平成17年11月25日
神田雑学大学定例講座NO289

”蚤のワルツ”「ねこふんじゃった」

講師 宮本 ルミ子

プロフィル
佐賀県出身 東京音楽大学ピアノ科卒業
卒業後、カワイ楽器、ナショナルの音楽教室指導講師およびデモンストレーターとして活動。その後、青少年のための音楽教育のためのMusic Joy Miyamotoを開設。かたわら、“ねこふんじゃった資料室”を開設し、本格的に“猫踏んじゃった”の研究をはじめ、その成果をホームページなどで公開しています。

第1部 …“猫ふんじゃった”と“蚤のワルツ”の不思議について
1. ピアノを習い始めた方が必ず弾いてみる曲“猫踏んじゃった”は日本の曲ではありませんでした。この曲は日本だけではなく世界中に親しまれている曲でした。しかし、その曲名はそれぞれの国でみんな異なっており、まして踏まれた猫とはまったく関連なく、驚くほど多様な曲名がつけられております。

2. こんなに世界中で親しまれているのに、この曲はどこの国の楽譜でも、  “作曲者不祥”とされています。
  ところで、ドイツではこの曲は“蚤のワルツ”という名称です。
  ここに、謎解きの大きなヒントがありました。
●第2部「出版物の紹介」
 宮本ルミ子と申します。本日は“猫ふんじゃった”という曲についての不思議なお話です。みなさんの中でも“猫ふんじゃった”を聴いたことがないという方はいらっしゃいませんでしょう。“猫ふんじゃった”は子どもの頃皆さん必ず聴いているはずです。この曲、私は日本の曲とばかり思っていました。私だけでなくこの曲を弾いた殆ど全てのお子さんが日本の曲と思っていたと思いますが、どうやら日本の曲ではなかったのです。

 世界中に“ねこふんじゃった”の楽譜は、どんなのがあるか調べてみました。
画像の最初の可愛いらしい楽譜は日本のもの。音楽ドリルのイメージですが、国立音楽大学副学長の繁下先生の作品です。つぎは、世界中で最も有名な“ねこふんじゃった”の楽譜です。題名は“Floh・Walzer(フロウ・ワルツ)”=蚤のワルツと書いてあるドイツの楽譜ですが、蚤の画がリアルすぎてちょっと気味が悪いですネ。尤も最近の子どもは蚤を知らない子が多いのでこの虫が何かわからないようですが・・。次の楽譜は二つとも韓国の楽譜でこれは猫に関係があり「猫の踊り」という題名です。
次はロシアの楽譜ですが、題名は何と「犬のワルツ」です。

一般に、アメリカは「チャップスティック=お箸」となっていますが、「チャップスティック」という題名で全く別の曲もあります。ほら、違うでしょう?
日本では「トトトの歌」アメリカでも、「七年目の浮気」の映画に「チャップスティック」の名で出てきます。桶谷さんの調べでは、アメリカでは「サーカスソング」ともいわれているようです。

ところでドイツの「蚤のワルツ」は作曲者不祥ですが、日本の「猫踏んじゃったにそっくりの曲は、「Flohwalzer」となっています。このFlohと言うのがドイツ語の「蚤」であることから「蚤のワルツ」と称されていますが、私の辿り着いた調査研究の結果、これはフェルディナンド・ロウの作曲ではないかと思います。どうやらFerdinand Loh の名前を略してF・Lohと書いたのが後々FとLの間の・が落とされてしまいFloh=ドイツ語の”蚤”とされてしまい、Flohwalzer=蚤のワルツとなったと確信するようになりました。

この事を決定付ける証拠のようなものも入手しました。これはF・Lohの作曲した“Floh Walzer”の1800年代に録音された音源から撮った録音のCDです。  初期の録音技術である蝋管によるもので、グルングルンと蝋管が廻る音,聴こええますか? 
この古びた盤のラベルの写真には確かに作曲者が「FELDINAND・LOH」と印刷されております。

