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平成21年6月12日 神田雑学大学定例講座No.460



小峰光弘講座タイトル



目次

イラスト画像の画像
メニューの先頭です 講師プロフィール
1.はじめに
2.蜘蛛と昆虫はどう違う?
3.蜘蛛の目
4.蜘蛛の生殖
5.蜘蛛の呼吸・糸
6.水の中に住む蜘蛛
7.蜘蛛の天敵 ベッコウ蜂
8.蜘蛛の種類
9.質疑応答



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小峰光弘講師講師プロフィール

生まれ: 1937年2月、東京都武蔵野市
日本大学工業化学科卒
塗装会社 社長
小学生等に自然観察指導
  日本蜘蛛学会会員
日本土壌動物学会会員
 
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1.はじめに

蜘蛛のことをすべて話しますとっても一日では終わりません。話の前に皆さんにまずご質問をさせて頂きたいのですが、このな かで蜘蛛は嫌いという方はどのくらいいらっしゃいますか?(ほとんど手をあげる)
分かりました。大体いつもこのくらいの割合の方が手をあげます。じゃあ蜘蛛のどこが嫌いなのかなんでしょう。
毒があるから 嫌いと言う人は? ああいませんね。ここらへんは嬉しいですね。
では格好が気持ち悪いと言う方はいらっしゃいますか。ああ 殆どですね。
生きたものを捕まえて食べるから食べられた方がかわいそうだから嫌いだとい人はいますか?それはいらっしゃら ないですね。

こういう質問をすると大体7割方が嫌いだと手をあげます。
子供の反応をみると小さいうちは興味をもっても高学年になるほど 嫌いになっていくのです。小学校2,3年の子供に講義をしますと、蜘蛛は面白い生き物だから好きだと言う子が多いのです。なぜそれが大人になるにつれみんな嫌いになってしまうのでしょう。

私が蜘蛛が好きになったのも小学生のころです。私は終戦の時小学校2年生でした。私の住んでいる周りは林や野原が沢山あったのです。
私のクラスにいいとこのお坊ちゃんが2人ほどいてもの凄い昆虫の知識があったのです。彼の家に遊びに行くと、おじいさまの 書斎だなんていうのがあって、いま思うと凄いオーデュボンエンサイクロペディア、世界最高の手書きの絵が描いてある百科事 典がずっと揃っているんです。その時「ああこいつはこんなんで勉強している、絶対かないっこないな」と思ったのです。あい つらに勝つには昆虫では駄目だ。あいつらは何が嫌いかというと蜘蛛が嫌いなんです。「そうだじゃー蜘蛛であいつらに勝とう 」と蜘蛛のことを調べ始めたのです。

ところが当時昆虫図鑑というのはあるのですが、蜘蛛図鑑って、出ていなかったのです。ですが時間は当時は有り余るほどあったので、蜘蛛の網のかけかたなんて克明に観察して描いて夏休みの宿題に出したら、なんと特選一席を貰いまして、それからのめりこんでいまだにやっているのです。
大人になりきれなかった少年だねと仲間となぐさめあっています。
私が初めて蜘蛛専門の図鑑を手に入れたのは斎藤三郎さんという方の著書、日本蜘蛛類図譜という本でした。これは昭和25年ご ろ復刊された本で当時の子供の小遣いで買えるような本ではありませんでした。私は古本屋さんで高校3年の時ようやく手に入 れたぐらいです。
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2.蜘蛛と昆虫はどう違う?

私が思うに蜘蛛はどうして嫌われるかというとみなさん蜘蛛についてよく知らないからだと思うのです。
普通蜘蛛と言うと網を張るやつ?と言いますね。ここまではいいのです。次に大体9割の人が昆虫の蜘蛛ですかと言い方をしま す。これは間違いなんです。蜘蛛は昆虫ではないんです。

