神田雑学大学 2004年11月5日講義録


「高齢期を冴えた脳で過ごす」



講師  大庭 春美






 講師 大庭春美さん大庭春美です。まず初めに高齢期のボケ、痴呆に興味を持つようになった経緯をお話しておきたいと思います。私は現在、夫と25歳の娘、私の両親と暮らしています。私は20年くらい仕事をしてきましたが、子どもたちも大学を卒業しましたので、これからは自分のやりたいことをやろうと、昨年12月に退職いたしました。ちょうどそんな時に、私の両親と九州に住む夫の母親にボケの様子が見え始めたのです。それがきっかけで、年をとってもボケずに生きていく方法はないものかと考え始めました。

最近は年齢が高くなって体が不自由になっても、いろいろな補助具を利用することができます。例えば足が利かなくなれば杖がありますし、それでだめなら車椅子があります。さらに電動車椅子という便利なものもあります。それから眼鏡、小型化された補聴器などもあります。からだが衰えてもこれらの補助具を使えば、かなり快適な老後が送れるのではないかと考えます。しかし脳に関しては、現在のところ補助具はありません。

これを着ければボケていた頭がパッとよくなるというようなものはないわけですから、さてどうしたものかと考えました。この1年間、本を読んだり、専門の先生の講座を聞きに行ったりして、私なりに勉強してみました。
ですから今日みなさんにお話しする内容は決して専門的なものではなく、一主婦が自分の人生の後半をどう生きるかということを、ボケの問題とからめて考えたことを聞いていただくというものです。よろしくおつきあいください。

まず大脳のお話をします。私たちはみな同じように140億個の神経細胞を持っています。これは大人になるまでどんどん増えていくわけではなく、胎児から生後約1年の間にでき上がるものです。さかんに細胞分裂して増殖し140億個の神経細胞を持って、みな同じスタートラインにつくわけです。

ところがその後は1秒に1個ずつ脳細胞が死んでいくのです。ですから1日に約8万6千個が死んで、1年にすると3,140万個死滅していきます。50歳までに約10億万個死滅しますので、私はちょうど今10億万個死んだところです。そして100歳まで長生きすると36億個死んでしまうことになります。ところが、例え100歳まで長生きして脳細胞がたくさん死んだと思っていても、実は脳細胞の7割は生き残っている計算になります。しかも、普段私たちは現在ある脳細胞のうちの6分の1しか使っていないそうです。ということは、普通は私たちが生まれた時にもらった最初の140億個の神経細胞の10%くらい、例えフルに活用する人でも20%くらいしか使っていないということになるそうです。これはちょっともったいないなと思います。

受講生のみなさん ところで、みなさんも学校で脳細胞はいったん死ぬともう復活しないと教わったと思います。しかし、最近はかなり高齢になっても新しい細胞が生まれてくるという研究発表があるそうですし、前頭葉(脳の前部、考える部分)は死ぬまで、わずかではあっても発達しているという研究発表もあるそうです。さらに、脳を活発に使っていると、

脳細胞と脳細胞を繋ぐシナプスという通路が、死んだ脳細胞の代わりの働きをしてくれるというのです。ですから、年をとってたくさん脳細胞が死んでしまったと嘆く必要はないようです。大切なのは私たちの頭の使い方、言い換えれば生きかた次第ということになるのです。

さて、人間の脳は3層構造になっています。真ん中に一番原始的な脳、別名植物脳という生命維持を司る脳があります。その外側に動物脳といわれる、下等な哺乳類の脳があり、さらにその外側にチンパンジーなどの高等な哺乳類の脳があります。つまり私たち人間の脳を見れば、原始的な脳から段々と進化してことが分かるわけです。
さらに人間にしかない脳が、私たちの額の部分にある前頭葉です。ここで考えたり、分析したりするわけです。つまり3層構造ではあるけれど、もっとていねいに言えば私たちは4つの脳を持っていることになります。

さきほどの脳細胞の死滅との関連で言いますと、私たち人間の脳は原始的な脳から徐々に高度に発達してきましたが、逆に退化する時は一番進化したところから死んでいくそうです。言い換えれば、ボケたからといってすぐに命の危険はありません。人間の生命維持に直結する部位ほど原始的なため、簡単には壊れない仕組みになっているからです。しかし、人間としての思考や情緒が働かなくなります。意欲的に発想したり、感動したりすることがなくなって、計画を立てられなくなったり、表情が乏しくなってしまいます。

