神田雑学大学
第227回 平成16年8月13日 講義録
翔べ翔べ蛍「ホタルさんと共に生きる」

講師:阿 部 宜 男
1.はじめに

ただ今ご紹介に預かりました板橋区の阿部でございます。私を見ますと、あいつは何なんだい?一体!茶髪で、ガングロで、何屋だ!!と云われますが、あくまでもこれは白髪を染めている、という認識でいて下さい。また、ガングロではなく、阿部といわれるより土方(ヒジカタ)歳三、通称土方(ドカタ)と呼ばれ、土方焼け(どかたやけ)をしています。これもひとつはホタルさんへの思い遣りです。

板橋区役所へ勤めて24年になりますが、ただ単に役所に勤めていている(時間から時間まで)だけではダメです。やはり役所も営業能力がなければ無理だ、ということを昭和55年に入庁以来思っていました。私は板橋区の蓮根で生れ育ちました。実家は商売をやっていましたから、金銭感覚には非常に敏感でした。私は三男でしたので、家業は継がなかったです。私は暴走族も経験しました。そんな奴がどうしてホタルなの?と皆さんにそう言われます。

私はいま、日本人が日本人ではなくなっているのが非常に悲しいです。合理的な日本人の顔をした西洋人に変わっています。日本人は感性豊かで、非常に感慨深く、いろいろなものにキメ細かく、人の思い遣りを大切にする。それが今の世の中どうでしょう!残念ながらそれらは失われてしまったのです。どうしてでしょうか?それは「癒し効果」が無いからです。

ですから中高年の自殺や考えられないほどの青少年の事件・事故が多発しているのは、「自然環境と遠く離れているからだ」と研究の結果、様々な分野で発表させて戴いています。
ひとつの枠にこだわらず、何ごとにも「ベストを尽くす」。私は「努力」という言葉は好きではありません。「ベストを尽くす」、「最善を尽くす」、努力は当たり前、生きていく上では当然のことなのです。

2.ホタルについて知ろう
そして出来るところから始めよう 
ホタルさんとは、どんな昆虫なの?大抵の皆さんはご存知なので、詳しくはお話しませんが、カブトムシ、クワガタ、ゲンゴロウなどの仲間です。発行器を二つ、メスは一つ持っています。これは何故か?メスはタマゴの袋を持っ
ているからです。ゲンジボタルでおよそ800個前後、ヘイケボタルで50〜80個のタマゴを持っています。数の子のようなツブツブしたものがタマゴで、不思議なのは幼虫の段階からタマゴが作られている、ということです。

世界中にはおよそ2,000種のホタルがいます。日本には45〜46種、人によっては44種という人もおり、アベレージをとって44種類と覚えて下さい。極端な人は28種、33種、60種という人もいますが、それは亜種をも含めた数字です。通常42〜46種で、真ん中をとって44種が定説になっています。
ホタルは完全変態です。変態とは動物が幼虫から成体になる途中で、著しい形態的変化を行うことです。「バッタ」のようにタマゴ・幼虫・成虫だけの不完全変態と「チョウ」のようにタマゴ・幼虫・サナギ・成虫と全く異なる完全変態とがあります。

ゲンジボタル、ヘイケボタル、そして1994年沖縄の久米島で新しく発見されたゲンジボタルに近いといわれるホタルさんだけが水生です。外国人が見て、何故日本のホタルさんは水辺にいるの?何故湿地帯にいるの?と言います。外国のホタルさんは、アメリカにしてもヨーロッパにしても、みな陸生だからです。日本は四季がハッキリしていて水、土そして空気、全ての段階で良い環境なのです。ホタルは良い環境でないと棲めません。

世界中見ても、ゲンジボタルさん、ヘイケボタルさんが棲めるような環境は無いのです。東南アジアにしてもアマゾンにしても湿地帯はあります。そういう所にもいません。勿論、陸生のホタルはたくさんいます。ホタルはいますけれど、8割は発光しません。ホタル2,000種のうち1,600種は光らないのです。光が退化してしまったのです。従って、彼らのコミュニケーションは、光によるものでなく、フェロモンによってコミュニケーションを図っているのです。

日本のホタルは44種のうち、32種は発光しません。それはタマゴの時だけ光ったり、幼虫の時だけ光ったり、また、メスしか光らない、オスしか光らない、といった状態です。
ところが、ゲンジボタル、ヘイケボタル、そして久米島のホタルは「幼虫期を水中で過ごし、そして上陸し、土に入って羽化して翔ぶ」。水、土、空気、緑、湿度そして日照の時間等々、全ての段階が必要なのです。

