神田雑学大学 2004年6月11日講義録

クラシック音楽をもっと面白く

講師 好田タクト


 みなさん、こんにちは。私は好田タクトという音楽を中心とする芸人です。

ここにあるホースを吹いても簡単に音は出ませんが、チューバのマウスピースを先端に付けるといろいろな音が出せる。やかん、如雨露をくっつけても音が鳴ります。ホースを吹く芸は戦後ホグーというイギリスの面白音楽祭で既に知られていました。私も高校時代、ブラスバンドに入っていた時に面白半分で日用品で音を出していました。好田タクトという芸名は、世界の指揮者の物まねをするので、ビートたけしさんからテレビ番組の中でもらったものです。指揮棒をタクトといいますね。

 指揮者の物まねはジャンルから言えば、和芸でもないし、パントマイムとも違うし、お芝居でもない。極端に言えば珍芸にあたる珍しい芸で、世界でもこんなネタをしているのは私だけしかいないと思います。普段は牧野伸二さんが会長をしている東京演芸協会に所属しています。なんで「指揮者の物まね」のネタをするようになったかというと、高校時代にブラスバンドをしていたからです。私は兵庫の出身で、関西人は笑いでコミニュケーションをとる。ブラスバンドで指揮者をやらせてもらった時に、普通にやるよりは面白おかしくやりたいなと思って、変装をしたら、すごく受けました。

これはいいやと19、20才の頃、「お笑いの勝ち抜き戦番組」に出始めた。TBSの「タケシのサドンデス」は賞品が車、海外旅行なので、応募して出演しました。大阪の吉本でオーデションがあり、他の人は漫才などでしたが、私は「指揮者の物まね」をしたら変わっているということで、テレビに出演しなさいといわれました。1回戦は「猫踏んじゃった」で最高点だったが、テレビには映らなかった。決勝で「指揮者の物まね」をしてチャンピオンになったのですが、今回から賞品が変わって、タケシさんから素晴らしい芸名が貰えますといわれた。それをきっかけにテレビに出演するようになりました。

 その後、吉本から誘われ、いきなり出させてやるといわれ、「吉本新喜劇」で出演しました。しかし、大きな企業でやるのは自分の性格に合わないのではないかと思うようになりました。吉本とか宝塚は才能云々ではなく、言われたとおりのネタをしゃべり、毎回映せばタレントから必ずスターは出る。しかし自分の個性は生かしにくい。吉本のような大きな組織にいれば、そこそこ食っていけるが、自分の個性を殺すことになる。4〜5年経ったところで辞めて、東京へ出てきて大道芸をするようになりました。大道芸というのは全く後ろの背景もなく、自分の芸だけで面白かったら投げ銭をくれる、面白くなかったら人は去っていくという厳しい世界です。だけど格好よいと思って、26才で飛び込んだのでした。

 一時、NHK教育テレビ「あしたもげんきくん」のお兄さん役を4年位やっていたことがあります。最近、小学校では生活科で理科、社会を遊びで教えるようになった。生活科の動機付けの番組で、発明家のお兄さんの役「げんきくん」を演じました。4年間出演して全国の小学校を廻って、動物と遊んだり、田植えをしたり、名刺つくりなどしました。この「あしたもげんきくん」はかなりの人気番組で、教育テレビ賞最高視聴率8.6%をとりました。最終回は200万円で「まんじゅう食べ放題マシン」でした。ギャラは5日間で3万円と安いが顔が売れるので、他のイベントから声がかかる。この経験でメデアの有り難さと怖さを学びました。テレビの作り方は結構こわい面があり、操作されている場合があります。

 たとえ面白くなくても、笑い声を横から入れてしまうことが出来る。そうすると面白く感じてしまう。日本人はテレビが大好きだから、テレビの力が強く、テレビに出ていれば売れている芸人で、出ていないと二流とみなされる。ところが大道芸は全然違う。ヨーロッパでは大道芸をやっていると座ってみてくれる。投げ銭をくれて文句をいう。
 
 面白くなければ去っていく。日本では人気タレントだと集まるが、知らない芸人だと30秒もしないうちに行ってしまう。私もげんきくんをやっていたときは人が集まったのですが、番組の作られたキャラクターのイメージが浸透して、普通の芸が受け入れられない面がある。歌舞伎やオペラをテレビで中継しますが、面白いと思いますか。リアル、生での面白さと、映像というフイルターが入ったものとは面白さが違う。

 神戸大震災のときにNHKの契約をやめて、ふるさとの神戸に戻って半年くらいボランティア活動をしました。子供たちに芸を見せて慰めるボランティア活動でした。31才の時、初めて海外へ行って自分の芸が通用するかチャレンジしてみようと考えました。ヨーロッパへ行って大道芸をすると、ヨーロッパの人は目の前の現象をじっくりと5〜20分でも見てくれる。ヨーロッパでは演芸とテレビは独立していて演芸の地位は高い。