「ねこふんじゃった」と言う曲は黒鍵だけで弾くので、本当は最初に弾くとき楽譜を見ながら弾くと非常に難しい曲です。この曲は楽譜に書くと、初歩の人では絶対に弾けない記号ばかり続きます。♯や♭が六っもついたりして、難しいのでドイツには指の図解をした楽譜があるほどです。 日本でも最近、子供の本に、図解の「ねこふんじゃった」楽譜が出版されました。ナントその本に作曲がフェルディナント・ローと書いてあり、びっくりしました。私はいろんな所で、作曲はF..lohっていましたが、本で活字になったのは、初めてでしょう。

さらにびっくりしましたのは、“猫ふんじゃった”で一番有名な小原孝さんが同じ本に、エッセイを出していらっしゃいました。今から先、JASRACや出版社がどう変わっていくか楽しみですね。力強い味方・・・・?
 脱線しましたがお子さんはそんな難しい楽譜に関係なく、耳で覚えて弾いてしまいます。そんな所が子供の感受性の素晴らしい所であり、この曲がピアノの好きな子供みんなに愛される所以でしょう。
 
もちろん“猫ふんじゃった”は子供だけでなく大人にも懐かしく愛され、柳谷清道さんという国立音楽大学の作曲の先生が「ふんづけられ太物語」を出版しました。猫の「ふんづけられ太」が色々な処を旅行して歩くストーリーを「ネコふんじゃった」をベースに作曲したものです。(橋本さんのナレーションで素敵なのがあります。)

次に世界で一番出版されている楽譜をお見せします。これは、シコルスキー社の独奏用の「ノミのワルツ」。隣は連弾バージョン。表紙の色が3つあり、オレンジとブルーグリーンと三色に別れていますが、ブルーはリコーダースタイルで、バロック風の作曲になっています。いま日本で一番売れているのは、アレンジが良い連弾譜です。
これが有名な小原孝さんの「ねこふんじゃったスペシャル」です。
こちらは平井康三郎さんの作品。
ところで子供たちがなんとなく弾いていたこの「ねこふんじゃった」を全国に広めたのは、NHKのディレクターだった後藤田純生さんが「みんなの歌」で紹介したのがきっかけと思います。

前に後藤田さんと桶谷弘美さんが、ニコライ・ルビンシュタインとアントン・ルビンンシュタインの作曲者論争があったことを紹介しました。当時はこのどちらかが““猫ふんじゃった”の作曲者の最有力候補で著名なかたがたがそれぞれご自分の説をお持ちでした。NHKの日本人の質問箱では、桶谷弘美さんの説を紹介しています。
話は戻りますがこの説に疑問を持っていた私は、いま世界中で一番売れているシコルスキー社の」楽譜の曲名にChopsticks(チャップ・ステックス)と印刷されているのが気になっていました。

 「チャップスティック」と言う曲は、日本では「トトトの歌」と翻訳されている子どもの歌で、「ねこふんじゃった」とは全く違うものです。そこでドイツのシコルスキー社に問い合わせしました。「トトトの歌」は絶対に「ねこふんじゃった」と違う。「ねこふんじゃった」を「トトトの歌」と印刷している根拠は何かと訊ねました。すると答えは「特別な根拠はないが、聞き取り調査での結果です」でした。聞き取り調査でしたら、私も、桶谷弘美さんも詳しい調査資料を持っておりますのにね。