「板橋区ホタル飼育施設」では、福島県大熊町からゲンジボタルのタマゴを約300個、ヘイケボタルの故郷(ふるさと)、栃木県栗山村の平家塚から700個のタマゴからヘイケボタルは始まりましたが、その時、驚くことに湯西川の奥にある栗山村にしろ、徳島の祖谷(いや)地方にしろ、平家の落人が住んだと言われても、当時の状況では本当に住んでいたのかと疑いますが、そこにはすべてホタルさんが棲んでいました。今は棲んでいなくても、その当時からホタルさんは棲んでいました。どういうことかと言いますと、午前中はシッカリと日が当たる。

西日があまり当たらない。真ん中に必ず小川や河川が流れている。その水を使って我々の祖先は米を作ったり、畑を作ったりする良い水でありました。それからあと立地条件に必ず平地が一部分あるということ、そのために我々の祖先はホタルさんに導かれた、と言っても過言ではないでしょう。それを考えると、日本人の移動してきた経緯・経過のなかに、新しい田畑が出来るようなところに行ったのではないでしょうか。人の居たところには必ずホタルさんがいた、ということが立証されています。

ホタルさんの一生は、「タマゴを生んで、それからおよそ30日間でタマゴから孵化して、水の中で約9〜10ヶ月間、翌年の春3月から5月にかけて上陸して、土の中で約40日間ジットして、それから羽化して1週間の命を終わる」というのがサイクルです。特に、ゲンジボタルは大型で、南は鹿児島から北は青森にしか棲息しない大変貴重な日本の固有種です。

これを儚(はかな)いか?というとそうではありません。ここまでくるのに1年間かかっているのですから!でも皆さん、ホタルを見ると儚いとか、侘しい、切ないとか言います。私は、これは新しい言葉だと思っています。皆さんは桜の花が散ってもチッとも可哀想とは思わないでしょう。美しいと思っている筈です。桜の下での宴(うたげ)はありますが、ホタルの宴は余りありません。ホタルの茶会はありますが‥‥。何故か?ホタルは昔から神聖なもので、ご先祖さまの乗り移りとか、人の魂の乗り移りとか言われています。

ホタルは、昔は当然いて当たり前、毎年見る事が出来る生き物でした。ところが戦後、河川が汚れていき、数がドンドン減ってきました。そういうところに儚さ、侘しさや悲しさなどが生れたのではないでしょうか?要するに桜の木がそこに存在すれば、「来年も咲くという約束事」がシッカリ出来上がっているのに反し、残念ながらホタルさんについては「来年も翔ぶ」という約束事が出来ないのです。

それは、河川が汚れてもダメ、また上陸地に農薬や化学汚染、コンクリート岸壁にしてしまう等々の悪条件、水の中では幼虫は元気でも、上陸しても潜る所が無ければダメ、例え土があっても農薬や化学肥料で汚染されていればサナギになることは出来ないのです。ですから、全ての環境の面で完璧な状態、パーフェクトでなければならないのです。

ホタルさんのタマゴの大きさは0.5ミリくらいです。1匹のホタルから500から1,000個のタマゴが生れます。「板橋区ホタル飼育施設」では毎年アベレージをとっています。5ペアを産卵させてその数を全部数え、合計して5で割ります。今年は789個でした。去年は813個でした。今年は全体で141万4,195個生みました。いま現在孵化している数は125万匹です。残念ながら全部が育つということはあり得ません。

ホタルの幼虫は巻貝の一種「カワニナ」を食べます。ホタルさんからはたくさんのことを教わります。「無駄なことは決してしない、仲間を大切にする」。ホタルは6回から7回脱皮します。同じ日に生れても脱皮の時期はマチマチです。従って大きさにもバラつきがあります。何故か?同じ大きさで脱皮していったら125万匹以上の幼虫が、同じカワニナの大きさを食べなければなりません。

カワニナの大小サマザマな大きさに似合うように自分たちで調整しています。不思議なことに、翌春になるとすべて帳尻があう、すべてが同じ大きさになっています。そのうち2割はまだ残っています。川や池や沼でもう一年浪人して、それから親になる。鮭も同じ習性をもっています。何故なのか、まだ解明されていません。

ホタルの上陸は光ながらします。この現象はゲンジボタル、ヘイケボタルそして久米島のホタルしかありません。上陸する日は必ず雨の降った日です。今年は上陸の時、異常気象で雨が非常に少なかったです。ホタルは体内に高度な気圧計を持っています。表(おもて)の気圧が下がらなければ、人為的に下げるためには水槽では、掃除機の管を入れ密閉すれば若干気圧は下がります。それでも上陸はします。やはり今年は表の異常気象にはキツイ面もありました。そして通気性の良い土繭(つちまゆ)を作り、最後の脱皮をし、土から出ました。

