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平成21年11月6日 神田雑学大学定例講座No.480


肩の凝らない「肩こり」の話  ー噛みあわせと健康ー   講師 青山田中歯科医院院長 田中 武




目次

イラスト画像の画像
メニューの先頭です 講師プロフィール
1.はじめに
2.噛みあわせとは
3.噛みあわせ異常の診断と治療
4.3Dスプリントによる診断・治療
5.劇的な効果があった若い男性の事例
6.事例の数々
7.質疑応答



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講師プロフィール

田中武講師 経歴:1939年生まれ
日本歯科大学大学院終了、歯学博士、
現在青山田中歯科医院院長、日本歯科大学非常勤講師
著書:『成功への歯科医療-コミュニケーションとモチベーションの進め方』デンタルフォーラム,1989他
共訳:H.Gelb著『頭頚部・顎関節の痛みと機能障害の臨床』医歯薬出版,1991他
連絡先:青山田中歯科医院
    Tel.: 03-3405-6480
    Email: 6480tanaka@gamail.com
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1.はじめに

田中です。はじめにこの患者さんのスライドをご覧になってください。
ある患者の立ち姿初診時と治療後
これは下の図にありますような、体がまっすぐ立っているかどうかを見やすくするようにセットされた場所で撮られた初診時と診療開始より14日後の治療終了時の全身像です。
この方は初診時には基準線(赤線)よりご自分の右のほうに体が流れていっていますね。今日お話しする治療をした結果、14日で身体がまっすぐ立っていることが分かります。
初診からわずか2週間でこういうことができるようになりました。
今まではこれはなかなか難しくて、短くて3,4か月、長い人は5年、6年、7年と治療してやっと正常になるという方も珍しくなかったのですが、非常に短期間で出来るようになりました。そういう装置を私が開発して、それを若い先生方に伝授したりしています。

この患者さんは右の肩がちょっと下がっており、もちろん肩こりがありました。
右側の2枚は側面から見たところで、最初はお腹が出ていたのが、姿勢が変わることによっておなかの出っ張りも矯正されています。2週間でダイエットができるわけはないですからね。
自作の立ち位置撮影台と固定カメラ この撮影場所は私が日曜大工で作ったのですが、こういう桟(赤線)を作っておいて、そこの決められた位置に足を置いて、正面にカメラを金具で動かないように固定しておき、写真を撮ります。
次の図は先程の初診時の正面写真を骸骨に変えた図ですが、体全体が右に傾斜、移動しています。
ですから骨盤も右に移動してしまっているわけです。また頭が右に移動して傾斜しています。
それから左肩に比べて右肩が下がっている。これが肩こりの原因になっていました。
立ち姿の骨格 そして右足がO脚になっています。右に体が傾いていますのでどこかでバランスを取らなくてはいけませんから、こういう風に足がO脚になってしまっているのです。
そして足元を見ますと右足が外反しています。
この患者さんは治療14日でつぎのような劇的な効果が見られました。
噛み合わせを修正していますから当然ですが噛みやすくなった。
そして大きく口を開いたりすると今までは顎がカクカクと鳴っていたのが、口を開け閉めしても音がしなくなりました。
それからこの方は主婦ですから台所で包丁を使うのですが、その時いつも歯をくいしばっていたのが気になっていたのが無くなりました。
それから今日の話題の肩こりがなくなった。今まで少なくとも2週間に一回は整体の治療を受けていたのが行かなくてよくなったということです。
それから膝の痛みが取れました。今までのO脚がストレートになりましたから、膝への負担が軽減したのでしょう、今まで整形外科で傷み止めの薬をもらっていたのが必要なくなったと言っています。
まだあります。いつも階段を上り下りする時には手すりにつかまらないと不安だったのが、手すりをつかまないで階段を上り下りできるようになりました。
そして足の外反がなくなったので、左足が履けていて右足が履けなかった靴が全部履けるようになったということです。
そしてこれは顔をクローズアップした写真ですが、明らかに治療後のほうが顔の色つやが良くなったことがお分かりになると思います。
それから唇なんかもかなり良い状態になって来ています。
さらに眠りが非常に深くなった。それから疲れをあくる日まで持ち越さなくなったということで、かなりいいことづくめで、私も驚いたほどの効果がありました。
筋肉、骨格系の肉体的因子でよくなったところもありますし、精神的な因子でよくなったことがあります。
今日はなぜ噛みあわせの異常でこういう肩こりが起きるのかということ、それから噛みあわせの異常で起こる肩こり以外の症状にはどんなものがありどういうものが治る可能性があるか、それからどのように噛み合わせを診断し治療していくかをお話しさせていただきたいと思います。
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2.噛みあわせとは

