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2008.12.26神田雑学大学定例講座No.438

進化する江戸ソバリエ

講師 三上 卓治


  (クリックをすれば該当の項へ進みます。
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プロフィル

江戸開府四百年記念事業

江戸蕎麦は何故美味しいか?

シンポジュウム

江戸蕎麦学講座

経済効果は?

江戸ソバリエ倶楽部

進化する江戸ソバリエとは?

まとめ



三上 卓治さんの顔

プロフィル

1929年青森県に生まれる。
1953年早稲田大学卒業
同年3月日本紙パルプ商事鞄社
1985年吉祥寺村雑学大学世話人
1999年神田雑学大学理事長
NPO法人神田雑学大学 学長
江戸ソバリエ認定委員会 委員長




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江戸開府四百年記念事業

平成15年(2003年)は、徳川家康が1603年江戸に幕府を開いて丁度400年目にあたります。そこで、東京都が江戸開府400年の記念事業を行うことを決め、都をあげての大事業となったのですが、中核になったのは、千代田区でした。この年の4月に千代田区から区内のNPO法人に記念事業募集のメールが送られてきました。

さっそく各委員に呼びかけ、記念事業の企画の募集をしました。神田雑学大学は人材の宝庫です。理事の野本健男氏から「江戸ソバリエ認定事業」の提案がありました。野本氏はある薬品会社の総務部長の職を務めていましたが、趣味は古代史研究です。

吉祥寺村立雑学大学で年に一度の講演を十年間続けましたが、後半は蕎麦談義でした。地方で遺跡が発掘されると、必ず現場へ赴き確認するという本格的研究者ですが、必ずその地方の蕎麦を食してから帰るという、蕎麦の研究者でもありました。これらの経緯の中で、地方の蕎麦は夫々特徴があって、それなりに美味しいのですが、比べて見ると、東京の蕎麦が最も美味しいということが判りました。すると、東京の蕎麦はなぜ美味しいか?という疑問がわきました。

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江戸蕎麦は何故美味しいか?

野本氏は、それを追求してプロセスが、江戸の食文化を尋ねる講座になり、ひいては「江戸の粋」を顧みることになるので、これこそ江戸開府400年の記念事業として、ぴったりではないかという企画を示したのでした。 さっそく、千代田区の担当窓口へ、打診にいきまいりました。

担当の係りは、話を最後まで聞かずに 「これは素晴らしい!蕎麦は粋です。この企画は間違いなく当選します。私も蕎麦が大好きで、毎日食べています」

「ところで、企画の締め切りは何日ですか?」

「今日の17:00です」

この会話をしたのが10;30.

それから、提案用紙を貰って、あたふたと手書きの企画書を書き上げ、役所窓口へ提出したのが内容は、江戸ソバリエ認定募集人数100名。受講料¥10.000.総予算は\1,000,000でした。一週間後に、江戸開府四百年記念事業実行委員会の面接があり、目出度く採択となりました。

記念事業として採択になったのでしたが、具体的に何をするかは、それからの相談でした。まず、五人の実行委員会を結成しました。100人募集ですが、宣伝が必要でした。新聞、ラジオ、テレビという媒体を考えたのですが、先立つお金がありません。そこで、目立つ人寄せのため、シンポジュウムを九段会館で行うことにしました。

幸い、5月10日、江戸ソバリエ100人募集の講座内容と、シンポジュウムの記事が朝日新聞朝刊に大きく報道されました。ついで毎日、読売、産経などの各社に報道されましたので、朝から問い合わせが殺到して、大変な騒ぎになりました。講座申し込みの電話は、1週間で合計640本。新聞に載った日は、トイレへ行く時間もありませんでした。

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シンポジュウム

江戸ソバリエのポスター シンポジュウムの基調講演は、当時すでに蕎麦博士として著名な高瀬礼文先生(早稲田大学理工学部名誉教授)にお願いし、座談会は老舗のかんだやぶの堀田康彦氏、須田町まつやの小高登志氏、巴町砂場の萩原長昭氏、元有楽町更科の藤村和夫氏、司会は吉田悦子氏の顔ぶれでした。 シンポジュウムは大成功でした。客席が沸き立つというのは、このことでしょうか。