では最初に蜘蛛と昆虫の違いから話に入ろうと思います。配布したレジメに下の図をあげました。

蜘蛛と昆虫の違い

昆虫は基本的に体が3つにわかれています。頭と胸と腹です。それに羽が2対ついています。それから目が二つ、それも複眼がつ いています。その他単眼がいくつかついているものもいます。まあ中にして胸の部分から足が3対6本出ています。それから大体生殖器がしっぽにあります。だから昆虫は交尾(お尻をくっつけ交わる)をすると言います。

ところが蜘蛛は頭と胸が一つなんです。これを頭胸部といいます。それとお腹で体は二つです。
それと蜘蛛は目がたいがいの種類は8つついているのです。6つのものもあり、稀に4つ、2つというものもあります。95%位は8つついています。レジメ のなかに蜘蛛の種類と目の形をまとめておきました。こんなに色々な目がついているのが蜘蛛です。
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3.蜘蛛の目

目が8つといっても4つづつ2列になっているとは限りません。これらは全部単眼です。複眼は蜘蛛にはありません。
蜘蛛の目いろいろ
ではどうやってみるのか?これははっきりしたことは分かっていないのですが、最近の研究では全部の目が同じものを見ている のではないんではないかと言われています。
蜘蛛の中には網を張って餌を捕まえるものと歩きまわって餌を捕まえるものがあります。専門的には造網性の蜘蛛と徘徊性の蜘 蛛と言います。

徘徊性の蜘蛛は歩きまわって自分の目で餌を見つけなくてはなりません。たとえばハエトリグモの仲間は徘徊性ですが、8つの目のなかの2つが特別大きいのが多いです。これは明らかに動く餌を見つけるための目で、あとの6つは小さく違った役目をし ている可能性が高いです。造網性の蜘蛛は網をはって待っているわけですから、目がよく見えなくても網にかかった振動を的確 に捉えれば、それで餌は捕まえられるわけです。

それからもうひとつ蜘蛛が昆虫と違うところが足の出ている位置と本数です。蜘蛛は頭胸部の下から4対8本の足が出ています。 昆虫は3対6本です。

それから昆虫の触角に代わるものとして蜘蛛には触肢があります。肢といいますように、これはもともと足だったものが変化し たものです。昆虫の触角というのは周りの様子をうかがったり、敵を察知したりしますが、蜘蛛の触肢は違っていて、特にオス はこれが生殖器官です。
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4.蜘蛛の生殖

右のマンガを見てください。雌の触肢は元から先までが同じ太さです。オスは左の絵のように先が膨らんでいます。オスはここ に精液を貯めているんです。
蜘蛛の触肢 ではこれは人間のペニスの役目かといいますと実際はそうなのですが蜘蛛にペニスはないんです。分かりにくい話ですが実は蜘 蛛のオスは生殖の前段階がもの凄く複雑なんです。

オスの蜘蛛をひっくり返しますと頭胸部の下(腹部の上部)に割れ目があります。ここに隙間が出来ていて、ここから粘度の高 い精液の塊を出しているんですが、ここでは交接ができません。
蜘蛛はそのための小さな網を張るのです。そしてそのこの隙間をこすりつけて、その網に精液をつけます。そのあとオス蜘蛛は 触肢を使って精液をスポイトみたいに触肢の先に入れるのです。これが第一段階です。

次にこれを雌の身体に入れなくてはならない。
雌には体の裏側の腹の上くらいのところに生殖器があります。これは外の雌の器官と書いて外雌器というんです。ここにオスの 触肢を入れなくてはならない。
蜘蛛の雌とオス 雌はこんなに大きい ところが蜘蛛のほとんどの種類ではメスが圧倒的に大きいのです。
右のマンガを見てください。特にジョロウグモなんかは雌は オスの6倍くらいになります。
そして雌は身体が大きいし、動くものは何でも餌だと認識してしまいます。秋口にジョロウグモ は円網に近い網を張ります。だいたい円網の蜘蛛はここの真ん中に鎮座しているのです。

