平成18年10月6日 神田雑学大学定例講座 NO331

   演題 「戦後60年の食生活の変遷」


講師 玉木 康雄 



昭和20年敗戦直後の食料危機から、わが国はどう立ち直ってきたか、今日は食料の面から戦後60年を顧みるいい機会です。わが国の食生活は、米、めん、味噌、醤油、魚 野菜中心の和食から、アメリカ文化の流入とともに、パンやバター、肉の食生活へと激変して今に続いています。また総合商社の活躍もあって、世界中から製品、原料が輸入され、国民の食生活の水準は非常に高くなりまたが、反面顕著な動きとして次のような問題点がクローズアップされています。



食料自給率
わが国には、総合商社の優れた活動によって、世界中のあらゆるところからいい原料が集まっている。例えばスペインから来たマグロとか、北欧から来たシシャモとか、世界一の北米小麦の輸入等があり、日本人の食卓には、総合商社の活動と、加工業者の素晴らしい開発力に支えられて、美味しい料理が提供されるようになっています。

商社がネットワークとノウハウによって世界中から食材を集め、あるいは現地において作付け指導し、日本国内で安くて美味しいものを供給できるように努力していることは、ご存知の通りで、まことに敬意を払うに値します。しかし、世界中から食料が集まっていることは、逆に食料の自給率が低下することに繋がる結果になっているのです。(農水省発表による平成17年度概算供給熱量ベース総合食料自給率40%。



食生活の変遷と食品メーカー、外食、中食、小売企業の開発努力
30年前は、新製品の開発はメーカーが行うものでした。しかし現在は、外食産業、中食提供企業、食品小売業が、独自に開発食品を市場に発表する時代になっています。これはこれで素晴らしいのですが、反面範囲の広い弊害も発生しています。販売競争が激化しているため、消費期限などの表示日が来れば、売れ残った商品は捨ててしまいます。

 昔、母親から殺生していけないと教わりました。それは単に動物を殺していけないという意味のほかに、すべてのものは本来の役割を正しく終えさせなければならないという意味の教えであります。たとえば、野菜。これは人間が生活のために栽培し、料理をして、食べるという役割を持って、スーパーの棚に並んでいます。これが売れ残ると廃棄される。 その量は把握できませんが、その他の商品を含めて、膨大な量になっているでしょう。 にも関わらず、世界先進国のなかで、わが国の食料自給率は極めて低く、先行きの見通しも暗い。

 4年前にお話した際は、色々な変遷の中、戦後50年に間に食生活はこのように変り、乳製品、畜産品の消費は画期的に増加した状況を述べました。今日も、それは大きく変化はしておりませんが、食生活として見たとき、今後はどのように推移してゆくのか、不安な点もあります。小麦粉の摂取に付随する乳製品、バター、チーズ、卵、肉の消費を別表のグラフによってみて見たいと思います。

         

 1965年は昭和40年。東京オリンピック前後の時代ですが、国民の食生活調査で、穀類・澱粉の摂取量63%。豆・野菜類は11,7%、動物性食品10,7%、油脂は6%でした。1998年には穀類・澱粉は43%に減少、豆・野菜類は11%で変化なし、動物性食品は20,8%とほぼ倍増、油脂類に至っては14%と2,3倍であります。(農林省統計) すなわち、動物性食品と油脂類が著しく増加し、その分穀類・澱粉が減少しています。 昭和25年の調査では、穀類・澱粉は86%で、ほとんどは米・麦で生活していたことを示しています。

 一方、自給率はどう変化したでしょうか。 1965年と2004年を比較して見ますと、自給率は73%から40%へと変化しています。 米はほぼ100%。昨今は95%になりました。減った分はガット協定で、外国から輸入している量です。  問題は畜産物です。6%の構成比ですが、自給率は46%から15%に低下しました。すなわち、構成比は急増しましたが、自給率は急減しています。

 油脂類は33%自給していたのが、現在4%しかありません。小麦は28%生産していたのが、13%に減少し、砂糖・魚介類は66%が36%に。などなどでわが国の食料自給率は73%から40%へと激減しています。わが国が輸入している穀物は、耕地面積に換算すると12,000,000ヘクタールとなりますが、これは国内の耕地面積の2,5倍に相当します。 また、「国産品だから自給ができている」とは必ずしも言えません。

 わが国には農耕機械類が約680万台存在します。その熱源はすべて石油です。すなわち、石油が止まれば、農耕機械も全部止まります。その上温室栽培が進んでいるので、野菜や果実も同じこと。そこまで考えると、日本の食糧事情は、まさに危険極まりないと思われます。世界の先進国の中では、フランスなどは自給率130%で、輸出の方が多い。アメリカでも100%以上ですし、イギリスも結構高い水準です。較べると先進国のなかで日本の自給水準は、異常に低い。