そもそも、蕎麦屋の主人は客席に、あまり姿を見せません。お客さんは、女将さを見たことはあっても主人の声も聞いたこともありません。蕎麦屋の主人の裏話を生で聞けるのですから、興味駸々、うなずいたり、笑ったり、手を叩いたりする様を、舞台の袖から見て私たちは感動しました。その結果、約500人の受講申し込みを受けました。

100人募集の講座に500人の申し込みです。蕎麦という食べ物にこれだけ大勢の人が関心をしめし、勉強しようとするのか。蕎麦には何か不思議な力があることを感じました。ちなみに「ソバリエ」という名称は、1995年から山形市の観光課が、蕎麦を中心とした観光案内人の名前で使用しており、また新潟県の小嶋屋総本店が商標登録をしていましたので、両者に対して然るべくご挨拶して、使用許可を戴きました。

シンポジュウムの座談会のメンバーは、初年度蕎麦屋老舗のご主人、2年目は蕎麦屋の女将さん、3年目は新進気鋭の蕎麦屋の経営者、そのあと、粋な蕎麦屋の味わい方、老舗の若旦那などと続けて参りました。いずれも極めて好評でした。

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江戸蕎麦学講座

100人募集に対して500人の応募で。会場は千代田区の配慮で区の施設の中から、100人規模の教室を手配済みでした。では抽選で100人選ぼうとも思いましたが、抽選の手配、当落の通知を考えると、これも大変な手間なので、500人を100人ずつに分け、同じ講義を5回行うことにしました。

さて、その江戸ソバリエ講座は、江戸蕎麦学講座という名称にしました。
まず座学は「耳学」と名づけました。耳から入ってくる知識だからです。

講座は、
蕎麦粉を製粉会社の組合長。
汁(つゆ)は鰹節会社の社長と醤油会社の開発部長
味醂は三河味醂製造会社の社長
器は漆塗りの専門家
薬味は唐辛子の専門家
蕎麦屋のしきたりは元有楽町更科主人
蕎麦打ちの科学は早稲田大学理工学部名誉教授

江戸ソバリエのポスター 手学では、手打ち蕎麦300gの実習 講師錦町更科五代目が模範演技と解説 素人蕎麦うちの専門家がインストラクターとして密着指導します。

耳学では、居眠りする人は一人もいません。目を爛々と見張って、講師の言葉を一言も聞き漏らすまいと、熱心に聞き入っているのでした。また、講師に対する質問も専門的で、参加者の蕎麦情報は高い水準にあることを示しておりました。また、現業の蕎麦屋さんも数名参加していたことは、実に意外でした。

手学では、錦町更科五代目の堀井市朗さんが落語家はだしの名調子の解説をして、実技は仲間の蕎麦屋さんが見本打ちを行いました。千代田区の施設の調理室の8台の調理台に受講生が4人。素人蕎麦うちグループのメンバーが1台に一人ずつ張り付いて、手打ち蕎麦の指導をするのです。




 講座 耳学・手学・舌学ノート・脳学レポート 蕎麦うちは、全く初めての人もいれば、素人蕎麦うちの有段者もいました。

見本打ちの本職が打った蕎麦を試食することも出来たし、自分が打った蕎麦を茹でてもらって、食べることも出来ました。調理室は感動の嵐となりました。

作業が終わって、認定委員の私たちは出口で見送りするのですが、受講者の皆さんは深々とお辞儀をして、「ほんとに楽しかった。有難うございました」とお礼の言葉を述べて立ち去るのでした。

舌学では一人十軒の蕎麦屋さんを廻って、蕎麦粉の産地や小麦粉との割合を調査します。もちろん汁の材料である鰹節や、醤油、味醂、薬味まで調査する仕組みです。すべての受講者にとって、この方法は初体験でした。蕎麦屋さんにとっても同様で、応対に様々な相違が見られました。

蕎麦屋にとって一番忙しい時間帯は昼飯時で、調理場は火事場のような騒ぎです。この時間帯に調査に訪れた人は、蕎麦屋さんに嫌がられました。一方午後2時過ぎあたりに訪れた人には、蕎麦屋の主人自ら丁寧に教えてくれたばかりか、これがきっかけでお馴染みとなったりしました。一人十軒がノルマでしたが、最高で五十軒廻った人もいました。調査の結果を報告するのは、舌学レポートです。