受講生のみなさん ところで、厚生省のデータによりますと、痴呆性老人は1990年に95万人、95年には123万人と5年間で約30%近く増えています。手元のデータが古いので推計ですが、2000年には150万人になるだろうと予想しています。さらに2020年には270万人を超えてしまうことになります。ですから、どんどん痴呆の人が増えていって、うっかりしていると私たちもその仲間入りをしかねません。
 
 さて次にボケについてお話したいと思います。まずボケや痴呆という言葉の使い方についてですが、専門家の中には、ボケは医学用語ではないので使わないという人もいるようです。しかし、痴呆の初期の段階をボケと呼び、さらに進んだ段階を痴呆と呼ぶお医者さんも多いようですので、私はそちらを採用しました。
ボケというのは脳の働き、機能が鈍くなってくること、つまり脳の機能が低下したことを言います。これは回復可能だそうです。私たちの心がけや努力によっては、多少ボケが始まっていても回復することはできるそうです。ところが痴呆になると機能そのものが喪失しまうため、もう元には戻りません。

ボケと痴呆の違いを具体的にお話しますと、ボケの場合は食事をしたことは覚えているけれど、何を食べたのかが思い出せないというレベルです。一方、痴呆は食事をしたこと自体を忘れてしまいます。私の父は時々そう言います。自分は食べ終わったばかりなのに、私たち家族がまだ食べていると、「僕、ご飯食べたかな?」、「これ、僕のご飯?」などと言って、またテーブルにつこうとします。

言い換えれば、いったん獲得した知的な機能が低下あるいは喪失することによって、社会生活に支障をきたすことがボケ、あるいは痴呆であるという状態です。社会生活が困難なために介助がなければ日常生活ができないという状態です。
いくつか例をお話ししたいと思います。みなさんのまわりにもいらっしゃるかも知れませんが、いろんなタイプがあるそうです。

(1)昔からよく言われる典型的なタイプは、退職後ボケてしまうタイプです。仕事を喪失したことによってボケるタイプ、特に男性に多いと言われています。仕事一辺倒できた人は、仕事にしか頭を使ってこなかったので、その部分がなくなってしまうと当然頭の働きが衰えます。現役の時は家には寝に帰るだけで、休日は家でゴロゴロしているというような人に多いそうです。さらに気をつけなくてはならないのは、仕事が専門的になればなるほど、多様な物事に対する脳の対応力が衰えがちなので、ボケる可能性が高いそうです。また、退職前でも仕事中毒の人はなりやすく、比較的若い人でも要注意です。

(2)飲酒によるボケ。お酒を飲むということは脳が休んでしまうことだそうです。酒びたりという状態になるといつも脳は休んでいることになります。同じ話しを繰り返す、相手の話が理解できない、自分中心の話ばかりするという特徴があるそうです。お酒をよく召し上がる人はお気をつけ下さい。

(3)パターン化した生活からくるボケ。つまり刺激のない生活です。毎日の生活が同じ流れで、決まった仕事は速くできるけれど、それ以外のものにはなかなか対応できない人です。これは几帳面な人、仕事がよくできる人に多いそうです。

(4)家庭的な問題から生じるボケ。一見仲良く見える夫婦は、実はお互いに依存し合っている場合があるそうです。長い間自己主張もせずお互いに我慢し合い、個性を抑える生活を送ってきたためにボケてしまうのです。
妻がボケたと言って夫婦で受診した事例をお話します。奥さんは黙って座っているだけ、自分がどこにいるかも分からないし、テストをしても計算もできない。そして医師が患者である奥さんに質問すると、ご主人が横からパッと答えてしまう。そういう状態で何回か通院していたところ、パタッと来なくなってしまった。医師がどうしたのかと思っていると、しばらくして娘さんに伴われて来院した。実はご主人が急死して、お葬式や後始末でしばらく来れなかったと言うのです。