 最近、中国を訪問された有識者の話では、13億人の国民の生活水準が除々に向上している。反面工業化の急速な伸展によって、エネルギー需要は増加するともに、工業の排水公害が顕著になっているという問題が起きています。このことは、農業用水への影響することに繋がります。また、中国は工業化による「モノ作り」によって外貨を稼ぐことに懸命で、大豆などの穀物・野菜は輸入する方向に向かう政策を採りつつあります。いずれ世界的に、エネルギーと共に、穀物・野菜の取り合いになる可能性を含んでいます。



過食・飽食・肥満
数年前でしたか、アメリカの若者たちが、マクドナルドを訴えたことがあります。アメリカの国民が、これだけ肥満になったのは、太る原因となったハンバーガーを売ったからであるというのが訴因でした。この訴えはさすがに負けましたが、変な理屈もあるものと感心した傍ら、日本人の食生活にも、同じような現象が起きていることを感じました。 肥満は、アメリカだけではなく、日本でも、昨今オーストラリアなどでも、これ以上進んだら大変なことになると、問題になっています。  

 いま、医療関係の情報に、「生活習慣病」という名前があります。これはかって「成人病」といっておりました。この症状が、現在は小さい子供にまで見受けられるようになったため「生活習慣病」となった由であります。  実は、子供の肥満は、かなりのピッチで進行しているのです。理想体重を20%以上超えている児童の数が、年々右肩上がりで増加していることを示すグラフがあります。

 これは、ある意味では当然といえるのでしょうが、第一に食べ物がハンバーガーはじめとして、高度の栄養食が価格も安く、食べ易く提供されているからであります。第二には 清涼飲料水が、自販機によって容易く購入できるからです。甘味の摂取の仕方が、異常に多いのが生活習慣病の原因になっています。甘味は一旦体内に入ると、それ以上のものを摂取しないと、甘味を感じなくなる性質があり、それは糖の採り過ぎに直結します。

 

 子供の食べ物が変ってしまったことが、子供の成人病=生活習慣病となった第一の原因です。次に、子供向けIT利用のゲーム機の開発によって、子供が室内でゲーム機に熱中したり、あるいは塾に通ったありで、戸外で遊ばなくなった、すなわち運動不足に陥って しまったことが、挙げられます。これは明らかに入超化で、肥満の原因となります。 この子たちが、あと10年経ったらどうなるか、心が痛むばかりです。
 結局、肥満は糖尿病につながります。 現在、わが国には潜在予備軍も入れて糖尿病患者は700万人いると伝えられています。糖尿病は、余病を併発する特徴がありますが、その中の40%は腎臓病です。

腎臓が機能しなくなるので、全国で24万人の患者は人工透析をしないと生命維持が出来ません。しかし、人工透析費用は年間500万円かかりますから年間1兆2千億円。32兆円と言われる国民医療費の3,8%となりますが、つまりは国の大きな負担になっています。

 具体的には、医療費の負担2割を3割にするなど、医療費の各個人の負担増という形で帰ってきます。数年前まで、人口透析する患者は年間1万人づつ増えたという情報があります。肥満は、単に肥満だけで済まず、国民医療費を増大させ、国民の経済生活に大きな影響を及ぼす結果となっています。 産経新聞が、1週間ほど前から飽食社会への警告というシリーズ記事を連載しました。肥満に対しては、国を挙げて対処しなければならない。また、国だけではなく、世界的な問題として、政府、学会あげて、この問題を捉えなければならないという内容でした。

 では、どうすればよいか。ある医学博士がおっしゃるには
「そんなの簡単だよ。食生活を変えればいいのだよ。一日の食事に魚を100g、大豆を50g採り、動物脂肪をあまり採らない。そして塩分摂取を減らせば、糖尿病予備軍は一挙に減ります」。生活習慣病は、自らの生活習慣がもたらしたものだから、自己責任病とも言えるものです。習慣を改めることで予防が可能です。しかし、実際問題として毎日のこの食生活は難しい。余りにも、身の回りにいい食材が多すぎる。

こあと、食料問題について、受講者を交えて活発な談論風発の30分。 この日は台風に匹敵する大雨。二次会のレストランは天井から激しい雨漏り。バケツや洗面器がテーブルに並ぶという、懐かしい光景に遭遇しました。

 終わり

(文責 三上 卓治)



講座企画・運営:吉田源司  写真撮影:橋本 曜  HTML作成:上野治子