神田雑学大学

第253回  講演抄録 (平成17年2月25日)


私が見た中国と中国人

講師 樺島康介


私は父が医師として旧満州国奉天市立病院に勤務していた関係で、1938年に現地で生れました。終戦の年の5月に父が北満のハルピン市立病院に転勤になり、僅か3ヵ月で終戦を迎えました。玉音を聞いて間もなく、ソ連兵の乱暴狼藉、中国人暴徒の集団襲撃を受け、難民収容所への強制連行で、苦しい生活を強いられました。

幸か不幸か父が医者だったことで、我が家は中国共産党の八路軍に留用を命じられ、軍の後方病院として一緒に行動し、最後は北京まで南下しました。

 

学校生活は、戦後大都会に移動したときは残留日本人小学校で通算3年間勉強し、それ以外は現地人の小学校、中学校、高校に通い、中国人と一緒に生活してきました。そんなわけで中国語に不自由しませんでしたが、日本では学歴重視の社会ですから、東京外語大学中国語科に入りました。

 卒業後、商社の丸紅に8年間勤め、その後日本鋼管(現在は川崎製鉄と合併してJFE

に移り、2000年に退職するまで通算30年以上中国に居住したことになります。長年

中国人と一緒に生活したことから、彼らの生活習慣や思考方法が身についたと思います。

 

1.中国の自慢

  中国人が自国を褒める言葉に次の5つがあります。実態は自慢できる事柄でしょうか。

1)地大物博・・・国土が大きく,物資が豊富

国土面積は920万平方キロでロシア、カナダに次いで世界第3位ですが、国土の

  の左側ほぼ半分は不毛の荒地で人口も沿岸部を中心に非常にかたよっています。

地形構成

平原12

盆地19

高原26

丘陵10

山地33

土地構成

耕地10

森林13

草地42

水面 2

其他33

  耕地面積が僅か10%で、耕地の宅地や工業用地への転用、砂漠化の進行により

耕地はさらに減少傾向にあり、食糧は自給できず、毎年大量の食糧を輸入しています。中国にとって食糧確保が最重要課題の一つになっています。

また資源は必ずしも豊富だとはいえず、工業発展のための原材料、例えば石油、

石油製品、鉄鉱石、木材、羊毛などを大量に輸入しています。

 

 

2)人口衆多・・・人口が多い

  2003年末の人口状況は次のとおりです。

   口: 12億9227万人

  構  成: 男 6億6556万人 51.5%

        女 6億2677万人 48.5%

  年齢構成:  0−14歳  2億8559万人  22.1%

        15−64歳  9億0976万人  70.4%

        65歳以上     9692万人   7.5%

  都市農村: 都市 5億2376万人  40.5%

        農村 7億6851万人  59.47%

民  族: 人口の94%が漢族、ほかに56の少数民族、チワン族、モンゴル族、

        チベット族、ウィグル族、回族、朝鮮族など

 

 現在の人口自然増加率は1%前後で、毎年の人口増加は東京都の人口に相当する1300万人もあり、2025年には16億人になるといわれています。最近テレビで13億人目の赤ちゃんが映っていましたが、まだまだ人口は増加中です。この人たちを飢えさせないことはなみたいていのことではありません。

  1949年に新中国が樹立した時点の人口は4億5000万人程度だったといわれていますが、朝鮮戦争が終結した1955年ごろから人口が急増する傾向が見られたので、北京大学の馬寅初学長が人口抑制を唱えました。ところが毛沢東の「人は戦力であり武器である」とのひと声で実現せずに人口増加がいっそう進行しました。特に文化大革命の10年間はさらにタガがはずれて人口が増え続ける結果になりました。

 

 人口抑制策として、これまで実施してきた「一人っ子政策」の影響で、男女の構成格差(約4000万人男が多い)や年齢構成に歪みが生じつつあり、まもなく老齢化社会に突入します。1980年代に日本から大量の超音波医療機器を購入したのは、男女の産み分けに利用されたといわれています。

最近この「一人っ子政策」が若干緩和されつつあります。少数民族では二人まで認めるとか、漢民族でも事情を考慮して認めるという傾向もでています。

中国は多民族国家であるが、漢族が圧倒的多数を占めています。現在民族問題として話題になるのは、チベット族とウイグル族(イスラム教)であり、政治的宗教的に非常に難しい問題を抱えております。

