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神田雑学大学 平成20年7月4日 講座N0414


シドニー・ホバート・ヨットレース、
石井正行講師


目次

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講師プロフィル
はじめに
世界3大外洋ヨットレース
バス海峡はいつも荒れているのか?
挑戦する心
過去の厳しいレース
今回のレース
話題の参加艇
大型艇
レース前の状況
国際審判員
健闘する高齢者


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講師プロフィル

1954年 慶応義塾大学卒
1960年 ローマオリンピック ヨット競技日本代表選手
1964年 東京オリンピック ヨット競技日本代表選手
ヨット競技国際審判員
神田雑学大学定例講座第一回「アメリカスカップ」講師

はじめに

荒波に翻弄されるヨット


今日は、いまスクリーンに映っているオーストラリア シドニーの荒れた水域ホバートで行われた昨年のヨットレースのお話をいたします。私は、国際ヨットレース審判員として、このレースの審判を致しました。写真は1998年の風速80ノット、波高12mの台風のような風に翻弄されるヨットをヘリコプターから写したもの(『舵』より転載)です。海の荒れた状況は、このようなものとご理解ください。ホバート水域の中で行方不明者、死傷者がたくさん出てるという大きな事故が起きた年の映像です。この水域では、しょっちゅう事故が起きたりしています。
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世界3大外洋ヨットレース

ファストネット.レース

英国南部ワイト島のカウズをスタートし、西端のシリー諸島を通過して、アイルランド南西端沖のファストネット・ロックを廻り、プリマスにフィニッシュする605マイル(約1,120km)のレース。1925年に始まり、現在は隔年(偶数年)に行なわれています。

バーミューダ・レース

ニューヨークから大西洋を南下してバーミューダ島までの約600マイルのレース。ファストネット・レースとほぼ同時期に開始され、現在は同じく隔年(奇数年)に行なわれています。

シドニー ホバート・ヨットレース

シドニーからタスマニア島のホバートまでの628マイル(約1,160km)のレース。オーストラリア本土とタスマニア島の間のバス海峡は、ロアリング・フォーティー(吼える40度線)と呼ばれる荒海で航海の難所。このレースは1945年以来毎年開催され、今年で63回目です。

これは、約六十年前の外洋ヨットレースの呼称でして、現在ではこれより規模の大きいヨットレースも数多くありますが、伝統的なレースとしては世界最大級という意味です。
その三大ヨットレースのうち、最も厳しいといわれているのが、シドニー ホバート・ヨットレースです。
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バス海峡はいつも荒れているのか?

オーストラリア本土とタスマニア島の間のバス海峡は、水深が浅く、風は常に西から強く吹く(偏西風)のですが、もう一つ北から南に流れてくる潮があります。潮流と風がぶつかって、バス海峡の波が非常に高くなり、三角波が発生する。ご記憶と思いますが、6月23日福島県いわき市の巻網漁船第58諏訪丸135トンが三角波に襲われて転覆しました。

20人の乗組員のうち3人だけが救助され、17人が行方不明となりました。風と潮がぶつかり合って大きな三角波になると、漁船であれ、タンカーであれ、乗り切れない波力があります。その意味でバス海峡を通過するホバート・ヨットレースは、実に過酷なレースです。バス海峡は南緯40度線にあり、これを海の男たちは、ロアリング・フォーティー(吼える40度線)と呼んでいます。

その厳しいレースに、70歳以上の高齢者(最高齢84歳)が参加して、好成績を収めたことを皆さんに報告したいと思います。
神田雑学大学の講座の中で、過去に以下のような趣旨で話された方がおられます。
「なせばなる ・・・
病は気から
年じゃない」
私の報告も、歳を取っても諦めないで、挑戦することが大事だという内容です。

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講師の石井正行氏 挑戦する心

この6月30日のNTVですが、島田紳介司会の「1分間の深い話」に、デビ夫人(スカルノ大統領の未亡人)が出ていました。彼女は、「62歳になって自転車に挑戦して乗れるようになりました。去年67歳のとき、バンジージャンプをやりました。新しいことに挑戦するのは、ちっとも怖くない。怖いのは、挑戦する心が無くなることです」と語っていました。

本年5月、エベレストに挑戦した三浦雄一郎氏、かれは75歳で登山に成功しました。成功の直前に76歳のネパール人が登頂したので、最年長記録にはなりませんでした。しかし、新記録にはなりませんでしたが、脚に5kgの鉛の重しを付けて、重量のある荷物を背負って街を歩き回るなど、登頂を目的にトレーニングを続けて、遂に成功したのであります。

北京オリンピック馬術代表の法華津宏選手は67歳です。頑張ってやっていれば、目的は達成できるのです。法華津選手の場合は、障害飛越のような体力を使う種目ではなく、馬場馬術といって、馬と人間が一体となって美を競う競技ですから、高齢者でも出来るのですが、要はやる気があるかどうかです。

