2006年6月16日
神田雑学大学定例講座NO315




講師 鈴木 町子




鈴木町子講師プロフィール
鈴木さんは、早稲田大学在学中にスカウトされ、「週刊女性自身」の実用記事の特派記者となった。主にグラビア料理のページを担当し、ヨーロッパ各国の食事事情も研究した。その後、フリーとなって、三十数年は新聞、雑誌、女性週刊誌などに執筆、その傍ら食関係企業の商品企画アドバイザーや、メニュー開発などに参画。ごはん大好きの会を主宰。

料理ページの記者になった日

私が創刊当時の「週刊女性自身」の記者になったときは、早稲田大学に在学中でしたが、初めて料理記事を担当した日、編集長はこう言いました。

「鈴木町子は、メシも炊いたこともなさそうだし、家事だって何も出来なさそうだ。こういう娘に実用記事をやらせなさい」。では何をやらせるかということになり、編集長から出たタイトルは「ごはんの炊き方」でした。今でこそ自動炊飯器で誰でも簡単にごはんは炊けますが、その頃の私はほんとうにお鍋で炊く「ごはんの炊き方」を知りませんでした。

そこで、本屋さんで懐石料理の辻留さんが書いた婦人画報社刊の「ご飯の手習い」と「味噌汁365日」を買って、読みました。著者の辻嘉一氏に指導をお願いし、グラビヤページに仕上げました。わたしは料理の記者でしたから、料理の専門家とは絶えず一緒に仕事をしてきました。ズボラクッキングから手の込んだ本格料理まで、門前の小僧風に知ることができました。遅くまで働く女性向きの料理だから、まず簡単なものがいい。また自分が食べる食事だから、手抜きでも文句は出ない。その兼ね合いが大切なポイントでした。

フリーになってから文藝春秋社、婦人画報社、文化出版局、家庭画報社、各新聞社、TV局などで仕事をいただきました。その間に、料理に関する膨大な情報を身につけることができました。美味しい料理を発見すると、取材として、まず食べに行くことが出来たのが、うれしい役得でございました。という記者生活の中で、色々な方との素晴らしい出会いを経験しました。 そして、私に何が出来るかと自問したとき「料理に関わる仕事」を通して、戦後の食生活の歩みをリアルタイムで体験した四十余年、行き着いたのがごはんでした。

IH炊飯器

大阪の松下電器さんとのお仕事は素晴らしい出会いでした。開発プランのコンサルタントをしているときに、圧力機能を持った電気炊飯器のテストをしました。普通の電気炊飯器で炊いたコシヒカリと、圧力機能を持った炊飯器で炊いた標準米の比較では、何回テストをしても後者の方がおいしく炊き上がるのです。そこで、大阪の開発チームと、東京で試食会を催して圧力炊飯器の評価を認めました。標準米がこんなに美味しく炊けるのに、普及炊飯器で炊いたコシヒカリは可哀相。農家の方には申しわけないわと言いました。
IH炊飯器誕生のきっかけとなりました。
講師とご飯の炊き上がりを覗く受講生
しかし、問題は販売価格が高いという心配でした。「美味しければいいじゃないですか」と私は言いました。IH炊飯器は市場に売り出されました。家電市場では「ごはんが美味しく炊ける」という機能が評価され、高値でも順調に売られております。このエピソードは、私が、如何にごはんが好きかの証明でもあります。

私が時間もたくさん持てるようになって、何をしたかと申しますと、「ごはん」の研究一本に打ち込みました。幸い長い料理記者生活の中で、「ごはん」に関しては、古い文献や資料、伝承などの情報がたくさんあります。これまでは、雑誌の料理記者として、締め切り時間に追われて撮影し、記事を書くという日常でしたが、これからはリアルタイムで、気の済むまで教わった技と味を再現し、写真を撮り続けたいと思っております。

撮った写真は絵葉書にして、ごはんの普及のために使用したり、また料理カードとして
販売したいとも考えています。私の姪が海外にいた折、レシピつきの絵葉書を送ってやれば、喜んで炊き込みごはんを作るでしょうという軽い気持ちで始めました。長年カメラマンと一緒に仕事をしたものですから、撮影の仕方も、それなりに身につき、またパソコンへの取り込みも出来るようになりました。