小さな体でもオス蜘蛛は普段は自分の網を張って捕食しています。
しかし秋口になりますとオスは食べ物どころではなく、子孫 を残すため自分の網を畳んで雌を探しに行くわけです。そこでメスが大きい網を張っているのを見つけると、近づきます。
人間風にいきなり付き合ってくれるなんて言って近づくとすぐ食べられてしまいますから、雌の機嫌が良い時まで待っているの です。
ですから秋口10月末頃になると、多い場合はひとつの雌の網の周りに10匹くらいオスが囲んでいます。
熱演の小峰講師 私が一番多いのをみたの では35匹というのがありました。
ジョロウグモの雌は大きくなると5cmくらいになります。オスはせいぜい5mmです。雌の機嫌のいい時に触肢を挿入しにいかなくてはならない。これが大変なのです。蜘蛛にとってセックスは命がけです。

蜘蛛に生まれる時は絶対オスに生まれては駄目。あんなに哀れな生涯は送りたくないですね。
それでやっと機嫌が良いタイミン グになると、周りのみんなが行きますから、中には食べられちゃうのもいるし、オス同士でケンカをしたりしますが、遠くから見ているとあまりオスと雌の大きさが違うので、人間に例えるとお母さんが子供におっぱいをあげているような感じです。
そして挿入が終わると「ああ楽しかった」なんて言っている暇はないんです。
すぐ離れないと危ないですからね。ことが終わっ た次の瞬間から雌にとっては動いているもの餌ですからね。うまく逃げるのは、・・・そうだなー・・・1割もいないと思います。
皆さん笑っているけれど彼等にしては命がけのことなんです。

これはジョロウグモの世界だけのことではありません。
たとえばハエトリグモの仲間でも、周りで動くものは全部餌ですからや たらに近づいていくと目的達成の前に餌になってしまいます。
ではどうするかというと人間でいえば催眠術、相手を踊ったり適当な振動を与えたりしてうっとりさせる蜘蛛がいます。タラン チェなんかもそうです。このシーンを克明に写したのが有名なディズニーの映画「砂漠は生きている」です。あれはよく撮った なと思います。なかなかとれる映像ではないですね。
もっと凄いのは相手が気がついて襲わないように、うっとりさせておいて、オスが糸で雌をがんじがらめにして動かないように して交接するという種類もあります。ですから蜘蛛にしてみれば生殖は大変な冒険なのです。

よく雌がオスを食べると言って引き合いに出されるカマキリですね。あれはもっと壮絶なんです。
私は昆虫も子供たちと一緒に 観察しているんですが、カマキリは交尾の神経と他の神経は違うのです。
交尾中に雌がオスの頭から食べ始めるというのはごく 当り前です。胸まで食べられているオスはお尻はまだついていますからちゃんと動いているのです。
交尾をする神経は別だから ですね。結局その場合オスは全部食べられてしまいますが、実はこれは自然の摂理にあっているんです。

なぜかというと雌は受精した卵を体の中で育てて産卵するという凄いエネルギーを使う仕事が待っているのです。
オスは種をつ けたらもう仕事がないんです。あとは死ぬだけなんです。ですから自分の子孫のために栄養になると言うことは自然の摂理とい えるのではないでしょうか。
カマキリがそう思っているかどうかは別ですよ。
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5.蜘蛛の呼吸・糸

蜘蛛の生態は面白い 昆虫ってかなりの種類が変態しますよね。
卵、幼虫、さなぎ、成虫という風にです。ところが蜘蛛は変態しません。蜘蛛は卵か ら孵ったらもう蜘蛛の格好をしています。
それから息をする場所です。昆虫は腹の脇に気門という息をする穴が沢山あるんですが、蜘蛛だって酸素を吸わなくては生きて 行けません。さっき話した外雌器のそばに書肺という部分がありまして、ここで息をしています。
ですから昆虫は頭を水につけてもおぼれ死ぬことはないけれど、お腹を長時間浸けておくと息ができなくておぼれ死んでしまい ます。

