神田雑学大学定例講座
平成18年4月7日(金)第306回


私の海外武者修行



講師:近藤節夫




講師の近藤節夫さん私の海外武者修行は、学生時代の「60年安保闘争」「ベトナム反戦運動」に触発され、40年前の南ベトナム、タイ、インドネシア、シンガポールなどの「東南アジアひとり旅」に始まります。古都アユタヤの愉しい思い出や、スカルノ政権下のジャカルタの不穏な治安や、戦争の恐ろしさを知った戦乱の地サイゴンなどの強烈な印象が残っています。

2度目のひとり旅、中近東・アフリカ24日間の旅は、長距離バスでイラン最高峰ダマバンド眺望の旅に出かけたり、中東の十字路・ベイルート、戒厳令下のアンマン、破壊されたスエズ運河、ケニア長距離列車とバスの旅、異民族問題を抱えるエチオピア、内戦収束・独立直後のアデンなど、異文化との遭遇は非常に興味深いものでした。

ふたつの海外ひとり旅の渦中に、ジャカルタで強盗に襲われたり、戦時下のサイゴン(現ホー・チ・ミン)で米軍兵士に銃口を向けられたり、或いはヨルダンの首都アンマンでヨルダン軍兵士に身柄を拘束されたり、はたまた壊滅的なスエズの町でホテルに軟禁されたり、幾たびとなく破天荒な危険の目に遭いました。

しかし、個々の話は長くなりますので、本日はそれらの海外ひとり旅を通して掴み取った「海外武者修行のすすめと心がまえ」といったテーマについてお話しようと思います。

○海外武者修行のすすめと心がまえ

「旅」には多くの人々との多様な「めぐりあい」があります。旅人それぞれに思い出の喜怒哀楽を味わうことになります。それらを含めて、人は知らず知らずのうちに、旅の媚薬に酔いしれ、再び旅に出ます。それは未知の人との刹那的な出会いが新鮮であり、初めての熱い出会いと体験がえもいわれぬ魅力となり、人生経験となり愉しい思い出に昇華して、胸の内にそっと記憶されるからです。

とりわけ異国の長距離バスや列車の旅では、見知らぬ人から思わぬ親切な施しを受けたり世話になったり、ともに一緒になって愉しみあう機会に恵まれることがしばしばあります。そのような時に自ら進んで話しかけることによって、相手からも好意をもって応えてもらえます。いつまでも黙って外の景色を見ているだけでは、せっかくの交流の機会を無為にしてしまいます。

何といっても旅を忘れがたく実り多いものにしてくれ、旅の自分史に彩りを添えてくれるのは、旅先で出会った素朴な人々との純粋な心の通い合いであり、それは何ごとにも代えがたいものです。いつも心がけておきたいことは、誰に対しても思いやりの気持ちをもって積極的に未知の人との触れあいを心がけることです。

そして旅にはもうひとつの大きな効用があります。旅は、旅人をたくましく育ててくれることです。私が実践した「海外武者修行」を通して得た「知的財産」を自分の業務上に役立たせてきた経験から、若者たちに武者修行を大いに奨励するための参考として、自分なりに独創的に考え、実践してきたことをここにいくつか挙げてみます。

1. 目的意識
熱心に話を聞く受講生 目的意識をしっかり持ち、事前に自分で凡その事前研修をやるくらいの前向きの気持ちがないと、ひとり旅の成果は覚束ないでしょう。出発前に経験者や、課題に精通している人がいれば、話を聞いて大いに参考にするのがいいと思います。現地では、できるだけその土地の人々と同じ生活(体験)をすることが基本です。現地の臨場感と目線です。

具体的な対象として、「絵画」「音楽」「ワイン」「スポーツ」「城」「祭り」「建築物」「教育」「宗教」「言語」「政治」「グルメ」「特殊な食べ物」「高山植物」等、周囲に題材はいくらでも転がっています。

2. 計画的な休暇のとりかた
比較的自由に時間がとれる若者はいいのですが、若いサラリーマンにとっては、勤務先から一定の連続有給休暇をどうやって許可してもらうかが第一のハードルでしょう。
計画は早くから決め、長いスケジュールなら、祝祭日を年次有給休暇と絡ませることも一つの方法でしょう。

○具体的な旅の方法と心がけること

1. 全体のスケジュール
あてもなくぶらぶら旅を続けるのではありません。旅程の骨組みだけはしっかり固めて、課題やテーマに基いて行ってみたい国をリストアップします。主要ターゲットの2〜3カ国ぐらいを核にして、その国に滞在中は貪欲に探索に精を出します。大勢の人に積極的に幅広くアプローチすることが肝心です。

近藤節夫著書、海外武者修行のすすめ まともな話の種を仕入れようと思ったら、やはり文化人、教養人、社会的地位の高い人、公務員、サラリーマン、教師や学生、街の顔役などと話す方が、その他に人びとと接触するより効果があります。

2. 主たる交通機関(往復の航空便)
せわしない現代の「海外武者修行」の往復交通機関としては、効率の良い航空機に委ねるしかありません。往復の足だけは予め確保して、途中の日程が当初のものと多少ずれても、最後は日本の入国手続きを予定通り済ませられるよう心がけましょう。格安航空券はいまや、どこの旅行会社でも簡単に手に入れることができます。