これは頭部、顔面のプラスチック模型です。ドイツ製でかなり精巧に作られています。
噛みあわせに関わる骨の構造
この赤線で囲まれた部分が下顎です。ここに下の歯が植わっているわけです。
下顎の上の大きな骨は頭骸骨と言われる部分ですが、この模型ではつながっているように見えますが、実際は下顎骨と頭骸骨がつながっているわけではなく、バラバラなのです。
骨格でみる噛みあわせ運動 ですから実際には下顎は頭の骨に対して自由に動くのです。
これは膝の関節や肩の関節でも同じようなことが言えますが、この顎の関節の自由な動きには負けてしまうくらい、下顎骨と頭骸骨をつなぐ関節は非常に色々な動きをします。左右にも動きますし前後にも動きますしその間の動きもできますし開けることも閉めることもできるわけです。
下の図のピンクの部分は口を閉めるときに収縮する代表的な筋肉である咬筋を示しています。
口を閉める時に使う筋肉を閉口筋と言って、物を噛むときに活躍する筋肉です。
4つの有力な筋があって咬筋、側頭筋、外側翼突筋、内側翼突筋とありこれ等が噛むときに重要な役割をします。
噛みあわせの関節部分の構造 それから開口筋というのは下顎を下に引っ張る筋肉で、皆様方ののど仏のところに舌骨があります。
この舌骨と下顎骨の間についているのが舌骨上筋群というものです。
そして鎖骨とこの舌骨の間についているのが舌骨下筋群で、口の動きと言うのはこれらの筋肉にすべて関係しているわけです。
閉口筋が収縮することによりグッと噛みしめることができます。
このような下顎骨と頭骸骨の運動には口を開いて閉じるという開閉口運動と下顎を前に持って来る前方運動、左右の横へ持って来る側方運動、その前方運動と側方運動が重なり合った前側方運動、それからもうひとつ大切な噛みしめ運動があります。
この辺に触れ出しますとかなり時間が足りなくなりますので、今日はこの中で噛みしめの運動だけに絞って取り上げていきたいと思います。
上と下の歯の噛みあわせ 噛み合わせというものを考える時一番大事なのは、上下の歯と歯の接触状態です。
歯の表面には山と谷があります。下の歯の山の一番上の頂きが上の歯の一番谷の深い所に入り込んでいく、また逆に上の歯の山が下の歯の谷に入り込んでいくということが大切なのです。
これが噛みしめたときの理想的な歯と歯の状態です。

そしてもうひとつ考えなくてはいけないのは、目で見ることは出来ない顎の関節の状態です。
先ほど膝や腕の関節よりも複雑な働きをすると申し上げましたが、前後左右への回転はもちろんのこと移動もできます。これがどういう構造になっているかを理解していただきたいと思います。
下の図の赤い四角で囲んだところが顎関節です。2枚目の図は顎関節をさらに拡大したものです。
上のグレーの部分が頭の側面を形作る側頭骨です。
下のグレーの先が丸まった部分が下顎骨の関節頭と呼ばれる部分です。
つまり側頭骨の下顎窩というクボミに下顎の関節頭がうまく収まった状態が噛みしめたときの側頭骨に対する下顎骨の位置です。
噛みしめたときに大きな力を出すのが咬筋と側頭筋です。この力の加わる方向を2枚目の右下の図に赤い矢印で示しています。
グット噛みしめたときに咬筋と側頭筋が収縮しますので、側頭骨の下顎窩の前上方の方向に下顎頭が押し上げられます。
噛みあわせの関節部分の構造 さらに注目していただきたいのは、側頭骨の下顎窩と下顎の関節頭の間にあるブルーの部分です。
これは関節円板と呼ばれる柔軟性のある繊維質の組織です。
この関節円板の上には上関節腔、下には下関節腔という滑液で湿っている部分があります。
側頭骨と下顎骨の間にはこれらの組織、すなわち上関節腔、関節円板、下関節腔が存在するために下顎の開け閉めや移動がスムースに出来るわけです。
さらに関節円板を詳しく見ていきますと、円板は前方と後方に比較的厚い部分があり中央に薄い部分があります。
この中央の薄い部分には神経や血管の分布が少ないので、最も強い圧に耐えうる部分ということができます。
形態的にも、この円板の中央のクボンダ部分は下顎頭を受け容れやすく、下顎頭が一番安定して位置づけされるところです。
結論として噛みしめたときに側頭骨の下顎窩・関節円板・下顎の関節頭の位置的関係が下の図のようになり上下の歯の山と谷がガッチリと噛みあっていると、最大の噛む力が発揮できます。
何らかの原因で上下の歯の接触具合が悪くなると、グット噛みしめたときに側頭骨・円板・下顎頭の関係が狂ってきて色々な噛みあわせによる問題が体に生じてくるのです。
噛みあわせに関わる骨の構造と力の方向
下顎の関節頭が後方にズレますと、円板後部組織が圧迫されます。円板後部組織には顎関節や耳、側頭の皮膚などを支配する耳介側頭神経や顎動脈などが分布していますので、これらの組織が圧迫されると耳への影響など様々な障害が生じます。
下の図で示した顎間接の後ろにある縦長の茶色の楕円形をしたものが外耳孔と言って耳の穴です。
後方へのズレがさらに大きくなりますと、円板後部組織の後ろの骨が薄くなり、関節頭と外耳孔の距離が短くなるケースもあるようです。
このようなケースでは聴力障害が起きたり、平衡感覚に障害を起こし目マイの原因になることもあるようです。
また、関節頭が上方に移動しますと左右の筋肉の長さが異なってきますので頭部が傾き、さらに体の傾き(歪み)につながっていきます。

上の図はきれいに構造が描いてありますが、実際にはこんなきれいなものではありません。
9月の日曜日にある歯科大学で2体の御遺体を準備して頂いて、私を含めた8名の歯科医が解剖学の教授、講師、助手の先生方の指導の下に顎関節の解剖実習をしてきました。
左右に関節はありますから、合計4つの関節の解剖をさせていただいたのです。
そうすると僕たちは上のような図を教科書で習っていますし、学生の時も解剖はするのですが、その頃はあまり細かいところなんか全然見ていないのですね。
2人で一つの関節を担当させて頂きましたのでジックリと観察することができました。
上の図にあるようなきれいなものじゃないんです。関節腔なんてどこにあるんだろうというぐらい薄っぺらい組織なんです。
それから関節円板も御遺体は2体とも80前後の方だったのですが、破れてしまっていました。
左右の関節はバランスがとれて形態的に同じような形をしているだろうと思ったのですが、2体とも左右で深さも形も違うんです。
人間はそれでもうまく生活しているのですね。