蜘蛛のお尻から出る糸はみな同じではないんです。色々な種類があるのです。
蜘蛛は例外なく糸を出します。網を張らない蜘蛛 でも例外なく糸を出します。
世界中に3万5千種類くらい蜘蛛がいるけれど糸をださない蜘蛛はありません。
昆虫にも糸を出すものがあります。昆虫はお尻や口など色々なところから糸を出します。たとえば蚕が糸を出す時は口の後ろの腺から出しますね。
蜘蛛はほとんどがお尻から出します。しかし中には変わったやつがいて、あごの後ろから出すものもいます。
皆さん能や歌舞伎 で土蜘蛛というものが出ますね。ばっと放射状に糸を出して相手を捕まえてしまうやつです。
実はああいう蜘蛛はいるんです。
ユカタヤマシロ蜘蛛という一寸変った名前の蜘蛛はいます。これは屋外にはあまりいないで箪笥の裏側なんかにいる蜘蛛です。
この蜘蛛は糸を吐いてかけるのですが、歌舞伎のようにはほとんど見えません。かけた瞬間が分からないほど素早いんです。
私も見たことがありますが、蠅が前を通っていくと、なに蜘蛛が「くくくく」と動くのです。そうするともう蠅が動かないんです 。 あれっと思ってルーペで見ると、細い糸が蠅の体全体にかかっている。いつ吐いたんだと言うようなものです。
糸は普通お尻か ら出すのですがあごの下から出す珍しい例です。
レジメ掲載の下の図を見てください。
蜘蛛の糸の種類と使われ方
蜘蛛の体内にはいろいろな種類の糸を出す腺があって、蜘蛛は目的に応じてお尻から違った腺で作られた違った糸を出すのです 。
たとえばブドウ状腺というのは、獲物を巻きつける糸を出すとか、管状腺というのは卵をうんだ時に表にかぶせる糸を作ると か、鞭状腺というのが網を張る時に使う糸を作る腺です。

みなさん不思議に思うでしょうが、蜘蛛が網を張りますね。そこに餌がかかるでしょう?ところが蜘蛛はなぜ網に足をからませないんでしょうか?
これはよく子供に質問されます。
これは何故かといいますと枠糸とか縦糸は太い丈夫な粘りのない糸なんです。同心円を形作る横糸が粘りのある糸なんです。

普通の人は粘りのある糸というと糸全部が粘ると思うでしょう。これは10倍くらいのルーペで見ると分かりますが、細くて柔らかい糸に等間隔に粘球がついているのです。お尻から糸を出す時に粘球を断続的に出しながら糸を張っていくわけです。だから 粘る糸も全部が粘るわけではないのです。
じゃあ蜘蛛は粘球と粘球の間を上手に選んで渡っていくのかと言いますと、流石にそんな器用なことは出来ません。蜘蛛が餌を 見つけて走っていくとこは縦糸を渡って歩くのです。
蜘蛛でも種類が違うと網の張り方が違います。違う種類の蜘蛛の網に他の蜘蛛が入るとからんでしまいます。蜘蛛を捕まえる蜘 蛛がいると言うのはそれだから出来るのです。他の種のクモの網にかかった蜘蛛は自分が餌になってしまうのです。

蜘蛛の中には全く粘らない糸で網をつくるものもいます。
今の時期だとよく植え込みに霧がかかった日なんかは白く棚状の網がついているのを見ますが、これはクサグモという蜘蛛の仲間で棚状の網を張りますが、これは全部粘らない糸なんです。粘らない糸でどうして虫がつくのかというと糸がものすごく緻密に編まれているのです。
そうすると虫には脚にとげがあるのが多いですから、これが絡んでしまうのです。それで動きが取れなくなってもがいていると振動で察知したクサグモが出てきて、それに更に糸を巻きつけるのです。こういう行動をラッピングというのです。
講座風景
蜘蛛の糸操作には感嘆するものがあります。例えば小学生一年生のような小さな蜘蛛の網に相撲の小錦みたいに大きい獲物がか かった時にどうするか?
滑車の原理で何重にも糸をかけて少しづつ引っ張り上げていくのです。
特にボカシミジングモなんかはもの凄く小さいんですが、地上に何十本も縦糸を垂らしておくんです。そこを通る蟻とかだんご虫とかが一本の糸にからみつきますと、上からさっーと降りてきて、その周りにどんどん糸を絡めて身動きできないようにして 、それから釣り上げていくのです。
ですから必ずしも小さい蜘蛛が小さい餌を食べているかというとそうではありません。そういう意味では蜘蛛の捕穫術というのは凄く興味があって、その捕穫行動とか網の張り方専門に研究している蜘蛛屋さん(クモの研究者)がいます。