画像を映写

これから、スクリーンにごはんの画像を映写いたします。この写真は、私が皆さんに、こんな美味しいご飯を教わりました。それをご馳走したいと思って炊きました。どうぞ召し上がってくださいという気持ちで撮ったものです。写真は少し気取っていますが、スクリーンを見ながら、詳しく説明したいと思います。

「さくら寿司」
これは、毎年さくらの季節に作る、桜のおすしです。すし飯の塩味は、さくらの花の塩漬けと、葉っぱの塩漬けから出しました。最後に、桜の花と葉っぱの塩漬けをすしの上に飾り撮ったものです。背景には花見人形。季節を楽しむごはんは、おなかいっぱいに食べるものではありませんので、少量を盛り付けました。

さくら寿司とさくら粥

「さくら粥」
さくらの季節には、花冷えという寒い日もあります。
そんな日には、白いお粥に、さくらの花の塩漬けを刻んで、塩の代わりに添えます。

「えんどう豆のごはん」
明治生まれの母からの伝承「おえんどうごはん」です。えんどう豆の季節には必ず作ったものでした。塩味の炊き込みごはんです。

「えんどう豆ごはん U」
これもえんどう豆ごはんですが、長年、えんどう豆と、豆の鞘と、豆の花を一緒に撮ってみたいと思っていたものです。器は春らしいものを用いました。絵葉書にすると、きっと映えますね。

えんどう豆のごはん 豚の角煮どん

「じゃがいもと切り昆布の炊き込みごはん」
バター醤油味の炊き込みごはん。北海道の方からのヒントで炊いてみました。なかなかおいしゅうございました。

「豚の角煮どん」
中華風の豚の角煮のどんぶり。のっけごはんです。元気が出るように刻みネギを添え、栄養バランスを考えました。「受験生用がんばってごはん」というタイトルをつけました。

「山路ごはん」
しめじきのこを醤油とチキンスープで煮て、炊き立てのごはんにまぶしたもの。普通の炊き込みごはんより、若向きの味です。ごはんの周りの紅葉は河口湖畔のもみじ名所から拾ってきたものです。秋らしい彩りになりました。

しめじごはん 栗ごはん

「栗ごはん」

栗の渋皮をむき、実を親指の先程度の大きさに切り、塩味で炊きました。取りきれない渋皮はそのままに炊く、昔流のやり方です。渋の色がほんのり鼠色に染まって炊き上がり、風味があります。私はこのご飯が大好きでございます。ちなみに葉っぱの器には、絵心をくすぐられました。若手の陶芸家 田中恒子さんの作品です。
九月になったら、ここで栗ごはんを炊いて、皆さんに召し上がって戴きたいと思います。
 
「銀杏とカニの炊き込みごはん」
黄色い銀杏は秋も深まる季節のものです。初冬の季節感を出す素材として有効です。

「うさぎ小むすび」
阿佐ヶ谷の「うさぎや」の饅頭をモデルにした塩味のおむすびです。梅干の果肉ペーストに砂糖をまぜて練り、うさぎの目と耳を描き、海苔の座布団に載せました。一個が25g程度の可愛いおにぎり。おかあさんうさぎで100gです。雑誌のおむすびに出てくる形は、ほとんど三角形や、丸、俵ですが、うさぎ小むすび遊びました。
たくあんの二枚重ねは、蝶々のつもり。

うさぎ小むすび つくしごはん

「スープチャーハン」
焼飯を作って、それに中華スープをかける。スプーンで食べます。1966年ヨーロッパ旅行の帰りに香港で初めて目にしました。香港の方は、焼飯をスプーンですくい、それをスープにひと口ずつ浸して食べていました。

「つくしの佃煮茶漬け」
メダカの器をみつけました。野原でつくしを摘むころに、小川にはメダカが泳ぐという春の雰囲気の表現です。つくしの佃煮は作るのが難しいのですが、上野の北畔の阿部なお(故人)さんから教わりました。