こういうことは歯科医としては考えたくないのですが、たとえば右図のように左側の下の奥歯、第2大臼歯と言われる歯に高いクラウンを入れてしまった。
歯の噛みあわせと顎関節の関係 そういう時に関節はどういう変化をするかということです。
そうすると反対側の歯は当然上下の歯の間にスペースができます。
それが2,3日で右図のような状態に変わってしまうのです。
よくある話なのですが、歯医者さんに行って新しくクラウンを入れたり詰め物をするとかした場合になにか高い感じがする。その時に「2、3日したら慣れますよ」と言われた経験はありませんか?
実は慣れるのではなくてこういう構造的な変化が起きているということです。
この歯の噛み合わせの変化が何を起こしているかということですが、上の図を見てください。下顎骨の関節の頭が灰色、ブルーが関節円板です。クラウンを入れて高くなった方の関節はほとんど変化しません。
関節がちょっと回転しているかなという程度で関節円板に対する相対位置はあまり変わりません。
ところが上下の歯の間にスペースができている側は、そのスペースが閉じてしまうわけですから関節の頭が上がってきてしまうのです。
前に述べたような、いろいろな問題が起こって来るのです。
今まで関節の内部で形の調和が取れていたのに、位置関係が狂ってくるわけですから、開け閉めするとカクカク音がしたり、筋肉の長さも右と左で違った状態になりますから、それも必要以上に噛みこんだ状態で作用しなければいけないものですから、疲れてくるのです。
ですから筋肉が傷んでくる。このへんの筋肉は後で説明しますが、単独で存在しているのではなくみな関連していますから、肩なんかの筋肉と関係が出てきて肩こりが起きることもあります。
それで顎関節症の主要症状であります咀嚼筋の痛みが出てきたり関節音が出てきたり口をまっすぐ開けられないとか開く距離が制限されてしまうとか色々な問題が表れてくるのです。

噛みあわせに異常があると、どんなことが起こるかをまとめると以下のようになります。
これはドーソンという噛みあわせの世界では有名な先生がリストアップしたものです。

 1.歯は、温熱や冷熱に知覚過敏になるか、疼痛を生じる
 2.歯は、咬合痛を生じる
 3.歯は、動揺しはじめる
 4.歯は、摩耗しはじめる
 5.下顎が偏位して機能すると、他の歯を動揺させる
 6.下顎が偏位して機能すると、他の歯を摩耗させる
 7.滑走の結果、外傷が加わり、他の歯に疼痛が生じる
 8.下顎が偏位して機能すると、咀嚼筋が過度の活動状態になるか、 痙攣の原因になる。
 9.筋痙攣により開口障害が発生する
10.筋緊張性疼痛が激しくなる
11.歯痛、筋痛、頭痛が組み合わさって、緊張と咬合ストレスの原因になる
12.継続する緊張と咬合ストレスは、うつ状態を引き起こす
13.下顎偏位と筋痙攣が組み合わさって、顆頭-円板の不正配列を引き起こす
14.調和のとれていない咀嚼筋の過活動は結果として円板の偏位を引き起こし、円板後部組織の圧痛をきたす
15.円板障害と挙上筋の痙攣が合併して、顎関節が変性関節炎の変化をしはじめる
16.上記のすべてが生じる
17.上記の事項はなにも生じない

このほかに先ほどお見せしたように片側の筋肉が短くなるわけですから体が傾いてきます。 頚椎、脊椎、腰椎の関係 体が傾いてきますと、右の図の頚椎、脊椎、腰椎に影響が出てきます。
これらの椎骨の間から神経が出て来ていますからそこが圧迫されますと手がしびれたりとか色々な症状が出てくるのです。
ですから噛みあわせに異常があると椎間板が圧迫されて色々な症状が出てくることは当然考えられるわけです。
それから先程触れましたように筋肉はいくつもあるのですが、それは単独で存在しているのではなく、たとえば咬筋が異常を起こすと全身に影響してくるわけです。 身体の外側の筋肉と内側の筋肉
下の左の図はアウターマッスルといって身体の表層に出ている筋肉の絵ですがそれだけでもこれだけの数の筋肉があります。
さらにインナーマッスルといって体の内部にも沢山の筋肉があるわけです。
右の図にあるような筋肉が咀嚼筋に連動して傷んでくると肩こりになるのです。
そしてこの影響が下半身に及ぶと下肢の不調、歩行困難が出てくる場合もあります。
先ほどの患者さんも手すりにつかまらないと階段が降りられなかったというようなケースですね。

ここで申し上げておきたいのは不定愁訴です。噛みあわせに異常があると精神的な問題が出てくるのです。
眠りが浅くなるとか疲れ安いとかイライラするとか色々な問題が出てきます。
こういう噛みあわせの異常の原因と言うのは残念ながら歯医者が作り出すのが一番多いのですが、ただこれだけではないのです。
歯を抜きっぱなしにしておくとか、矯正治療をするとか、歯の生えてくる時の位置がおかしい、生まれながら一本歯がないとか、生活習慣で歯の位置が変わる、たとえばいつも頬ズエをついているとか、むちうち症とかがあります。