蜘蛛屋さんが全部蜘蛛のあらゆることを研究しているかというとそうでもないんです。蜘蛛の行動専門に研究する人、特に捕穫 行動とか網の張り方専門の人、生態専門の方、最近は糸専門で研究する人多くなりました。
最近蜘蛛の糸を何千本か集めて束ねて、ハンモックを作って、自分の体を釣りあげられるかという研究をした方がいます。
大崎茂芳さんという方でこの方は高分子化学の研究者です。蜘蛛の糸というのは100%タンパク質ですから生物学者でない方も 興味を持つのですね。
この実験はテレビ中継され、第一回目は失敗して、切れて彼は下に落ちてしまいました。しかし2度目は成功しました。50cm くらい持ちあがりましたね。今は奈良医科大学で人工臓器の研究がご専門です。

ふつうは網というのは何本の糸かで編み合わさっているから網ですね。ところが条網という一本の糸で餌を捕まえる蜘蛛がいま す。
こんな気長な蜘蛛がいるのかなと思うほどなんですが、木と木の間に一本の糸を張るのです。自分は片方の木の糸の付け根あたりにいるのです。それでじっと待っている。

この空中を渡っている一本の糸に虫がひっかかる確率は低いですよね。それを期待しているのではないのです。
網を張らないで歩きまわる徘徊性の蜘蛛がこの木にきたとするでしょう。するとその蜘蛛は向こうに行きたいなー思っても、それらしい足場がないといけません。それでここにちょうどいい橋があるじゃないかということで渡ってくるんです。この確率もかなり低いですよね。
それを辛抱強く待っているのです。場合によってはひと月以上待っているケースがありますが、通常は3日か4日に一回くらいは 徘徊性の蜘蛛がかかるのです。これはオナガグモと言います。蜘蛛は尾がないのに、なぜ尾長というのでしょう。これは実はお 腹がもの凄く長細いのです。本当は腹長蜘蛛ですね。これは一種の擬態でちょと見ても松の葉かなんかが引っかかっているよう にしか見えません。

こういう蜘蛛がいます。蜘蛛はここにいるのです。これ、何をしているのかというと、扇状の網です。扇の要に蜘蛛はいて、前足で要側の糸を持っているのです。枝に要側の糸はついていないのです。
オオギ蜘蛛の網と生態を説明中 なんで枝にくっつけないでこの糸を持っているんでしょう。
振動を自分で起こし獲物に糸を絡めるためです。餌がかかりますと要を握る蜘蛛は糸を緩めたり引っ張ったりして獲物に糸をどんどん絡めるのです。そして完全に動きを止めるのです。
この蜘蛛は体長5mmくらいの小さい蜘蛛なんですが扇の長さは40cmくらいあるのです。

サラグモという蜘蛛もいます。これはお皿みたいな網を張るからそう言うのです。 皿のくぼみを上に向けて張るものもいますがくぼみを下に向けて張るものもいます。両方とも餌が絡みやすく機能的です。
キレアミ蜘蛛の珍しい網 こんな網を張る蜘蛛もいます。網の一部がないのです。じゃーこれはどうやって糸を張るのでしょう。まず縦糸はきれいに張るのです。次に横糸を張る時に空けるところでUターンするのです。網が切れたように見えますね。ですからキレアミグモというんです。

それからこれは日本にいないんですがニューギニアに行った時に見たんですが、こんなはしご状の糸を張る蜘蛛がいました。
こ の長さが3mくらいあって、木の幹に張るのです。意外と木に登って来る蟻とか他の虫が引っ掛かるのです。ですからこの持ち 主は結構丸々と太っていましたね。
はしごのような網を張る蜘蛛
こういう蜘蛛の網を専門に標本にしている人がいます。
糸で出来た網そのものをそっくり標本にするのです。去年銀座のINAX画廊で展覧会を3月位やりました。船曳和代さんという方です。
この方が網の標本を作ったら日本でトップだと思います。私がこの人とエクアドルに行った時に、どういう取り方をするのかをまじかに見ることができました。