同じようにヨットでも、一人乗り、二人乗りですと、若い俊敏なパワーのある人でないと勤まらない。このシドニー ホバートヨットレースの船は、大体10人から15人くらい乗っています。すると舵取りだとか、ナビゲーター(航海術を指示する人)などは、かなり高齢者でもできます。スポーツの種類により、また役割分担によって、高齢者でも働く場があるのです。シドニーホバートヨットレースでは、そういう方々が活躍したのです。
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過去の厳しいレース

1977年、台風のような悪天候の厳しいレースでは、129艇が参加したのですが、58艇が棄権しました。1984年には152艇が参加したうち、105艇が棄権しました。この記録を上回る最悪の事故は、10年前(1998年)に起こりました。台風並みの爆弾低気圧がホバート海峡に吹き荒れ、風速80ノットの荒海に沈没した船は5艇、転覆6隻、死者、行方不明者計6人、ヘリコプターで救助された人42名というレースでした。
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今回のレース

2006年のボクシングデー12/26午後1時にシドニーをスタートしました。1着の艇は12/28にフィニッシュしましたが、ラスト艇のフィニッシュは大晦目の夜でありました。閉会式、賞品授与式は2007年の元日、タスマニアのロイヤル・ヨットクラブで行なわれました。今回も厳しいレースで、沈没1、マスト折損2、舵破損4、その他の故障2、計9艇がリタイア。ヘリコプターや警察のボートで病院に運ばれた怪我人7、その他にも負傷者はいたが死亡はゼロでした。

今回の風は30ノットでした。30ノットという風は、大したことではありません。私自身30ノットの風なら何遍も走ったことがあります。しかし、今回は波の状況が非常に悪かったのです。三角波の大きいのが来ると頂上から海面に叩きつけられて、100フィートの大型ヨットでも、マストが折れたり、舵が壊れたりします。このような厳しい状況の中で、今回は古い艇や小さな艇、それに高齢のベテラン・セーラーの活躍が目立つ画期的なレースでありました。

今までは98フィートのMaxiや、Volvo70のように莫大な費用(1艇10億円以上と言われている)をかけ、最新の技術を駆使して建造されたハイテク艇が、勝利を独占していましたが、今回は小型・中古艇の活躍と、大型・新艇の事故が対照的でありました。

受講風景 今まで、ヨットレースは大きい艇は速い、小さい船はスピードがないというのが常識でした。小さい艇は波に翻弄され、居住性もよくない。逆に大きい船は居住性も良く、スピードも速いので、レースにはハンディキャップがついていますが、今回のレースでは小さい船が大きい船に勝ったという点が画期的でした。それと、普通若い人が活躍する荒れた海のヨットレースの中で、ベテランの70歳以上の高齢者の活躍が、繰り返しますが特記すべき点でした。
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話題の参加艇

Maluka

 
話題の参加艇

全参加艇の中で、最小(全長30ft)最古(1932年建造)。旧式なガフリグの木造艇。全参加艇84のうち63番目にフィニッシュし、ハンディキャップ修正順位は8位。この船のオーナーのラングマン氏は、去年までは Maxiという最大(90ft:1隻の建造費は12億円)の船に乗っていたのです。同氏はヨットレースが金の競争になっていることを反省し、今回は敢えて最も小さくて古い艇で参加した。

この船を買ったときは、ボロボロだったそうですが、同氏経営の造船所で手直ししレースに臨んだと言われています。最近のヨットは全部FRP(プラスチック)で出来ていますから、
Malukaのような木造船を直す船大工は、現在はいません。ラングマン氏は木造船を作る技術を次の世代に伝えなければならないと、若い学生を集めて実習計画を組んで、参加艇を修理した。レースでは大型艇が沈んだり、マストを折ったりした悪条件のなか、最後まで完走して総合成績では8位となった。

Love&War 

Love&War

今回の優勝艇、1973年建造のクラシックな木造艇。スキッパーの
Lindsay MayはSHYR参加33回目。
この艇の本レース参加歴は12回。建造直後の74年と78年に総合優勝し、今回で3回目の優勝となる。

Ray White Koomooloo

1968年建造の年に優勝した名艇だが、今回はバス海峡の荒波に耐えられず浸水沈没。8人の乗組員は英国艇Adventureに救助された。これは現地の新聞報道写真だが、乗組員はバケツで水を汲み出している。
艇は傾き、乗組員はバケツで水を汲み出している

Wild Oats X1

05年建造の先鋭的なグランプリレーサー。参加艇中最大30m(98ft)の豪華マキシ。デビュー戦の前回は最短時問の新記録で優勝。今回も1着だが修正12位。98ftのマキシという艇が3隻出ていたのですが、その一つがこれです。