 ここに世界中で、「ねこふんじゃった」が何と言われているか、桶谷弘美さんが調べた資料があります。

「猫のマーチ」    ブルガリア
「猫の踊り」     韓国  
「子猫の舞」     台湾 
「黒猫のダンス」   ルーマニア
「犬のワルツ」    ロシア
「犬のポルカ」    チリ
「蚤のワルツ」    ドイツ
「ノミのマーチ」   ルクセンブルグ
「アヒルの子たち」  キューバ
「三羽の子アヒル」  キューバ
「ロバノマーチ」   ハンガリー
「お猿さん」     メキシコ 
「豚のワルツ」    スウェーデン
(「お箸(Chopsticks)」 イギリス、アメリカ、南アフリカ)=「トトトの歌」
「カツレツ」      フランス
「チョコレート」    スペイン
「公爵夫人」      デンマーク
「女の足」       〃
「道化師ポルカ」    アルゼンチン
「追出しポルカ」    マジョルカ島
「橋」         イギリス、アメリカ、カナダ、ハンガリー
「黒のメロディー」   ユーゴスラビア 
「サーカスソング」   イギリス、アメリカ、カナダ
 
 以上のように、世界各国それぞれに関連がないタイトルがつけられ、どうしてそう言う名前になったのかも殆どわかりませんし、作曲者も確定した情報がありません。また同じ国で複数の名前があったりまだ混沌としています。“猫ふんじゃった”の出版物はあまたありますが、どの本も枕言葉に「シコルスキー社」に依ると書いてあります。しかし、その肝心なシコルスキー社の言い分のデータが、根拠の不確かな単なる聞き取り調査です。


ところでショット社で出しているフエルディナンド・ロウの作曲の「FLOH WALZER=猫ふんじゃった」は、出だしは現在の猫ふんじゃったと変わりませんが、一部分に私達が聴いたことのないメロディが挿入されております。この部分は子ども達が、ちょっと聞いただけでは弾けないような覚えにくい譜です。ですから、そういう理由で、その部分は流行らなかったと、思います。ドイツから取り寄せた “猫踏んじゃった”の譜面解説書には古文ドイツ語で書かれておりましたので、外語大の先生に翻訳していただき、フェルディナント・ロウの作曲と判断したものです。

NHKでこのことをお話した時は誰にも認められずでしたが、この件では権威の小原孝さんも同じ本を読まれて、「芸術に恋して」の番組で、ショット社の楽譜を演奏されました。 “猫ふんじゃった”の曲の演奏に関しては青森で稲垣公子さんが主催して「猫ふんじゃったコンクール」が行なわれました。このパンフは第5回目のものです。コンクールの内容は“猫ふんじゃった”を、どうして遊ぶか又アレンジを競います。山口県の光市では、「スタインウェイでねこ踏んじゃったを弾こう」
これは、公共の会場をなるべく一般の方たちに使って頂こうという狙いで始まりました。


曲の披露 
ジャズピアノ演奏「猫ふんじゃった」。NHKの放送の際使用されたCD(松本峰明)
バンドネオンの「猫ふんじゃった」演奏 タンゴクリスタル。
私の最も好きな曲。桝田武宗先生作詞スペイン語歌詞つきですが日本で制作されました。
弦楽合奏の「猫ふんじゃった」演奏 玉木宏樹カルテット。
クラシック界の方は、ほとんどこの曲が好き。芸大教授のお墨つき。
玉木先生(CMソング1600曲作曲)は純正律の提唱者。発起人は永 六輔。
マンボの「猫ふんじゃった」演奏 
ジャズボーカルの「猫ふんじゃった」演奏
シャンソン バージョンの「猫ふんじゃった」演奏 フランス国歌入り
スロージャズ風の「猫ふんじゃった」演奏

 今年はドイツ年。それにちなんで「猫ふんじゃった」一曲だけのコンサートを開催しました。ドイツ大使館の後援を戴いたのですが、オーソドックスな「蚤のワルツ」から始まり、連弾バージョン、バロックスタイルなどのほか、久元祐子さんやミハイル・カンディンスキーさんなど一流の音楽家による、大人のための華麗なコンサートになりました。
数年前には、いとうたつ子さんの芸術的なねこふんじゃった。
その翌年子どものための「猫ふんじゃった」を後藤田純生さんの企画でやりました。
 