 ヨーロッパで演劇が盛んなのは判る気がする。日本ではテレビに出ないと食べていけない。ヨーロッパで大道芸をしていて、居心地が良くなり、あっという間に半年が経過しました。11月静岡のワールドカップ、4月横浜野毛の大道芸に毎年出演しているので帰国しました。半年で19カ国、70都市を廻って、ヨーロッパでの大道芸は楽しかったし、自信にもなった。自分のやっていることは間違っていないと確信しました。

 ただ「げんきくん」を離れて4〜5年たつと、イベントの仕事が減ってきた。日本では7〜8年前まで大道芸が許可されなかったが、石原知事が始めて大道芸を許可するようになり、私は東京都認定の第1号です。ヨーロッパでは、パリ、ローマ、オスロ、バルセロナに夫々ここは大道芸のメッカという場所がある。今は東京も大道芸がすごく出来る町ということで、世界から注目されています。日本は円が強いから外人からみると、日本で大道芸をすると結構いい金になる。

 日本人はテレビでしか見ない。芸はしゃべくりと落語しか無いから、ギャグリングは物珍しくすごく受ける。パントマイム、雑技は珍しいので人が集まる。逆に音楽は人気がない。ヨーロッパでは道でよくバイオリン、アコーデオンを弾いている人が多い。これは日常生活に音楽が浸透している部分もあるが、音楽コンクールで入賞していても音楽だけで食べていくのは苦しい。そういう人たちが自分の芸を磨くために、道で演奏している。

 私は5年前から演芸場(浅草演芸場、国立演芸場、東洋館)に出演するようになったが、舞台でやるのと大道芸は違う。大道芸はたんたんと芸をやり、人が集まり去っていく。いわば芸を直線的にする。舞台はしゃべりを入れないと客が興味を持ってくれない。いわゆる「つかみ」が大事である。最初に、この人は面白いなと思ってくれるようなことをやらなければいけない。ここで見本を示しましょう。「数の遊び」。このようなことをすると、客は拍手してくれて笑わしてくれるのかということで、関心を持って聞いてくれる。そのあと、指揮者の物まねをします。

 皆さん、指揮者を知っていますか? これは「カールベイム」といって20世紀最高の指揮者の1人です。カラヤン、バーンスタインは良く知られたかっこいい指揮者ですが、カールベイムはオペラあがり、歌劇場あがりの指揮者で実力世界一といわれている。指揮者の物まねをしていると、派手な指揮者が多いですが、こういう渋い指揮者に好みが移っていく。カラヤンはやり手で自分がどの角度から映っているのかということも全部計算して、カメラはこちらから撮影しなさいと指示する。客から見るとこれがかっこよいと受ける。

 カラヤン、は最初目をつぶっている。観客にどう受けるかちゃんと計算している。カラヤンもオペラあがりの指揮者で、オペラの指揮の時はちゃんと目を開けており、映像のときと使い分けている。ベルリンフィルはカラヤンが売れっ子でお金をすごく儲けるので、カラヤンのわがままを聞いている。日本で特に人気があるが、米国には行っていない。

 チェリベラッケは正反対でレコード録音を拒みメデアに背を向けて、孤高のカリスマといわれた。生きながら伝説の指揮者とされていたチェリベラッケが1980年ロンドン交響楽団と来日して行なったコンサートは語り草となった。チェリベラッケは気難しく、一切笑わない。普通オーケストラの演奏は3日間練習するが、彼は6日間練習を要求する。音楽のために、妥協を一切しない。楽団員の悪口を言うし、衝突をするのでどこへ行っても上手くいかない。でも作り出す音楽は妥協が無いから素晴らしく良い音楽である。

 カラヤンのように商業的に大衆受けする音楽と対照的に、映像も録音も拒否してその場だけの指揮者である。ずっと怒っているでしょう。私はこの人の物まねをミュンヘンでしたら、客に違うといわれた。彼はミュンヘンの出身で地元では神様であります。

 ブラビンスキーはソ連の指揮者で当時絶対外国に出なかった。この人も超カリスマで20世紀最大の指揮者の1人といわれている。飛行機が大嫌いで日本に来るときはシベリア鉄道で来た。この人も、にこりともうんともしない。

 カルロス・クライバーは今生きている中では一番人気がある指揮者で、1年に1回しか演奏しないが、日本にも1回来た。ヨーロッパでこの人の物まねが一番人気があった。私は15〜20人の指揮者の物まねをやるが、日本では元が判らないということで上手くいかない。後半は私が指揮者の物まね芸をするのでよかったら「ブラボー」と声援を送ってください。多少デフォルメしていますが、何人かの気に入った指揮者の物まねをします。