受講生 ところがご主人と一緒の来院の時は何も分からない、何も反応しない状態だった奥さんがどんどんしっかりしてくる。と言うのも、ご主人が亡くなってお葬式でお客さんに挨拶をしたり、応対をしたのが刺激になって頭が働き始めたのです。その後もいろいろな手続きや毎日のお墓参りなどで、どんどん頭が働くようになってきた。

しばらくは通院していたけれど、ついに通院の必要がないレベルまで回復したそうです。ご主人に依存してすっかりお休みしていた脳が、依存する対象を失ったことによって甦ったというわけです。ですから仲良し夫婦もあまりよくないのかも知れませんね。

さて少し話は変わりますが、次に一般的な老化についてお話しします。老化の特徴は3つあります。第1に戻れない、非可逆的であること。私たちは毎年一つずつ年をとりますが、いやになったからといって戻ることはできません。これが第一の特徴です。第2は老化には個体差があるということです。その人その人の個人差です。余談ですが、人によって若く見える人と老けて見える人とあります。これにも法則性があって、高齢になるほど、若々しく見える人と老けて見える人の幅が大きくなるそうです。

例えば25歳の人は大体プラスマイナス2歳くらいで、せいぜい24歳から26歳くらいの幅。ところがだんだん年齢が高くなるとその幅が大きくなって、80歳ではプラスマイナス20歳だそうです。確かにそうかも知れません。例えば最近よくお年寄りを扱ったテレビ番組がありますが、すごく精進して元気な方は80歳代でも60歳代に見える人がいます。このように老化には個体差があるそうです。ちょっと耳の痛い話ですね。

老化の特徴の3番目は、一人の人間でも臓器によって個体差があるということです。老化が進む臓器と進まない臓器があるのだそうです。個体差がない臓器は、例えば眼、歯、卵巣。ですから一定の年齢になるとみなさん老眼になって、手元が見にくくなります。歯も同じように一定の年齢になると弱ってきます。一方、個体差のある臓器は脳と血管だそうです。だからこそ脳は使い方によっては、それほど衰えさせないようにすることができるわけです。血管も多分そうだと思います。いわゆる生活習慣病にならないように食生活や運動に心を配っていれば、高齢になっても健康な血管のままで生きられるのだと思います。

さて、またボケの話に戻ります。
(1)ボケの徴候として忘れっぽくなることがよく指摘されます。しかし、これは誰にでもあると思います。忘れっぽくなっても思い出せればいいそうです。あるとき突然、「ああ、そう言えば」と思い出せればいいのですが、ただし、すっかり忘れてしまうのは危険らしいです。

(2)もう一つ、ボケの徴候にうつ状態があるそうです。不精になって外出を嫌がる、何事にも意欲がなくなる、自発的に計画して何かをやったりするのが面倒くさくなる、という状態です。

(3)それからこれは興味深いなと思うのですが、一つのことをしていると、ほかのことに注意が行かなくなるようです。ですから複数の作業がこなせないのです。例えば本を読んでいる母に声を掛けても聞こえない場合があります。没頭している、集中しているというよりもまわりのことが目に入らない、聞こえないという感じで反応がないのです。注意力が衰えたということなのでしょうか。

(4)それから目の輝きが失せる、眼球の動きが鈍くなるというのも、脳の働きが鈍くなった徴候だそうです。眼球の動きというのは人間の高次機能、レベルの高い脳の機能を司る前頭前野の部分の働きに敏感に反応する場所です。私たちが朝起きてまだ寝ぼけてぼんやりしているときと同じ原理かと、私は理解しました。ですからぼんやりしていたり、目がどんよりしていたら、ボケの徴候かなと気をつけた方がいいようです。

受講生 次に痴呆の種類です。みなさんもよくご存知のようにアルツハイマー型老年痴呆と脳血管性痴呆の2種類があります。アルツハイマーというのはまだ学説が確定していないらしく、原因もよく分かっていないし、治療方法もこれぞというものはないようです。40〜50歳代と若い時期に発病するということですので、それだけに家族にはさまざまな負担がかかるのでしょう。