それでは正常な噛みあわせとはどういうものでしょうか。
右図にMuscular Positionと書きましたがこの関節部分が側頭骨と関節円板と下顎関節頭がうまく配列していることが正常な噛みあわせの条件です。
正常な噛みあわせ Muscularとは「筋肉の」という意味で、筋肉によって作られる位置がこういうバランスが取れていると筋肉がうまく働いてくれますよということです。
そして2番目がぐっと噛んだときに歯がシッカリと噛みあっているということです。
それをTooth Positionと言いますがこれが上下の歯の谷と山がうまく合っていることが必要です。
グット噛んだ時に、顎の関節部分が左右ともこういう状態で、かつ歯も噛みあっているのが理想的といいますか正常な噛みあわせと言えます。
今、日本で人口の半分とか三分の二くらいの人が噛みあわせの問題を持っていると言われているのですが、なぜこういう問題が起こるのでしょうか?
私は40数年前に大学を卒業しましたが、そのころは噛みあわせと言ったらこのTooth Positionしか習わなかったのです。
今の歯科大学の教育でもあまり変わっていません。開業医の間でもTooth Positionしか議論しません。
Muscular Positionを議論し始めると色々な説がありコンセンサスが得られていない部分が多く、議論が混乱します。
それと先ほど言いましたように人間の顎の関節は特殊な動きをするものです。
よく犬に固い骨を餌で与えると犬がこうやって頭を振り振りかじりますね。でも人間はその必要がありません。ちゃんと顎が左右両方に動いてくれるわけですから。
犬にはおそらく顎関節症というのはないと思います。非常に単純な蝶番運動しかしないので犬の顎は頑丈なのです。ですからいくらでも固いものが噛めるのです。
下顎の運動は人間と他の動物では異なるので、顎の動きを研究するための動物実験ができません。
また、噛みあわせの異常によってひき起こされる病気は睡眠中の歯ぎしりなどの影響を受けますので、正確に病態を見極めるには睡眠中の下顎の動きを観察しなければなりません。
睡眠実験は被験者の選択などに制限がありますのでなかなか研究が進まないという問題があります。
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3.噛みあわせ異常の診断と治療

それでは肩こりのある人のすべてが噛みあわせの異常があるのかと言うと、絶対そういうことはないのです。
肩こりにも色々な原因があるのです。
たとえば緊張した生活をしているだけでも肩こりになる方はいらっしゃいます。
ですから肩こりの人がいて、その人の肩こりと噛みあわせの関係があるのかどうかを見極める必要があります。これは診断・治療にとって大切な第一歩です。
顎関節機能テストによるスクリーニング 私がやっているそのより分け法は非常に簡単です。
患者さんに腕を左右のどちらかに伸ばしておいて頂きます。そして術者はそれを下に押し下げます。
患者さんは押し下げられないように頑張ってもらいます。
歯をグット噛みしめたときと少し口を開いたときに、このテストを行います。
歯をグット噛みしめたときに押されている手がググッと下がってしまう人がいます。
それからグット噛んだ時と口を少し開いている時と全く変わらない方もいらっしゃいます。
さきほどのMuscular Positionに異常があると、グット噛んだ時に腕の筋肉にあまり力が入らないので腕が容易に押し下げられます。
こういうスクリーニングの方法を私はしょっちゅうやっていますが、一番有効でご家庭でも出来る診断法だと思います。
いろいろな顎関節機能テスト法
上の左の写真は、日本に来て講演をしたこともあるゲルブというニューヨークで顎関節症の専門医院を開いていた先生の本に出ている色々な筋肉でのテストの方法です。
全身の筋肉はつながっているということで、ほとんどの筋肉で噛みあわせの影響がでるわけです。
もう一つの顎関節の診断方法は上の右側の写真で行っている方法で、我々専門医にしか出来ないし我々もかなりトレーニングを積まないとなかなかうまくできないのですがドーソンテクニックと言われる方法があります。
ドーソンはフロリダで診療をしており一度だけ日本に来たことのある歯科医で、そのとき幸いに東京の講演は私がマネージメントをさせていただいて、ドーソン先生自身からこのテクニックを学ぶことが出来ました。
それ以来30年くらいこのドーソンテクニックを使わせていただいています。
これは先ほど,咀嚼筋が収縮すると、下顎頭が前上方へ引きあげあれるというお話をしました。
ドーソンテクニックでは下顎が前上方に行くように誘導といいますか誘(いざな)っているわけです。
先生は「誘導してはいけない、誘うんだよ」と言っています。ですから非常に微妙な力加減と誘う方向が必要なのです。
患者さん自身が自分でそこへ行きたくなるようにちょっと誘うということで、ドーソン先生はGuidingではなくてTemptingという言葉を使っていらっしゃいます。もっと優しい力のかけ具合ですね。
噛み合わせに異常がある顎関節症の患者さんでは、側頭骨の下顎窩・関節円板・下顎の関節頭の配列がうまくいっていませんので無理に下顎を前上方に持っていこうとすればするほど筋肉が抵抗して、ぴったりした場所に下顎がうまく納まらないのです。
ですから術者のテクニックが問題なくて患者さんの下顎を前上方に位置づけられないときは顎関節の組織配列に何らかの異常があるということが言えるのです。
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4.3Dスプリントによる診断・治療

もう一つは3Dスプリントによる診断です。
これは私が開発したスプリントを使う方法です。
どの方向への下顎の変位、三次元の変位にも対応できるということで3D(Dimension)スプリントと命名しました。
これが模型上で作った3Dスプリントです。この模型を見ていただくとよく分かると思いますのでお廻しください。
下のスライドはちょっと古い写真なので犬歯まで覆ったスプリントになっています。今は歯を3本くらいカバーする幅で、もっと小さなスプリントを作っています。
3Dスプリント実装例と、噛んだ時の力のかかり方
上の図で黄色く塗られているのが歯の部分でその周りにグレーで描かれているのがスプリントです。
赤線で示した平らな面をスプリントに与えてやるわけです。
下顎の一番前の歯のどちらか一本の中央の先端が上の歯に装着されたスプリントのフラットな面に当たるように製作します。
Tooth PositionとMuscular Positionの調和がとれていない患者さんにこの装置を入れることによって、上下の歯の接触が遮断されます。
この結果、患者さんの筋肉が覚えこんでいる歯によって決定された下顎の位置の記憶を消すことができます。
この装置を入れることによって筋肉が正常な働きをとりもどすことができます。
コンピュータの用語で“初期化”という言葉がありますが、この装置を入れることによって筋肉が過去の記憶から開放されて初期化するわけです。
ドーソンテクニックでも下顎をうまい位置に誘えなかった人も筋肉がリラックスして側頭骨の下顎窩・関節円板・下顎の関節頭の配列が改善されることもあります。
この装置はスプリントのフラット面を支点にして左右の筋肉が均等に働き、前後的にもご自分の筋肉が一番行きやすい一番力の入る位置へ下顎を位置づけてくれるわけです。
3Dスプリントの効果 この写真は44歳の女性の方です。
2枚の写真とも撮影するときは同じところを見ていただいているのですが、左の写真では上目遣いになっています。奥歯の噛み合わせが低くて、普段は左の写真のような姿勢だったのですが、それがスプリントを入れたとたんに右の写真のようにまっすぐになってしまうのです。
噛みあわせの改善で猫背も治るということです。