マキシ(98ft)
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大型艇

Maxiと言われる大型艇。乗組み員と船の大きさを比べて、大きさを想像してください。このような大きな船も、ラダーが壊れたり、マストが折れたりしています。この船のマストはカーボンブラック製で一本一億円。メインセール一枚約一千万円ほどします。

金に糸目をつけず大型ヨットに、優秀な乗組員を雇ってレースに参加するのは、本来のスポーツのあり方と違うのではないか、という批判からMalukaが今回出場して活躍したわけです。しかしながら、大きな艇に対する規制は当分されないでしょう。

船底についているのが船のバランスを取るキールです。重量は30トンあります。風に対して船が傾く際に、有効なバランスを回復する機能を持っています。しかし、船はバランスを保っても、マストが風圧に耐えられずに折れてしまう場合も多くあります。
船体から取り外されたキールの傍に立っている人物と比べて、大きさを想像してください。

マストの折れた大型艇

ABN AMRO

05年建造のオランダ艇。05-06VolVo Ocean
Raceで優勝した猛者。ア杯や世界一周レース等の経験豊富なクルーを集めたが、今回はマストを折って棄権。

ABN AMRO

Yendys

レースの1ヶ月前に進水した55ftの新艇。中国での制作費が1億円であることに注目を集めた。大型艇と小型艇の中間に位置する。優勝侯補の筆頭だったが4着6位。98ftのマキシやVo1vo70その他60ft以上の大型艇多数の中で4着は見事。

レースの1ヶ月前に進水した55ftの新艇

セール番号1836。

この船のオーナーの祖先が流刑囚としてイギリスからオーストラリアに流され、そのConvict Shipがタスマニア島に着いた年を記念したという。囚人とは言っても、政治犯だったオーナーの先祖に誇りを持っている。
(年齢や参加歴等は2007年レース当時の数字)
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レース前の状況

スタートラインはシドニー湾。画面の左側にベイブリッジがあります。橋の左端に見えるのがオペラハウスです。スタートして、シドニーヘッドに二つあるブイを回って、南に向かってタスマニア島へ走行します。シドニー湾はご覧のように狭く、多数の艇が通ると非常に危険です。そこでシドニー港湾局がヨットレースの航路の両側に黄色のブイを設置して10:00―
14:00までは一般船舶の通行を禁止しています。同時にレース参加艇もブイから外に出てはいけないという規制をしていました。ものすごい数のモーターボート、ヨットなどの見物艇がブイの両側に、お祭り騒ぎのように集まっています。

ものすごい数のモーターボート、ヨットなどの見物艇


シドニーは国際港ですから、世界各国から軍艦、商船や貨物船が入港してきますが、一切通行禁止でした。たとえば、日本でこのように大きなヨットレースを行うと仮定して、東京湾の一般船舶の航行を禁止するなどは、まったく考えられないことです。
イギリスなどの外国でも、よくあります。ヨットレースに対する、一般市民の理解と文化が違うので出来る規制でしょう。

レースの前に、このような18世紀の昔風の各種の大型帆船が航行してきます。これは帆走の歴史を見物人に見せるためのパレードです。海洋レジャーの普及した国の帆船に対するノスタルジヤでしょうか。シドニー湾を見渡せるビル、橋、丘、山などが、人また人、見物人で一杯になります。このような帆船は、見物人に帆船の歴史を見せていると同時に、レースの観戦客も乗せています。臨場感のある観覧艇です。

レース海図

レース海図

国際審判員

このレースの審判をした国際審判員の顔ぶれ。同一国から二人以上は出られない。左端 石井 正行。
審判の仕事は、参加艇のルール違反に対する抗議を審問して、判決を下すことですが、今回は沈んだ艇の乗組員を救助した艇がロスした時間を修正するという救済も行った。
全船がGPS搭載のため、位置関係を正しく把握していたので、ロス時間の修正も適正に行われた。

国際審判員の顔ぶれ

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健闘する高齢者

  左はジョン・ウオーカー 84歳最年長 
右はタスマニアヨットクラブ会長、
マリオン・クーパー
今回は1980年建造の古い艇で参加。最小グループ(33フィート)の艇Impeccableで健闘して5位となった。

左はジョン・ウオーカー 84歳最年長、右はタスマニアヨットクラブ会長

3位入賞のChallenge(38フィート)のオーナー ルー・エブラハムは79歳。
シドニー ホバート ヨットレースの参加歴は最多記録。

シドニー ホバート ヨットレースの参加歴は最多記録者

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激闘のシドニー ホバート ヨットレース。
夕陽のタスマニア島のフィニッシュは近い。

夕陽のタスマニア島のフィニッシュは近い

終わり

  


文責:三上 卓治
会場写真撮影:橋本 曜
HTML制作:和田節子

本文はここまでです



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