それは見事なものです。かなり大きい画用紙を用意し、その全体に濃いブルーのラッカーを吹き付けるのです。一方網には白いラッカーを吹き付けるのです。
それも女性らしいと言うのかちゃんと持主の蜘蛛を逃がしてからやるのです。その時に網を傷つけて破いてはいい標本が出来ないので、それこそ慎重に逃がすのです。

そして、ブルーの台紙にこの糸を破かないようにくっつけるのが、すごく大変なのです。その時の指先の動きが繊細で時間をかけるのです。たとえば木の枝とかあちこちについていますね。それを一本一本外していくのです。
実は私は塗装業をやっているんですが、日本にロックペイントという塗料会社がありまして、ここのブルーのラッカーが最高にいいんだそうです。しかし外国にはラッカースプレーなんかは飛行機で持って行けませんから、現地調達しなければならない。 ホビーショップへ行って、私が通訳して近いものを買ったのですが、彼女はロックペイントのものがいいとつぶやいていましたね。
この木の幹にかかる3mのはしご状の網を取る時は2時間くらいかけていましたね。
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6.水の中に住む蜘蛛

蜘蛛はどこにでも住んでいますね。実は水の中にも住んでいます。これは去年うちの近所にある井の頭公園の水生生物園で飼育していた時の、日本でもたった一種類しかない水の中に住む蜘蛛です。名前がミズグモというのです。
ミズグモといえども蜘蛛ですからえらを持っているわけではありません。ですから水中で生活は出来ないんです。
ではどうするかというと水中に巣を張ってそこに空気を貯めてその中で生活をするのです。どちらかというとあまり水の流れのない淡水池などに、藻なんかがありますと、その中にこういうドーム状の網を張るのです。
この中にどうやって空気を貯めるのでしょう。蜘蛛は水面に上がって行ってお尻を水面上に出すわけです。下の写真のように蜘蛛にはお尻の所に細かい毛が密生しているのです。それから水中に入ると、お尻の毛に気泡がつくのです。
水中の暮らすミズグモの生態 この気泡を使ってドーム状の巣が空気でいっぱいになるまで、何回も水面に出たり潜ったりを繰り返すのです。 なんでこんな不便なところで生活するのでしょう。絶対に地上では生活しないのです。
水中の暮らすミズグモ これはつい最近分かったことなんですが、年をとってくると可哀そうなことが起こるのです。今日のお客様にはいませんが、この毛が年配になってくるとだんだん少なくなってくるのです。なかには殆どなくなるものも出てきます。
空気が無くては生活できませんから、一生懸命空気を取りに行くんです。しかし空気を貯める細毛がないから貯められず、溺死をしてしまう年配のミズグモがいるということがごく最近分かったことです。まあ年はとりたくないなということですね。

一時この蜘蛛は日本では絶滅したと思われていました。10年くらい全く発見されなかったのです。それが北海道と京都でまた見つかったのです。それで去年井の頭公園の水生生物園で飼育を始めたのです。ずいぶん見学者が来ました。
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7.蜘蛛の天敵 ベッコウ蜂

蜘蛛の最大の天敵は鳥です。
しかし有名な天敵に蜘蛛を専門に狩る蜂がいます。狩人蜂という巣を作らないで一匹狼で狩りをしている蜂がいます。特に蜘蛛だけしかねらわないベッコウバチがあります。彼等は限られた種類の餌を狙っていて、たとえばキオビベッコウはコガネグモ科の蜘蛛しか狙いません。

どういう狩りをするかというと、最大の武器は針です。蜘蛛も毒牙がありますからベッコウ蜂も蜘蛛を狩るのは命がけなんです 。蜂はまず体当たりして網にいる蜘蛛を地面に落とすのです。それで蜘蛛の上に乗って蜘蛛の一番弱いところ、お腹の付け根を下から刺すのです。