後から下の写真の人の治療経過は後程詳しく申し上げますが、初診時は右にかなり頭が傾いています。
3Dスプリントの効果
この方はかなり深刻な悩みを持って訪れられたのですが、これもスプリントを入れた直後、右のようなまっすぐな姿勢に変わりました。
この写真は同じ日の術前と術後に撮ったものです。こんなにも早く体が反応することにびっくりしました。
ですからこのスプリントはかなり有効と思っています。
ただし有効でない人もいます。それは何故か?
私も忙しく毎日噛みあわせ以外の治療もしており、どういう原因で反応してくれないのかなかなか見極めていく余裕がないことと、もう少し多くのケースをやらないと系統的な見極めがつかないという問題があります。
劇的に反応してくれる人はその場でわかるのですが、そうでない人はなぜ反応してくれないのか原因が分からないというのが現在の実情でしょうか。
ですからこういうケースがありましたら、僕は非常に興味を持っていますので、紹介していただければそれを優先してみさせていただこうと思っていますのでよろしくお願いいたします。
そういうケースを積み重ねることでいろいろなことが分かって来ると思います。

これは冒頭に立ち姿をお見せした患者さんの口の中の状態です。
冒頭に立ち姿をお見せした患者さんの口の中の状態 右の写真の歯は噛みあわせの調整をしてから撮ったものですから、ものすごく削った跡があるのがお分かりだと思います。
こんなに狂っているのかなと思うぐらいこの方の噛みあわせが狂っていました。
なぜこういう状態になったかということはご本人もよく分からない。
3Dスプリントを入れて下顎をカチカチやったときに、下の歯の赤く示した点がスプリントのフラットな面に当たるように自由域(赤い丸で囲まれた部分)を作りました。
この患者さんは2週間で直りました。
この患者さんは初診時には下の図のような状態だったのです。
初診時の歯の噛みあわせ状態 すなわち左の上下のクラウンが高かった。
この赤い曲線が正しかっただろうと思われる高さです。
こうなりますと低い方の下顎の関節頭が赤い矢印方向へ押し上げられるのですね。
押し上げられることによって円板の上部や後部結合組織が圧迫され、極端な場合は関節円板がぐっと前方にずり落ちてきて関節円板がないままで生活しなければならないということにもなります。
ということは骨と骨とのすりあわせが起こるのです。あるいわ関節円板が破れてしまったりします。
先ほど言いました9月に解剖させて頂いた御遺体は4対とも関節円板が破れていました。
もうひとつは関節頭がギザギザになり、関節の頭が削られてくる場合があるのです。骨はすごく変化するからです。
スプリントを入れることに下の左の図のようになります。右の歯と歯の間にスペースができてきます。
それで右の歯の赤い線まで全部削ったわけです。すると下の右の図に示したように左右全部の歯が噛み合わさる状態になっていくのです。
ですから噛みあわせ噛みあわせと言っても歯だけ見ていると大変な誤りを起こしてしまうことになるのです。
スプリント装着時の歯の噛みあわせ状態と噛みあわせ調整後の歯の状態
我々はグット噛みしめた時の歯によって決められる下顎の位置Tooth Positionと関節の形態と筋肉によって決められる下顎の位置Muscular Positionの両方があるということで、それが一致しないときに問題が起きやすいのです。
もちろん一致しなくても問題が起きないケースもあります。それはどういう時かと言うと、まっすぐ前後にずれる場合です。
この場合は左右の筋肉が均等に働いてくれるのです。こういう場合にはTooth PositionとMuscular Positionが一致しなくても大丈夫なのです。
問題がある場合はスプリントを入れます。
コンピュータで初期化ということをしますね。スプリントを入れることはこれと同じで、入れることによって筋肉を無傷な状態に戻していくことです。
それで正しいMuscular Positionが見つかったら、そこの位置で歯を調整するのです。歯を削ったり盛ったりして咬合調整をするのです。場合によってはクラウンを入れ替えなくてはならないケースもあります。
そういう処置によってTooth PositionとMuscular Positionを一致させて、快適に噛めるような状態にするということです。
いまから実際に治療したケースをお見せしたいと思います。
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5.劇的な効果があった若い男性の事例