 最初は今人気があり明るくアクティブな ジェームス・レヴァイン  の物まねをします。彼はメトロポリタンオペラを世界最高レベルにした指揮者です。カリスマ性の話ですが、有名な指揮者レナード・バーンスタインはウエストサイドストーリーの作曲家でもあるが、にこにこしながら急に怒ったりする。なぜ急に怒ったりするのかというインタビューに対して、無理だと判っていてもいきなり怒ることは大切である。いきなり怒ると皆びっくりするでしょう。

 びっくりして緊張状態が生まれて、私に対して慎重になり頑張ろうという気持ちになる。こんな話を聞くと怒ることがカリスマかと思ってしまう。本当に超一流の人は逆に人間味があり悠然としているのではないかと思う。指揮者の世界では30〜40才は若造で、50〜60才でようやく一人前、70才くらいで巨匠と呼ばれる。80才以上の指揮者はあまりいない。

 遅咲きで一番有名な指揮者は 朝比奈隆   で、50年間大阪フィルハーモニーでずっと地道に指揮者をやってきて、ラスト5年間で大ブレークした。超カリスマでシカゴフィルハーモニーでもどこでも大人気でチケットは即日完売、演奏が終わるとお客がスタンディング・オベーションで立って拍手する。オーケストラが帰っちゃっても「朝比奈隆」と叫んで待っている。本当にスタンディング・オベーションがあるのか、このビデオを見てください。

 1907年生まれで90才のときの演奏で、泣いている人もいるくらいですが、93才で亡くなった。次に私が一番大好きな朝比奈隆の指揮の物まねをします。
朝比奈隆はベートーベンが大得意で「ベートーベン第5番(運命)」の演奏をします。「運命」の演奏にもいろいろあり、早い遅いがある。これは遅い演奏の例ですが、フリッチャーという指揮者で当時カラヤンと人気を二分していた。「ベートーベン第9番(合唱)」を年末に演奏するのは日本だけである。

 大体、巨匠と呼ばれる指揮者はおおげさに重たく派手にする傾向がある。音楽の面白さは同じ題材であっても、指揮者によって違う音楽に聞こえることにある。クラシックの世界でも栄枯盛衰があり、時代によって好みが変化している。私の若い頃はベートーベン、ブラームスが主流であったが、今はマーラ、サテー、シュスタコフビッチの演奏が多い。モーツアルトは今また人気が出てきた。ここでふざけた音楽を1曲聴いてください。

 フローレンス・ジェンインス といって石油王の奥さんがお金に物を言わせて、オペラが好きなので、カーネギーホールを借り切って自分の歌を歌って録音した。世界一音痴だけど金の力でこんなことをした。従来、指揮者の力はあまり強くなかったが、カラヤンとか朝比奈隆だと人気があり、チケットも直ぐ完売するので指揮者の発言力が強くなり、出演料も高い。

 海外でも最近オペラの人気は下降している。クラシック音楽に限らず、お客を育てる、お客と離れない、独りよがりにならない、しかし客に迎合しすぎてわかり易いものだけでも駄目で、そのバランスが大切です。まずは自分が何をしたいのか、何を出来るのか、自分だけの独創性を提供してお客が共感してくれればしめたものです。私の芸は時々新聞などで取り上げてくれますが、実際のところ商売にはなりにくい。

 最後に小沢征爾の物まねをしましょう。かつらは2種類用意しています。私の好きな「マーラ交響曲2番」を演奏します 

早坂 光平氏の感想
 好田タクトさんの講演が雑大で6月11日にありました。
人柄が滲み出て来るような芸に感動しました。
クラシック音楽でのオーケストラ指揮者の指揮振りを真似する趣旨の芸ですが、しゃべりの中で芸人の人柄が滲み出る感じがとても良いですね。真似自体には誇張の嫌味が出る面もありますが、気になりません。

 演芸も組織化とメディア化がされる時代なので、芸人が組織色とメディア色に染められる事が進んでいます。人工甘味料とか、人工着色料とか、様々な薬品を使ってのように、組織色とメディア色に染め上げられた着色人間の芸が体調に悪いこともあるようです。神様から頂いた自然色の人柄が健康に最も良いかもしれません。しかし、人柄の維持が大変なようです。

好田さんはNHKなどでご活躍の後、10を超える国々の70を超える都市で大道芸に励んだそうです。日本では基本的に認められておらず、また、妨害も多いことですが、東京都知事が認可した大道芸人の第一号になったそうです。
我々よりも若い好田さんに自然色の人柄を感じ、有り難く思います。
子供とか老人を始め様々な人々の様々な会合の場などでご活躍されることを祈ります。後略



文責;神馬照正  会場写真;橋本曜  HTML編集他;山本啓一