ところがその毒で蜘蛛が死んでしまうわけではありません。蜘蛛は完全に麻痺して動けなくなりますが死んではいません。そこに蜂は卵を一個だけ産みつけて穴を掘って麻痺している蜘蛛ごと埋めるのです。
蜘蛛が死んでいれば腐ってしまいますが生きてはいますから、卵から孵った蜂の幼虫はその蜘蛛を食べ始めるのです。皆さんどこから幼虫は食べ始めるとおもいますか?頭からは絶対食べないんです。頭には中枢神経が集中しています。ここから食べると 蜘蛛は死んでしまいますね。そうすると残った部分が腐ってしまうでしょう。ですからお尻から食べ始めるのです。最後に頭胸 部を食べるのです。

残酷なはなしですが、蜘蛛は生きながら餌になるのです。だいたい大きい蜘蛛ですから一匹食べ終わると幼虫はさなぎになるのです。
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8.蜘蛛の種類

世界ではいま35000から36000種位の蜘蛛がいます。では日本はどのくらいか?見つかって正式な名前のついている「記載された」蜘蛛で約1400種です。まだ名前のついていない「記載されていない」ものが200くらいいます。
おそらく日本全土で2000はいるんではないかと言われています。こんな小さな島国で日本は非常に数が多いのです。何故かと言いますと日本は南北にとても長い国ですね。これが理由なのです。
動物全般で言えることなんですが、だいたい北方系、南方系のものがあります。北海道のこの部分にしかいない種類とか、沖縄のこの島にしかいないとかいうものが集めて1400ということです。いま西表島あたりで新しい蜘蛛が発見され増えようとしているのです。では日本ではどこの地方が蜘蛛の種類が多いと思いますか?

それは東京なんです。高尾山には420位いるんです。なんでこんなに多いのかというと北方系と南方系が両方いるのです。首都の近くのあんなに低い山でこんなにいるなんて世界では考えられないことです。ですから東京で蜘蛛の研究をする人は恵まれているのです。
北海道でも本当に寒いところにしかいないというようなものが見つかります。北海道は少ないのですが、今後はもっと出ると思います。北海道には研究している人が2〜3人しかいないのです。
中心になって研究しているのは松田まゆみさんという女性です。彼女がみつけるものはほとんどが新種です。ですからマツダタカネオニグモとかマユミオニグモとかみんな彼女の名前がついてしまうんです。

では他の国ではどうか。中国が多いです。3000種くらいはいます。国も広いし暑いところも寒いところもありますからね。

世界を歩くと蜘蛛に関する図鑑がいろいろあって私はいろいろ集めています。
世界から集めた蜘蛛の図鑑の数々 ここに「The Spiders of Great Britain and Ireland」という、素晴らしい絵で描いた図録があります。
写真ではないんです。 外国には絵で描いた図鑑で立派なものがあるのです。細い毛なんか筆で一本一本線を描いています。本当に生物の特徴を見るには絵の方がいいと私は思いますね。いまやこ ういうものは美術的価値がありますね。

話は尽きないんですがこのくらいにして質問がありましたらお受けしたいと思います。
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9.質疑応答

●研究者は女性が多いのですか?
日本蜘蛛学会というのがあります。いま200名を越える会員がいますが、若い女子学生の研究者がかなり増えています。以前では考えられなかったことです。
また蜘蛛だけに限らず日本土壌動物学会というのがありますが、昔はこんな学会に入る女の子っていなかったんです。実は先週筑波で学会があったんですが、若い女性の発表が5つ6つ出てきました。たとえば土壌動物の中でミミズがあります。このミミズ分科会にかなりの多くの女子学生が参加して手で触ったりして大騒ぎしていましたね。そういう時代になっていますね。

●子供たちと生物観察をしていますね。
子供の好奇心、知識欲ってすごいです。一緒に話していると啓蒙されます。
私はこんなことを言っては悪いんですが子供の芽を摘むのは大体母親だと思います。
たとえば5年性や6年生になると「あんたもう子供じゃないんだからいつまで虫採りなんかにうつつを抜かしているの」なんてこういう言い方をするでしょう?これは間違いです。いままで日本でノーベル賞をとった学者さんの9割の人が言います。僕の少年時代は昆虫少年だったと。