この患者さんは先ほど立ち姿の診療前と後を写真でお見せした23歳の美容師さんです。
Sプリント装着模型を手に講演中の田中講師 なぜこの患者さんがいらしたかについてはちょっとストーリーがありまして、僕はいつも髪の毛の手入れで床屋さんに行っていたのです。男は床屋で女が美容院と信じていたわけです。
昨年の11月髪が伸びてきてしまって行きつけの床屋さんに電話をしましたが電話に出ないんです。長い旅行に行っていたらしいのです。
僕は我慢できなくなって家でそういう話をしていたら、娘が「私の行っている美容院はけっこう男の人が来てますよ」と言うんです。
そこへ行ってカットしてもらっていたのですが、僕が担当の人と、いろいろ話をしていて、「歯医者で噛みあわせに興味を持ってやっているんです」などと話していましたら、その隣の台の担当の美容師さんがすごい真剣に聴き耳をたてているんです。
それでシャンプーをしますという時に彼が僕の所に来て、「目の奥がえぐれるように痛いんですがそういうのは歯医者さんでなんとかなりますかね」と言うんです。
僕は「えぐれるように痛いというような患者さんは経験ありませんが、眼の奥がなにか鬱陶しかったのが噛み合わせを直したらよくなったという患者さんは何人かいるよ」と話したんですが、すぐ彼は診療にきたのです。
頭痛には一次性頭痛と二次性頭痛があるのです。
二次性頭痛と言うのはたとえばクモ膜下出血のようなあるいは歯が猛烈に痛いという場合には頭痛がしてくるわけです。そういう二次的に出てくる頭痛のほか、一次性頭痛といって群発頭痛と偏頭痛と緊張性頭痛があるのです。
僕は群発性頭痛のことは大学でも習ってもいなかったし、そんな症状が治るとは思ってもいませんでした。
彼は慶応、逓信、山王病院など色々大きな病院に今まで行っているわけです。
周期的に本当に目がえぐられるように痛い。涙が出てきて偏頭痛に変わっていくというのです。
それが一週間のうちに2回から4回あるのだそうです。だいたい夕方の6時くらいに始まるのだそうです。
いろいろ僕も調べてみましたら群発性頭痛と言うのは自殺企図性頭痛といって自殺したくなるような頭痛がするのだそうです。
実際にアメリカでは自殺企図性頭痛の人が、その患部に向かってピストルの銃弾を撃ち込んで自殺した人がいたそうです。それくらい痛い頭痛なんです。

彼の口の中をチェックしたのですが上の歯と下の歯の関係にはほとんど異常はないのです。
でそのスプリントを入れたのです。
ところがスプリントを入れたとたんに「なんかすごくすっきりします」と言うんですね。
そんなことがあるのかなと思って撮影を再度してみると先ほどの写真のように、もう体がまっすぐになっているのです。
それでこれが噛み合わせを調整した後なのですが、入れたその日から群発性頭痛が一回も起きなくなったのです。
Sプリント装着前と後の横サイド写真 それから半年したらちょっとおかしくなってきたというのでもう一度噛みあわせの調整をしたら、その日から全くなくなって今日にいたっています。
頭痛を専門にする人が集まる頭痛学会がありますので、その専門家に問い合わせたりしたのですが、噛み合わせで群発頭痛が治ったという報告は一切ないということなんです。
ですから私もまだ分からないのです。まだ一人しか経験していませんから。
そういう患者さんがもしいらっしゃったら是非同じ治療を試みて見たいと思ってこういう一般の方々への講演などもお引受けする気になったのです。
せめて3人くらいが治ればかなり関係があるということが言えるのではないかと、新しい患者さんとの出会いを待っているところです。
この美容師さんは絶対群発頭痛と噛合わせは関係あると言っています。
なぜ僕が美容院に行った時に、聞き耳を立てていたかというと、もうどこに行っても治らない。店長さんも色々心配してインターネットで調べてくれていて「なにか噛みあわせと関係があるかもしれない、最後は歯医者さんに行ってみてはどうか」と話していたのだそうです。
その時にちょうど僕が行ったものですから、すぐ来ようということになったのですね。
上の写真でも治療前と後で背が少し高くなっているのが分かりますね。
あまり関係のない話ですがこの光っている点はカナダの会社のシステムで身体の32か所に特殊なパッチを貼って、バックにある背景にも指標が4点あり、この写真を撮ってネットでカナダに送ると1分くらいで日本語のレポートになってその位置情報のずれがデータ化され戻って来るのです。
この位置がどの方向に何ミリ動いていましたというレポートです。凄いですね。
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6.効果が見られた事例の数々

この方は60歳の女の方ですが、主訴は左上の犬歯から出血するというものでした。
山形市から見えていて、雰囲気が暗いんです。
おかしいなと思いながら、色々問診していくうちに一年かけてほとんどの歯を治療したということが分かりました。
60歳女性のケース 全身的には「なにしろ体の調子が悪く、山形市内の大きな病院を何軒かで血液検査やMRIを撮影して検査をしてもらったが異常がないといわれた」ということでした。
噛合わせをチェックする咬合紙を上下の歯の間に挟んでグット噛みしめてもらいました。ほとんどの歯が噛みあい特に異常はありませんでした。
次にドーソンテクニックで下顎を誘いましたが、最適と思われる位置に入ってくれません。

そこで最適に近い位置に誘導して咬合紙で上下の歯の接触状態を調べました。すると右の小臼歯の一点しか接触しないのが分かりました。
これで噛みあわせの異常からくる“うつ病”を疑いました。
さらに、うつ病のチェックシートにしたがって問診を進めましたら全部の項目でYesでした。
特に印象的だったのは「いままで、自分が死ぬなんていうことは真剣に考えたことがなかったが、このままもっと体調が悪化して原因不明の病気で死んでいくのではないかと考えている」ということでした。
そこで、私は患者さんに言いました。
「あなたの病気は噛みあわせの異常が原因の“うつ病”ですよ。15分で治りますから安心して下さい。」そして3Dスプリントを作り始めました。
スプリントを作っている間に、噛みあわせの異常がなぜ精神障害を起こすのかを話しました。
15分で患者さんの雰囲気がすっかり変わりました。明るくなったのです。
うつ病特有の沈鬱な表情がスッカリなくなり、本当に15分間でうつ病が治ったのです
。歯の治療は長引く可能性がありますので、全部の歯を覆うスプリントに換え、現在噛みあわせの治療中です。