サナギは土の中で光っています。従って上陸した土の上は絶対に歩かないようにして下さい!よく案内人が上陸地点を指して、そこを歩いて説明しているのを見かけますが、それは絶対に止めてください。サナギを潰しているのと同じです。サナギは夜露を飲んでいます。ホタルは何故光るの?コミュニケーションを図るために光ります。プロポーズの合図です。ホタルさんは不思議な生き物で、7日間を自分の命とすると、5日間は決して翔びません。あまり発光もしません。自分の命を大切にしています。

残り2日で事を起こします。数からいってメスは断然少ないです。メス1に対してオス3〜5倍です。オスは光を出して綺麗な曲線を描きながら翔びながら自分の相手を探しますが、オスからメスへの求愛行動は出来ません。メスにしかオスを選ぶ権利はありません。今年の板橋の飼育施設ではゲンジボタル8,600匹のうち2,300匹はメスでした。3.8倍の競争率でした。

1匹のオスが翔んでいる時間は日没後30分、午後8時から9時ごろまでが活動時間です。その1時間以内に全部が求愛行動するのではなく、命があと2日間しかないグループが翔ぶのです。大体5つくらいのグループになります。仮に1,000匹のオスがいて、5日目の答が200匹としたら40匹ずつ5グループに分かれます。40匹が1グループになります。1回翔ぶのに1〜2分です。それが常に入れ替わっています。アイスホッケーの試合を見ているようです。

それでもメスは1回では判断しません。オスの全部が翔んだ200匹を5回転くらいした時に、「やっぱりアイツだな」と見定めたら、強い光を発して合図を送ります。そのための発光器なのです。ここでは光る原理は省略いたします。
ゲンジボタルで最大で6ルックスの明るさです。かなり明るいです。満月の明るさは1ルックスです。

互いに相手を見つけ、ペアリングが成功した時は、オスは時には愛情行動が一晩中に及ぶことがあります。愛情行動後はすぐには死にません。1日くらいは生きています。風が無く、暖かい月明かりの無い日が好都合です。コミュニケーションを図るためには、自分の灯りでメッセージを送るのですから、月明かりにいくら送ってもダメです。ですから月明かりの無いドンヨリと曇った日に翔ぶのが良いのです。ホタルさんは敏感な生き物なのです。

何故いま、大事な生き物なの?ホタルは汚れた環境では生きられない虫です。至るところで見られたホタルが、今では見られなくなってしまいました。そこで環境整備に力を入れています。東京大神宮様に今年3月整備を行いました。絶対的に無理なところ以外は極力、私ども板橋区ホタル飼育施設では日本中を再生しに出かけています。

朱鷺(とき)の学名を付けた方は誰だか知っていますか?「ニッポニア・ニッポン」を知っていても、名付け親は知らない人が多いです。オランダのシーボルト先生です。長崎から来て、津軽海峡を渡るところに朱鷺の群れを見ました。1対を捕獲して剥製にしてオランダのライデン博物館に送りました。数年後にその結果が来ました。「これは新種である」ことが判明しました。シーボルト先生は、これは日本にしかいないのだから「ニッポニア・ニッポン」と名付けました。

残念ながらホタルさんは、ゲンジボタルまたは水に棲むホタルさんのことを「ルキオラ」または「ルシオラ」と言います。LUX(灯り)をラテン語風にもじったものです。ゲンジボタルさんは前胸の赤いところに十字の黒い模様があり、「クルシエタ」と言います。クロスの語源になったフェニキア語です。ロシア人のモチャレスキーが名付け親です。

「ルキオラ・クルシエタ・モチャレスキー」と言います。残念ながら、日本にしかいない、日本にしか棲息していないゲンジボタルの学名を、どうして外国人が付けたのか?私はそれだけが悲しいです。ヘイケボタルもそうです。「ルキオラ・ラティラリス」と言い、小さく輝くというフェニキア語です。これもロシア人のモチャレスキーの命名です。

3.ホタルと光の感性
 私たちは単にホタルさんを育てているのではなく、光が「人の心を癒す効果」にならなければ何にもならない、と考えています。特に精神的な病を持っている方とかホスピスとか医療関係で非常に癒されない人たちに「あなたが最期に見たい生き物は何ですか?」とアンケートをとりますと、平均年齢63歳の方はホタルと答えた方が80%いました。そういう方に、映像で見せるホタルと実物で見せるホタルとは全然違う訳ですね。