「蕗の薹のふりかけごはん」
蕗の薹の粒を外して、油で塩炒りします。粒のほどよい苦味が快く口中に広がり、早春の季節を味わうことができます。

「おかゆさん」
奈良の郷土料理・茶粥。ほうじ茶で炊いたあっさり粥です。
奈良の大仏建立の際、人々は米を茶粥にして食いつなぎ、浮いた浄財を寄進したと言われます。辻留さんの本によると、茶粥はやかんに入れ、井戸の水で西瓜とともに冷やし・・・・とあります。茶粥は、奈良風に塩味で頂戴いたします。お箸は吉野杉。手前に写る「露草」は、写真に写っている姿は見たことがありません。摘んで20分も経たないうちにしおれてしまうからです。これは我が家のベランダに咲く雑草の一つ「露草」です。大急ぎでシャッターを切りました。

さくら粥 ブロッコリー 柿ごはん 鯛ごはん ゆず

「ハムそぼろごはん」
夏、食欲のないときに好適なごはん。ハムを細かーく切り、それに生姜汁を振って、みじん切のネギを添えました。ハムのビタミンとネギのアリシンで、栄養的にも夏の食べ物に向いたまぜごはん。大館の秋田杉で名人が作った「曲げわっぱ」に盛りました。
外国旅行中に美味しいハムに出会うと、いつもこれでご飯がたべたいなぁと思うのです。

「冷やっこのぶっかけ」
JAお米ギャラリーの仕事をしていたとき、担当の方いわく、「冷やっこを喰ってて、くずれるでしょう。汁ごとメシにぶっかけるんですよ」。これは初耳でした。ホントに美味しい。写真展をしたときには、この写真の前にいつも人だかりができました。食べとおいしいけれど、撮るのには苦労しました。

「生ハムの茶漬け」
灯屋十兵衛という灯りアーチストに、「あなたの好きなごはん」を尋ねました。
「それあ、生ハム茶漬だね。マグロなんかの茶漬けより、よっぽど旨いぜ」
添えものは、薬味、のり、わさび、それに煎茶。普通の茶漬けと見かけは変わらないのですが、味は天下一品。

「いも粥」
白米と、厚切りにしたさつまいもを一緒に炊きました。お芋はお粥と同じように、こここと弱火でゆっくり煮ると大変おいしく煮あがります。川越の芋膳さんで買ったさつまいもの形の橋置きは、もう作る人がいなくなりました。
添えた菜は、さつまいもの葉で、食べられる種類のもの。

「さくらごはん」
二重桜が何とも美しいさくらごはん これは私の「一日一膳」の原点になる、さくらごはんです。昔、各界の一流の方がお見えになる新橋の懐石料理「ぶぶや」から教わった「おこわ」です。主人が歴史書の中にあった「花の入ったおこわ」をヒントに再現したもので、ぶぶやの春の名物でした。さくらの花の塩漬けだけで味付けをし、少々のお酒を入れて蒸しております。

かって伊勢神宮の偉い方が宮内庁病院に入院されたことがありました。お見舞いの方が、
何か召し上がりたいものはありませんかと尋ねたら、ぶぶやのさくらごはんを食べたいとおっしゃったそうです。ご注文を受け、お使いの方が取りに来られ、病室に届いたところへ、ちょうど昭和天皇がお見舞いに立ち寄られた。そこで、天皇も召し上がられたかは、定かではありませんが、さくらごはんをご覧遊ばしたそうです。

私は、日本の誇るコメと、さくらを組み合わせて味合うということは、世界に誇れる最高の米食文化だと思います。これ以上の組み合わせはありません。
ごはんの話は、必ず秋の新米の収穫時から始まりますが、私はこのさくらごはんを日本の代表ごはんにしたいものと、普及につとめております。
この写真が、何時の日にかニューヨークの美術館に飾られること、願っております。

「最後の晩餐」
講演の終了とともにサンヨーの「可変圧力おどり炊き」のお釜から「ごはんが炊き上がりました」とのアナウンス。金芽米の梅干炊き込みごはんを試食しながら、受講者によるこの世の別れの「最後の晩餐」のスピーチ開始。

A.私は疎開中に味わった竃で釜炊きしたごはんの、おこげに味噌をつけたおにぎりが懐  かしい。それを食べたい。
B.うな丼を腹いっぱい食べてからオサラバしたい。
C.アメリカ在任中に食べたカリフォルニア米が美味しかった。秋田県と緯度が同じで
  コシヒカリなどが生産されている。日本のコメより美味しい。それを食べたい。
D.富山県からおコメを日常取り寄せている。なんと言っても富山の水がいいから、おコ  
  メも美味しい。富山に限る。
E.おふくろの味。白いごはん。熱い味噌汁。
F.ゴマ塩の焼きおにぎり。具は筋子。30年前に兄ががんで亡くなった。大塚のがん研で   入院中に、筋子入りのにぎりメシを食べたいと言って、夜中に探し回ったことを思い出し  た。兄は目の前に届いたにぎりメシも食べられず、その夜亡くなった。
後略
(終り)