このケースは33歳の歯科医です。
私のセミナーの受講生です。セミナーの始めに、右や左に伸ばした腕を上げ下げする顎関節機能テストを行いました。
この方は、噛みしめたときと口を開いたときに大きな力の差がありました。噛みしめたときには、ヘナヘナと水平にした腕が下がるのです。
33歳歯科医のケース治療前の歯
左は上の歯、右は下の歯です。
口の中を見ますと右上の第一大臼歯に一本だけ金の詰め物がしてあります。実にうまく詰めてあります。
グット噛みしめた位置で上下の歯の接触具合を咬合紙で確かめましたが何も異常が見当たりません。
ドーソンテクニックで、下顎を前上方に誘おうとしましたが、誘うことができませんでした。
そこで、3Dスプリントを入れました。
3Dスプリントを入れた途端「先生、肩から首筋まで今まで味わったことがないほど軽くなりました」ということでした。
セミナー後、歩いて居酒屋に行きましたがそのときも「足取りが軽くなりました」と感激していました。
食事中も箸を休めてはスプリントを入れ「もうこの装置は手放せなくなりました」と言っていました。
10日後にチェックしたときには、ドーソンテクニックで下顎を前上方に誘うことができました。
下顎を前上方に誘った位置で上下の歯の接触具合を咬合紙でチェックしてみますと、右の詰め物の歯とその手前の第二小臼歯だけが接触する状態でした。
そこで右の詰め物と第二小臼歯を削るということで、同意を求めました。
「そう言われれば20年前に詰め物をセットしたときに、治療してくれた先生に『高く感じる』と訴えたが『そのうちに慣れるよ』といわれた記憶があります。ということで、詰め物と第二小臼歯を少し削って治療を終了しました。
治療終了後一週後に会ったときに「高校、大学と暇さえあれば、家でゴロゴロしていた」、「治療後はグッスリ眠れ、疲れを明くる日に持ち越さなくなったので午後の診療にも集中できるようになった」、「睡眠時間が短くてよくなったので、夜遊びの時間が増えて困っている」、「新宿の伊勢丹から高島屋までの距離が歩けず、タクシーに乗っていたのが平気で歩けるようになった」「歯科医でありながら、自分の噛みあわせが悪いのが原因で肩こりなどの症状が出ているということは夢にも思っていなかった」と告白していました。
実はこの詰め物を入れたのは私の後輩で、「自分より技術の優れた人はいない」と豪語していた歯科医です。

なぜ、このようなことが起こるのでしょうか?一つの原因は上下の歯の接触状態をチェックするときに使う咬合紙の厚さにあると考えられます。
国産のメーカーでは、35〜60ミクロンの厚さの咬合紙を製造・販売しています。
最近8ミクロンの製品が発売されましたが歯を接触させて検査しても歯にマークが付かないし、インクの“抜け”を見て判断しようとしてもインクが抜けませんので使い物になりません。
外国製品では8ミクロン、12ミクロンのものがあります。
人は髪の毛が上下の歯に挟まったときに認識することができます。7〜8ミクロンの識別ができます。
もし35ミクロンの咬合紙で調整した場合はご自分の感覚より30ミクロンほど高い詰め物や被せ物で我慢しなければならないということです。
慣れて、何も障害が起こらなければ良いのですがこのケースのような悲劇が生まれる可能性があります。
外国製品は高価なのでみんな使いたがりません。
国産の8ミクロンの咬合紙のインクの接着剤の塗り方などを変えることで改善できるようなので、このメーカーに働きかけてみたいと思っています。

つぎの患者さんは、もう40年以上通院していただいている70歳の女性の方です。
70歳女性のケース、インプラントを入れる
左のレントゲンは4年前にインプラントを入れる前に撮影したものです。
42年前に上下4本の犬歯以外を抜歯し、義歯を入れたケースです。40年弱4本の歯は義歯を支え続けてきたのですが、「一生このままの状態で経過するかどうか不安だ」ということで、インプラントを入れることにしました。
右のレントゲンがインプラント入れたところです。
右図はインプラントの上部構造(歯肉から上の部分)が入った正面写真です。
60歳女性のケース治療後の歯 通常の歯は歯根膜を介して骨と結合し、歯根膜が噛みあわせの力を緩衝する役目を担っています。
一方インプラントは骨と直接結合していますので、インプラントの上部構造の噛みあわせはより精密に作り上げる必要があります。
このようなケースでは、上部構造を作る前に側頭骨の下顎窩・関節円板・下顎の関節頭の配列を整え、筋肉もリラックスできる状態にしておかなければなりません。
これを怠ると折角入れたインプラントが思わぬ事故を起こしてくる心配があります。

つぎのケースは66歳の男性です。
人と話さなければならないお仕事なのですが、歯がみっともなくて話せない。見た目もよくしたいということで受診されました。
69歳男性のケース、治療前
このような破壊が大きなケースでは経験の長い歯科医でも予後がどうなるか不安なのでブループリントを作ります。
治療後の形を予測してワックスで形を整えるわけです。下の写真が術前の模型とブループリントです。
69歳男性のケース、術前の模型とブループリント
このようなブループリントを作ることによって、患者さんは術後の状態を理解できます。
術者は自信を持って治療を進めることができます。
69歳男性のケース、治療後
上の写真は術後の状態です。いくら慎重に治療を進めても初診の状態のように破壊が始まるのではないか?といつも不安な気持ちで過ごさなければなりません。
初診の状態の破壊は噛みあわせの異常から起こったと考えられます。
こんなケースの治療を進めるときには特に側頭骨の下顎窩・関節円板・下顎の関節頭の配列をチェックし、正確な噛み合わせを与えなければなりません。
また破壊を未然に防ぐために定期健診をし、噛みあわせをチェックし続けなければなりません。