NHKのみんなの歌で「猫ふんじゃった」を、日本中に広めた方ですが、歌のおねえさんの大和田りつ子さんや藤原規夫さん、NHK合唱団、クニ河内さん、アコーディオンの横山太郎さん等にも手伝って、戴きました。
これは、水森亜土さんの賑やかな「猫ふんづけろ」。かなり過激な歌詞なので、これが今だったら動物愛護協会あたりから、クレームがきそうです。
亜土さんはネコが大好きです。今度は「猫ふんじゃやダメ」というCDを発表しました。ウエスタンスタイルで、小室等さんのアレンジ、「ねこふんずけろ」の時一緒に歌った光井章夫さんがデュエットとトランペットで応援しています。この他は民族音楽風、フランス、スペイン語、中国語などの「猫ふんじゃった」 

第3部 「猫ふんじゃった」の歌詞について

歌詞はどうなっているのですか?という質問がよくあります。
日本では丘灯士夫さんと阪田寛夫さんの二つが、よく歌われています。HPには著作権の関係があるので、作詞家の名前だけの紹介にとどめております。
垣内磯子さんの「猫ふんじゃった」の歌詞は、童話として紹介されただけあって、とっても可愛いらしい。あらすじは、踏まれたネコがびっくりして飛び出しアメリカまで行き大統領に会う、、、、
という可愛く、面白く夢のある歌詞です。
中井貴恵さんが童話として新聞で紹介されました。
この他にも「かくれんぼ猫」「猫の手借りて」など楽しい詩がいっぱいありましたので、垣内磯子さんの詩を中心にした「猫ふんじゃった」コンサートを橋本侑生子さん企画でいたしました。
このレコードは、歌のおばさんの松田トシ シリーズの「チロちゃん ごめんね」という題名の「猫ふんじゃった」です。小学館音の教材付録(東芝ソノシート)マリンバの演奏。可愛いらしい歌詞つきです。川村輝夫さんに送っていただきました。
今回貴重なソノシートで、ここでかけられずごめんなさい。

 「猫ふんじゃった」の楽譜があるのは、世界中でドイツのシコルフスキー以外では、日本だけと長年言われていましがた、去年大阪音大の西岡学長がスゥエーデン語の歌詞つき「猫ふんじゃった」を発見されました。ただし曲名は「カーリー・ヨンソン」という人の名前です。

 これほど、世界中で有名な曲なのに、「猫ふんじゃった」の楽譜は意外に少ない。それは
♯や♭が非常に多くて、初心者には向かないような譜面になっています。又ピアノの先生からは順序立ってピアノ曲を練習させるために、この曲を弾くと、ピアノが壊れるとか、手がダメになるとピアノの先生に脅かされもしました・・にも拘らず、「猫ふんじゃった」は楽しい曲ですから、世界各国で愛されています。

 次に、シャンソン風歌詞つきバージョン「猫ふんじゃった」。
歌詞ご希望の方はあとでご連絡下さい。翻訳文があります。 色んなバージョンがある中で、次のように変わったものがあります。
トロピカル風「猫ふんじゃった」
フラメンコ風「猫ふんじゃった」若林雅人(建築家)
中国風「猫ふんじゃった」(胡弓+銅鑼)
インド風「猫ふんじゃった」(シタール)
スペイン風「猫ふんじゃった」歌詞つき マイナー調
水森亜土「猫ふんじゃった」アップテンポ ジャズ
田村浩「我輩は猫である」という題名の「猫ふんじゃった」シンセサイザー
 〃 「象に乗った王様猫」という題名の「猫ふんじゃった」打楽器

南養二郎(ドイツ在住)の「猫ふんじゃった」
出だしは優しい編曲で、進むにつれフーガ形式、音域の広い本格編曲になっていく楽しい編曲です。

このあと、チャリティコンサート各種のお知らせがあって、終了。(拍手)

最後にお願いですが、今回の歌詞その他メールで問い合わせには、件名に「ネコふんじゃった」を入れて下さい、入っていないメールは、最近不審メールが多いため開かずに全て削除していますのでご了承ください。

文責 三上卓治  会場写真・HTML編集 山本啓一