今年はコシヒカリが生まれて50周年。
この記念すべき年にごはんの講座を持たせて頂いて光栄です。


鈴木町子講師 一日一膳《ごはん大好きの会》は、食育の提唱者服部幸應先生の講演に触発された料理記者鈴木町子が、使命に気づき、ライフワークとして命名したものです。

大好きな米の消費量減少という深刻な事態に直面し、微力でも、記者の経験を生かして協力をしたい! なにができるか。

答えは直ぐそこにありました。
あの日、服部先生は「国民一人一人が、一日もう一膳ごはんを食べると事態は解決できるのです。皆さん、もう一膳ごはんを食べるようにしましょう」と説いておられました。

これなら私にもできる。
一日一膳《ごはん大好きの会》はこの日“発芽”したのでした。最近、ごはんが世界的に注目される健康食品となり、食に関わる各界の方々のご努力が実りかけているようです。

しかし、街の米穀商は苦戦しているのが現状。
米は主食でありながら、「米は日本の命綱」と言われながら、数字の上では米消費量減少は解消されていません。その中での光明は、「無洗米」の存在です。米を研がずに炊飯できるという手軽さが受けて人気があります。スーパーマーケットに、近くの店に並んでいますが、今ではお米やさんにも置かれるようになりました。

この無洗米からスター誕生しました。
オリンピックで金メダルを獲得した選手のごはん「金芽米」でした。
金メダル効果で脚光を浴び、いまやスーパーヒットを続けています。
選手の体力を支える栄養豊富なおいしい胚芽米、それは環境にやさしいお米でもあります。

今回の神田雑学大学の講座に、私は、特選の金芽米を使って「梅干しの炊き込みごはん」を作りました。炊き込みごはんは日本料理(懐石料理)界の偉人・辻嘉一さんに教えて頂いた私の宝物・思い出ごはんです。

無洗米もlH炊飯器もない時代に体得したごはんですが、トーヨーライス鰍ゥら先日届いた金芽米で炊きました。「美味しい!」との声に試食会がもててよかったと思いました。因みに、今回の試食会に使った炊飯器は、サンヨーの元祖圧力「可変圧力IH」ジャー炊飯器です。

通称『おどり炊き』といわれる機種で現在、私が愛用しているお釜です。
これは大変重いものでお米と共に会場まで持参するのは、こたえました。

● さて《ごはん大好きの会》は、ごはんの写真を核に活動しております。
JAお米ギャラリーにてスクリーン放映、杉並区役所にてごはん写真個展、
国連のイベントでパネル展示、ケアサービスにて出前写真展と試食会など。
原稿依頼には写真とともに提出していますが、活動は地味でささやかなも
のでございます。

今回、神田雑学大学の講座に呼んで頂いたご縁で、多くの方にお目に留まる機会を得、うれしく思います。ホームページにアクセスしてくださった皆さまにお礼申し上げます。つきましては、この機会に、お宅の美味しいごはんを伺いたく、ご披露下さいませんか。

できましたらレシピを添えて…。当方で写真を撮り「ごはん絵はがき原稿」に加え、ライブラリーを充実させたいと存じます。神田雑学大学編のごはん特集が生まれたら、どんなに嬉しいことでしょう。

○ ごはんの写真で普及活動をするうちに「お米の応援歌」があればいいな、と思うようになりました。若い音楽家・和田佳子さんにお願いし、すてきな曲を作ってもらいました。

「お米のきもち」という楽しい歌で、ノリのよさが抜群です。
どうか、皆様のご支援で、ヒットさせて頂きたいと思います。

CDのご注文に応じます。


お米のきもち

作詞・作曲  和田 佳子

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天使のような歌声は声楽家白石涼子さん、混声合唱がおはやしさながらに
♪おこめこめこめこめこめと景気をつけてくれます。思わず一緒に歌い出したくなります。

                                 鈴木 町子



文責:三上 卓治
写真撮影:橋本 曜
HTML制作:和田 節子