最近、Dental Compression Syndrome(DCS)という病態が注目を集めています。
これは歯に加わる圧が適正でないために起こる種々な病態の総称です。
下の写真の患者さんはDCSの1つの病態である外骨腫といわれるものです。
DCSの1つの病態である外骨腫の事例
異常に強い力が加わった歯の周りの骨が、その力に反応して盛り上がっています。
このようなケースでは、いつかバランスがとれなくなって歯の根を取り囲む骨の吸収が起こってきます。
上の左のレントゲンは初診時のものです。
このままおいておきますと第二大臼歯の根と根の間の骨が無くなってきますので、右のように治療しました。このような治療をしても噛みあわせの力をコントロールしないと原因を残したままになります。
そこで歯周病の治療と同時に下の写真にあるようなスプリントを入れて噛みあわせの調整をしました。
Sプリント装着 今日は話題に取り上げませんでしたが、下顎の関節頭が後上方へずれ過ぎていて側頭骨と下顎の間に関節円板が介在しないケースがあります。
このようなケースでは深刻な症状を訴える場合があります。
このケースの診断や対処法については次に機会がありましたら詳細にお話させていただきます。

「肩の凝らない『肩こり』の話」と題しましてお話させていただきましたが、難解な話で肩がかえって凝られたのではないかと心配しています。
ご静聴有難うございました。(拍手)
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7.質疑応答

質問:私も何十年も歯医者さんにかかっていますが噛みあわせという視点での歯の大事さと言う話を始めて教えていただきました。
日頃から感じていることを遠慮なく質問させていただきますが、先般テレビを見ていましたら、虫歯といのは感染なんだ、だいたい3歳までで親から感染するのだという番組を見たのです。
私は虫歯の原因は甘いものを食べたりすることが原因だとばかり思っていたのですこの辺をお聞きしたいと思います。
質問風景

応え:7〜8年ほど前にキシリトールの虫歯予防の有効性を勉強するためにフィンランドに行きました。
そのときトゥルク大学の先生から初めて“母子感染”について詳しく教えていただきました。
だいたい新生児が最初にむし歯菌に感染するのが母親からだと言われています。
よく離乳食なんかを調理するときに唾液が入ったり、哺乳瓶の吸い口の温度を母親がなめて確認するときに感染してしまうと言われています。母子感染がなければ乳歯のエナメル質が未成熟な時期の虫歯菌の感染の確率はかなり少なくなってくると思います。
虫歯菌は何種かありますが、ミュータンスというのが代表的な菌です。
それは通常は口の中に常在する細菌なのです。ですからミュータンスはいっぱい空中にも飛んでいるのです。
いつかそれを人は虫歯菌を取り入れてしまうのです。
赤ちゃんは新生児の時は無菌状態ですからないのですが、早い時期にどこからか菌が入って常在菌が出来てしまいます。
しかし常在菌として虫歯菌があるから虫歯ができているとはかぎりません。ミュータンスは糖類が大好きで、糖分が口の中にあると増殖して24時間で毒素を出します。
この 毒素が食べものカスを酸化させて、この酸の働きで歯が溶け出す現象が虫歯です。
ですから24時間に一回きちんと歯を磨いて食べものカスを取り除いていれば虫歯になりません。
しかし100%磨くということは難しいのです。ということはミュータン菌が残ってしまうということです。
ただ菌の数によっても毒素の量が違ってきますから、なるべく糖分やネトネトした食べ物のカスを取り除いてしまうことが虫歯予防には有効です。
永く歯医者をやっていますと3代、4代と診させていただいているご家族もいらっしゃいます。
共通していえることは母親の歯の状態が悪いとお子さんも良くないということです。
歯の健康は「母系の健康」ということができます。
どこの代かでお母さんが頑張っていただくと、その家系の歯の健康はずっと守られるということがいえます。
歯の悪いお母さん!歯の清掃を頑張ってお子さんにも良い歯磨き習慣をつけてあげましょう!!!!

質問:私たちは小さい頃学校で身体検査の時歯の検査をしましたね。
いまでもしてると思うのですが、いつの間にか大人になるにつけしなくなっています。
私は今3か月に一回歯医者さんから連絡をもらいクリーニングをしてもらっています。歯は痛くなる前に定期的に予防することが必要だと思うのですが、人間ドックではなぜ歯の検査をやらないのでしょう。

応え:保険の制度では5年くらい前までは定期チェック、予防チェックと言うのは認められなかったのです。
あくまでも病気に対する給付だったのです。病気がないのに歯医者に行ってもらっては厚労省は困るわけです。
それが5年くらい前から緩和されて、歯周病のチェックにも保険がつかえるようになりました。
それからドックの件ですが今歯科ドックと言うのがあります。
歯科大学でも歯科ドックを専門に実施する科がある大学もあります。
でも一般の歯科医院でも普通は自分が処置した歯は一生持ってもらいたいのです。
そのためには定期健診は絶対欠かせないのです。僕は原則的には全部定期検診することにしてハガキを出してお知らせして来て頂くことにしています。

質問:今日先生がお話になったような噛みあわせ調整の診療をなさっている歯科医はどのくらいいるのですか?

応え:本当にごく一部ですね。僕は定期的にセミナーをやって若い先生方に情報を提供しています。
色々な噛みあわせ治療 右の図にありますようにTooth based Occlusionは歯科医ならだれでも知っています。
でもJoint based とか筋肉骨格をベースにした噛みあわせ治療と言うのはなかなか開業医で実施している人は稀です。
実践しようとしても非常に時間がかります。
3,4か月、長い時は3,4年以上かかったりしますので何がどういう風な効果があったのか因果関係が有耶無耶になってしまします。
ですからスプリントを7,8年入れている方も結構いらっしゃいます。

今日お話した方法ですと短期間で済みますしはっきりと因果関係も分かりますので、是非この方法を普及させたいと考えています。

司会:時間が参りましたので、以上で終わりにさせていただきます。ありがとうございました。
(拍手)



文責:田中 武・臼井良雄
会場写真撮影:橋本 曜
HTML制作:臼井良雄


本文はここまでです


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