虫にうつつを抜かしているから勉強ができなくなってたいした人間になれないというのは嘘です。何でも夢中になれる子供って他の分野でも夢中になるのです。探究心が旺盛なんですね。虫に一生懸命だから算数が駄目とか国語が駄目だなんてことは絶対ありません。
それからこれは女の子に言えることなんですが、女の子って意外と虫好きなんです。ところが5年生くらいになると女の子の虫好きって仲間に嫌われるのです。いじめにあったりして、好きなものから離れていくのです。友達も芽を摘む一因なのです。

●ノミやシラミと蜘蛛の関係は?蜘蛛の仲間にはどんなものがいるのですか?
蜘蛛の仲間 ザトウムシ ノミは昆虫です。シラミも昆虫です。ダニは昆虫ではなくて蜘蛛の仲間です。サソリも蜘蛛の仲間です。ムカデは蜘蛛の仲間で はありません。
蜘蛛の先祖は何かという研究も行われており、現在のところカブトガニが祖先に近いのではないかといわれています。

これも蜘蛛形類の仲間ですがザトウムシってご存知の方いますか。林の中の地面をこんな形のものがゆらゆら這っているのを見たことありませんか?この真ん中の体が小豆くらいで足の長さが5〜6cmくらいあります。足は8本ですが蜘蛛とどこが違うかというとこれは体が一つなんです。むかしはメクラグモって言ったんですが、それが差別用語だと言うので座頭虫に代わったんですね。この虫は本当は目があるのです。
昆虫と蜘蛛は三葉虫の時代から別々の進化の歴史を歩んできた生物です。

●成層圏をジェット気流に乗って蜘蛛が飛ぶということを聞いたことがありますが、蜘蛛は飛ぶのですか?
蜘蛛は羽がありませんから移動手段は歩くことしかありません。しかし上昇気流に乗って飛ぶことはあります。
これをバルーニ ングといいます。春暖かい日地上から上昇気流が上がりますね。蜘蛛は葉っぱの先端にいてお尻から糸を出すのです。糸は一本でありませんから幕みたいに広がるわけです。これに上昇気流をはらんでころ合いを見て葉っぱから離れるのです。蜘蛛の重みなんて0.1gか0.2gでしょう。すーっと飛んでいくのです。これを通称飛行蜘蛛と言うんです。上昇気流によって上がるのです。これが成層圏まで行くことがあるようです。
アメリカ空軍の気象隊は定期的に空の浮遊物を調査しています。その時にこれが入るのです。ウンカもよく入るようです。非常に珍しいことに蝸牛の子供が入ったことも報告されています。
また飛ぶのではないですが、跳ぶ、跳躍する蜘蛛はいます。日本ではハエトリグモ、英語ではジャンピングスパイダーという蜘蛛です。これは自分の体の10〜20倍くらいは跳びます。

●蜘蛛はどうやって獲物を食べるのですか?
蜘蛛は血を吸うとか体液をすうとか言う人がいますね。昭和20年代くらいまでの子供の虫の本には蜘蛛は昆虫の体液を吸います と書いてあったのです。実はこれは間違いです。
蜘蛛は相手に噛みついて牙から毒を出して麻痺させますけれど、これは強力な消化液も注入しているのです。相手の体を溶かし てジュース状にして吸い込むのです。
蜘蛛の胃袋は吸胃と書くのですが、吸入ポンプになっているのです。

子供は蜘蛛を観察して蜘蛛は口をくちゃくちゃして噛んで食べているとよく言いますが、これは食べているのではなくて相手の 体に消化液がよく混ざるようにしているのです。蜘蛛は絶対に固形物では食べられないのです。

語りたいことはたくさんありますが時間ですからこの辺で閉めます。本日はご清聴いただき、まことに有難うございました。



文責:小峰光弘、臼井良雄
会場写真撮影:臼井良雄
HTML制作:臼井良雄


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