3. その他の交通機関
現地の移動手段は基本的には二本の丈夫な自分の足です。足腰は普段の生活からしっかり鍛えておくことが大切です。
私の経験からいえば、人の集まる駅や、バスターミナルから、長距離列車や長距離バスで遠隔地へ旅行するのが、現地を知るうえで最も手っ取り早く効率的です。道中周りに寄ってくる人の好さそうなヒマ人と交流を深められれば、降車地で良い宿を紹介してもらえるかも知れません。「海外武者修行」はあくまで異国で見知らぬ人と接触を求める旅です。

4. 食事
毎日の食事は、土地の人と同じものを、土地の人が利用する食堂や一膳飯屋のような特徴のある店で食べるようにした方が、いち早く「現地人」になれます。

食べ物でもアラブ諸国やインドの常食である「ナン」のような日持ちのする食べ物なら、どこでも手軽に手に入ります。気軽に熱湯のもらえるところならインスタント食品も役にたつでしょう。ただ、衛生面、健康面にだけは充分過ぎるくらいの注意を払わないと突然腹痛とか、けだるさ、しびれ等に襲われることがあります。飲料水には特に留意する必要があります。衛生観念に乏しいインドあたりでは、冷たいアイスキューブが入った「オンザロック」や、「水割り」ですら注意しなければなりません。

5. 宿泊場所・ホテル
空港に到着したら、出来ればその土地に入り込み、知り合ったその土地の人から「いかにもその土地のホテル」という個性的な宿を紹介してもらうのがいいでしょう。小さな宿なんかではオーナー一家が家族ぐるみで歓迎してくれるところもあります。オーナーや支配人の風貌や雰囲気によって、良心的で善人か、あるいは腹に一物かは、ある程度見当がつきます。
注意しなければならないことは部屋の戸締りと鍵です。カギだけはしっかりかかり、従業員が真面目なホテルでないとオチオチ安眠できません。

6. 滞在日数
できれば一カ国で大都市と地方都市最低2都市は滞在したいものです。そのひとつの都市に最低でも2泊はしたいものです。終日全1日を自由に使える貴重な時間は、落ち着いてその土地を偵察したり、土地っ子と付き合うにはどうしても必要です。欲を言えば、日程が許すならひとつの都市にもっと長く滞在したいところです。できるだけ予備日をもって、土地の人々と知り合い心を通じあえる、時間的な余裕を持ちたいものです。

7. ホームステイ
土地っ子と知り合い信頼されれば、彼らはよく彼らの家庭に旅人をゲストとして呼んでくれます。家族はもちろん近所の親戚縁者や、隣組の人たちが寄ってたかって歓迎してくれる筈です。これこそ国際交流のひとつの見せ場です。そうなったら気持ちを新たにして、努めて明るく、陽気に振舞うことが大切です。子ども相手におもちゃを持ち込んだり、手品を見せてあげると大人も喜んでくれます。大人相手には、威風堂々と積極的に自作自演の「ワンマンショー」をやってみることをお勧めします。身ぶり手ぶりで三波春夫の♪チャンチキおけさ♪なんか唄えば、大受けすること間違いありません。

8. 服装と衣装
上着はポケットの多いほうがなにかと便利で、出発前に内側に自前でとりつけることをお勧めします。靴はスニーカーや軽い登山靴がお勧め。帽子は、旅行先の気候に合わせて準備をします。大陸性気候の土地では、冬なんか帽子がなければ、頭が凍傷にかかってしまいます。

9. 持ち物と携帯品
大きなトランクを片手で持つより、登山者のように背中に背負えるザック(キスリング)の方が、両手を自由に使えて便利です。このほかに小さなナップザックを持っていくといいでしょう。ザックの外側に他人が開けにくいポケットのついているものが便利です。貴重品はすべてひもをつけて身体の一部に結んでおくくらいの気持ち(細心な用心)が必要です。登山用具一式を持っていくと便利ですが、近年バーナー、固形燃料、ガソリンなど機内持ち込みが困難になりました。

10.ことばと表現力
欧米諸国の小中学校を訪れると「笑顔」「スマイル」を嫌でも意識させられます。笑顔こそがコミュニケーション作りのベースであり、欧米ではスマイルこそが外交の第一歩だとよく分かります。日本人はその点で、かれらに一歩も二歩も遅れをとっています。
次に重要なことは、現地語を大きな声で喋ることです。短期旅行者が現地語をマスターすることは望み薄ですが、片言でもいいから、出来るだけ沢山現地のことば、表現、単語を覚える努力は惜しんではいけません。最低限知っておいて欲しいのは、現地の挨拶用語「ありがとう」の一言です。

11.土地勘とセンス
ある面で天性のものですが、やはり積極性と経験の積み重ねが大切です。大勢の人が集まる市場、マーケット、教会、バザール、広場、港、鉄道駅、バスターミナル等は、その都市の縮図であり、珍しいイベントや場面に遭遇する幸運もあります。危険な場所や時間帯、雰囲気、怪しげな人間どもも何となくわかってきます。場数を重ねれば、警戒心も少しずつ研ぎ澄まされてきます。


文責:得猪 外明
会場写真撮影:橋本 曜
HTML制作:和田 節子