脳学レポート 脳学では、総合的な江戸蕎麦に対する評価を2000字程度の論文にして提出。 江戸ソバリエ委員会と講師が、論文を採点して合否をきめ、認定式(卒業式)において合格者を江戸ソバリエとして認定証を授与する。という仕組みです。
この仕組みは、その後も基本線は変わらずに、続いています。

舌学ノートが一種のマーケッテングとすれば、脳学レポートは江戸蕎麦の総合とも言えるでしょう。江戸蕎麦に対する想いや、調査結果の総合や、江戸食文化の粋の評価を2000字の論文にまとめます。蕎麦に対して受講者の皆さんは、かくも真摯に向き合っていたことがよく判って、襟を正して読むような内容のものが、多くありました。

舌学ノートと脳学レポートを、江戸ソバリエ委員会が審査して、合格者を江戸ソバリエとして認定します。期末には、江戸ソバリエ認定式を行い、江戸ソバリエ委員会の委員長が、顔写真入りの認定証カードを一人ひとりの首に掛けて祝福します。平成20年現在、江戸ソバリエに認定された蕎麦通は過去5年間で1,024人となりました。舌学ノートのために江戸ソバリエ受講者は、一人十軒の蕎麦屋を廻りますから、最低の計算でも合計10,240軒となります。

舌学ノートに食べた蕎麦の傾向が分かるように、領収書を添付してもらいました。 それを拝見すると、最初はもり蕎麦、ざる蕎麦が多いのですが、そのうちに 天麩羅蒸篭になったり、お銚子がついたり、焼き鳥、板わさがついたり、お勘定も、最初はもり蕎麦550円だけだったのが、8軒目あたりから3800円、7500円とか金額が上がってくる傾向がありました。

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経済効果は?

全部を集計したわけではありませんが、低めに見て1人1万円舌学に使用したとすれば、単純計算で1億240万円です。蕎麦の味を知った江戸ソバリエは、今後繰り返し蕎麦屋に通うことになりますから、控えめにみても6年間を通じて6億円、7億円の売り上げ増に繋がる計算です。しかも、蕎麦屋へは今後同僚や、家族を連れて行くことになりますから、更に何割増しの売り上げ増となります。しかも、美味しい蕎麦屋は神田にありますから、千代田区が深い関心をしめすのも、無理ないところと思います。

 江戸ソバリエの本 そのような背景を持ちながら、江戸開府400年記念事業なら1年で終わるところを、江戸ソバリエ認定事業は6年間続けているのです。

初年度は、お蕎麦屋さんもジャーナリズムも、素人がねーという態度でしたが、3年ほど前から、評価が変わってきたように思います。テレビ、雑誌、新聞からの問い合わせの質が高くなりました。最近では日経あたりから、専門的な質問がきたり、NHKの解体新書の番組に出演依頼が来るようになりました。社会的に認知されたような気分です。



第一回目のシンポジュウムを題材にした「江戸ソバリエ」。40人の江戸ソバリエが書いた「至福の蕎麦屋」の出版。江戸ソバリエのメンバーが地域の蕎麦本の出版に関わる「神奈川県のお蕎麦屋」「埼玉県の尾蕎麦屋」などを刊行しております。

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江戸ソバリエ倶楽部

さて、「江戸ソバリエ認定委員会」という存在を学校とするならば、その校友会的な存在が「江戸ソバリエ倶楽部」であります。蕎麦仲間には色々なパターンがあります。地域的に蕎麦うち仲間で構成されているグループや、食べ歩きを主にしている集まりや、勉強会主体のものや様々です。夫々が仲良く行動していますが、ちょうどアメリカ合衆国のように各グループが「江戸ソバリエ倶楽部」を形成しているのです。その江戸ソバリエ倶楽部は、この6年間に様々な社会貢献をしました。

 蕎麦打ちの実演 社会貢献のもっとも多いのは、地域の老人ホームの慰問です。材料費だけを戴きますが、 手打ち蕎麦の実演と試食のボランテイアです。一口に実演と試食といっても、実際には道具類(木鉢・蕎麦うち台・捏ね棒など)と、材料(そば粉・汁・薬味)の運搬が、実は大変なのです。それを個々のグループで数多く行っております。つい先頃、青梅の慶友カーデンハウスで、蕎麦うちを行いましたが、再度のご要望があり、先月メンバーを交代して行いました。


