、非常に簡単な表現で済ますことができます。

オノマトペの法則

オノマトペは、口からでまかせにできたように見えますが、実は一定の原則があります。 代表的なものをあげますと

A 型 (ふ)

Aッ   (きっ さっ ぴっ)

Aン   (きん こん かん)

A- (さー ぐー すー)

AA (へへ ふふ だだ)

AッA (かっか さっさ ぱっぱ)

AッAッ (ぱっぱっ ぴっぴっ ぽっぽっ)

AんAん (くんくん つんつん ぱんぱん)

A-A- (かーかー ぐーぐー ぴーぴー)

AB (どさ どき どて)

ABッ   (どきっ ぱかっ むかっ)

ABン   (くすん ちくん ぱりん)

ABリ   (きらり ちくり ぺろり)

AッBリ  (さっくり むっくり ぴっかり)

AンBリ  (こんもり こんがり ぼんやり)

ABAB (きらきら にこにこ ぴかぴか)

ABB (うふふ ひゅるる)

このなかでABAB型がだんとつに多く、オノマトペは日本語で1200あるとも1500 あるともいわれますが、英語は300から400だそうで、それほど日本語は特徴のあることばなのです。

ちんちんかもかもの話

鳥の鳴き声を、日本独特の表現で聞き写したことばはたくさんあります。
北原白秋作詞 近衛秀麿作曲のちんちん千鳥の歌は

ちんちん千鳥の鳴く夜さは 夜さは
がらす戸閉めてもなお寒い 寒い・・・


というものですが千鳥はちんちんと鳴いているでしょうか。
日本にはイカルチドリ コチドリ シロチドリ メダイチドリ オオメダイチドリの5種類がいますが、どれもちんちんとは鳴いていません。 古来から、日本人は千鳥の鳴き声が大好きで歌にうたってきました。 本来、ちどりの鳴き声はチッ、チッ、チッと聞こえます。人はチヨ、チヨと聞き写したのです。

君が代の作詞者は不明ですが、これは古今和歌集 巻7 賀歌の

しほの山 さしでの磯に住む千鳥 君が御世をば やちよとぞ鳴く

が原典になっているといわれます。これは
さしでの磯に住む千鳥はわが君の齢が八千年も続くと信じて鳴いている
という意味で、作者は一般的な千鳥の声「チヨ」に「千代」の意味を匂わせました。 さらに「チヨ チヨ チヨ」と、何回もなくので「八」という、たくさん、おめでたい意味をこめて「八千代」という賀歌になったといわれます。

「ちんちんかもかも」は江戸時代の小唄「ちんちん節」からきています。

ならぬ恋なら やめたもましよ 沖のちんちん千鳥が 羽うち違えの恋衣
さてよいナか それが定よ 沖のちんちん千鳥が羽うち違えの恋衣 さてよいなか


で現代風に訳すと

実らぬ恋ならおやめなさい 沖のちんちん千鳥が羽打ち交わす
しっぽりした恋 それでこそううのだよ


という意味で 男女が睦まじくしている情景を、やきもち半分にからかっていう言葉です。

日本語の特徴

日本語は、世界一覚えるのが簡単で、マスターするのが難しい言語だといえます。日本に来た外国人は、ローマ字が読めれば比較的早く、日常生活に必要な会話は覚えることができます。 これは、日本語の音節(モーラ)がアイウエオ以下114しかなく、全ての音節の最後が母音で終わり、これをゆっくり発音しても意味がわかることに起因します。

日本人が外国へ行っても、音節が無数にあって発音が難しいので、日本語のように早く覚えるのは困難です。 これは日本にきた力士などのインタビューを聞いてもお判りになるとおもいます。日本語は、英語にくらべて舌や唇の動きが非常に単純に出来ています。 しかし、オノマトペの感性が理解できるまでには、非常に時間がかかります。

たとえば、アッサリとサッパリ キッパリとハッキリ ホカホカとホクホク スッパダカとマッパダカの違いなどは、十年以上も住んでみないと理解できないところがあるのです。 それと、日本人は単語を4文字に纏めてしまう癖があり、モームスとか、フユソナとか、 ストパーなど、日本語の感性に訴えるような言葉がたくさんあります