記憶、方向感覚、言語やコミュニケーション能力、論理的思考などが低下するので、症状としてはかなり深刻なものですね。原因としては遺伝によるもの、女性ホルモン、なかには生活習慣によるものだと主張する専門家がいるそうです。女性の方が男性より2倍も多いそうです。そのために原因は女性ホルモンではないかと言われ、改善薬として女性ホルモン薬を投与するケースも多いようです。

現在のところ、アルツハイマー型痴呆は病気と捉えられていますが、脳血管性痴呆は脳動脈硬化、脳血管の老化による脳梗塞などによって引き起こされることが多く、予防は可能だそうです。先ほどからお話しているとおり、今日私が取り上げたいのは後者の方です。つまり医学的なことは専門ではありませんので、どのようなことに注意したら頭もすっきり、体も快適な高齢期を過ごせるかということを、脳血管性痴呆の問題を通して考えていきたいと思います。

したがって、ここからが本題です。ボケやすい人のライフスタイルについてお話します。ここに来られている方々のように、意欲的に生活しておられる方たちには該当しませんね。私の両親はとにかく消極的で、外出もしませんし、夫婦二人で家の中にいるだけです。この暮らしをずっと続けてきましたので、多分痴呆になりやすい典型的な夫婦だと思います。

(1)積極性がない、自主性がないという生活態度です。あれをやったら、これをやったらと家族に言われて初めてどっこいしょっと動き始めるタイプです。さきほども少し触れましたが、退職して一人でぼんやり家にいたりすると1年半から2年で軽度から中度の痴呆になるそうです。この段階はまだ回復可能なのですが、2年から4年間このままの生活を続けていると重度の痴呆になってしまうそうです。

(2)それから団欒のない家族関係もいけません。これは想像がつくと思いますが、会話がなかったり、お互いの交流がなければ、家庭の中に刺激がないわけです。ボケを進める要因になってしまいます。
(3)感性欠如症候群、いわゆる感情の表現の乏しいタイプの人もボケやすいと言われます。

講師 大庭春美さん (4)面白いのは、慣れている行動というのもボケやすくなる要因なのだそうです。慣れた行動、同じ行動ばかりしていると脳がパターン化して処理をしてしまうそうです。すると、いろいろなことを自分の頭でその場に応じて考えたり、集中したりという処理がなくなって、頭を通過しないまま、手や足や目などの各レベルでパッと仕事を処理してしまうからです。気をつけなければいけないのは、

家庭の主婦ではないかと思います。とかく主婦は、朝起きてご飯を作って、お洗濯をして買い物に行って、晩ご飯を作って家族の帰りを待つ、というようなパターンになり勝ちだと思います。意識的に外に出るとか、お友だちを作るなどしないと、やがて定年退職後ぼんやりと家にいるご主人と一緒にボケてしまいそうです。
最近ボケの人がどんどん増えている理由は、やはり私たちの暮らし方によるものが多いようです。

(5)ひとつには運動しない、歩かない、つい車に乗ってしまうなどが挙げられると思います。これはどなたにも思い当たる節があるのではないでしょうか。現代人の暮らしは、意識的に日常生活に歩くことを取り入れたりしないと、身体を動かすことが難しいと思います。

ライフスタイルがボケにつながる場合のほかに、身体的特徴や客観的な生活スタイルの状況なども考えて見たいと思います。

(1)まず肥満です。生活習慣病を引き起こして、ボケの原因になりやすいのです。
余談ですが、お相撲さんの平均寿命はいくつくらいかご存じですか? 100年間ほとんど変わらないそうですが、なんと56歳だそうです。日本人の平均寿命がどんどん上がっているのに、お相撲さんだけは変わらずに56歳を維持しているということは、糖尿病、高血圧、痛風、肝臓障害などの現代病を、お相撲さんは100年前から持ち続けていたということですね。もちろん個人差はありますが、統計をとると平均56歳だそうです。私たちもお相撲さんのような体質になってしまったら、寿命が短くなるわけですから気をつけたいですね。

(2)また最近の社会的な特徴として、時間をかけて人と接触することが少なくなってきている点を挙げたいと思います。つい最近までは直接話したり、手紙でやりとりをしたり、電話で話したりしたものです。でも、最近はインターネットやメール、ファックスなどで直接人の顔を見て声を聞いて話しをすることがとても少なくなっています。言ってみれば、人との交流が一方通行のような感じです。簡単で便利ではありますが、受ける刺激が非常に少ないのです。