蕎麦打ちをしている子供たち
千代田区の秋葉原の活性化事業「万世橋ルネッサンス」には、駅前のダイビル2階のフロアーで、江戸流手打ち蕎麦の実演販売を昨年と今年の2年間好評裡に連続して行いました。 また世田谷区成城児童館では、1年生から6年生児童35名に対して、毎年手打ち蕎麦実習と試食会を行ってきました。

平成19年から、夢の島熱帯植物園の空き地にボランティアで蕎麦を植え、刈り取り、製粉した蕎麦粉で地域のお年寄りを対象に、手打ち蕎麦を提供しています。

10月には長野県松本市の蕎麦祭りに、東京蕎麦塾と合同の出店をしました。 メニュウは鴨蒸篭でしたが、出展30軒の中で最高の売り上げをあげ、本場松本市民から、「こんなに美味しい蕎麦は、食べたことがない」と賞賛されました。


 蕎麦喰い地蔵を供養している写真
練馬区豊島園の九品院というお寺に、蕎麦喰い地蔵が祀られています。そこで毎年11月に蕎麦喰い地蔵供養を行っていますが、これも江戸ソバリエ倶楽部の幹部が企画した街興しです。

本堂でご住職の法話を聞き、若い女性の弦楽四重奏を鑑賞したあと、これも倶楽部のメンバーが打った蕎麦を戴くというユニークな集まりで、お座敷が50人ほどの客で一杯になりました。




サンフランシスコでの江戸ソバリエリポート

社会貢献のハイライトは、昨年4月、アメリカ合衆国のサンフランシスコの日本人街70周年の記念行事に参加したことでした。渡航費用20万円は全く自前のボランティアに17名が参加し、同市の都ホテルで江戸流手打ち

蕎麦の実演を披露、日系市民や外交官300人のパーティでは屋台式蕎麦店を開き、日本文化の粋を紹介したのであります。この話には続きがありまして、帰国後の6月に神田明神の境内で蕎麦うちを披露したあと、本殿にて60食を恭しく「奉納」致しました。






神田明神位の神社になると、何かを寄付(奉納)するとしても、簡単には受け取ってもらえません。それなりの審査手続きが必要になります。江戸ソバリエは、今年の実績により、来年は格があがって「献上蕎麦」をお受け戴く予定になっています。  

神田明神  蕎麦を奉納している写真

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進化する江戸ソバリエとは?

 江戸ソバリエ・ルシック認定講座スケジュール

さて、このように江戸ソバリエは成長してきた訳ですが、江戸ソバリエ委員会としては、江戸ソバリエの中から、より専門的で高度な知識を持った人材を発掘したいと考えております。それは、「江戸ソバリエ・ルシック」の講座を受講して、厳しい審査を受け、合格した人に与えられる称号であります。

受講資格は、「江戸ソバリエ」に限りまして、受講者は90名様を募集しております。受講料は¥25,000.講座の内容は、お手元の資料にある通りです。

手学の蕎麦うちは、1kgの蕎麦粉を40分以内に仕上げることを標準にします。二八蕎麦を、礼儀正しく、時間内で綺麗に打てるかどうか。不合格になった場合、練習をつんで再試験を受けられるように、検討をしています。 舌学の最終コースには、「粋な蕎麦喰いコンクール」を開催することを、研究中です。蕎麦を食べるだけなら、誰でもできます。しかし、江戸蕎麦には作り方の定法があったように、食べ方の定法もありました。

先日のNHKの解体新書は、蕎麦を啜りながら音を立てて食べることが、香りを知覚するのに有効で、かつその香りが味覚を決定することを、科学的に証明しました。私たちは、江戸蕎麦の「美しく、粋な食べ方」の定法を復活することが、食育につながると考えています。

蕎麦道は果てしなく、終わりがありません。しかし、この道を究めることが、わが国の食文化の粋を探る旅であることを、信じてやみません。 おわり


(文責 三上 卓治)
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レジメ



写真撮影:橋本 曜 ・ HTML制作:上野 治子
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