 

3)歴史悠久・・・悠久の歴史 

中国の歴史は日本の「万世一系」とは異なり、「改朝換代」(朝代がかわる)の連続で

あります。一番長い朝代でも前漢・後漢を合わせて400年であり、各朝代に歪みが生じると、旧政権が倒れ、新政権が生まれています。現在の中華人民共和国もすでに56年が経過しています。現在は種々の格差が一層増幅されています。

 

4)高度文明・・・高度の文明 世界四大文明の一つ:中華思想  

5)伝統文化・・・伝統的文化 漢字文化の功罪

 

2.中国人の考え方

1)中華思想は排他的ではなく包容力あり(日本人には排他的)

   中華思想というのは中国が世界の中心であるとか、中国人が優秀であるとかと思われていますが、必ずしもそうではありません。中国人は日本人のような排他性はあまりもっていません。日本人でも彼らの考え方を受け入れていけば、そう反撥しません。

これは服従という意味でなく、そういう発想があるのだと思います。

例えば朝鮮戦争のあと朝鮮と仲違いした、ベトナム戦争の後ベトナムと仲違いしたのは朝鮮やベトナムが従来の属国意識から、中国の言動を大国主義と見なした結果だと思います。

 

2)性悪説に立脚(日本人は性善説)

   基本的に日本人は、人というのはあまり悪い事をしないのだという性善説に立脚した考えで全てに対処しているように思われます。これは日本民族だけではないでしょうか。例えば病院に行って健康保険証をだせば完全に信用してもらえます。

ところが中国では、まず初診料を現金で前払いしないと診てもらえません。医者が書いた処方箋を薬局にもって行き、まず薬代を払わないと薬は出してくれません。入院するにも勿論前金を支払わないと手続きしてもらえません。デパートなどの大商店では、売り子と会計は別人です。中国人は人は悪い事をするものだという性悪説の発想で行動しています。

 

3)自尊心と面子、世代観(日本人に世代観)は希薄

   中国人は非常に面子に拘ります。日本でも最近は面前で人を怒鳴るということが少なくなりましたが、中国の場合は絶対に人前で叱ってはいけません。叱ったらその人はもう従いません。叱る場合は必ず個室に呼び入れて諭す必要があります。

   次に世代観の問題ですが、彼らが年配者、同輩者、年下の世代というものに対する感覚が日本と大きく違っているように思えます。

   例えば私がかなり年上の人と親しくなって、その家に呼ばれたとしましょう。その人の子どもが私と同年代か若干下だった場合、その子どもたちは私にたいして「叔叔(おじさん)」と呼びます。一つ上のジェネレーションに対して敬意を払うという風習が徹底しています。

   また年配の日本人が仕事で中国へ行き、交渉相手が30代の若者だった場合、その日本人は何気なく「私の息子と同じですね」と言ったとすると、相手は物凄く侮辱されたと感じます。この世代観という考えは日本人には見られません。必ずしも儒教精神では説明できないものです。

 

4)身分制度と肩書社会

   中国はもともと科挙の制度などがあり、官僚政治が行なわれていましたが、中国共産党、さらに文化大革命を通じて身分制度がくずれつつあったものが、最近はまた身分、肩書きに非常に拘るようになりました。

 例えば大臣が自分の名刺に肩書の大臣以外に、教授級高級工程師というような資格まで麗々しく印刷するケースが多く、それが階級意識になっているわけです。

 中国の留学生はよく勉強するといわれますが、博士や修士、それにMBAなどの資格を取得することにより社会的地位、肩書、待遇が格段によくなるために必死で勉強するのです。そういう点からみると明らかに学歴社会ということがいえるかと思います。

 

5)合理的で利己的

   中国人は基本的に極めて合理的な発想を持っています。同時に利己的でもあります。

  日本人は中国人と風貌も似ており親近感があって「あうんの呼吸」で理解しあえるのではないかと思いますが、発想はアメリカ、ヨーロッパとおなじく極めて合理的です。いいたいことはいわないと判ってもらえません。但し相手を侮辱したり傷つけてはいかません。それと中国側が駆け引きの一つの手段として駄目でもともとという考えで大きく吹っかけて要求しますので、日本側はそれに驚いてはいけません。相手の過分の要求に対しては、半値8掛けではありませんが、かなり割り引いて考えねばなりません。