(3)それから家族の人数が少なくなってきていることも、ボケの要因になると思います。核家族や単身者の家庭が増えています。家族がいればそこでワイワイガヤガヤと様々な刺激がありますが、子どもたちが巣立ってしまって高齢の夫婦だけ、あるいは一人暮らしということでは刺激もほとんどありません。なかには20代の人でも一人暮らしをしているうちにボケてしまうことがあるそうです。パソコンをいじって、コンビニに行く時しか外に出ず、買ってきたお弁当を食べながらゲームをしているうちに、ボケてしまった例が意外にあるそうです。高齢者だけではないのですからこわいですね。

(4)家事が簡略化され、手足を動かしたり、どうやって合理的に仕事をしようかなどと考える必要もなく、ピピッとスイッチを押せばどんどん仕事が進む、なんでもやってくれる機械が揃っているということもボケの要因です。

(5)さらに、自然が私たちのまわりから失われたこともあります。例えば今の季節ですと木の葉が散った、きれいだなと思いながら外を歩いていると、金木犀の香りが漂ってきて秋を感じることができるでしょう。でも、都会ではなかなか四季が感じることもありません。意識して郊外に出かけたり、旅行しなければ自然に触れることもありません。心地よい感動、心地よい刺激を得るチャンスがないというのもボケを呼び起こす要因になります。

さて、後半はどうしたらボケないで人生を全うできるかということをお話ししたいと思います。脳の働きには、刺激を受けて→それを頭の中で処理して→表現するという3段階があります。ですから、刺激を受けても黙っていては充分に脳を使っているとは言えません。入力した情報を自分なりに表現することが大切です。情報の入力とは、私たちが生きていれば誰でも得る情報、すなわち視覚、聴覚、嗅覚、触覚などの器官から入ってくる刺激です。

その情報を脳が判断して、考えたり、嫌だなという感情を引き起こしたり、気をつけようと注意したりして、それらの作業を通して認識するのです。瞬時に判断して反応する、つまり言語で相手に伝えたり、何かが飛んできたらとっさに危険なものだと判断してパッと払いのけたりというように、入力と処理と出力という仕事を、脳は常に行っているのです。しかし入力する刺激が少なかったり、表現しなかったりすると脳は衰えてしまいます。機械でもそうだと思います。せっかく自転車を買ったのに乗らずに雨ざらしにしておけば、当然錆びついてしまいます。脳も使わなければ動かなくなるのです。

ボケを防ぐためには、生活態度を切り替える必要があります。仕事を早くこなす、てきぱき動くことが大事ですね。さらに自分のことは自分でする。これは男性に多いのかも知れませんが、奥さん任せはやめて、退職後は時間もたっぷりあるのですから、たまには自分でご飯を作るとか、自分で動くことを心がけたらいいと思います。外に出て様々な人と接触したりして、緊張感のある暮らしをするということもとても大事なことです。

もう一つ、小さな目標を立てることも有効だと思います。大きな目標を立てても実現することはなかなか大変ですが、生活の中に喜びがなくては楽しくありませんので、小さな目標を達成した喜びを積み重ねるのです。このことで脳に心地よい“快”の刺激を取り入れる習慣をつけます。また、自分だけの主張をするのではなく、まわりの人たちに気配りをすることも大事なことだと思います。

次にさらに積極的に脳を鍛えることを考えてみましょう。
(1)まず、運動によって脳を鍛えることです。筋肉を動かすと直接刺激が脳に行くそうです。どのような筋肉を動かしても程度の差こそあれ、すべて脳に刺激が行って血流がよくなります。ただし、大きな筋肉と小さな筋肉を比べるとやはり大きな筋肉を動かした方が効率はいいのです。体の中で一番大きな筋肉は大腿筋です。ですから歩いたりジョギングをしたりするということは脳を活性化する上でとても役に立つのです。昔から老いは足からやってくると言われます。若い時に鍛えておけば、万一年をとってから何らかの形で障害が起きて、リハビリをしなければいけなくなっても、リハビリ効果が高いそうです。鍛えておいた効果は20年後に現れると言われるそうです。肝に銘じておきたいものです。