日本語はどうしてできたか

このような特徴のある日本語がどうしてできたかということは、日本人は何処から来たか、ということになりますが、 一般的に朝鮮から対馬を経て出雲に来たグループ、大陸から北九州に来たグループ、南方の島々から黒潮に乗って九州南部に来たグループ、 北から陸沿いに来たアイヌ系のグループがあるといわれます。ところが、 日本語の特徴をもった言語は何処にもみあたりません。比較言語学で、日本語のルーツは朝鮮語であるとか、タミル語であるとか、 アルタイ語であるとか、多くの学説がありますが、どれも決め手がありません。

私の個人的な見解ですが、ハワイの言葉がワイキキとか、ホノルルとか、カメハメハなど、日本語と同じオノマトペ的使い方が共通しており、南方から来た言語がルーツになっているような気もしますが、数万年から数十万年以前から原日本人がいて、独得な日本語を持っていたという説もあります。

オノマトペの発達

人間が言葉を作ったとき、最初に出来たのは音を聞き写した擬音語だったと思われますが、日本に初めて輸入された漢字が8世紀で、それまで日本人は文字を持っていませんでしたから、どのようなオノマトペがあったかわかりません。

万葉集に出てくる擬態語には

淡雪(あわゆき)のほどろほどろに降りしけば
平城(なら)の京(みやこ)し思ほゆるかも  大伴旅人


(牡丹雪が、いくらか間遠にぽたりぽたりと降り続いている時に、ひょっと平城の京
のことが思い出されることよ)のように、現代では使われていない擬態語があります。

源氏物語になると女性の形容に あざあざ(紫の上のあざやかなさま)おぼおぼ(ぼんやりしているという意味で正体の掴み難い浮舟という女性だけに使われた)ほかにけざけざ、たおたお、なよなよ、やはやは などという表現が出てきます。 今昔物語や伊勢物語では犬がびよと鳴いたとか赤ん坊がイガーと鳴いたとか、鯰の骨が喉にささってえぶえぶと吐き出したという珍しい表現があります。 俳句の世界には普通オノマトペは使われませんが、なかには

   春の海 ひねもすのたり のたりかな (蕪村)

   あかあかと 日はつれなくも 秋の風 (芭蕉)

など巧妙に擬態語を織り込んだ名句もあります。

小説とオノマトペ

三島由紀夫は、小説にオノマトペを使うことを徹底的に拒否しました。文章読本巻7に次のような描写があります。 「擬音語のだいいちの特徴は、抽象性がないということであります。

これは事物をありのままに人の耳に伝達するだけの作用でしかなく、言語が本来の機能を持たない堕落した形であります。 それが抽象的言語の間に混じると、言語の抽象性を汚し濫用されるに及んで作品の世界の独立性を汚します。

これに異を唱えたのは田辺聖子です。小説「男はころり女はごろり」のなかで「これにくらべ、男の手ざわりはどうか。 全然なっとらんではないか。ちょっとでも感じのよい部分があるだろうか。片や女,赤ちゃん、びろうど、 猫がフワフワ、シットリ、スベスベだとすると、片や男というものは「老いたる、 若きもろともに」ゴツゴツ、ザラザラ、ギシギシ、カサカサである。

無精ひげでも生えていればゾリゾリと卸し金かヤスリのごときもの、 たまにツルツルだったりすると剥げ頭だったりして「いい感じ」というのがない。 一般に、官能小説といわれるものにはオノマトペがよくでてきます。小説を読むとき、この作者は、 オノマトペをどのように織り込んでいるのを見ることは、興味あることです。

音楽とオノマトペ

童謡、演歌は日本人の感性に訴えるオノマトペだらけです。 チイチイパッパ チイパッパ で雀はチイチイと鳴きますがパッパとはなきません。 しかし、雀の情景がよくでています。

あめあめ降れ降れ母さんが蛇の目でお迎えうれしいな 
ピッチピッチチャップ チャップ ランランラン


なども雨をたのしんでいる子供の気持が伝わってきます。
このように、詩人は人の感性に訴えるオノマトペを考え出して、巧妙に表現しているのです。 
                 
終わり
  
        文責:得猪外明 会場撮影:橋本曜 HTML制作:上野治子