 さて、どうしよう!大学の先生方と協議して、ホタルコンピュータを作り上げました。約300時間のデータを処理し、常に揺らして本物と同じように温度、湿度により変化するものでした。これは特許も取得しました。
 いま、公には日立の「シビックセンター」、「富山県立自然ホタル館」、それから山口県豊田町にある「ホタルミュージアム」、「北九州ホタル館」に「ホタル・イルミネーション・ロボット」は置いてあります。それはゲンジボタル、ヘイケボタルとも両方出来ます。

それを2000年12月14日、板橋の病院で行いました。外気温4℃くらいの寒い日でした。北海道から九州まで150人ほど呼び集めました。ホタルコンピュータを置き、パァ〜と輝かさせました。そうしたら、「冬のホタルは飛ばないんだね〜」、飛ばない筈です。ダイオードで出来ているのですから‥‥。NHKの「ニュース10」の取材も、アンケートもとり終り、最後にネタをバラしました。「ゴメンナサイ、これはホタルコンピュータなのです」と謝りました。なかには怒った人もおり、10発くらい顔を殴られました。

ホタルが持っている快適空間とは何なの?と言えば、それは「ゆらぎ」なのです。常にゆらいでいることです。「1/f(ゆらぎ)」、「1/f2  (ゆらぎ)」なのです。「1/f」とは、一言で言えば、私たちに対して精神的な安らぎを与えてくれる可能性のある変動(波)現象とされています。これは、そよ風、川のせせらぎや潮騒など、私たちの身の回りにごく自然に存在する心地よい変動現象にも存在します。

ホタルが飛ぶ様子―ゆらぎ―を三次元グラフで分析して一定の方程式をつくり、それを壁紙とか模様にしますと、癒しの空間の模様になります。何に使うかというと、飛行機の安全運航は当たり前、しかしながら、一便も安心運行が無い、この安心感にこの壁紙を活用することによって快適空間、空の旅を楽しむことが出来、楽しんで欲しいのです。

ゲンジボタルの光を音に変換すると、1/fも1/f2  もそっくりな曲があります。1/f2  は規則正しいリズムのことです。モーツアルトの曲がピタリと当てはまります。モーツアルトの曲はゲンジボタルのオスの光に似ています。ヘイケボタルの光はベートベンの「田園」第一楽章に近いです。モーツアルトは静か〜な感じがします。

また、逆に虫の音を光に変換出来ないか?と考えます。目の不自由な人にホタルさんの光云々といっても無理です。それを音に変換して上げる。残念ながら目が見えても、耳が不自由な人には光に変えて上げる。ヘレンケラー女史のような三重苦の人には振動を与えて上げる。実はこの音・光・振動の全てが完成しました。

「バーチャル・イルミネーション・システム」で作ったホタルの光と本物の光とは殆ど同じです。ある国立大学の病院の手術室にこれを置きたいと言っています。癒されて、安心して全身麻酔をうけられるとか、また、歯医者で置きたいとか、そういう効果があります。

今年のホタル施設のゲンジボタル、ヘイケボタルの夜間特別公開には日本各地はもちろん、世界から16,500人の方が見学に見えましたが、その時にランダムにアンケートをとりましたが、ゲンジボタルの光は人間の脳のα波を刺激し活き活きとさせる力を持っていることが分かります。

ある実験をしました。わざと嫌がらせをし、いらつかせた人を密閉された部屋に入れます。恐怖心が生れてきます。そして急にヘッドギヤーを付けさせると脳波はメタメタになります。ホタルのバーチャル・イルミネーション・システムの光を見せると、大体3分以内で落ち着いてきます。ホタルは如何に人間にとって大切な生き物であるか、が分かります。

私は常に日本中の再生を行う所には、トンボ返りでも行きます。北海道・音更(オトフケ)でも北九州でも日帰りで行きます。北九州の小倉で水槽に「カビ」が出ている、と電話を受けましたが、電話を受けた場所は土讃線で阿波池田に向う「南風号」の車中でした。間もなく児島から瀬戸内海を渡る途中でした。「明日行きます」と返事をしましたが―岡山から小倉までは新幹線で1時間半くらいですが―私は池田に行き、池田から東京に戻り、ホタルさんの面倒を見て、翌日「のぞみ1号」で行きました。向こうに着いて水槽を見ましたら、それは「カビ」ではありませんでした。「これは塩素ですよ。水道水を入れましたね」。「ハイ、入れました」。「水道水は止めましょう」と言って、その間15分から20分居て、新幹線で東京へ戻ってきました。電車で行くと考え事が出来て良いです。

4.廿一世紀にかけるホタルの舞

板橋区ホタル飼育施設をご覧下さい。
http://www.ecopolis.city.itabashi.tokyo.jp/hotaru/


以  上

文責:桑 垣 俊 宏  会場写真 橋本 曜  HTML編集:山本 啓一