(2)もうひとつの効果は歩くことによって様々な刺激を受けることです。景色がどんどん変わる、目から刺激が入る、まわりの匂いを嗅いだり、花の匂いを嗅いだりという刺激もあります。ただ単に足の筋肉の刺激だけでなく、様々な刺激が脳に届くという効果もあるわけです。

(3)よく噛むと頭がよくなると言われますが、これは本当らしいです。しっかり噛むと口の中の感覚神経、味覚や嗅覚などが刺激されて、運動機能だけでなく、より広い範囲の脳が刺激されるそうで、これはほかの運動にはない効果だそうです。かつては固いものを噛むと顎も丈夫になるし、頭もよくなると言われましたが、現代は固いものを探すのが難しいくらいですから、固くなくてもいいそうです。柔らかくてもいいので、なるべくよく噛む、できれば30回くらい噛む癖をつければ頭に刺激が行き、海馬(記憶を司る部分)を刺激するので記憶力がよくなり、受験生にはもってこいということです。柔らかい餌と固い餌をそれぞれ与えたネズミの実験ですが、迷路を通るテストで比べてみると、固い餌で育ったネズミの方が道順を覚えるのが早いそうです。ネズミでさえそうなのですから、私たちにも効果があるかも知れませんね。

(4)次に指を動かして脳を鍛える遊びです。最近はあまりやらなくなったおはじき、ビー玉、あやとり、折り紙など、昔ながらの遊びは実はとても効果があるようです。最近おはじきで脳を活性化したり、腰や足の痛みをおはじきで遊びながら治そうと取り組んでいる人たちがいると読んだことがあります。

(5)手を使う楽器もいいそうです。
ボケを防ぐには、人任せにしないで何でも自分でやり、体を動かして、しっかり噛んで、指を動かしていくことが必要なのですね。

さてここで、みなさんにご協力をいただいて、ちょっとしたテストをお願いしたいと思います。
1.5つの大きなマスを書き込んだA4の紙に、目をつぶって、見本どおりに文字を書き入れる(後頭葉の視覚中枢と、側頭葉の認識中枢の衰えを見る)
2.トイレットペーパーの芯を右手で持ち、目をつぶって30aくらい離れたところから左手の人差し指を入れる(頭頂葉の手の知覚と、側頭葉の認識中枢の衰えを見る)
3.目をつぶってまっすぐ立ち、左手は上下に、右手は三角形を描くように同時に動かす。左手は二拍子、右手は三拍子をとるようにリズミカルに(左右の前頭葉の後ろの運動中枢の衰えを見る)
ご協力、ありがとうございました。

最後になりますが、結局よく脳を使うことが脳細胞をあまり減少させず、脳を活発に働かせることにつながるのですね。

私たちは若いころ、いろいろな経験をしてきました。なかにはやりたくないことも、嫌なこともありました。心配事もたくさんありました。でもこれから自分の人生の後半を生きていく上で、喜びをたくさん取り入れて生きていきたいと思います。喜びに出会うことで“快”の刺激が脳に届きます。きっと元気な脳で過ごせるでしょう。脳は感動するほどいきいきするそうです。体を動かし、人と出会い、毎日をワクワクしながら過ごしていきたいと思います。本日は私の拙い話しを聞いていただき、本当にありがとうございました。

★ボケ予防の10か条★

1. 塩分と動物性脂肪を控えた、バランスのよい食事を
    塩 分      1日10g以下
    高血圧の人    1日6g以下
2. 適度に運動を行い、足腰を丈夫に
3. 深酒とタバコをやめて、規則正しい生活を
4. 生活習慣病(糖尿病、高血圧、肥満など)の予防、早期発見・早期治療を
5. 転倒に気をつける。頭の打撲はボケを招く
6. 興味と好奇心を持つように
7. 考えをまとめて表現する習慣を
8. 細やかな気配りをした、よいおつきあいを
9. いつも若々しく、おしゃれ心を忘れずに
10.くよくよしないで、明るい気分で生活を
    『ぼけになりやすい人、なりにくい人』大友英一・薯 栄光出版社

終わり



文責 神馬 照正
写真撮影 橋本 曜
HTML制作 和田 節子