 

6)生存への執着、運命への諦観(中華料理、老人パワー、文化大革命の犠牲者)

   中国人の食文化は「生」に対する飽くなき追求から、「食」に執着したのだと思います。しかし、今まで食べたことのない生ものや、血のしたたるようなステーキには拒否反応を示す人も少なくありません。最近では、刺身を食べて味を知った中国人は非常に多くなっています。

   生きるということへの執着は、例えば市中で早朝から老いも若きも家の外に飛び出してきて体操や太極拳はおろか、最近はディスコやエアロビックスなどを音楽に合わせてやっています。

   

   ちょっと話題は変りますが分革のときに一説には何百万という犠牲者がでたといわれ何千万という人が冤罪で強制労働をさせられたり遠隔地へ送られています。

その人たちが1978年から79年にかけて家に戻ってきたわけですが、本来なら自分たちを貶めた奴らに報復したいと思うはずですが、そのような行動はしていません。

面子を重んじ名誉回復を要求します。勿論経済的損害は弁償して欲しいと要求しますが、あとは仕方がないという諦めの気持を持っているようです。

 分革のときにひどい目にあわされた人とも同じ職場で平然と一緒にやっています。

 

7)故郷に錦を飾る(衣錦還郷)発想

 日本人も故郷に錦を飾るという意識はあるにはありますが、中国人はいったん海外に出た場合には、そこで骨を埋めるという覚悟ができています。東南アジアの華僑でも殆どが現地の国籍をとっています。それは国籍をとったほうが有利であるからで、例えばパスポートひとつで入出国できるだけでも大変メリットがあるからです。

 日本の国籍取得は非常に難しいのですが、最近頭脳労働者にたいしてはかなり緩やかになっています。かれらにとって重要なのは国籍でなく血統なのです。

  よく国籍は外国にあっても、そこで成功した中国人が、日本では考えられない規模の

  寄付をすることがあります。たとえば学校とか図書館とか病院とか、その人の名前はつけますが、彼らは故郷を大切にし、しのぶ心を常にもっています。墓は国籍をとったところに作るのが普通です。

 

3.中国社会の問題点

1)経済発展に追いつかぬ資源開発と原材料の大量輸入

(石油、鉄鉱石、木材、食料、油脂原料・・・)

2)地域格差、都市と農村の格差、業種間格差、貧富の差

3)教育の二極分化、貧富の差による教育格差

4)治安の悪化(殺人、強盗、人身売買、麻薬,詐欺、模造品・・・)

5)汚職(中央政府幹部、地方政府幹部、共産党幹部、企業幹部など)

6)自然環境(大気,水、河川、湖沼、山林、砂漠化・・・)

 

4.中国で事業展開する上での問題点

7) 企業進出の目的・動機を明確に

8) パートナー選定は人物選定が最重要

9) 投資目的に見合った立地選択

10)                      行政サービスの良否

11)                      インフラ整備状況のチェック

12)                      地方の優遇策に惑わされぬこと

13)                      基本的法律・条令の認識と初段階から弁護士の起用

14)                      FS 作成に時間を掛けて

15)                      商品(サービス)に見合った投資形態

10)中国では地縁・血縁・学縁が人間関係の基本,人脈は超法規的味方

11)日本からの派遣人員の資質

12)現地化の早期推進

13)資金計画に余裕を

14)人民元の切り上げと為替変動

15)原材料の調達(輸入)と種々の規制

16)国内販売をどうするか

17)進出は易し、撤退は難し

18)マスコミ報道に惑わされるな

19)進出季語用の現地調達とその問題点

   ➀内製化

➁既進出企業の活用

➂現地メーカーの育成、技術指導

➃現地調達の問題点

 納期遅延、品質問題、常識と習慣の違い,支払い条件、税金問題。


文責;得猪外明 会場写真;山本 啓一 ホームページ作成 ; 山本 啓一